きょうの日はさようなら (集英社オレンジ文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784086800587

作品紹介・あらすじ

明日子と双子の弟・日々人は、年の近い従姉がいて、彼女と一緒に暮らすことを父から知らされる。夏休みに面倒と思う二人だが、従姉の今日子は、長い眠りから覚めたばかりの、三十年前の女子高生で…?

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『風呂から上がって、ベッドに転がって、眠った』先に目覚めたら、そこは三十年先の未来だったとしたらどうするでしょうか?

    私たち人間には睡眠は欠かせないものです。どんなに忙しくったって不眠不休で生きていくことなど出来はしませんし、無理すれば体を壊すだけでなく、生活のクオリティ自体低下してしまいます。

    OECDが世界33ヵ国を対象に実施した調査では日本人の平均睡眠時間は7時間22分と、対象国の中でダントツに最下位という結果が出ています。とは言え、そんな日本人の中でも6時間で十分という人もいれば、8時間は必要ですという人もいます。必要な睡眠時間は人によって当然に異なります。とは言え、50時間必要です!いや、100時間必要です!という人はいないでしょう。寝だめという言葉があるとは言え翌日には誰もが目を覚ましますし、誰もがそれを前提として眠りにつくはずです。しかし、強制的に睡眠状態に置かれたとしたらそんな時間は本人の意思から離れてもしまいます。

    さてここに、1995年という時代から『冷凍睡眠』に入っていた少女と出会う2025年の今を生きる双子の姉弟を描く物語があります。わずか三十年にも関わらずそこに時代の大きな変化を見るこの作品。それぞれの時代に良いところと悪いところを見るこの作品。そしてそれは、『外国人と話してるみたいだ。三十年、そんな大昔でもないのに』という差を埋めていく二人の少女の交流を見る物語です。

    『大事な話があるので夜は家にいるように、と父親から携帯にメッセージ』を受けたのは主人公の門司明日子(もじ あすこ)。『話ってなんだと思う?』と訊く明日子に『知らね』とそっけなく返すのは双子の弟の日々人(ひびと)。そして『厚労省の外郭団体職員、という仕事を』している父親が帰宅し、三人で食卓を囲む中、『お前たちにいとこがいる』と『何の前置きもなく』父親が話し始めます。『今まで言わなかったけど、俺には姉がいて、姉には娘がいて、だからお前たちにいとこがいる』、『彼女の家族はもういないから、あしたからうちで引き取って一緒に暮らす』と続ける父親。それに『はあ?』と返す日々人は『いやなんだけど』、明日子も『いやなんですけど』と返します。それに『お前たちと歳も近いから仲良くなれるだろう』、『彼女の名前は今日子というんだ』と言う父親は『自分の携帯を操作する』と、『今送った文書は、秘密保持の同意文書だ。デジタル拇印を押してこっちに返信しなさい』と続けます。『今日子に関しては、俺の職務上の大きな秘密を含む。だから一切外に漏らしてはいけない決まりだ…』と続ける父親は『言うことを聞かなければどっちにしろ俺の権限で携帯は止める。決済機能も家のロック解除もリモコン機能も何もかもだ』と『やけに強い口調で命じ』るため、やむなく二人は携帯を操作します。『ちなみに、今日子は一九七八年生まれだ』と言う父親に『全然歳近くねーから!んなおばさんと仲良くなれるわけないじゃん!』といらだつ明日子に、『あくまで暦年齢の話だよ』と言う父親は『一九九五年、ちょうど三十年前。今日子の家が火事で全焼した。一家は今日子以外助からなかった。彼女自身、全身にひどい火傷を負って生死の境をさまよった』、『全身の皮膚や臓器の低体温治療にそれだけかかった』と説明します。『低体温で、いわば冬眠した人間の世界最長記録になる』と続ける父親に『で、その、今日子って人、これからうちでどうすんの?』と訊く明日子。それに『生きるんだ、ここで。二〇二五年を』と力強く語る父親。衝撃的な話を聞いた二人は部屋に戻ります。そして、日々人が見つけた『古い新聞記事のアーカイブ』を携帯で見る明日子は、『きょう未明、東京都S区の民家で火事があり…』と始まる1995年7月21日の『毎巷新聞』の記事を読みます。『どうやら噓じゃなく、この火事から生き残った少女があす、うちにやってくる』と思う明日子は『あしたが来なくて、いきなりあしたのあしたのあしたの…で三十年後だったらどうしよう』と今日子に起こったことに思いを馳せます。場面は変わり、『翌日の昼過ぎ、父が例のいとこを伴って帰ってき』ました。『きのう話した、今日子さんだ』と紹介する父親の後ろに一人の女の子が佇んでいます。『黒髪おさげのセーラー服、膝下までのソックス、今時めったにお目にかかれない「純血種」って感じのJK、いや語感的には「女学生」に近い』と今日子のことを見る明日子。『今日子さん、娘の明日子です』、『分からないことがあったら彼女に訊いてください…』と言うと父親は仕事に戻っていきました。そして、三十年の時を越えて現れた今日子と、明日子の日常を描く物語が始まりました。

    “明日子と双子の弟・日々人は、歳の近い従姉がいること、彼女と一緒に暮らすことを父に知らされる。 夏休みに面倒ごとが増えて二人ともうんざりだ。けれど、従姉 ー 今日子は、長い眠りから目覚めたばかりの、三十年前の女子高生で…”と内容紹介にうたわれるこの作品。タイムスリップ?ファンタジー?とも思える内容に頭が疑問符だらけになる一方で、漫画家の宮崎夏次系さんが描かれた表紙が醸し出す独特な雰囲気感にも囚われていきます。

    そんなこの作品は1995年!に、ある一件で結果的に『冷凍睡眠』に入り、2025年!!に覚醒して主人公の明日子の家で一緒に暮らすことになった一人の少女の日常が描かれていくというかっ飛んだ内容が展開していきます。そのあまりのかっ飛びぶりに気持ちも高揚していきますが、三つの視点からこの作品の読みどころを見ていきたいと思います。

    まず一つ目は1995年に眠りについた = 1995年を生きていた少女の視点が登場するところです。数多の小説の中には過去の時代を描いたものがあります。私はそういった小説で過去の時代の描写がなされていくのを読むのが大好きです。それぞれの作家さんがその時代を表すものをどこに求めるか?という点でその作家さんの個性が垣間見えてもくるからです。その点ではこの作品はもうレベルが違います。何せ1995年を生きていた人間が目覚めたら未来だったという世界を描いているため、もう生活のあらゆることに差分が生じます。数がありすぎますが幾つかご紹介しましょう。まずは今日子が明日子の前に現れて最初に交わす会話です。いきなりですが、それが『ナプキンって全然進化してないよね』という今日子の言葉です。

    『進化はしてると思うよ?きっと細かいとこで頑張ってくれてる。羽根とか吸収力とか。でももっと劇的に何とかなってないのかなーって。人類ってまだ傘差してんだ、って思ったもん』。

    『ナプキン』については私はよく分かりませんが、『傘』については全く同感です。世界中で、人類の歴史の分だけ対応が求められてきたにも関わらず、『傘』はもう少し進化してくれないかなあ、と思います。そんな今日子の語りに『普通のJKだこれ』と安心する明日子というのがこの場面です。次は、とくに今年の私たちには実感することです。『すっごい暑いよ東京!』と言う今日子に『きょう最高気温が三十二度だったっけ?普通だけど』と返す明日子という場面です。

    『普通じゃないよ、七月でしょ、だって夏の暑さの目安は三十度だったよ。超えたら「きょうは暑いね」って言うの… 夏休みのしおりには「宿題は涼しい午前中にすませましょう」って書いてあった…』

    2023年の夏はとにかく異常気象の極みだったと思います。『三十度』が『夏の暑さの目安』、『宿題は涼しい午前中に』という時代がこの国にあったのか?と、もう別世界に来てしまったようにも感じます。私たちはそんな1995年という時代の先の時の流れをずっと体験しながら生きているからまだしも、途中を飛ばして暑い夏が当たり前の時代に目覚めればそれは驚きだと思います。次は、部屋に籠ってばかりの弟の日々人のことを話題にする場面です。『部屋から出てくるし不登校でもないよ』と日々人のことを説明する明日子に今日子は引っかかりを覚えます。『二十世紀にはいなかった?』と問う明日子に今日子はこう答えます。

    『でも「登校拒否」って言ってた。「登校拒否児」とかね。今は「不登校」って言うんだよね。痴呆症は認知症って呼ぶ、っていうのも習ったよ』。

    明日子の家に来るまでに最低限の差分を学ぶ機会を得ていた今日子はそんな風に当時と今の言葉の変化を説明します。そして、その印象をこんな一言で感想にします。

    『二十一世紀って、いろいろマイルド』

    これは言い得て妙だと思います。かつての時代と比べて同じものを指す言葉があれもこれも…とオブラートに包まれたように言い方が変えられてしまった現代社会。たった三十年の差分にも関わらず解説がないと日本語が通じなくなっている側面が多々あることを改めて感じました。

    次に二つ目は、上記で触れた1995年を三十年前と説明していることの違和感です。2023年の今から数えても1995年は28年前です。そして、そもそもこの作品が刊行されたのは2016年1月のことです。つまり、1995年から三十年先 = 2025年は、一穂ミチさんが作品を執筆された時点からなんと10年も先の未来!ということになってしまいます。『生きるんだ、ここで。二〇二五年を』と本文中にもハッキリと記されている通り、『冷凍睡眠』から目覚めた今日子が日常を送ることになるのは2025年の未来の話なのです。これには驚きです。なんとこの作品はSFの世界にも足を踏み入れていくのです。ということで、そんな未来世界の描写も見てみましょう。一穂さんは2015年という今から8年も前にこの未来を想像されたということになります。まずは、違和感がそこまではなさそうなものです。

    『人間が何もしないぶん、ロボット掃除機が絶え間なく巡回してくれてはいる』

    『ロボット掃除機』の有無はまだまだ家庭によって差異があるとは思いますが、そこまで違和感はないと思います。一方で違和感がバリバリ出てくる表現もあります。明日子が携帯の機能を語る場面です。

    『未成年だから、たとえばエロ本とか買おうとしたら警告音が鳴るんだ。十八歳以下はコンドームとか妊娠判定薬とかも親に通知がいくようになってんの』

    残念ながら?ここまで時代は進歩していませんね。駅の改札を通過したら通知が届くとかはありますが、十八歳以下とはいえこのような通知が届いたとして親はどんな顔をすれば良いのでしょうか?これは、来ない未来だと思います。最後は、気象ネタをご紹介しましょう。

    『夏が行ってしまう。最高気温30度超えの日が下手すると十月まで続く』

    去年までだったら、何だこれは?と思ったかもしれませんが、2023年の夏を経験した身にはなんだかとてもリアルです。2025年には現実になっているのではないかと感じる未来です。他にも未来世界の描写は多々ありますが、2015年に空想された一穂さんの微妙に外されている感がある2025年の描写は、読んでいてなんだか摩訶不思議な思いに囚われます。もちろん、今は2023年なので2025年がどうなっているかはわかりませんが、それでもこれはないだろうという微妙感漂う物語が不思議な感覚をもたらします。近未来を描くことのある意味での難しさを感じました。

    そして三つ目は、過去(1995年)と現在(2025年)のそれぞれを日常として生きる者たちの交錯です。2025年を生きている高校生が1995年を生きている高校生と直接会話することは当然できません。もちろん小説世界ではさまざまな手法を用いてそれを実現することができます。それがタイムスリップです。タイムスリップという考え方を使えばもうなんでもありです。しかし、同時にそれはSFど真ん中な世界です。それに対してこの作品では、『冷凍睡眠』という考え方をもって、1995年を生きていた今日子に、三十年後の2025年の今へとまるでタイムスリップしたかのように登場する余地を与えています。もちろん、今の世であってもこのようなことは実現してはいませんし、毛色の違うSFと見ることもできます。そんな先に同じ日本なのに、同世代なのにここまでさまざまな価値観が異なるのか?というギャップを垣間見るこの作品の視点はとても新鮮です。そんな感覚が明日子のこんな言葉に集約されてもいます。

    『外国人と話してるみたいだ。三十年、そんな大昔でもないのに、間が抜けているだけでこうもこまごまとつまずくものか。時代劇の世界に自分が迷い込んだら、挨拶も通じないんじゃないだろうか』。

    そんな物語に登場する主人公・明日子は父親から今日子のことを聞いてこんな風に思います。

    『今日子と明日子、自分たちが双子みたいだ。一緒に暮らすと言われてもまだ現実感がないし、正直面倒くさい』。

    弟の日々人含め、名前にもどこか繋がりを感じさせる登場人物たち。物語では、どこか関連性を帯びた名前に一つの真実を見る物語が描かれていきます。今日子と明日子という本来出会わなかったはずの二人の少女がひと夏の奇跡の出会いを見る先にそれぞれに続いていく人生を思う物語。そこには、今を共に生きる喜びが故に切なさ漂う結末が読者の中にいつまでも余韻を残すのだと思いました。

    『あしたが来なくて、いきなりあしたのあしたのあしたの…で三十年後だったらどうしよう』

    三十年の眠りの先に突如現れた今日子。そんな存在にさまざまな思いを巡らせていく明日子が今日子がいる日常を過ごす中に自らの人生に隠されたまさかの真実を知ることになるこの作品。そこには、二つの時代をそれぞれ生きる者たちの新鮮な出会いが描かれていました。『ポケットベル』、『ソックタッチ』、そして『スーパーファミコン』と1995年という時代を懐かしく感じるこの作品。そんな先に2025年というまさかの未来を見るこの作品。

    「今日の日はさようなら」という森山良子さんの楽曲の世界観と重なる物語の先に、切ない思いが込み上げる、そんな物語でした。

    • さてさてさん
      5552さん、こんにちは!
      コメントありがとうございます。
      タイムスリップでなく、時代を超えるということを実現してしまうとても興味深い作...
      5552さん、こんにちは!
      コメントありがとうございます。
      タイムスリップでなく、時代を超えるということを実現してしまうとても興味深い作品でした。文庫の位置付けには詳しくないですが、もしティーン向きだとしても感動できる視点が違うかなあと思います。森絵都さん「カラフル」などもティーン向けと言われますが、あの作品に本当に感動できるのは、主人公の年代を遠く過ぎ去った年代の人間ではないかと思っています。そういう意味でもこの作品は違う年代の方にも刺さるものがあると思います。ただ、設定が強烈なのでそこに引っかかりを強く感じる方には結果として感動のハードルが上がるようには感じました。
      2023/11/27
    • 5552さん
      さてさてさん、お返事ありがとうございます。

      強烈な設定ものはストライクゾーンなので私でも楽しめそうです。
      近くの図書館の蔵書検索をしたら置...
      さてさてさん、お返事ありがとうございます。

      強烈な設定ものはストライクゾーンなので私でも楽しめそうです。
      近くの図書館の蔵書検索をしたら置いてあったので今年か来年の頭には読めそうです♪
      ご紹介ありがとうございました!
      2023/11/28
    • さてさてさん
      5552さん、なるほど、それなら大丈夫というより、より楽しめそうですね!
      読書の起点になれて幸いです。
      レビューお待ちしております!
      5552さん、なるほど、それなら大丈夫というより、より楽しめそうですね!
      読書の起点になれて幸いです。
      レビューお待ちしております!
      2023/11/28
  • 『スモール・ワールズ』で知った作家一穂ミチさんの長編小説。
    フォロワーさんに教えていただきました。ありがとうございます。

    時は2025年。高校二年生の夏休み。
    明日子と双子の弟の日々人と父親が暮らす家にいとこの今日子が居候としてやってきます。
    実は彼女は冷凍睡眠から目覚めたばかりの三十年前の女子高生でした。
    家族は火事で全員亡くなり、ただ一人生き残ったのだと説明を受けますが…。

    三十年前(二十八年前)の高校生を彷彿とさせるアイテムがたくさん登場します。
    ポケベル、ソックタッチ、ガングロなどの言葉も飛び出してやっぱりあの頃の特徴といえば女子高生だな~と思いました。

    そして今日子は二十八年前ちょっと好きになりかけていた沖津くんという同級生がいました。
    明日子たちは沖津くんが今、何をしているか探し出してあげて、今日子は高校の制服姿で沖津くんの働いている姿を勤務先のデパートに見に行きます。だけどただそれだけです。

    そしてまた、明日子たちは今日子の家族が亡くなった理由が火事ではなく無理心中だったことを知ってしまいます。今日子の家系には無理心中を図るような重大な秘密がありました。

    一方沖津くんの方もセーラー服姿の今日子に気が付いて昔のことを懐かしく思い出します。だけどやっぱりただそれだけです。

    そして日々人は今日子に本気で恋をします。でも今日子はまた、未来へと旅立ってしまいます。
    ひと夏のちょっと不思議なキュンとする物語でしたが、たしかに堂上今日子はそこにいたのだと思いました。

    • おじょーさん
      早速読破されたんですね。長編という程の長さではないのですぐ読めたと思います。

      確かに「ただそれだけ」の話ですがじんわりと染みたんですよ...
      早速読破されたんですね。長編という程の長さではないのですぐ読めたと思います。

      確かに「ただそれだけ」の話ですがじんわりと染みたんですよ。1995年をリアルに感じる年代だからかもしれません。
      2021/07/15
    • まことさん
      おじょーさん。

      こちらにもコメントありがとうございます。
      一穂ミチさんのことが、少しわかった気がしました。
      ありがとうございます!...
      おじょーさん。

      こちらにもコメントありがとうございます。
      一穂ミチさんのことが、少しわかった気がしました。
      ありがとうございます!
      直木賞発表いよいよですね。
      楽しみです。
      2021/07/15
    • まことさん
      おじょーさん。
      勘違いしていました。
      直木賞は、もう発表されていたんですね。
      残念でした。次回に期待です。
      おじょーさん。
      勘違いしていました。
      直木賞は、もう発表されていたんですね。
      残念でした。次回に期待です。
      2021/07/15
  • 私は初読の作家の場合、代表作を読むようにしている。
    なぜなら一作目が面白くないと、その作家の作品をほとんど読まないようになるから。今回の一穂ミチもはじめての作家だったが、最近評判の作品を3冊抱えていた。
    初期の本作をまずは読んでみようと予感のようなものが働く。これがなかなか面白く期待を裏切らなかったことに安堵した。今日子の再目覚めからのその後も期待したい。

  • 2025年、夏休み。
    高校生の明日子と双子の弟の日々人は折り合いの悪い父親から、突然、同じ年のいとこがいることを知らされる。
    いとこの名は堂上今日子。明日子の目には「純血種のJK」あるいは「女学生」に見える彼女は実は1978年生まれ。
    彼女は、冷凍睡眠で30年間眠っていたのだったーーー。

    毛色の変わったタイムスリップもののような読み心地。
    タイムスリップものの小説や映画の名作がちらちらと頭に浮かぶ。

    今日子と同じ時代を同じような年代で生きていた私には懐かしすぎる今日子の語る1995年。
    まるであの頃の友達のはなしを聞いてるかのよう。
    三十年近く前のはなしなのに、昨日のことのように感じる。
    同時に、明日子たちの感覚もわかる気がする。
    私はもう女子高生でなくおばさんだけれど、2025年の一年前、2024年を生きている。
    今日子と明日子たち、両方の感覚がわかることで、不思議な感慨が起こる。

    ラストは切なかったが、その後の短編『堂上今日子について、そしてさよならプレイガールちゃん』は、さらに切なくて半泣きで読んだ。

    年齢を重ねたからこその読後感ではないかと思う。
    あの頃も今も未来も大切にしたくなる作品です。

    さてさてさんのレビューでこの作品を知ることができました。
    ありがとうございました!



    • さてさてさん
      5552さん、お読みになられましたね。
      “年齢を重ねたからこその読後感”、とても説得力のある言葉だと思います。この作品の寂寥感はまさしくそ...
      5552さん、お読みになられましたね。
      “年齢を重ねたからこその読後感”、とても説得力のある言葉だと思います。この作品の寂寥感はまさしくそういった部分から見えてくるのだとも思います。”あの頃も今も未来も大切にしたくなる作品”というのも本当にそうだと思いました。この作品、決してメジャーな作品ではないと思いますが、埋もれるにはあまりにももったいない作品だと思いました。
      2024/01/11
    • 5552さん
      さてさてさん、あらためて、ありがとうございました!
      さてさてさんがレビューを挙げてくださらなければ、私は、この作品を一生読む機会に恵まれなか...
      さてさてさん、あらためて、ありがとうございました!
      さてさてさんがレビューを挙げてくださらなければ、私は、この作品を一生読む機会に恵まれなかったでしょう。
      一穂ミチさんは『スモールワールズ』が有名ですが、それ以前にもこんな秀作を書かれていたんですね。
      さてさんの仰るとおり、もっと読まれてもいい作品ですよね。
      読後感が何とも言えないです。
      2024/01/13
  • みんみんさん激推しの一穂ミチさん、初読。人気作は予約数が多くて、とりあえずこちらを。
    2025年7月、近未来の双子の高校生の夏休み。父方の従姉妹という少女(48才)との一夏の同居生活が始まる。ある事件に巻き込まれて生死を彷徨っていた少女は、コールドスリープから目覚めたばかり。30年前の女子高生と現役高校生とのちょとズレてはいるけど、何かを補い合えるような、そんな三人の生活は、崩れかけていた家庭を修復していく。
    この作品の出版が2016年ですので、小説の設定にだいぶ近づいていますね。そんなに大きくは変わらないですよ。確かに、テレビとパソコンは薄くなりました。それより、少女の高校生の時の思い出の方が、ガングロとかポケベル、ゲームセンター等懐かしい響きでした。
    思いがけずSFタッチで、楽しめました。
    他の作品も読みまーす。

    • みんみんさん
      おびさん!
      こちらから失礼します♪(´ε` )

      今さっきから一穂ミチ新刊「光のとこにいてね」
      読んでます!
      もう興奮しすぎて2章に入ったと...
      おびさん!
      こちらから失礼します♪(´ε` )

      今さっきから一穂ミチ新刊「光のとこにいてね」
      読んでます!
      もう興奮しすぎて2章に入ったところでの中間報告を!
      ヤバいですよ!最高傑作の予感\(//∇//)
      文藝春秋の電子編集のTwitterで一章無料のお知らせあります‼︎
      2022/11/08
    • おびのりさん
      良い?良いだろうなあ。
      私は、日曜日に、芦沢央さんと、青崎有吾さんのダブルサイン会で、6冊購入しちゃたんだよね。今月の図書費がもう無い。
      お...
      良い?良いだろうなあ。
      私は、日曜日に、芦沢央さんと、青崎有吾さんのダブルサイン会で、6冊購入しちゃたんだよね。今月の図書費がもう無い。
      おまけに図書館ポンコツ。
      螺旋シリーズも方舟もまだない。
      一章で欲求不満で、買っちゃうよね。
      2022/11/08
    • みんみんさん
      サイン会いいなぁ(๑˃̵ᴗ˂̵)
      図書費…恐ろしくて考えないようにしてる笑
      うちの図書館もポンコツだから
      みなさんの話題本のレビューは地蔵に...
      サイン会いいなぁ(๑˃̵ᴗ˂̵)
      図書費…恐ろしくて考えないようにしてる笑
      うちの図書館もポンコツだから
      みなさんの話題本のレビューは地蔵になって拝見してます(。-_-。)
      2022/11/08
  • 薦められたのはBL作品だったけど目に止まったのでこちらを。2025年の夏休み。明日子と日々人の元に突然父が姉の子の今日子を連れて来た。なんと彼女は30年間の冷凍冬眠から目覚めたばかりの同世代の女子高生。現代に戸惑いながらも意外とすんなり馴染む今日子。漫画やゲーム等の世代のギャップの話題がコミカルだがちょっと叙情的。30年前=1995年に高校生前後の今日子と同世代なら色々刺さると思う。彼女が軸になって明日子家族のわだかまりが解かれていく展開はしみじみいい。その分後半冷凍冬眠に纏わるSFな秘密が明かされてからの展開はそれしかないと納得しても胸に来る。最後まで読むとタイトルの前後にある歌詞を思い浮かべて泣けてきたよ…

    • まことさん
      おじょーさん。こんにちは!

      先日はありがとうございました。
      おかげ様で読了しました。
      「きょうの日はさようなら」の歌詞!
      凄いと...
      おじょーさん。こんにちは!

      先日はありがとうございました。
      おかげ様で読了しました。
      「きょうの日はさようなら」の歌詞!
      凄いところに気がつかれましたね!!
      確かに淋しいですね。この物語のテーマとして考えると特に!
      2021/07/13
    • おじょーさん
      まことさん。こんばんは。
      早速読まれたそうで。レビューも拝見しました。
      そう、歌詞の前後を思うとさらに物悲しいんですよ。「また会う日まで...
      まことさん。こんばんは。
      早速読まれたそうで。レビューも拝見しました。
      そう、歌詞の前後を思うとさらに物悲しいんですよ。「また会う日まで」が何時になるのかと思うと。
      2021/07/15
  • きょうの日はさようなら、また逢う日まで。

  • 30年間コールドスリープをして2025年に目覚めた少女と、従兄(双子姉弟)との心の交流の物語です。
    なかなかにミステリアスで、かつ昭和生まれの感性を刺激するゲームや音楽や漫画が大盤振る舞いで、想像以上に楽しんで読みました。
    直接的な名称は出ませんが、あれかなこれかなと想像して非常に楽しかったです。コールドスリープした少女は僕の4歳下で、1995年といえばルーズソックスやアムラー全盛の頃で、まだポケベルの頃なのでいきなりスマホやストリーミング全盛の中に頬り込まれたとしたら、彼女以上に馴染めず戸惑うこと間違いなしです。
    そんな不安の描き方と、生まれた年代は違うけれど年齢の近い姉弟との交流の描き方もとても上手いと思いました。
    この間インタビューウィズヴァンパイアを映画で見ましたが、同じ時代を語り合う事が出来ない寂しさというのを同様に感じました。コールドスリープして未来を見てみたいという人沢山いると思いますが、僕はやはり同じ時代を生きて死んでいく方がいいなあ。

  •  17歳の夏休み、双子の明日子と日々人は、父から唐突にいとこ・今日子の存在を知らされ、居候として明日から一緒に暮らすことを告げられる。おさげ頭にセーラー服姿の今日子、実は彼女は火事で生き残り低温保存の“冬眠”から目覚めたばかりの30年前の女子高生だったーー。スマホ世代とポケベル世代。言葉や文化に戸惑いながらも明るく前向きに生きようとする普通の女子高生・今日子を、二人は少しずつと好きになっていく。しかし今日子の過去には、本人すらも知らないある悲しい秘密があった…。時代を超えた若者たちが心で通じ合う、不思議で切ないひと夏の奇跡の物語。
     
     気がついたら、作中の人物たちと一緒に笑って、心配して、泣いていた。登場人物たち全員が愛おしい。こんな気持ちにさせてくれる作品は久しくなかったなぁ。
     朝起きたら、自分以外は30歳としをとっていて、自分だけ取り残されていたらどう思うだろう。孤独、喪失、絶望…今日子の置かれた状況をリアルに考えてみると、明日子や日々人の存在にどれだけ今日子が救われたかを感じることができる。
     反対に、明日子と日々人の二人が今日子との出会いによって成長し変わっていく様子も鮮やかに描かれている。不仲だった父親と和解していく場面では、スーパーファミコンが憎い役割を果たす。便利になりすぎた現代社会を客観的に見つめる今日子の言葉は、スマホ世代の二人に心に変化をもたらす。
     若者が成長する姿って、どうしてこんなに美しく輝いているのだろう。未熟さを隠すように膨張した自意識の殻が、一枚一枚剥がされ成熟へと向かっていく。一穂ミチさんはその過程を、なんとも鮮やかに切ない色のスポットライトを当てながら描き出す。

  • 『スモールワールズ』がとても良かったので…やっと2冊目の一穂さん。

    舞台は2025年の夏休み。高校生の明日子と双子の弟・日々人は、ある日突然、父から今日子といういとこがいること、そして彼女と一緒に暮らすことを告げられる。実は今日子は1978年生まれ。30年前の1995年、今日子が17歳の時に低体温治療のため仮死状態となり、2年前に長い眠りから目覚めたばかりだという…。

    集英社のオレンジ文庫ということで、どちらかと言うと若い人向けかなぁと思いつつ読み始めたところ、低体温治療の仮死状態ってつまりはコールドスリープってやつよね…これってSF?どうなることやら…と心配になりましたが、やはりそこは一穂さん。17歳という繊細で多感な時期の、明日子と今日子と日々人のやりとりも良かったし、今日子の謎や家族の問題もあり、余韻を残す切ないラストに満足のいく内容でした。

    今日子の高校生時代が…MD、ポケベル、ルーズソックス、ファミコン…などなど、若干私の高校生時代とはズレていますが懐かしいものばかり。30年前と現代との言葉の違いもおもしろかったです。

    タイトルの元となっているであろう曲の歌詞が…読み終わった後に思い出してめっちゃ切なくなりました。しかもこの曲、描写としてはタイトルも歌詞もダイレクトには出てこないってのが、すごい。これもひとつのテクニックなんでしょうね。

    最後に短編が2つあるんですが、今日子の同級生だった沖津くんの話とエピローグ的なものと、これも何気にすごく良かったです。

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著者プロフィール

2007年作家デビュー。以後主にBL作品を執筆。「イエスかノーか半分か」シリーズは20年にアニメ映画化もされている。21年、一般文芸初の単行本『スモールワールズ』が直木賞候補、山田風太郎賞候補に。同書収録の短編「ピクニック」は日本推理作家協会賞短編部門候補になる。著書に『パラソルでパラシュート』『砂嵐に星屑』『光のとこにいてね』など。

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