小説家という職業 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087205480

感想・レビュー・書評

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  • 著者の思想が色濃く書かれた1冊。小説を書くこと以外にも活かせそうなアドバイスがいくつかあり、勉強になった。

  • 森博嗣さんの小説論。元大学教授から趣味の為にビジネスとして割り切った上で作家になったと言う異色の経歴を持つ方です。

    所謂、現代文で崇められる文芸から遠い距離にあった事が森さんの成功に繋がったんでしょうね。
    何せ、"小説家になりたかったら小説を読むな"ですから。

    第四章までが実用的だけど、本書のキモは森さんと言う作家の創作論から本人が見える第五章でしょう。抽象的だけど森さん御本人に興味がある人には一読の価値があると思います。

  • 森博嗣氏は平成以後にデビューしたエンタメ系の小説家としてはトップクラスの成功者だ。1996年のデビュー作【すべてはFになる】は累計78万部を販売し、その他かなりの数の著作を含めた印税の合計額は12億円を超えたということである。
    森氏のキャラクターと経歴は作家として特殊だ。例えば自ら読書好きの小説家志望だったわけではないと公言している。別に本が好きでも小説家になりたいと思っていたわけではないんですね。そんな森氏が小説を書き始めた動機が面白い。
    当時名古屋大学工学部の助教授だった森氏は鉄道模型というお金のかかる趣味を持っていた。その資金を小説を書いて稼げないだろうか?と考えて執筆を始めたのだという。
    こんな事を書いている。

    『正直にいえば、僕は最初から、金になることをしようと考えて小説を書いた。つまりバイトである。趣味の関係で自分がやりたいことの実現には資金が必要だった。なんとか夜にできるバイトがないか、と考えて小説の執筆を思いついたのだ』

    まぁ賞金狙いまたは印税狙いで何かを書こうとする、というのはどこにでもある話だし、誰でも一度くらいは考えたことはあるかと思う。だけどほとんどの場合、その目論みは夢物語で終わるのが一般的だ。
    しかしこの森氏の場合、小説を書くということが全く苦もないことだったようである。実際小説を書いて小遣い稼ぎをしようと思い立ってから3日後くらいに書き始め、一週間後には書き終わっていたということである。一日3時間くらい書いて、トータル20時間程度で書き上げたそうだ。それも習作というレベルではない。後に第二作目として発表される【冷たい密室と博士たち】という作品である。

    (この第二作目は個人的にはそれほど面白いとは感じないが端正でよく出来た推理小説であることは間違いない。これをいきなり20時間程度かけただけの処女作とすると驚異的である。)

    その結果として大学の助教授を続けながら(現在は退官)二足目のわらじとして小説を発表し続け(それもびっくりするほどのハイペースで)結果、前述しとおり12億円を超える印税収入ということである。
    まさに読んでて夢のような話だ。ただ同時にこういう人こそ天才なのであり、特別なのだろう、とも思わずはいられない。
    しかし徹底して「ビジネスとしての小説とは何か?」を考えて書き始めたという森氏の考え方に学ぶべき点は数多い。
    例えば本が売れない原因として森氏があげている考え方が面白い。それは出版社の人間が「本が好きすぎる」から「それほど本好きでない人たち」の求めているものを想像できていない、という説である。
    この視点は鋭いと思う。ビジネスに限らないかもしれないが「恋は盲目」みたいなもので対象を好き過ぎると俯瞰した視点がもてなくなるのは間違いない。
    そんな森氏だからこんなことも書いている。

    『僕はビジネスで小説を書いた。ビジネスというのは、人気者になるためにするものではない。人気者になりたかったら、無料で本を配りなさい、といつも言っている。』

    そのように考える森氏だからネット上で自分の作品を貶されたり、欠点をあげつらわれることが大好きらしい(笑)それは一種のクレーム情報であり、その顧客の本音の一部を知る方法としてはそれ以上のものはないからだ、ということである。考え方が本当にクールだ(笑)少しマゾっ気があるのかもしれないが(笑)
    その他も面白い考え方がたくさん書いてある。小説の書き方のノウハウ本としては森氏があまりにスペシャルな才能がありすぎて参考にはなりにくい。
    だけど、この本はリアルに副業で12億円稼いだ男の頭の中身を読める一冊だということも言える。おそらく嘘とか誇張がほとんどないような気がする。
    つまり「秒速一億稼いだ!」とか語る人たちの怪しい本(笑)とは対極に位置する本だ。

    余談。
    ①クールな印象の森氏だがよしもとばななさんとは家族ぐるみの付き合いがあるらしい。どういう話をするのだろうか??
    ②森氏はとにかく書くのが速い。1時間で6000字を、下書きなし、前もって用意したプロットもなく、書きながらストーリーの展開を考えていくらしい。最初から結末が決まっていると面白くないからだそうだ。
    ③映像が頭に浮かび淡々と文字に変換していくだけだという。おそらく「カメラアイ」を持っているのだろう。カメラアイとは写真のように記憶やイメージを鮮明に記憶を残せる人のこと。

  • ただひたすら書け。3年後10年後を見据えてかけ。マイナ作品を量産しろ。

  • 文芸出版界をとことん客観視していて面白い。
    この資本主義社会の過渡期において、最後に生き残るのは、というか間に入るエージェントの動向を気にせずに済むのは、小説にかぎらず「生産者」であると痛感していた矢先だったので、なんだか同士を得た気がした。

  • 小説家になるには、とにかく「書く」こと。それだけで、小説家にはなれる。それが多くのニーズを勝ちとり、食っていけるだけの商品になるかはまた別の話。ただ、なろうと思えばいつでも、誰でも、1冊書いてしまえばなれるということ。

  • ・小説家になりたいなら、今すぐに小説を書け。
    ・うまい文章を書けないなら、書けるようになるまで書け。
    ・創作で学んだ経験は経験ではない。(映画や小説は作られたものであってリアルではない)
    ・問題の根本を解決せずに、ただ謝れば良いというような態度が出版社、しいては文系人間に蔓延しており、問題。
    この辺が特に気になった。

    ただ作者自身も言っている通り、あくまでもこれは作者のスタイルであり、他の人間が同じようにしたとて、成功するとは限らない(というより、多分成功しないだろう)。結局、自分のスタイルを見つけることが何より大切で、それは本を読んでも得られない。つまるところ、まずはやってみろ。

  • 小説家が小説家について書く、多くの人はこのことを聞くとあぁこの人なりの小説家としてのやりがいや楽しさについて書かれているのだろうなと思うかもしれない。私もそんな読者の一人であった。しかしながら、この本はビジネス書といっても過言でないくらいに小説家という職業についての売れ方や戦略性などいかに本を売るのかということについての著者の考えが所狭しと書かれている。本の中で、著者は何度も小説を書くのは趣味ではない仕事である。と断言しているのだ。果てはある種小説を商品とすることを嫌う出版業界に関する苦言さえ書かれており、小説を書くのが元々好きでなかった著者だからこそ書くことのできる、非常に切り口の鋭い一冊だった。小説は売り物であり、読み手を意識するというのは当たり前ではあるがここまでビジネスとして小説家という職業について考えたことのなかった私には目からうろこであり、非常に面白い一冊となった。また、ある種非人間的ともいえる著者の冷徹な考えが心地よく、物事を合理的に考えることの価値を教えてくれる一冊だと感じる。小説を書いてみたい人でなくとも創作物を作りたいと考えている人全員にお勧めすることのできる一冊だ。

  •  小説の書き方ではなく、小説家という職業について、著者の体験や考え方を中心に書かれた一冊です。悲観的な意見もたびたび見受けられますが、なるほどなと思える話も多く、個人的には実りの多い内容でした。
     冷めた性格というより、はっきりと割り切った考え方をするんだなという印象です。だからこそ小説の執筆をビジネスだと意識し、プロとしての仕事を貫いているのでしょう。
     読み進めていくうちに突き放されているような応援してくれているような、不思議な感覚になりました。何度か繰り返し読んでいますが、回を重ねるごとに自身の体験や知識と呼応する箇所が多くなり、より理解が深まるように思えています。

  • 面白かった。とにかく、書く。メモしなければ忘れてしまうものは大したネタじゃない。
    森博嗣氏の小説を読まずに新書ばかり読んでいるけれど、そろそろ小説も読んでみたいなあ。

  • 20161107


    人気作家、森博嗣がこれまでどのようにして小説を書き続けてきたのか、そして出版社の本当の姿と、これから進むべき道について、包み隠さず、ストレートに表現された一冊。

    後作の、作家の収支がとても面白く、その前に書かれた本作をどうしても読めたくなり購入。

    漠然と小説家に憧れを持っていたが、本当の小説をの覚悟とか迫力のような物を強く感じさせられた。

    小説家になりたければ、とにかく書くことに尽きる。
    そして数を書く事の大事さを実感させられた。
    書いてみたい。けど、書く事で自分に才能が無い事を突きつけられる事が恐ろしい。

  • メフィスト賞受賞作家が好きな方にオススメな一冊。とりあえず15ページまで読むことをお勧めする。すると、次の文章にたどり着く。

    『この「まえがき」を読んだだけで、本書がかなり「異端」であることがご理解いただけたはずである。自分にとって価値がありそうだ、と予感された人が本書を読まれることを期待する。その予感が正しかったとしたら、それは小さな幸運だろう。』

    メフィスト賞受賞者には西尾維新さんや辻村深月さんらがいる。賞の受賞者にはコアなファンがつくとかつかないとか。そんな少し尖ったイメージのある賞。その賞の第一回受賞者・森博嗣氏の小説論。

    これは小説の書き方のノウハウ本というよりは「ビジネスにおける小説の強み」が書かれた本だ。例えば流通段階を除いて生産段階に着目すれば、ほとんどの工程を一人でやることになるので人件費が少なく生産効率が高いとか、一人で作る工程が多い分、個人の思考や技が色濃く反映され映画やアニメなど集団によって作られたものとは違った魅力を提供できるとかだ。
    そういう視点は面白かった。本は経済的に優れた商品なのかなんて疑問は持ったことがなかったので新鮮な気分だった。
    他に細かいテーマで面白かったのは「予定」と「会話」について考察している部分。予定や計画を立てるのが苦手なひとは多いと思う。「もっと計画的にやれよ」という文句を心の中でつぶやいたり、相手のことを思って指摘したり、怠惰な自分自身の生活に向けて猛省を促した経験をお持ちの方も多いはず。されど伝わらないのが常である。予定や計画を立てるのが苦手なひとはとことん苦手なのである。大概予定通り進まない。
    しかし、森氏は予定を立てることは「自由」であると述べている。予定を立てることは現実をを理想に近づけることであると。それこそが有意義な人生を送ることなのだと。
    「予定を立てるのが嫌だー」という人に会ったら伝えたい。これを伝えたところで私自身を含めて劇的に改善するとは思われぬが、伝えたいものである。
    続いて「会話」についての部分。これは小説における会話のシーンを書くときの注意点を言及したもの。小説のみならず日常生活でも会話をつなげていくというのは悩みのタネである。会話は言葉のキャッチボールなんてよく言われるがそう簡単に相手のミットにボールは収まらない。レッドソックスの上原浩治(2013年)のような素晴らしいコントロールをもっている人間は一握りである。落球やらノックの打ち合いは日常生活茶飯事であり、もはや壁に向かって投げているだけではないかと思われるほど独り相撲に陥ることもある。
    しかし、森氏のアドバイスを読むことで救われる部分がある。

    『実際の会話がというのは、一つの話題のときも、それぞれは別々のことを考えている。人間は常に勝手に考えるという特性を持っているのだ。』
    『会話はもっとわかりにくく、スリリングなものだ。わからないから、相手の注意を引く効果もある。』

    会話を書こうとする綺麗なキャッチボールになってしまいがちだがそんなのは現実的ではないし面白みに欠けるということなのだろう。逆に考えれば現実社会で綺麗にキャッチボールするのは難しいことなのだとも言える。

    会話も予定も言葉も、理想通りにならい。しかし理想に近づけようとすることが面白さであり有意義なものなのではないかと感じることができた。小説とは違う視点から作家の個性に触れられる貴重な瞬間をいただいた作品でした。

  • <印象的な箇所のクリッピング>
    ・小説家もビジネス。小説書くのが好きなだけなら無料で作品配布すればいい。
    ・商売の基本は、新しいニーズを発掘してそこに商品を投入することの繰り返し。
    ・とにかく書き続ける。1個ヒット作出すより10個小さく当てる方が現実的。
    ・ユーザーのネットの感想を分析する。ネガティブ意見は貴重。何故そういう書き込みをするのか、ユーザーの心理を分析すると小説の次回作に役立てることができる。
    ・出版社のお客さんは読者ではなく書店さん。
    ・作家を将来にわたってプロモートするような出版社はない。作家は自分の作品をセルフマネジメントする必要がある。
    ・出版業界はビジネスの常識から見ておかしい。契約内容が曖昧、お金がいくらか曖昧、締切が曖昧。
    ・自分が自由になるために「他人が自分を好きになる」ことを犠牲にする。
    ・アウトプットするほど上達する。
    ・たくさん読むより、1冊の本を何度も読んで思考して自分のものにする方がいい。

    <レビュー>
    大沢さんの小説講座本と言ってることがほとんど違うので、面白い。両方一緒に読むと役立つ。

  • 作家が作品を書く上で必要なのは、みんなが納得できる精神哲学ではなく、自分が納得できる精神哲学なのだということを理解させられる本。
    たぶんこの本によって森氏のことを非難する人間がいるかもしれないが、そういうことを言う人に言いたいのは、森氏の哲学によって誰かが不幸になることはないということである(ただし生涯作家であり続けるのは無理。実際、森氏は早い時期から引退を表明していた)。
    いずれにしろ、森氏のような精神的主柱を手に入れるのは容易なことではない。だが逆にそれさえ手に入れることができたら、作家として大成できる可能性が上がるように思える。

  • この本は小説家を目指す人に向けたエールの本だと期待すると大半の人はその期待を裏切られると思う。私は、小説家に憧れる者ではあるが、実際に小説で金を稼ごう、食っていこうとは今のところ真剣には思っていない。ただ、小説が書いてみたい、と思っていて尻込みしてるだけの単なる一般人だ。よくいる読書家が冷水を飲もうとして躊躇しているだけの小市民だ。

    そんな私がこの本を読んだ理由。それは森博嗣その人に興味があるからだ。この人は理科系の研究者というモノ書きからは最も遠い場所にいてどうしてあんなに面白い小説が書けるのか?非常に興味深い。

    森博嗣の小説家としての在り方は、破天荒だ。
    長嶋茂雄風。
    来た球をカーンと打つ
    ぶっちゃけたことを言えば、この本にはその程度のことしか書かれていなかったと私には思えたのだが言い過ぎだろうか

    森博嗣自体は
    小説はビジネスとして書いている。お金を稼ぐため人に自分の作品をサービスとして書いているんだから苦労がある。楽しくない。
    そう書いているが、この本の読者は本当にその言葉を文字通りに捉えたのだろうか?
    私はそんな風には到底思えなかった。
    森博嗣の小説家ザマ?はとても楽しそうなのだ。
    こんな風な小説家にならなってみたい、と思えるものだった。

    この本は小説家を目指すというよりも、正直森博嗣を目指す本なのだと思う。
    そして私は小説家にはなりたくないが、森博嗣にはなってみたいと思った。
    また、森博嗣のようになれれば小説家になってもいいと思う。
    それが無理なら趣味の域で楽しむのがベスト。
    まぁ大抵の人にとっては趣味の域で終わるのであろう。
    そんな特別な能力を持った人は数多くいない。
    それでも地球は回ってる。それでいいじゃないか

  • 私は小説家志望ではないので、特に思うところはなかったのですが、出版業界の内情の一部を垣間見たという気持ちでいっぱいです。

    この人のような割り切ったというか、明確化している考え方は好きな方なのでサクサク読めました。

  • 文学青年でない、理系やノンフィクションの本もいっぱい読んでる人向けの小説家入門。
    私も「文学しか読まない本好き」ではないので、このアプローチはとても自然に受け入れられる内容でした。
    著者の「興味のある人しか読まなくていい」っていうスタンスがありますが、読み進めている人には意外と親身だったりする。理系っぽい突き放しぎみの愛情...。

  • ミステリー作家の森博嗣による、「小説家論」。
     
    僕は学生時代からファンだったから、ブログ本やエッセイも含めてほとんど読んでいて、基本的には、これまでにいろんなところで書かれていた内容をまとめたものになっている。マーケティング手法なんかは、新しいトピックだったかもしれないけれど。
     
    逆にすごいのは、これまでにいろんなところで書いたことが、今でもちゃんと通用することかも。

    特に出版業界の将来については、この人が10年前から言っている通りになっているし、これからもそうなっていくだろう、と思わせる。

  • 悩んでるよりまずやる。悲観するより戦略を練る。

  • 小説家になりたいから、と言うわけではなく、森博嗣の書いた新書だから、という理由で購入。「小説版マネジメント」とでも呼ぼうか、面白かった。

    各作品間に関連を持たせることもたくさん買わせる作戦なんだろうなー、と思った。まんまと狙い通りになってるよね。

    しかし、こういう根本的なところからしっかり考えられるあたり(言うまでもないことだが)頭の良い人だと改めて思った。

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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