千年万年りんごの子(3)<完> (KCx)

著者 :
  • 講談社
4.09
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感想 : 68
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784063806786

作品紹介・あらすじ

第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作、ついに完結!

流転する災いの終結か。消えゆく妻の生命か。
夫の、最後の選択。

* *

陸郎宅に居候しながら、村に留まる雪之丞。朝日を救う唯一の手掛かりは、六十年前の出来事を記録した“祭文”だった―――。
冬至の祭事“嫁拝み”も終わり、季節は大晦日。雪が降りしきる中、妻は裸足で夫のもとに。

妻同様に、夫もまた、選ばれし者だった。

第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作、ついに完結!流転する災いの終結か。消えゆく妻の生命か。夫の、最後の選択。**陸郎宅に居候しながら、村に留まる雪之丞。朝日を救う唯一の手掛かりは、六十年前の出来事を記録した“祭文”だった―――。冬至の祭事“嫁拝み”も終わり、季節は大晦日。雪が降りしきる中、妻は裸足で夫のもとに。妻同様に、夫もまた、選ばれし者だった。

感想・レビュー・書評

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  • すごい作品だと思った。
    心理描写の細やかさが素晴らしい。

    おぼすな様は作品内でもわずかに触れられているとおり、産土神を指すのだろう。
    http://kotobank.jp/word/%E7%94%A3%E5%9C%9F%E7%A5%9E
    それが何であるかは明言されないが、自然そのものやなんらかの法則性もしくはそれを司る存在なのだと思う。
    人間にとっては禍福を与える存在ではあるが、おぼすな様は、善悪で捉えられるものではなく単に「ある」というものなのだろう。
    遠野物語やもしくは押切蓮介氏の描く山の寓話少し近いものを感じた。


    自分の解釈ではあるが、おぼすな様は「飢えて」いたのだと思う。
    朝日がりんごを食べてしまったのも偶然ではなく、おぼすな様の思惑(といってよいのか分からないが)によったものだったのでは。
    前述したようにそこに善悪の感情はなく、例えば自然界において生きるために捕食するといったごく当たり前のものだったのかもしれない。

    だが、雪乃丞に限らず、人間側にとっては理不尽にうつるのは間違いない。
    自分が同じ立場でも雪乃丞と同じ行動をとったかもしれない。
    朝日を取り戻すために、そしてその不条理に怒りを覚えて。

    この物語は必ずしもハッピーエンドではないが、全く救いがないというわけでもない。
    読後本当になんともいえない気持ちになる。
    だがここまで心を揺さぶられる作品は久しぶりだった。
    とても悲しいが、この作品が好きだ。

  • 林檎の樹の神様のもとへ嫁入りが決まってしまったらどしよもないんだよ。って運命に逆らって、逆らって逆らって逆らったけれど。相手は神様で、こちらはただのちっぽけな人間で。諦めるしかなくて。代わりたくても代わらせるわけにはいかなくて。誰もが大切で。
    とね。本編は結局抗えないままで。
    ハッピーエンドになっててもね。どうかなぁ。無理感があるかなぁ。とは思うんだけど。悲しかった。から4。なんだけど、おまけの番外。雪之丞さんの子供のころ。捨て子で、拾ってくれた現・両親に嫌われたくなくて必死な雪之丞と、必死になる子を見て必死にさせてしまう自分を悔やむ母がお互いを求めあえた瞬間の話が泣けたので5。大事で大切な思い出。ね。あるかな。どれかな。卑屈な思いはそんな簡単にゃ消えないけどね。すぐね。暗闇に覆いつくされるのさ。

  • 番外編泣いた。

  • 表紙からして雪之丞の本気が伝わる最終巻。全三巻ながらじつに壮大だった。終わりかたとしては、スッキリはしたけどやはり哀しさが強くてやるせない気持ちでいっぱいです。

  • 画がすばらしい。
    最後のエピソードで泣いてしまった…

  • 最初は利害関係が一致して結婚したけど、日々の生活で愛情を築いて、最後には自分の命を投げ出しても守りたい存在になる。
    最後はあの終わり方しかないし、悲しいけどハッピーエンドみたいな、気持ちがぐちゃぐちゃになるけど、読んで本当に良かったと思える話だった。

  • ハッピーエンドだった…。別れはつらいけど、結末には納得している。

    慣習を受け入れる総代、認められない雪之丞。「我々は贖いきれない祝福の業火の中生きておるのよ」という総代の「悟り」の言葉は、この世の真理だと思う。味のない表現を借りれば、「毎日が奇跡」。今自分が生きているのも、そこに花が咲いて日が照っているのも、すべて奇跡の積み重なりなのだ。理不尽に思うような出来事、祟り、それもすべて奇跡の一つ。だから何が起こっても不思議はないし、それに逆らうこともできない。今よりも生死を身近に感じる時代や地域において、このような感覚が生まれるのは自然なことだっただろう。

    抑えられない感情の名前を「怒り」であると認識した雪之丞は、自らの身を六十年前の史実とシンクロしていく。失いたくない思いは狂気に変わった。一方、朝日も雪之丞との思い出を思い返している。雪之丞のことを、自分を含めた周りのことに何の興味も持っていないと感じたお見合いの日。夕焼けを見ながら、その判断を改めたこと。自分の変貌した姿を見て間違うことなく名前を呼んでくれたことは、その判断が正しかったという一番の証明だったと思う。彼が少しずつ変わっていったことに対してこみ上げる思い、まっすぐな愛情を胸いっぱいに感じたはずだ。

    自らを焼く暴挙に出た雪之丞がそこで朝日に会えたことから、二人が出会ったあの空間はきっとあの世とこの世の間なのだろう。朝日がだんだん人間の感覚を失っていく様子は、次第にこの世の者ではなくなっていく表れだ。六十年前の嫁の日記の内容が、それを示している。全てのものへの感謝でふんわりと終わっていくこと、次第に記憶がなくなっていくこと。個としての存在が薄れ、大いなるものと一体化していく過程に他ならない。日本的な考え方だと思うが、神化とは少しずつこの世界に同化していくことなのだ。

    朝日は最後、あなたには生きて欲しいからと言って雪之丞を帰してしまうけど、このラスト以外にハッピーエンドはないかも。「きっと見ていて」というお願いは、この世に戻る雪之丞に今後の生きる目的として残したもの。同じ思いと目的を共有したことで、「慣習によりただ引き裂かれた別れ」ではなくなった。そして12年後、果たしてオネリはなかった。朝日の雪之丞の思いは実を結んだ形で終わる。その間に陸郎と雪之丞が愛称で呼び合うようになり、小さかった花ちゃんと鉄はすっかり大人に。この世ではない場所で朝日はこの世を守り続け、雪之丞はそんな彼女の守る世界で、彼女の力を感じながら生きていくのだ。

  • 正直1巻を読んだときはそこまでかなーと思ったし、2巻を読んでもやっぱり短編集の感じのが好きだなと思っていたのですが、
    この巻の、クライマックスが、なんかもう全部をぶっ飛ばしてくれてずるい!
    強烈な愛に勝る物語はないんだよなぁやっぱり
    と思ってしまいました
    恋愛ドラマとか、恋愛モノの映画とかあんまり見ないし苦手意識があるのですが、
    結局愛はすごい!!と思うし、愛はすごい!という気持ちになるのは好きだなぁと思いました

  • 短い作品ながら、生への慈しみにあふれた自然風景の描写、遥かな過去と未来を見通すような深い作品世界、読み返すたびに泣けてくる名作です。
    神の嫁として村の女子を人身御供に出すという神話の世界を現実に生きる人々の物語として蘇らせるために、1970年代初頭の青森の村を舞台に設定したところに、まず唸らされる。まだ土葬の風習を保ち、「おぼすなさま」のしきたりに縛られている村は、一方では日本全体が高度経済成長に突き進む中で、りんご価格の暴落と品種一斉改良を迫られている。この村で育った「りんごの子」である朝日と、東京の理学部を出て入り婿にやってくる雪之丞の夫婦が迫られる困難な選択は、二つの異なる原理にもとづく世界の間でどう生きていくのかという村そのものの選択でもあるのだ。
    ひとりの個人にとっては理不尽としか言いようのない運命に翻弄されて、「見返りなくただ生きる我々がなぜ奪われるんだ!」と叫ぶ雪之丞に対し、総代が返す「毎年兆す芽・草・花・実 くりかえしくりかえし その不思議こそが 大いなる神の所業だと気付いだんだ 我々は購いきれない祝福の業火の中生きておるのよ」という言葉は衝撃的に重い。呪いが祝福であり祝福が呪いとなる因果の中に、類としての私たちはまだ繋がれている。3.11という大いなる災いを祝福として受け取ろうとする、祈りに満ちた物語として読むこともできるように思います。

  • 良かったです…!
    暖かくて感動しました…
    朝日ちゃんは光り輝いて十二年も照らしてくれてるんだって思ったら、ほっこりしました。^^

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著者プロフィール

たなかあい/三重県生まれ。 漫画家。 『千年万年りんごの子』で第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞。 そのほかの作品に、 短編集『地上はポケットの中の庭』、 長編『LIMBO THE KING』『その娘、 武蔵』(すべて講談社)などがある。

「2021年 『怪奇漢方桃印 なかなかやばいの 違反解除湯』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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