万葉恋歌―まんようこいうた

著者 :
  • 主婦の友社
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本棚登録 : 42
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784072737491

作品紹介・あらすじ

いのちゆたかでみずみずしく情熱あふれる万葉びとの恋。時をへても色あせぬ恋のときめき、胸がふるえる珠玉のエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • まだ恋を知ったばかりの少女のよう。ほんのり甘くてちょっぴり苦い、そんな「万葉の恋歌」解説本でした。
    その内容には、著者である清川妙さんが恋の歌から触発されて心に浮かんでくる、日本の古典や、海外小説、詩、映画のワンシーンなども添えられていて、そのどれもに興味を惹かれます。なかでもわたしは佐藤春夫の詩が好きなので、春夫の詩が添えられている歌はやっぱり気になりました。
    以前読んだ永井路子さんの『万葉恋歌―日本人にとって「愛する」とは』は、もっと艶やかで情熱的な大人の「万葉恋歌」の訳文だったので、同じ歌が取り上げられていても、歌から想像する風景が少しずつ違って見え、それもまた面白かったです。

    著者清川妙さんは奈良女子高等師範学校(現在の奈良女子大学)の学生だった頃、故 木枝増一先生から万葉集の素晴らしさを教えてもらったそうです。
    時代は第二次世界大戦の直前。「軍靴の響きが世をおおう昏い乾いた時代に読む万葉集は、時代が時代だけに、鮮烈に、多彩に、大胆率直に、その愛が、青春が、したたかに」著者の心を打ちました。
    「人生は短い。あっというまに過ぎてしまう。万葉集を読みなさい。一日一首でもいい。その美しさを知らないで死ぬ人生は惜しい」との木枝先生の言葉を大切に、その時から清川さんは万葉集を手許から離さなかったそうです。

    だからなのかな。どれだけ時を重ねても著者が万葉の恋歌に向ける想いや眼差しが、その娘時代のままのように初々しく思えました。
    そう感じた一番の理由は、万葉集のなかで有名すぎるほどの、額田王と大海人皇子の歌に対しての清川さんの想いです。
    「あかねさす紫野ゆき 標野ゆき 野守は見ずや 君が袖振る」額田王
    「紫草のにほえる妹を憎くあらば 人妻ゆゑにわれ恋ひめやも」大海人皇子
    一説には宴会の座興歌とされているけれど、「でも、やはり、ふたりの心の底の──切れば血の出る、恋の思いのこもった歌ととりたい」と、そして万葉の歌人たちは年をとっても、「みずみずしい恋の泉をけっして涸らしてはいなかったはず」と清川さんはおっしゃっています。
    わたしもこの歌の背景は、そのように願っているので、古典評論家でもある清川さんの言葉がとても嬉しかったし、その言葉から清川さんはきっと女学生の頃から、ずっとこの歌にときめかれてるんだなぁと感じたからです。

    この『万葉恋歌』を彩るのが林静一さんの絵。
    林さんの描く目を伏せた横顔の女性たちは、とてもキュートでありながら色っぽい。〈小梅ちゃん〉より年上な万葉女性たち(男性も数人)は、本当に素敵でした。

  • 万葉集の中の恋の歌を取り出して紹介した本。
    ブクログで私がフォローしている方々が絶賛されていて、読んでみたいと思っていた。
    図書館で借りてようやく読むことができたが、読み終えた今、私も絶賛の気持ちでいっぱいである。

    万葉の時代の率直で想いのこもった言葉が胸にしみる。人を愛する気持ちは1000年前も今も変わらないのだなあ。
    そして何より、清川妙さんのロマンあふれる解釈のすばらしさよ。読んでいると、まるで自分の中からとっくになくなったと思っていた乙女心のかけらがことりと動き出したような気持がした。

    政治的な理由で若くして命を落とした大津皇子と、弟を思う姉大伯皇女の歌は、胸をつかまれるよう。草壁皇子が片思い(で政敵大津皇子の恋人)の石川郎女へ贈った真っすぐな相手への想いは、その純情ゆえに切なさを生む。

    逆におもわずほおが緩んでしまう初々しい歌も。

    蘆垣の中のにこ草 にこよかに我と笑まして人に知らゆな

    恋人に会ってつい顔をほころばせてしまう乙女に対し、こまったやつだなあ、とドギマギしながら照れる若者。「にこ草」とは、「生えたばかりの若草」という説もあるが「葉がイチョウのような形をして、それが風になびくさまがいかにもにこやかな感じ」である「ハコネシダ」の別名とも。
    「にこ」が続くこの歌を口ずさむと、私の口元も知らず知らずのうちにほころんでくる。

    生活と一体になった東歌もいい。愛する人への気持ちを身近な野の草や自然にたとえた歌には胸がときめき、防人として遠い国に向かう夫を気遣う妻、離れた妻を思いやる夫の歌には、素朴だからこそその真っすぐな思いがずんと胸に響く。
    「愛しい」を「かなしい」と読ませる日本語の奥深さも改めて感じた。

    ロッテの「小梅ちゃん」で有名な林静一さんの可憐な挿し絵もこの本の魅力をさらに引き立たせている。

    ときめきを忘れがちな現代人はぜひ読むべし。

  • 図書館の「本日返却された本」のブックトラックで偶然見つけた本書。
    「小梅ちゃん」などのパッケージイラストで有名な林清一さんが描かれた、万葉時代の少女の横顔に一目惚れしました。
    清楚なのに色っぽさもあって、思わずドキッとしてしまいます。

    本書は主婦の友社から昭和54年・55年に刊行された『万葉恋歌』のシリーズ3冊をもとに編集し直されたものだそう。
    自分が生まれる前に書かれたものなのに、著者・清川さんの文章はなんとみずみずしいのでしょう!

    そして、現代に読んでもまったく色あせない、万葉集の歌の数々にも改めて魅了されました。
    タイトルからもわかるように、本書は万葉集に収められた恋の歌を紹介しています。
    初恋、片思い、忍ぶ恋…恋の歓びを歌ったものもあれば、防人が故郷の妻や子をしのぶ歌もあり。
    当時の方々が驚くほど素直に、心のままを歌にしていることに、ほほえましさと若干のうらやましさを感じました。

    舎人皇子の読んだ次の歌が印象に残っています。

     丈夫(ますらを)や片恋せむと嘆けども 醜(しこ)の丈夫なほ恋ひにけり

    大意は「俺は強く逞しい男なんだから、女々しい片恋なんかしないと思っていたのに…と嘆いても、ふがいないものだ、やっぱり恋をしてしまったよ」…といった感じでしょうか。
    (清川さんの訳がとてもほほえましいので、興味のある方はぜひ!)
    なんだか今でもこんな思いを抱いている高校生男子がいそうな気がして、にまにましてしまいます。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      うわ〜、素敵な本の紹介ありがとうございます。
      万葉集ってなかなか手が伸びませんが、これは読んでみたいです。
      男性が素直に恋心...
      こんにちは。

      うわ〜、素敵な本の紹介ありがとうございます。
      万葉集ってなかなか手が伸びませんが、これは読んでみたいです。
      男性が素直に恋心を詠むっていい時代ですね(*^^*)
      2013/06/01
    • すずめさん
      vilureefさん、こんにちは!
      偶然出会えて本当によかったと思える本です。
      寂しいとか、恋しいとか、現代に読んでいる私が恥ずかしくなっち...
      vilureefさん、こんにちは!
      偶然出会えて本当によかったと思える本です。
      寂しいとか、恋しいとか、現代に読んでいる私が恥ずかしくなっちゃうくらい率直な歌が多いのです。
      誰かが誰かに宛てたラブレターを、隠れてこっそり読んでるようなどきどき感もたまりませんw
      2013/06/02
  • 林清一の絵が清冽にエロティックで素敵だ。
    万葉集に登場する恋の歌の、大胆さにどぎまぎしてしまう。

  • 1979年発売当時に購入。
    この本をきっかけにますます万葉集が好きになった。

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