中国の英傑 1

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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784081890019

感想・レビュー・書評

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  • 実は始皇帝にはあまり興味はない。「焚書坑儒」で本の題名を検索したときに、もっとズラズラッと書名が並ぶかと思いきや、まともな学術書としては本書しか出てこなかったのである。「十二国記シリーズ」の感想を書くに当たって参考にするべく取り寄せて紐解いた。

    因みに、「紐解く」という言い方を私は多様するが、その謂いは古(いにしえ)の書物が竹簡であって、紐を解いて読み始めたことに由来する。始皇帝34年(BC213年)、丞相李斯は「太古の五帝の理想政治が、新しい始皇帝の政治を妨害している」として「『詩経』『書経』ならびに諸子百家の著述を全て提出させて一括焼却するべきだ」と献策した。かくて陝西省渭南県カイタイハに於いて焚書を断行する。翌年には始皇帝を批判する方士や儒学者460余名を坑儒(殺し)てしまった。そのときに焼かれたのも竹簡であって、おそらく何日も火は消えず、生涯をかけて守り究めてきたはずの学者にとっては、身を焼く想いであったろうと想像する。

    この本には、そのときに焼却処分になった書物の題名や、免れた書物のこと、またはその前後のエピソードを一巻かけて書いているのかと思いきや、ほとんどは始皇帝の一代記であって、小説やマンガではなくて学術的に正しいことを書いてはいるのだろうが、私の期待するものとは違った。

    但し、少しだけは明らかにしている。例えば儒教の基本書物である書経の運命。泰山の麓の90歳にもなろうとする儒学者が、土壁の中に書経を塗り込め、後に取り出したときに数十巻が不明になっていたので、儒学者が暗唱していた文言を娘に伝えて後世の学者に遺したと言う。そういう訳で、現代の我々は書経の中身を知ることができる。書経は、それで良かったかもしれない。他の書物はどうだったのか?一切わからない。

    わからないことは、想像出来るということでもある。

    あまりダラダラ書いても仕方ない。とりあえず、参考になったと言っておこう。

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著者プロフィール

1937年、京都市生まれ。京都大学文学部史学科卒業、同大学院文学研究科博士過程単位取得退学。東海大学文学部専任講師、京都大学教養部助教授を経て、京都大学人文科学研究所助教授、同教授。2000年、停年退官、京都大学名誉教授。花園大学客員教授、龍谷大学文学部教授を経て、同大学客員教授。日本学士院会員。
〔主著〕『劉裕』(人物往来社。後に中公文庫)、『王羲之―六朝貴族の世界―』(清水新書、清水書院。増補して岩波現代文庫。『六朝精神史研究』(同朋舎出版)、『中国古代人の夢と死』(平凡社選書)、『秦の始皇帝』(集英社。後に講談社学術文庫)、『魏晋清談集』(中国の古典シリーズ、講談社)、『書と道教の周辺』(平凡社)、『古代中国人の不死幻想』(東方選書、東方書店)、『中国人の宗教意識』(中国学芸叢書、創文社)、『読書雑誌―中国の史書と宗教をめぐる十二章―』(岩波書店)、『顔真卿伝―時事はただ天のみぞ知る―』(法蔵館)、訳書に『訓注本後漢書』(全10冊・別冊1、岩波書店)、『高僧伝』(全4冊、船山徹氏と共訳、岩波文庫)など。
二〇二二年、文化勲章受章。

「2019年 『侯景の乱始末記──南朝貴族社会の命運』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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