小説家という職業 (集英社新書)

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著者 : 森博嗣
  • 集英社 (2010年6月17日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087205480

小説家という職業 (集英社新書)の感想・レビュー・書評

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  • 森博嗣氏は平成以後にデビューしたエンタメ系の小説家としてはトップクラスの成功者だ。1996年のデビュー作【すべてはFになる】は累計78万部を販売し、その他かなりの数の著作を含めた印税の合計額は12億円を超えたということである。
    森氏のキャラクターと経歴は作家として特殊だ。例えば自ら読書好きの小説家志望だったわけではないと公言している。別に本が好きでも小説家になりたいと思っていたわけではないんですね。そんな森氏が小説を書き始めた動機が面白い。
    当時名古屋大学工学部の助教授だった森氏は鉄道模型というお金のかかる趣味を持っていた。その資金を小説を書いて稼げないだろうか?と考えて執筆を始めたのだという。
    こんな事を書いている。

    『正直にいえば、僕は最初から、金になることをしようと考えて小説を書いた。つまりバイトである。趣味の関係で自分がやりたいことの実現には資金が必要だった。なんとか夜にできるバイトがないか、と考えて小説の執筆を思いついたのだ』

    まぁ賞金狙いまたは印税狙いで何かを書こうとする、というのはどこにでもある話だし、誰でも一度くらいは考えたことはあるかと思う。だけどほとんどの場合、その目論みは夢物語で終わるのが一般的だ。
    しかしこの森氏の場合、小説を書くということが全く苦もないことだったようである。実際小説を書いて小遣い稼ぎをしようと思い立ってから3日後くらいに書き始め、一週間後には書き終わっていたということである。一日3時間くらい書いて、トータル20時間程度で書き上げたそうだ。それも習作というレベルではない。後に第二作目として発表される【冷たい密室と博士たち】という作品である。

    (この第二作目は個人的にはそれほど面白いとは感じないが端正でよく出来た推理小説であることは間違いない。これをいきなり20時間程度かけただけの処女作とすると驚異的である。)

    その結果として大学の助教授を続けながら(現在は退官)二足目のわらじとして小説を発表し続け(それもびっくりするほどのハイペースで)結果、前述しとおり12億円を超える印税収入ということである。
    まさに読んでて夢のような話だ。ただ同時にこういう人こそ天才なのであり、特別なのだろう、とも思わずはいられない。
    しかし徹底して「ビジネスとしての小説とは何か?」を考えて書き始めたという森氏の考え方に学ぶべき点は数多い。
    例えば本が売れない原因として森氏があげている考え方が面白い。それは出版社の人間が「本が好きすぎる」から「それほど本好きでない人たち」の求めているものを想像できていない、という説である。
    この視点は鋭いと思う。ビジネスに限らないかもしれないが「恋は盲目」みたいなもので対象を好き過ぎると俯瞰した視点がもてなくなるのは間違いない。
    そんな森氏だからこんなことも書いている。

    『僕はビジネスで小説を書いた。ビジネスというのは、人気者になるためにするものではない。人気者になりたかったら、無料で本を配りなさい、といつも言っている。』

    そのように考える森氏だからネット上で自分の作品を貶されたり、欠点をあげつらわれることが大好きらしい(笑)それは一種のクレーム情報であり、その顧客の本音の一部を知る方法としてはそれ以上のものはないからだ、ということである。考え方が本当にクールだ(笑)少しマゾっ気があるのかもしれないが(笑)
    その他も面白い考え方がたくさん書いてある。小説の書き方のノウハウ本としては森氏があまりにスペシャルな才能がありすぎて参考にはなりにくい。
    だけど、この本はリアルに副業で12億円稼いだ男の頭の中身を読める一冊だということも言える。おそらく嘘とか誇張がほとんどないような気がする。
    つまり「秒速一億稼いだ!」とか語る人たちの怪しい本(笑)とは対極に位置する本だ。

    余談。
    ①クールな印象の森氏だがよしもとばななさんとは家族ぐるみの付き合いがあるらしい。どういう話をするのだろうか??
    ②森氏はとにかく書くのが速い。1時間で6000字を、下書きなし、前もって用意したプロットもなく、書きながらストーリーの展開を考えていくらしい。最初から結末が決まっていると面白くないからだそうだ。
    ③映像が頭に浮かび淡々と文字に変換していくだけだという。おそらく「カメラアイ」を持っているのだろう。カメラアイとは写真のように記憶やイメージを鮮明に記憶を残せる人のこと。

  • 小説家になるには、とにかく「書く」こと。それだけで、小説家にはなれる。それが多くのニーズを勝ちとり、食っていけるだけの商品になるかはまた別の話。ただ、なろうと思えばいつでも、誰でも、1冊書いてしまえばなれるということ。

  • メフィスト賞受賞作家が好きな方にオススメな一冊。とりあえず15ページまで読むことをお勧めする。すると、次の文章にたどり着く。

    『この「まえがき」を読んだだけで、本書がかなり「異端」であることがご理解いただけたはずである。自分にとって価値がありそうだ、と予感された人が本書を読まれることを期待する。その予感が正しかったとしたら、それは小さな幸運だろう。』

    メフィスト賞受賞者には西尾維新さんや辻村深月さんらがいる。賞の受賞者にはコアなファンがつくとかつかないとか。そんな少し尖ったイメージのある賞。その賞の第一回受賞者・森博嗣氏の小説論。

    これは小説の書き方のノウハウ本というよりは「ビジネスにおける小説の強み」が書かれた本だ。例えば流通段階を除いて生産段階に着目すれば、ほとんどの工程を一人でやることになるので人件費が少なく生産効率が高いとか、一人で作る工程が多い分、個人の思考や技が色濃く反映され映画やアニメなど集団によって作られたものとは違った魅力を提供できるとかだ。
    そういう視点は面白かった。本は経済的に優れた商品なのかなんて疑問は持ったことがなかったので新鮮な気分だった。
    他に細かいテーマで面白かったのは「予定」と「会話」について考察している部分。予定や計画を立てるのが苦手なひとは多いと思う。「もっと計画的にやれよ」という文句を心の中でつぶやいたり、相手のことを思って指摘したり、怠惰な自分自身の生活に向けて猛省を促した経験をお持ちの方も多いはず。されど伝わらないのが常である。予定や計画を立てるのが苦手なひとはとことん苦手なのである。大概予定通り進まない。
    しかし、森氏は予定を立てることは「自由」であると述べている。予定を立てることは現実をを理想に近づけることであると。それこそが有意義な人生を送ることなのだと。
    「予定を立てるのが嫌だー」という人に会ったら伝えたい。これを伝えたところで私自身を含めて劇的に改善するとは思われぬが、伝えたいものである。
    続いて「会話」についての部分。これは小説における会話のシーンを書くときの注意点を言及したもの。小説のみならず日常生活でも会話をつなげていくというのは悩みのタネである。会話は言葉のキャッチボールなんてよく言われるがそう簡単に相手のミットにボールは収まらない。レッドソックスの上原浩治(2013年)のような素晴らしいコントロールをもっている人間は一握りである。落球やらノックの打ち合いは日常生活茶飯事であり、もはや壁に向かって投げているだけではないかと思われるほど独り相撲に陥ることもある。
    しかし、森氏のアドバイスを読むことで救われる部分がある。

    『実際の会話がというのは、一つの話題のときも、それぞれは別々のことを考えている。人間は常に勝手に考えるという特性を持っているのだ。』
    『会話はもっとわかりにくく、スリリングなものだ。わからないから、相手の注意を引く効果もある。』

    会話を書こうとする綺麗なキャッチボールになってしまいがちだがそんなのは現実的ではないし面白みに欠けるということなのだろう。逆に考えれば現実社会で綺麗にキャッチボールするのは難しいことなのだとも言える。

    会話も予定も言葉も、理想通りにならい。しかし理想に近づけようとすることが面白さであり有意義なものなのではないかと感じることができた。小説とは違う視点から作家の個性に触れられる貴重な瞬間をいただいた作品でした。

  • 作家が作品を書く上で必要なのは、みんなが納得できる精神哲学ではなく、自分が納得できる精神哲学なのだということを理解させられる本。
    たぶんこの本によって森氏のことを非難する人間がいるかもしれないが、そういうことを言う人に言いたいのは、森氏の哲学によって誰かが不幸になることはないということである(ただし生涯作家であり続けるのは無理。実際、森氏は早い時期から引退を表明していた)。
    いずれにしろ、森氏のような精神的主柱を手に入れるのは容易なことではない。だが逆にそれさえ手に入れることができたら、作家として大成できる可能性が上がるように思える。

  • 私は小説家志望ではないので、特に思うところはなかったのですが、出版業界の内情の一部を垣間見たという気持ちでいっぱいです。

    この人のような割り切ったというか、明確化している考え方は好きな方なのでサクサク読めました。

  • 文学青年でない、理系やノンフィクションの本もいっぱい読んでる人向けの小説家入門。
    私も「文学しか読まない本好き」ではないので、このアプローチはとても自然に受け入れられる内容でした。
    著者の「興味のある人しか読まなくていい」っていうスタンスがありますが、読み進めている人には意外と親身だったりする。理系っぽい突き放しぎみの愛情...。

  • ミステリー作家の森博嗣による、「小説家論」。
     
    僕は学生時代からファンだったから、ブログ本やエッセイも含めてほとんど読んでいて、基本的には、これまでにいろんなところで書かれていた内容をまとめたものになっている。マーケティング手法なんかは、新しいトピックだったかもしれないけれど。
     
    逆にすごいのは、これまでにいろんなところで書いたことが、今でもちゃんと通用することかも。

    特に出版業界の将来については、この人が10年前から言っている通りになっているし、これからもそうなっていくだろう、と思わせる。

  • 悩んでるよりまずやる。悲観するより戦略を練る。

  • 小説家になりたいから、と言うわけではなく、森博嗣の書いた新書だから、という理由で購入。「小説版マネジメント」とでも呼ぼうか、面白かった。

    各作品間に関連を持たせることもたくさん買わせる作戦なんだろうなー、と思った。まんまと狙い通りになってるよね。

    しかし、こういう根本的なところからしっかり考えられるあたり(言うまでもないことだが)頭の良い人だと改めて思った。

  • 筆者が小説の未来、現在の出発業界なんかをどう考えているか。貴重な見解に触れられる一冊。

    小説家=メーカー、出版社=商社と捉え、モノそのものをつくる小説家とそれらを流通させる出版社のそれぞれに必要な視点や能力を挙げている。

    就活の時は出版業界の構造をこういう風に本質的に捉えられてなかったなあと思った



    小説の存在理由は、「言葉だけで簡単に片付けられない」ことを、「言葉を尽くして」表現するという矛盾にあり、その矛盾に対する苦悩の痕跡にある。

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