文明の衝突と21世紀の日本 (集英社新書)

  • 集英社
3.47
  • (55)
  • (127)
  • (235)
  • (15)
  • (7)
本棚登録 : 1348
感想 : 128
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087200157

作品紹介・あらすじ

93年に発表された「文明の衝突」理論は、その後のコソボ紛争、さらに東ティモール紛争でその予見性の確かさを証明した。アメリカ合衆国の「21世紀外交政策の本音」を示して世界的ベストセラーとなった「原著」の後継版として、本書は理論の真髄を豊富なCG図版、概念図で表現。難解だったハンチントン理論の本質が、一目のもとに理解できる構成とした。その後九九年に発表された二論文を収録、特に日本版読者向けに加えた「21世紀日本の選択」は、単行本「文明の衝突」の読者必読の論文である。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 私の中には、「ヨーロッパはおしゃれ、アジアはださい」という感覚がどうしてもこびりついてしまっていて、それを取り除くことがとても難しいことだと感じています。

    ローマ帝国がNo1、中国がNo1、イギリスがNo1だったこともあるという内容を読んで、世界は文明が盛り上がったり、衰えたりの流れの中で動いている、ということを改めて認識しました。50年後、もしくはもっと早い段階で「中国っておしゃれだよね」となる可能性があるということを頭の中に入れておこうと思います。

    「イスラム文明」や、「中国文明」と同じ並びで、「日本文明」というのがある、というのがびっくりでした。私は無意識のうちに、どこかの文明の中にあるのだという感覚を持っていました。

    そして日本は同じ文明を持つ国がないから、孤独だと書いてありました。これからアメリカにつくか、中国につくかという選択を迫られ、筆者は中国につくと予想、訳者はアメリカにつくだろうと予想しています。

  • <新たなファクターとしての文明>
     93年に世界的ベストセラーになった『文明の衝突』の後継版として位置づけられる本書は、衰退する西欧文明がもたらす世界認識を知る事が出来る。筆者によると、冷戦後の世界は(7〜8の文明で分けられた)多極化へ向かい、従来のパワーという概念に加え、文化•文明が民族(国家)の行動を動機付けるものとなりうるという。そして文化文明の差異が分裂を招く危険性を指摘しており、もっとも紛争をもたらしそうな分裂線を西欧文明と中国及びイスラームの間に引いている。本書から、相対的に衰退する西欧文明の代表者たるアメリカの、多文明化した世界における一つの提言を見ることが出きよう。

    <アメリカのアジアへの眼差し>
     本書の一番主要な主張は、国家の行動様式がパワーを巡るものから、伝統的に自らを基礎付ける文化文明に基づくものになり、そこから異文明間の断層部における紛争の可能性を指摘するものである。しかしより興味深い認識は、西欧文明の衰退というものであり、他の文明(中華、イスラーム)の台頭に直面しているという認識である。アメリカは、国内において多文化主義が「国民の団結よりも、むしろ多様性を熱心に奨励」(p179)する事で西欧文明の遺産を危機に曝し、アメリカを「引き裂かれた国」にしてしまう可能性を抱えており、事によると異文明間戦争よりアメリカにとって危機になりうると主張する。そのため対外関係において来るべき多文明化した世界に備え、アメリカが一極支配者たる振る舞いをやめ、自国の価値の普遍性を前提に行動するのではなく、自らが西欧文明の代表として他国の協調を促し自国の利益にかなうように振る舞うべきだという。そこから引き出される提言は、アメリカ外交は「一つの文明の中核国はその文明圏の国々の秩序を、文明圏外の国がするよりもうまく維持できる」(p89)という前提の下「その地域の大国が第一に責任を負うように」治安維持に努めるべきであるというものだ。
     筆者は来るべき多文明化した(多極化)世界で「潜在的に最も危険な紛争」がアメリカと中国の間で生じうるという。「異なった文明間の新興中核国と没落する中核国家の間の紛争に、勢力バランスという要因がどの程度まで影響するだろうか?」と問い、日中間の文明の差異とパワーシフトの相互作用に関心を向ける。筆者はアジアでは中国(中華文明)の台頭とアメリカ(西欧文明)の衰退、日本(日本文明)の停滞があり、文明の差異とパワーバランスの著しい変化があり、日米中の関係は文化文明の断層線に隣接する国家同士であることから協調は難しいという。アメリカの対アジア関与はこれまで、パワーの観点から中国の域内大国化を日米同盟で押さえ込む戦略がとられて来たが、今後もこの関係は続けられるのか?中国の台頭の前に、「揺れる国家」たる日本はいかなる戦略をとるのか?
     すべて明示的に答えられている訳ではないが、衰退し挑戦を受ける西欧文明という世界観を前提に、アジアにおけるアメリカがとりうる戦略を考えるにあたって、重要な土台となりうる議論が展開される。

    <本書の功績と問題>
     この本及び「文明の衝突」議論の最大の功績は、従来の国家の行動要因であるパワーに加え文化文明という概念を新たに加え、両者の相互関係から紛争の要因を探っている点である。特に文明の盛衰からとりうる戦略を考えるという発想は、旧来の国際関係学にはない新しい視点である。
     もっとも「文明の衝突」の議論に問題は少なくない。筆者が「文明の衝突」として挙げる旧ユーゴ紛争においては民族別の経済格差の問題があり、さらにボスニア紛争やコソボ紛争ではイスラム文明を西欧が(直接間接の)援助をしている事実から、文明の親近性だけで国家の行動を説明出来ない。だが、筆者の主張では、その点の考慮が無い。しかし、より重要なのことはアメリカの価値を普遍だとの前提で行動をとらないことや、異文明への不干渉を主張する世界観がどのようにして生まれ、どこまでアメリカ国内で支持を受けるのかであろう。さらに私たちに関わるところでは、アメリカと日本の関係にその世界観がどのような影響を与えうるのかを本書で考えることが出来る。      

  • 本書では冷戦後の世界の構造が、文明によって決定づけられるとし、そんな中で国々がとるべきスタンスを主に東アジアを舞台に論じている。

    内容はまず、冷戦後の社会構造を文明、パワーバランスの観点から分析し、その上で文明的に孤立した日本がどのようなスタンスをとればいいのか提示している。次に、冷戦後、文明というひとつの尺度に対して未だに時代遅れな支配的な立場をとっているアメリカを批判し、新時代においてアメリカのとるべき立場を提示している。最後に過去の文明間の衝突の原因を踏まえて、東アジア、さらには世界にまたがるフォルトライン戦争を避けるにはどうすればいいのか論じている。

    著者の文明という切り口は鋭く、文明という要素と過去の事実がつながっていく論旨の展開は読んでいて非常に面白い。

    同時に他の「文明」という自分がどんなに理解に努めても理解できず、認めるしかない事実を再認識し、何か背筋に走るものを感じた。

    しかし、この本を読んでいると文明というものはほぼ普遍的な事実としてとらえられているように思えるのだが、昨今情報の民主化、金融の民主化が整いつつある中で、この文明という枠組みがどれぐらい普遍性・支配力を持つのか、そして持っていくのかは論じる余地があると思う。

    ただ、おそらく著者はそんなことはわかっていて、にも関わらず、あえて文明という切り口で切り込んだ覚悟は素晴らしいと思った。

    読んでいて若干裏付けが足りない部分が多くも感じたので、文明の衝突も読んでみたい。

  • 翻訳は2000年刊行。
    話題になった本だったような記憶がかすかにある。
    自分の年齢を考えたら、リアルタイムで読んでいてしかるべき本なんだけど。

    …でも、今からでも読む!
    だって、どのみち今も昔も、国際政治音痴だし。
    喪うものはないはずだ。
    と開き直って読んでみた。

    現在の状況と合致する部分のみが強く印象に残りやすいのだろう、とは思うけれど、本書の内容は現在にも通用する部分が多いと感じる。

    アメリカの覇権の弱体化。
    一極集中ではなく、世界が多極化する。
    1990年代から2000年代での見通しは、まさしくその通りになりつつあると感じられる。

    そこでどのような新しい国際秩序ができるか。
    本書では採られる方策を二つに類型化した。
    ひとつは「バランス化」(バランシング)。
    もう一つは「相乗り」(バンドワゴニング)。
    覇権国(アメリカ)と地域の中核国の関係、あるいは中核国と地域の二番手の国との関係にそうした方策が採られ、関係が出来上がる。

    さらに、その関係形成に、文明の違いや近さが影響を与えるというところが、この本の眼目。
    共通する文化を持つ二つの国や集団の間では緊張関係があっても比較的協調関係が生まれやすく、異なる文化の間では紛争が激化しやすいということらしい。
    国民国家と文化のまとまりが一致していないところで民族紛争が起きるという話もある。

    そういう眼で米中関係、現在のロシアとウクライナの関係を見ていくと、ああ、なるほど、と頷けるところはたしかにある。

    ところで、本書にはアメリカの多文化社会化に否定的な見方が示されている。
    歴史的に見て、多文化を追求する国が永続したためしがないからだということだ。
    トランプ政権が誕生したり、その後のバイデン政権も、白人の、中産階級のアメリカを再生させようとしていることを見ると、今揺り戻しが起きているようだ。
    筆者がいうように連合国家になる、という選択肢もアメリカにはあり、そういう未来を選択することもできるのではないかと思うけれど、ダメなのかな?

    さて、本書は「21世紀の日本」ももう一つのテーマとしている。
    日本は中華文明から派生してはいるけれど、孤立した文明であるため、例の文明の衝突理論から考えると、なかなか他国と緊密な協調関係を結べないらしい。
    力をつけていく中国とどう渡り合うか。
    過去と同じように、その時々の覇権国家、別の地域の中核国家の力を借りながら牽制するしかない、ということのようだ。
    割と、まあそうなんだろうな、と思っていたことだった。

    正月に読む本の選択を誤ったといえばその通りだが、何というか世界の弱肉強食の現実をつきつけられ、暗い気持ちになってしまった。

  • 文明衝突論を展開したハーバード大学のサミュエル・ハンチントンが日本にフォーカスを向けた名著。

    政治経済の利益、イデオロギーによる分裂が顕著だった20世紀と比べて、21世紀は文化によって分裂している、これからもその分裂は続くと分析している。2000年に出版された本だが、この内容は2022年のロシア・ウクライナ戦争の勃発を予言していたとも言える。

    宗教もなく、文化的にも完全に独立した日本だからこそ、先入観を持つことなく他宗教や他文明の理解・教育を進めて、国際平和を促進させることに一役買うことができるのではないかという希望を感じた。この本のように多様化する社会を深く理解しようとする価値観が広まり、平和な世界へ向かってくれることを願う。

  • 本書は『文明の衝突』の著者サミュエル・ハチントンによる論文集だ。九九年に行われた日本講演、超大国アメリカに焦点を当てた論文、ハチントン理論の基盤となる国際論(著書抜粋)が含まれている。
    冷戦時代の世界は主として「民主主義国家」「共産主義国家」「第三世界」の三勢力に分かれていた。しかし、21世紀における国家の行動基準はイデオロギーや政治体制でなく、諸国を文化的に類別する“文明”である。また、米ソという二極化したパワーバランスが崩壊した現在、グローバルな超大国は米国のみであり、他には各地域における主要な地域大国が存在するーーつまり、事実上の一極・多極世界だというのが各論文に共通したテーマである。

    ハチントンによれば、文明とは数世代にわたる人々の生活様式全般であり、文化的な特徴と現象の集合を指している。現在、世界には①日本文明②中国文明③インド文明④イスラム文明⑤西欧文明⑥東方正教会文明⑦ラテンアメリカ文明(⑧アフリカ文明)が存在しており、各地域の諸国は中核国・構成国・孤立国・分裂国・引き裂かれた国のいずれかに該当する。通常、文明を異にする国家は冷淡で敵対的な関係となり、信頼と友好はあまり見られない。異文明間では断層線の戦争(フォルト・ライン戦争)が激化していくが、平和実現のためには中核国が他文明の紛争に介入せず、構成諸国はフォルト・ライン戦争を回避するよう努めなければならない。

    最後に、世界をアメリカ化する多文化主義への警鐘が鳴らされる。10年代を通じてポリティカル・コレクトネスはグローバル社会に蔓延し、共同体の文明的差異が取り払われる傾向ーー例えば米国のユダヤ教徒やイスラム教徒に配慮して“Merry Christmas”の代わりに“Happy Holiday”を用いるといった、多文化主義的傾向がより顕著になった。しかし、著者は「世界帝国がありえない以上、世界が多文化からなることは避けられない」とし、むしろ人々は差異を認め合った上で「他の文明の住民と共通してもっている価値観や制度、生活様式を模索し、それらを拡大」することが共存への道だと説いている。
    加熱する多文化社会への反動が保守主義の台頭という形で帰結したと考えれば、西欧文明から引き裂かれることを拒んだ国民がトランプ大統領を誕生させたことにも納得がいく。近年では英国のEU脱退など、同一文明の国家は強固な関係を築き上げると論じる著者の予見に逆行する情勢も見られ、世界はより複雑化の一途を辿っているように感じられる。現在の日本は中国とのバンドワゴニングでなくバランシング戦略を採用し、一方で米国は着実に超大国の座を降りながらも断固とした対中姿勢を表明している状況だ。今の世界は一極・多極体制から、細分化した多極主義体制への過渡期だと見るべきだろう。

  • 本書は、講演録「二十一世紀における日本の選択」、フォーリンアフェアーズ誌掲載論文「孤独な超大国」、抜粋版「文明の衝突」を収録。内容的に重複がある。
    1990年代の著述であるにもかかわらず、内容が示唆に富んでいて、今でも十分に通用すると思った。

    著者は、イスラム国家では若年層の激増が好戦性を生み出しているが、イスラム教徒の年齢が高くなっていくにつれてやがて激情は沈静化する、と予測している。時間が解決してくれるといいのだけれど。

    日本は、固有の文化を共有する国を持たない孤立国とのこと。要は、他国とは利害得失で関係することは出来ても、真に信頼し合う関係は構築できないってこと。いざというときに頼れる国が無いってことは肝に命じておく必要があるな。

  • 文明を推し広めようとすると対立[conflict]が起こりやすくなる。その指摘は間違っていないと思う(どうして、こう至ってマトモな意見の出てくるアメリカが「正義の戦争」なんて始めちゃったんだろう)。だけれども類似する文化圏では必ずしも協力は進まないし、宗教すなわち文明と捉えるのはあまりに粗雑過ぎないだろうか(第一、みんながそれらしく使っている「文明」って何なんだろう)。もちろん、これが冷戦終結直後の文章であるという点で現実認識の鋭さは間違いないし、論争を喚起したという点からも一読に値する内容だとは思うけど(あぁ、ハーバードの先生の著作を前にして何を言っているんだ、自分は)。

  • 世界を文明の違いによって分けて、そのなかでの日本の役割とかポジションとかを論じた本じゃなかったでしょうか。とはいえ、東北大震災から福島原発事故が収束しないという歴史を歩むことになった今の日本に当てはまるかどうかは、やっぱり当てはまらないんじゃないかと思えてしまいます。もはやこの本で論じられる日本は歴史のifの日本であるかもしれませんね。文明で分けることの、その文明の捉え方などの精妙さや分析のブレなさなんかはよく覚えていないので、よかったとか面白いとかは言えません。

  • ハンチントンの有名な著作「文明の衝突」をもうちょっと読みやすくした新書の著作「文明の衝突と21世紀の日本」です。

    国際交流、国際協力による世界平和を目的とする財団にいるせいもありますが、冷戦前の国際情勢というか、世界のパワーバランスというか、それが大きく変わってきているというのはあちこちの文書で目にしてきました。

    本書では、それを文明という切り口で説明しています。

    新書版になって、しかも、日本の立場についても焦点を当てた章があって、読みやすくはなっているのですが、内容的にはやっぱり、やや難解です。

    言ってることは理解できるのですが、その意味合いを十分に理解できたかというと、私自身の勉強が足らないせいか、ちょっと???

    米国とソ連の2超大国によってバランスしていた冷戦時代から、米国という1超大国とその他の国々、地域、あるいは文明圏のパワーバランスのあり方が、述べられています。

    唯一の超大国となった米国ではあるが、その唯一であるというのをあまりにも全面に出しすぎるのは危険であると説きます。

    日本は、ますます力を増す中国との関係を、これまでの米国との関係との兼ね合いでどう処していくべきなのか?

    一度は読んでおくべき書籍ですね。

    ところで、先の「文明の衝突」はハードカバーでかなり分厚いので、買ったはいいけど、まだ読めてません(笑)

全128件中 1 - 10件を表示

サミュエル・ハンチントンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ヘミングウェイ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×