若き友人たちへ ―筑紫哲也ラスト・メッセージ (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087205152

感想・レビュー・書評

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  • 筑紫さんは朝日新聞社記者、朝日ジャーナルの編集長をを経て、長年にわたりTBS「筑紫哲也 NEWS23」のメインキャスターとして活躍なされました。2008年、他界しました。

    「日本人とは何者か」。日本人とは、自分がなんであるかを、まるで説明しない民族です。そのなかで、ほとんど唯一例外的に外に向かって自己説明したのが、新渡戸稲造の「武士道」です。
    「武士道」は1900年に英語で書かれたものです。奈良本辰也さんという著名な歴史学者の翻訳で読まれた方が多いと思うんですが、「自分とは何者か」を考えて武士道に辿り着くというプロセスが書かれた本です。
    戦時中に当然この「武士道」は特別な読まれ方をしました。それがこの「武士道」という本についてまわったある種の宿命だったと言いましょうか。
    これから死ににいくという時にどうしたらいいのかを考えるのに、この本は非常に大事だったわけです。戦争という極限の場で、自分の命を捧げるための精神的な拠り所にする本として使われ、戦後は忘れ去られていたんですが、今再び、また悪用が始まっているんじゃないか、という恐れを感じています、
    この本が書かれた動機、「武士道」というものを考えてみようとした動機、ここ数年、この本が小さなブームになっている動機、そういうものには共通したものがある。つまり、「自分は何者か」という問いに対する答え探しです。

    新渡戸は旧制一高の校長もやりました。その校長を辞める時に、サミュエル・ジャクソンの言葉を引用して辞任演説を締めくくっています。それは「愛国主義は悪党の最後の隠れ家である」というものです。これ、痛切に今も生きていると思います。
    国を愛するということは、悪いことでもなんでもないと思っています。でもそれが地球環境の問題やいろんな問題を考えた時に過剰に出てくるのは、自分にとっても世界にとってもプラスにならない。愛国主義とは、そういう両刃の剣だということをきちんと認識しておいたほうがいいと思うのです。

    本書は愛国主義、憲法改正、国家論、ジャーナリズム、教育など筑紫哲学というべき考えが書かれています。

    筑紫氏を表す言葉として「死してこれほど喜ばれる人はいない」といわれることもあります。
    これはある意味ではジャーナリストとして評価されているのではないでしょうか。
    この言葉の真意がどうあれ、日本に本物のジャーナリストが少なくなったのは間違いないでしょうね。

    今日、11月7日は筑紫さんの命日になります。
    筑紫さんは、今の日本の現状を、天国でどんな事を思いながら見ているのだろう。

  • 気になった部分を抜粋します。
     「映画というものをまともに咀嚼しようと思えば、演劇についても文学についても、ましてやその映画の背景の世界の歴史についても、もっと言えば人間とは何なのかということについても理解する能力が必要になる。」
    ――

     筑紫さんは、この「若き友人たちへ」の中で、文化や歴史について学ぼうとしない、あるいは学校で習うことしか学ぼうとしない若き友人たちに対して警鐘を鳴らしているのだろうか?
    しかし、時代は目まぐるしく変化し、「人間とは何なのか?」という根源的な問いを放置したまま構築された新しい価値観が次から次へともたらされており、文化や歴史について駆け足で学んだところで個々の哲学を構築するための手がかりになるとは思えない状況である。
    「ノーブレス・オブリージュ」「高い身分にはそれに伴う義務がある」という考え方ですが、これからの時代は、文化や世界の歴史について広く深く精通し、人間とは何なのかということについても考えを巡らせることができる人が、社会に示唆を与える義務があるのかもしれない。

  • 自分を若き友人だと思って読み始めましたが、
    どっちかというと、私は著者の側に近い気がしました。
    つまり、おっさん化が急速に進んでいると言うことです。
    この本を読んで、若い人と話す時の参考になった気がします。

    主張の内容は、いつもの感じだと思うのですが、
    著者はとても面白い人物だったのだろうなと、今更ながら思いました。
    何しろ、あまりテレビで見たことがなかったので。

    あとがきの代わりに、著者の16歳の時の作文が掲載されていますが、
    16歳らしい内容が、16歳とは思えない文章力で書かれています。

    こういう少年がああなるのか、と、
    そこが一番興味深かったかもしれません。

  •  筑紫さんの最後のメッセージが綴られています。
     話題は多方面にわたり,楽しく読み進めることができます。今までの著書と同じように,本書で気になった映画や本なども取り寄せたくなりました。
     人が学ぼうとする時一番大切なのは「好奇心」,それから「探究心」であるという指摘には,賛同します。
     本書の最後には,あとがきのかわりに筑紫さんの高校時代の作文が掲載されていて,筑紫さんの原風景を見た思いがしました。

  •  筑紫さんがまだ朝日ジャーナルの編集長だったころに、年末年始の郵便配達アルバイトをしていて、たまたま著者の家に郵便物を届けていた。そんなこともあり親近感を感じていた。なのでこの本もかなり好意的に読んだ。
     
     この本は大学の講義をまとめたものなのでとてもわかりやすい。取りあげている題材が小泉政権時のものなので、若干古いが、日中韓のナショナリズム問題の構図が簡単明瞭に書かれている。この当時は靖国問題だが、現在の尖閣諸島や竹島と構造は一緒だ。中韓のナショナリズムを非難している日本も実は同じ問題を抱えている。政権の末期が三国ともたまたまこの時期に重なった。政治家の人気取りのためにナショナリズムを高揚させてはいけない。日本人も冷静になったほうがいい。

     著者は新聞、雑誌、テレビとメディアを歩いてきた経験故に、それぞれのメディアの強みと弱みを語っている章も興味深い。週刊誌のいいかげんさにはあきれ返る。情報源の秘匿を盾にとり、虚偽を繰り返す姿勢はまさに言った者勝ち。週刊誌はメディアじゃない。

     良くも悪くも筑紫さんのように主義主張をはっきり述べるキャスターは今いない。肯定するにしろ否定するにしろ、ある程度のたたき台を提示してくれないと素人は考えるきっかけがない。ニュースは聞き流すものではなく、ちょっと待て!と素通りを許さず視聴者にの前に立ちふさがって欲しい。最近の司会者は番組を無事に終わらせることだけに終始している。漠然とした物足りなさはそこから来ているように思う。 


     
     

  • 実は高校の先輩。

  •  筑紫さんは生前、流行語 「KY」 についての批評をしています。

     「この国の歴史のなかで、これだけはあなたたち若者が引き継いで欲しくはないと私が思い続けてきたもの、それが 『KY』 に濃縮している思考なのです。」 とあります。しかし病のためこの続きは書かれることはありませんでした。

     「空気読めよ」 と突き放して、鋭く刺すような脅迫思考を他者に向ける、若者の思考に対して不安を抱いているように思いました。

     この本では、憲法や国家の事、日本の現在の問題点を挙げています。そして情報社会の中で自分はどう見たらいいのかという視点を獲得する重要性を伝えています。
    今の時代・世間に対して自分の考えや見解をもつ、その方向への思考を促してくれた本でした。

  • 「静かな哲学的ストライキ」
    社会への消極的参加・不参加という方法で、経済成長を前提とした日本の社会システムを連鎖的に破壊する。

    「合衆国憲法修正第一条(ファースト・アメンドメント)」
    言論・出版・集会の表現の自由

    「判官贔屓」
    日本人の心情の中にある弱者に対する肩入れ。「勧進帳」

    「バンドワゴン効果」
    賑やかで面白そうなところへみんながついていく、という現象。
    日本人の中で強まっている。

    「axis of evil(悪の枢軸)」
    枢軸=ファシズムへの連想
    言葉とは単に単語ではなくて、そこにこめられた意味が重い。

    「視点」
    デモ隊側から状況を撮ろうとすると、警官隊がデモ隊におそいかか構図になる。逆側にカメラを据えればデモ隊がこっちを襲ってくる。

    「メディアのコングロマリット化による問題」
    上の会社に都合の悪いことが簡単に抑えられ、記者やディレクターたちは意欲を失う。

    「情報源の秘匿」
    法的には保障されていない。
    しかし、それを隠れ蓑にしてなにかをでっち上げることも可能。

    平野啓一郎「文明の憂鬱」
    愛国心=人間の自然なところから生まれてくる心情
    国家主義=作られたもの

    「知の三角形」
    情報・知識・知恵(判断力)

    日本の財政状況はEUに入る基準をクリアできない。

    世間で言われてることに懐疑心を持つことは大切だが、そのなかに正しい答えが絶対にあるんだ、と考えることについても懐疑心をもつことが重要。

    「ええじゃないか」
    先が見えないという閉塞状況のなかで、先が見えないなら踊っちまえ、という状況。

    今までの文明の歴史のなかで、地方をめちゃくちゃにして栄えた都市なんてない。

  • 故筑紫哲也氏の穏やかな低音ボイスは、とても聞きやすくて好きだったのですが、この本はちょっと物足りないですね。
    9.11以降の世界情勢と日本の政治状況を、筑紫氏が怒り、憂う内容の本です。
    講演を記述化したものなので仕方ないのでしょうが、話があっちこっちに飛んで読みにくく、また彼以外でも言えた・言える内容だと思い少々不満。

    怒ったり憂いてるばかりじゃだめだし、ヘゲモニー争いを考えてもダメだし、革命することばっかり考えてもあかんのです。

    どういった制度設計が必要なのかっていうのを考えないと。

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著者プロフィール

1935年大分県生まれ。朝日新聞社で米軍統治下の沖縄特派員、ワシントン特派員等を務め現在TBSテレビ系キャスター編集長。

「2010年 『戦争を平和にかえる法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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