若き友人たちへ ―筑紫哲也ラスト・メッセージ (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087205152

感想・レビュー・書評

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  • 筑紫さんは肺がんを患われ、2008年に他界されました。
    BSで特集番組を見ていて、過去に読んだ本書を再読しました。

    本書は最後の時期に早稲田大学、立命館大学で行われた講義録を元に若い世代の人たちに、筑紫さんが残したラストメッセージになってます。

    本当であれば、「若い友人への手紙」として連載されるはずであった企画は、筑紫さんの病状により2回で終わっているそうです。

     あなたは何をを考えなくてはならないか
     あなたは何をやらねばならないか
     あなたは何をやってはいけないのか

    ジャーナリストの視点に立ち、世の中全体の論調が一つ方向で進んで行くときに、立ち止まって真実を自分の視点で考え直し、互いに論をなすことの重要性を繰り返し述べています。

    憲法問題、日本人と愛国心、メディアとジャーナリズム、国家の行方情報化社会の中の知、講義の焦点は多岐に及びます。2008年の講義録ですので、その後世の中はリーマンショックと世界規模の景気後退に入りました。この前後で世の中の論調は新自由主義の支持から、景気後退後の再検討、再批判と180度転換しているようにも思います。

    小泉チルドレン、小沢チルドレンではないですが、メディアが作り上げた虚像をそのまま信じてしまうリスクを、自分の頭で考え回避せよと論じられている気がします。

  • 筑紫さんは新聞→雑誌→テレビと主要なメディアを渡り歩いてきた珍しい存在で、落ち着いた口調の中にも確固たる意思を感じる人でした。
    中で書かれていることは日本の将来に対する不安。2007年に書かれた本ですが、不安は的中しています。(あの当時みんな不安に思っていたことだろうけど)日本はよくなっていません。震災を経てさらに悪化の一途をたどっています。
    提言のように政府がやるべきことの順序を理解して問題解決にあたってもらいたい。日本の病気は以下の3つ。全く納得です。
    ・経済の破綻(金借りすぎ)
    ・人口の減少
    ・教育の崩壊

    非常に心に残った一言
    「学ぶことは具体的な問題を抽象化すること」
    コンピューターにはできないことだと思います。人間の存在意義。その人が必要だと思われるためにはこのような考えが必要だと強く感じました。

  • 筑紫哲也さんのメッセージ本。

    かれの杞憂が正夢にならないよう、

    僕ら若者はもっと考え、進んでいかないといけない。

    日本という贅沢なフィールドで自殺する人がいてはいけない。

    世界の人を幸せにする義務は先進国にあると思う。

  • 朝日ジャーナルの編集長だったころからファンだった。
    文化的な分野でも造詣が深くて尊敬する人でもあった。
    亡くなられて11年、この書籍が出て10年たっているんだと思うのと灌漑ひとしおだ。

  • 筑紫さんといえば立派な大人のイメージがある。こういう大人がいるのがなんだか嬉しかった記憶がある

  • 筑紫哲也氏の文字通りの最後のメッセージ。
    細かいことは省略するが、一つ一つが心に染みる。
    影響を受けたと言うのはおこがましいが・・・
    Warm Heart and Cool Headを本当に貫いた人なのだろうと思う。

  • 筑紫さんは朝日新聞社記者、朝日ジャーナルの編集長をを経て、長年にわたりTBS「筑紫哲也 NEWS23」のメインキャスターとして活躍なされました。2008年、他界しました。

    「日本人とは何者か」。日本人とは、自分がなんであるかを、まるで説明しない民族です。そのなかで、ほとんど唯一例外的に外に向かって自己説明したのが、新渡戸稲造の「武士道」です。
    「武士道」は1900年に英語で書かれたものです。奈良本辰也さんという著名な歴史学者の翻訳で読まれた方が多いと思うんですが、「自分とは何者か」を考えて武士道に辿り着くというプロセスが書かれた本です。
    戦時中に当然この「武士道」は特別な読まれ方をしました。それがこの「武士道」という本についてまわったある種の宿命だったと言いましょうか。
    これから死ににいくという時にどうしたらいいのかを考えるのに、この本は非常に大事だったわけです。戦争という極限の場で、自分の命を捧げるための精神的な拠り所にする本として使われ、戦後は忘れ去られていたんですが、今再び、また悪用が始まっているんじゃないか、という恐れを感じています、
    この本が書かれた動機、「武士道」というものを考えてみようとした動機、ここ数年、この本が小さなブームになっている動機、そういうものには共通したものがある。つまり、「自分は何者か」という問いに対する答え探しです。

    新渡戸は旧制一高の校長もやりました。その校長を辞める時に、サミュエル・ジャクソンの言葉を引用して辞任演説を締めくくっています。それは「愛国主義は悪党の最後の隠れ家である」というものです。これ、痛切に今も生きていると思います。
    国を愛するということは、悪いことでもなんでもないと思っています。でもそれが地球環境の問題やいろんな問題を考えた時に過剰に出てくるのは、自分にとっても世界にとってもプラスにならない。愛国主義とは、そういう両刃の剣だということをきちんと認識しておいたほうがいいと思うのです。

    本書は愛国主義、憲法改正、国家論、ジャーナリズム、教育など筑紫哲学というべき考えが書かれています。

    筑紫氏を表す言葉として「死してこれほど喜ばれる人はいない」といわれることもあります。
    これはある意味ではジャーナリストとして評価されているのではないでしょうか。
    この言葉の真意がどうあれ、日本に本物のジャーナリストが少なくなったのは間違いないでしょうね。

    今日、11月7日は筑紫さんの命日になります。
    筑紫さんは、今の日本の現状を、天国でどんな事を思いながら見ているのだろう。

  •  筑紫さんがまだ朝日ジャーナルの編集長だったころに、年末年始の郵便配達アルバイトをしていて、たまたま著者の家に郵便物を届けていた。そんなこともあり親近感を感じていた。なのでこの本もかなり好意的に読んだ。
     
     この本は大学の講義をまとめたものなのでとてもわかりやすい。取りあげている題材が小泉政権時のものなので、若干古いが、日中韓のナショナリズム問題の構図が簡単明瞭に書かれている。この当時は靖国問題だが、現在の尖閣諸島や竹島と構造は一緒だ。中韓のナショナリズムを非難している日本も実は同じ問題を抱えている。政権の末期が三国ともたまたまこの時期に重なった。政治家の人気取りのためにナショナリズムを高揚させてはいけない。日本人も冷静になったほうがいい。

     著者は新聞、雑誌、テレビとメディアを歩いてきた経験故に、それぞれのメディアの強みと弱みを語っている章も興味深い。週刊誌のいいかげんさにはあきれ返る。情報源の秘匿を盾にとり、虚偽を繰り返す姿勢はまさに言った者勝ち。週刊誌はメディアじゃない。

     良くも悪くも筑紫さんのように主義主張をはっきり述べるキャスターは今いない。肯定するにしろ否定するにしろ、ある程度のたたき台を提示してくれないと素人は考えるきっかけがない。ニュースは聞き流すものではなく、ちょっと待て!と素通りを許さず視聴者にの前に立ちふさがって欲しい。最近の司会者は番組を無事に終わらせることだけに終始している。漠然とした物足りなさはそこから来ているように思う。 


     
     

  •  筑紫さんは生前、流行語 「KY」 についての批評をしています。

     「この国の歴史のなかで、これだけはあなたたち若者が引き継いで欲しくはないと私が思い続けてきたもの、それが 『KY』 に濃縮している思考なのです。」 とあります。しかし病のためこの続きは書かれることはありませんでした。

     「空気読めよ」 と突き放して、鋭く刺すような脅迫思考を他者に向ける、若者の思考に対して不安を抱いているように思いました。

     この本では、憲法や国家の事、日本の現在の問題点を挙げています。そして情報社会の中で自分はどう見たらいいのかという視点を獲得する重要性を伝えています。
    今の時代・世間に対して自分の考えや見解をもつ、その方向への思考を促してくれた本でした。

  • 「静かな哲学的ストライキ」
    社会への消極的参加・不参加という方法で、経済成長を前提とした日本の社会システムを連鎖的に破壊する。

    「合衆国憲法修正第一条(ファースト・アメンドメント)」
    言論・出版・集会の表現の自由

    「判官贔屓」
    日本人の心情の中にある弱者に対する肩入れ。「勧進帳」

    「バンドワゴン効果」
    賑やかで面白そうなところへみんながついていく、という現象。
    日本人の中で強まっている。

    「axis of evil(悪の枢軸)」
    枢軸=ファシズムへの連想
    言葉とは単に単語ではなくて、そこにこめられた意味が重い。

    「視点」
    デモ隊側から状況を撮ろうとすると、警官隊がデモ隊におそいかか構図になる。逆側にカメラを据えればデモ隊がこっちを襲ってくる。

    「メディアのコングロマリット化による問題」
    上の会社に都合の悪いことが簡単に抑えられ、記者やディレクターたちは意欲を失う。

    「情報源の秘匿」
    法的には保障されていない。
    しかし、それを隠れ蓑にしてなにかをでっち上げることも可能。

    平野啓一郎「文明の憂鬱」
    愛国心=人間の自然なところから生まれてくる心情
    国家主義=作られたもの

    「知の三角形」
    情報・知識・知恵(判断力)

    日本の財政状況はEUに入る基準をクリアできない。

    世間で言われてることに懐疑心を持つことは大切だが、そのなかに正しい答えが絶対にあるんだ、と考えることについても懐疑心をもつことが重要。

    「ええじゃないか」
    先が見えないという閉塞状況のなかで、先が見えないなら踊っちまえ、という状況。

    今までの文明の歴史のなかで、地方をめちゃくちゃにして栄えた都市なんてない。

著者プロフィール

1935年大分県生まれ。朝日新聞社で米軍統治下の沖縄特派員、ワシントン特派員等を務め現在TBSテレビ系キャスター編集長。

「2010年 『戦争を平和にかえる法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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