悪問だらけの大学入試 ―河合塾から見えること (集英社新書)

著者 :
制作 : 関西シーエス 
  • 集英社
3.13
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本棚登録 : 97
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087200713

感想・レビュー・書評

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  • 2000年刊行。予備校講師(河合塾)が、昨今の大学入試の問題点(異常なまでに重箱の隅をつつくような知識問題)、高校授業の問題点(悪い意味で大学入試突破のための予備校化)を解説。いまさらの感はあり、また、引用している問題に偏りがないか疑問もあるが、印象論としてはそのとおり。一読して損はない内容である。

  • 1967年より河合塾で勤務し、教育本部長を務めた筆者が2000年に発行した、受験業界を描いた本。レゾンデートルである入試問題の質を分析し、大学やマスコミに訴えていった背景や理念、学校や私塾のあり方を考える視点は興味深く、分析対象は90年代後半の入試問題だが、古くて新しい指摘だった。確かに、河合塾の宣伝となっている部分も多かったけれど、面白く読めたし、「予備校」の見方が変わったかも。

  • 院時代に教授からもらった。

  • 結論を集約すると、こうだ。

    教室で、結論のみを教えていないか、ということだ。

    例えば天動説を名前以上に紹介しないまま地動説を教えたり、ラマルクに触れる事なくダーウィンを教えたり、ということだ。

    上の「悪問だらけの大学入試」は、そのタイトルとは裏腹に、河合塾の教育本部長(当時)が、予備校の目から見た教育のありかたを説いた本であるが、そこに生徒の傾向として、「理解型」と「納得型」があることを紹介している。

    pp.156-157
     一つは私どもが「理解型」あるいは「肯定型」「予定調和型」とネーミングしているパターンであり、もう一つが「納得型」である。
     第一のパターンの理解型は教室で授業を受けるときや参考書を読むとき、すべてを頭から正しいものとして受け止め、肯定的に理解しようとする。たとえば先生がテスト問題を作り、問題に若干の誤りがあったとしても、「先生はきっとこういう問題を作ろうとしたのであろう」と肯定的に解釈し、素直に問題を解く。
     もう一つのパターンである納得型であるが、このタイプの人は一つ一つの事柄に対して、納得できないと気が済まない。大げさに言えば、森羅万象に照らして正しくなければ納得できない。
     問題にミスがあれば指摘する。授業中に疑問点があれば質問する。「こんな質問したら皆に変に思われないか」などの詮索はあまりしない。問題が解けないと、そこで膠着してしまってなかなか先へ進めない。所詮人間の作った問題だから予定調和的に......などという生活の知恵は働かない。
     しかしいったん納得できると喜びが体に満ち、勇気百倍して先へ進む。

    どちらが科学が身に付くかといえば、後者であろう。しかし教師、いや教育システムにかわいがられるのは前者ではないか。

    これは、何も日本だけのことじゃない。英語にもApple Polisherという表現がある(これのもっとえげつないのがAss Kisserである)。よってニセ科学が跋扈するのも日本だけの現象ではなく、さもなくば今は亡きCarl SaganがBroca's Brain(邦訳:サイエンス・アドベンチャー(なんちゅうタイトルだ!))、そしてThe Demon-Haunted World(邦訳:人はなぜエセ科学に騙されるのか)を書く事もなかっただろう。

    納得型の方が苦労が絶えないことは、どの国においても多かれ少なかれ事実とはいえ、日本において納得型の居場所がより少なかったのは否定し難いのではないか。教室に居場所がない彼らに、場所を提供していたのは「表教育」たる学校ではなく、むしろ「裏教育」たる塾や家庭教師だったのではないか?しかし裏教育にはコストが伴う。誰でも受けられるわけではない。少なくとも私の中坊時代には私用の「居場所」は図書館であり自室だった。

    今「ニセ科学」と戦っている皆さんは、こうした子どもたちに納得を提供してきたのだろうか?

    恐縮ながら、その点においては、書物においても日本は寒い。「新しい高校物理の教科書」も、「納得」という点では"Big Bang"の足下にも及ばない。Singhはきちんと天動説を、Epicycleまで見せて紹介した上で、その上で地動説と比較し、ものすごい手間ひまをかけて地動説を紹介していた。

    理解型は効率がいい代わりに、折伏も容易だ。彼らにニセ科学を「理解」させるのは簡単で、まず現在の科学で説明できない事項を取り上げて「理解した科学」をゆさぶり落とし、そこにその説明できない事項を「説明できる」ニセ理論をポンとおけばいい。私の知っているニセ科学教育法は、すべからくこれに沿っている。

    にも関わらず、「対ニセ科学戦隊」も、方法としてはニセ科学軍団と同じことをしている。ニセ科学をゆさぶり落としてそこに「科学理解」を置き直しているのである。それではいたちごっこになって当然ではないか。

    ありがたいことに、今ではネットがある。教室では得られない納得も、ネットの大海では得られる公算も大きい。もっともそこで溺れる公算はさらに大きいのだが。ネットにあふれる情報は、どちらかといえば「理解」を迫るものの方が「納得」を与えてくれるものより圧倒的に多いのも事実だが、それでも納得型が活躍している様子を知る事は教室やましてやTVよりも容易である。

    とはいえ、科学を納得するのはブラウザの画面だけでは無理である。今のところはあくまでネットは教室の補完に過ぎない。ネットでしか納得できないなんてあまりに侘しくないだろうか?

    ニセ科学と戦う先生方は、ニセ科学を直接攻撃するのではなく、納得を得られない生徒たちを納得させることこそ戦略的に重要であることを、理解ではなく納得した上で実践していただきたい。

  • のほほんと大学生をやって、塾講師をしているときに読んで良かった。

  • [ 内容 ]
    大学生の学力低下が著しいとよく言われる。
    そして、日本の将来を危うくしかねないこの大問題と関係して、最近の大学入試問題が変だと囁かれはじめている。
    さらに、この事態を受け、あろうことか予備校が大学に成り代わって、その大学入試問題の作成を請け負うとアピールするに至った。
    著者は、全国の主要大学の入試問題を徹底調査、検証しながら、悪問の増加傾向と学力低下の根底に横たわる日本の教育上の様々な問題を解き明かし、公教育から一歩引いた、自由な空間である予備校の窓から見える二一世紀の日本の教育を提言する。

    [ 目次 ]
    第1章 悪問だらけの大学入試
    第2章 大学入試問題作ります
    第3章 大学生の学力低下問題・鍵は入試問題に
    第4章 できる子は本当にできて、できない子は本当にできないのか?
    第5章 後発大学は東大に勝てるか
    第6章 予備校ララバイ
    第7章 学校という国の装置は存続できるか

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  •  カギは入試問題にあるという。全くその通りだと思う。

     受験生は大学に入学するために問題が解けなければならず、最終的にはそれが解けるようになるために勉強しているのである。だから入試問題が、何を問いたいのか不明であったり、ただの暗記問題であったり、趣味雑学の粋を出ていなかったり、学生の現状を無視したかわいそうな問題であったり、それでは学生の質を向上させることにはつながらないだろう。納得である。

  • 受験生泣かせの悪問を切っていく姿勢は面白いし、K大学の入試傾向を変えていった試みも良かったと思う。ただ、塾の宣伝目的感が拭いきれていないと思います。自画自賛に見える部分もあります。また、悪問・良問のデータも規準が曖昧で、都合の良いように解釈しているようにも見える。また1999年度と2000年度の問題では、悪問数が明らかに違うけれど、これだけ著しく違うのであれば、怠慢以外にも他に原因が考えられる気がする。

  •  大学入試に出てくる「悪問」を通して日本の教育システムの問題をさらけ出している。(正し入試に関するものだけですが)日本・中国・韓国の統一試験を翻訳して確認すると日本以外の国ははっきりとした思想/意図があるのに対して、日本にはない。韓国の学生がこれは「客観性」でなければならないという、「脱イデオロギー」というイデオロギーだと表現している。
     良書です。おすすめ。1時間程度で読めます。

  • 敵を知り、己を知りましょう。スティーリーダンみたいになっちゃだめですよ。

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