コレクション 戦争×文学 8 アジア太平洋戦争

著者 :
  • 集英社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (800ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784081570089

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ第1回の配本である。収録作品は川端康成、三島由紀夫、太宰治等々名作ぞろいだ。太平洋戦争開戦当初の華々しい戦果や東亜開放に沸き立つ思いから、地獄のような南洋諸島最前線で戦う兵士たちの話までが収められている。編者も書いているが、これはあくまでも文学の書であるので、思想背景は全く関係ない。純粋に優れた文学作品を掲載してある。どの作品もその情景や登場人物の気持ちが身近に感じられるものばかりだ。なかでも「テニアンの末日」中山義秀や「夜光虫」蓮見圭一が良かった。この全集はこれからも8.15や沖縄戦、ベトナム戦争や架空の戦争など次々と刊行される予定である。

  • 野間宏著『バターン白昼の戦』、火野葦平著『異民族』、中山義秀著『テニヤンの末日』、梅崎春生著『ルネタの市民兵』、大城立裕著『亀甲墓』は重量感たっぷりの戦場の雰囲気を活写していて、その悲惨さが悲しい。島尾敏雄著『出発は遂に訪れず』は特攻作戦で死を覚悟した作者が、敗戦によってとにかく生き伸びたことを知ったときの心の動きが生々しい。多くの秀作のなかで際立っていたのが、三島由紀夫著『英霊の声』である。三島氏は二・二六事件への天皇の激怒や敗戦後の”人間宣言”に絶望した。「などてすめろぎは人間となりたまいし」は強烈。

  • 「戦争文学」というジャンルの括りにたいして、いまもって抵抗が拭い去れない。
    それは、悲惨な過去から目を背けようとする現実逃避というよりは、そうしたジャンルに依拠することがむしろ思考停止につながってしまうのではないかという危惧による。

    しかし、今回『ヒロシマ・ナガサキ』に続き、読み終えてみると、あらためて気付かされることも多かった。
    この巻でいえば、それまで「十二月八日」をあまり意識していなかったのだが、この日付は「八月六日」「八月九日」「八月十五日」とともにあわせて、戦争を語るときに鍵となるのだとよく分かった。

    ふたたび、その視点で他の作品を読み返してみよう。

  • ★★★★★
    集英社が真っ向から戦争文学の企画に取り組んだということにびっくりしました。
    この巻では、開戦前後の様子を。戦後に書かれたものとは違い、戦争が始まったという高揚感が感じられるものも。
    今の私たちが持っている当時の歴史や世界の事情を踏まえて読みたい。
    また、フォントや仮名遣いなど、今の読み手が読みやすいのも助かります。
    (まっきー)

  • 鳴り物入りの戦争についてのアンソロジー発売。
    図書館で予約していたのが、ようやく手元に届きました。お、重い・・・こりゃ寝て読むのは無理だな、と、そうそうに諦める。
    内容としても、背筋を伸ばして、正座して読むのが正しいのかも。

    それにしても、私は「文学」に疎いので、冒頭でてきた太宰治はわかったにしても、他は・・・という作家のものが結構続く。読みますが!最初はてっきり「エッセイ」のアンソロジーだと思い込んでいたので、まったくちがう分野のものを集めての「アンソロジー」だったことに驚く。編集委員の浅田次郎さんが巻末で語っておられたように、これはもう大変な作業だっただろう。なにを採ってなにを採らないか。だけでなく、「なにが残されているか」からの作業だ。

    そのなかで目をひいたのは、川端康成大先生の掌編でした。日本語がきれい。やわらかい。そして厳しい。苦しい。さすがだなー。この先生の本をもっと読もう、と思った。
    逆に、「金閣寺」であまりの暗さに、「根暗!どころか全身真っ暗!」と叫んだ三島由紀夫の暗さが、川端大先生のあとだけに際立ってました。

    あ、そうそう、あんまり新しくていい紙使っているので、気がついたらわたしの手に無数の傷・・・紙が切っていったのだね・・・。

  • 2011年8月1日読み始め 2011年8月11日読了
    新しく集英社から刊行が始まった「戦争と文学コレクション」の第1回配本です。戦争小説ばっかり集めた文学集、なかなか興味深い企画です。お試し読みが収録された宣伝雑誌が良かったので買って読んでみました。
    太平洋戦争の時系列にそって、中短編が並べられています。これだけの小説を選ぶだけで大変そうだし、もし自力で探すとなれば手間がかかります。そういう意味でこの本は価値あると思います。
    太平洋戦争開戦のころ、国民は高揚しがんばろう、そう思っていたことが伝わる短編から、真珠湾攻撃についての話、インパールやサイパンなどの悲惨な戦地について、そして特攻、沖縄、終戦、その後…と、小説で改めて仮想体験できる本です。ドキュメンタリーも素晴らしいものですが、小説というものはまるで自分の身に起きたかのように読める共感性があります。そこが小説の面白いところです。
    戦争のない今、また戦争を文学というフィルターで捉えることは重要なのではないでしょうか。
    次は911がテーマの集を読みたいです。

  • 8月6日や8月9日だけでなく、そして8月15日が特別なわけではなく、どうしても毎年8月になると、どっぷりと戦争についての小説・ノンフィクション・論文・マンガを読んで、想像して体現して絶叫して熟考しなければ気が済みません。

    66年前、ほんのついこの前には日常的に敵機来襲があり、叔父さんは中国戦線で五体粉砕して戦死して、お兄さんは南方戦線で部隊退却も知らされず銃火器も不足し飢えとマラリアで悶え苦しんで絶命するというなかで、あとに残った私ら婦女子は、竹やりで敵兵を突く訓練を繰り返しやらされて、もしも敵兵上陸の際には必ず恥ずかしめを受けること間違いないので、舌を噛んで死ぬようにと強く言い含められる毎日やったわ、という祖母の話を聞けたことは貴重な体験でした。

    これは、高校生のときに澤地久枝の『滄海よ眠れ』と『記録 ミッドウエー海戦』を読んで、彼女が日米両方の全戦没者を特定するというとてつもないことをやってのけた、そのことに感激して、呼応して私ができることは何かと考えたときに、身近の近親者の戦争体験を聞くということでした。

    おそらく、面と向かって質問するなんてことは絶対敬遠されるに決まってますから、険悪な雰囲気にならないように十二分に気を使ってけっして詰問口調にならずに、無理なく自然に口を衝いて出るように配慮するというふうにして接すると、祖母の口から、父も母も今まで聞いたことがないという戦争の話が、堰を切ってよどみなく水が流れるという感じでとつとつと話されました。

    思わず身の上話が過ぎましたが、本書は、「日本で初めての戦後世代が編んだ戦争文学全集」と銘打たれて、今までの既成の戦争文学の常識にとらわれない視点で厳選されたアンソロジー、というそうとうな自信に満ちた言辞を掲げています。

    この集英社は過去にも1964年に、「昭和戦争文学全集」という全15巻+別巻1巻の選集を出していますが、今度はエンターテイメントや若い現代作家まで範囲を広げて編集したというわけです。

    この巻のラインアップは・・・・・・・・・

    太宰治『待つ』
    上林暁 『歴史の日』
    高村光太郎 『十二月八日の記』
    豊田穣 『真珠湾・その生と死―特殊潜航艇の戦い』
    野間宏 『バターン白昼の戦』
    下畑卓 『軍曹の手紙』
    北原武夫 『嘔気』
    庄野英二 『船幽霊』
    火野葦平 『異民族』
    中山義秀 『テニヤンの末日』
    三浦朱門 『礁湖』
    梅崎春生 『ルネタの市民兵』
    江崎誠致 『渓流』
    大城立裕 『亀甲墓』
    吉田満 『戦艦大和ノ最期(初出形)』
    島尾敏雄 『出発は遂に訪れず』
    川端康成 『生命の樹』
    三島由紀夫 『英霊の声』
    吉村昭 『手首の記憶』
    蓮見圭一 『夜光虫』

    ・・・という20編ですが、幸か不幸か、私がこの中で読んだことがなかったのは、下畑卓の『軍曹の手紙』と 江崎誠致の『渓流』 という2作品だけでしたが、それは一時期あらゆる文献を紐解いて戦争に関する記述を読みあさったせいかもしれませんが、私には、はたしてこれが本当に厳選されて編集された特別のものなのかは正確には判断しかねます。

    といっても、普段なかなか目に触れる機会も少ない作品も多く、貴重な企画・発行だと思いますので強く推したいと考えますが、それにしてもこの価格、もう少し何とかなりません?

    どこの誰がエンターテイメントじゃない本に3,570円も出して読もうという気になりますか!

    初めから広く一般読者を対象に考えていない企画などというものがあるのかどうか知りませんが、もっと努力されて、半額以下の値段にして、読まれることを合目的性にしてもよかったのではないかと思います。

  • 戦争文学アンソロジー。
    一番最初が太宰治の「待つ」。

    主人公の女性が待つのは、「家族」か「恋人」かはたまた赤の他人なのか、は終わりまではっきりはしないのだけど、いつも読んでてそれは誰かの行動を伴って現れる「当たり前だった日常」なのではないかな、と思うのだけど、今回は特に強くそう思う。(家族や恋人であれば、いつも同じ時間に駅で待ち合わせる、ような・・赤の他人であっても同じ時間に駅で見かけるようなそういう)

    多分3/11のことがあって、その後の少なくとも1週間は日本全国住まう人に平等に、「非日常」と曖昧模糊とした不安が訪れていて、そのなんとも形容しがたい雰囲気を体感したからだろうけど。

    さて、また週末ボランティアをがんばろうっと。

  • 一番最初が太宰治で、おおっとゆー感じ。仕方なく買ったけれど、案外よかった。厚いけど、一つ一つは短くて読みやすい、けど内容は読みごたえあり。 にしても南はひどかった、とか特攻とかイメージとしてはあるけど、具体的には殆どなんにも知らないよなあっとしみじみ。これでいいのか、学校教育? 香水を買って特攻にいく話が印象的だった。

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