小説家という職業 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087205480

感想・レビュー・書評

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  • 小説家が小説家について書く、多くの人はこのことを聞くとあぁこの人なりの小説家としてのやりがいや楽しさについて書かれているのだろうなと思うかもしれない。私もそんな読者の一人であった。しかしながら、この本はビジネス書といっても過言でないくらいに小説家という職業についての売れ方や戦略性などいかに本を売るのかということについての著者の考えが所狭しと書かれている。本の中で、著者は何度も小説を書くのは趣味ではない仕事である。と断言しているのだ。果てはある種小説を商品とすることを嫌う出版業界に関する苦言さえ書かれており、小説を書くのが元々好きでなかった著者だからこそ書くことのできる、非常に切り口の鋭い一冊だった。小説は売り物であり、読み手を意識するというのは当たり前ではあるがここまでビジネスとして小説家という職業について考えたことのなかった私には目からうろこであり、非常に面白い一冊となった。また、ある種非人間的ともいえる著者の冷徹な考えが心地よく、物事を合理的に考えることの価値を教えてくれる一冊だと感じる。小説を書いてみたい人でなくとも創作物を作りたいと考えている人全員にお勧めすることのできる一冊だ。

  • メフィスト賞受賞作家が好きな方にオススメな一冊。とりあえず15ページまで読むことをお勧めする。すると、次の文章にたどり着く。

    『この「まえがき」を読んだだけで、本書がかなり「異端」であることがご理解いただけたはずである。自分にとって価値がありそうだ、と予感された人が本書を読まれることを期待する。その予感が正しかったとしたら、それは小さな幸運だろう。』

    メフィスト賞受賞者には西尾維新さんや辻村深月さんらがいる。賞の受賞者にはコアなファンがつくとかつかないとか。そんな少し尖ったイメージのある賞。その賞の第一回受賞者・森博嗣氏の小説論。

    これは小説の書き方のノウハウ本というよりは「ビジネスにおける小説の強み」が書かれた本だ。例えば流通段階を除いて生産段階に着目すれば、ほとんどの工程を一人でやることになるので人件費が少なく生産効率が高いとか、一人で作る工程が多い分、個人の思考や技が色濃く反映され映画やアニメなど集団によって作られたものとは違った魅力を提供できるとかだ。
    そういう視点は面白かった。本は経済的に優れた商品なのかなんて疑問は持ったことがなかったので新鮮な気分だった。
    他に細かいテーマで面白かったのは「予定」と「会話」について考察している部分。予定や計画を立てるのが苦手なひとは多いと思う。「もっと計画的にやれよ」という文句を心の中でつぶやいたり、相手のことを思って指摘したり、怠惰な自分自身の生活に向けて猛省を促した経験をお持ちの方も多いはず。されど伝わらないのが常である。予定や計画を立てるのが苦手なひとはとことん苦手なのである。大概予定通り進まない。
    しかし、森氏は予定を立てることは「自由」であると述べている。予定を立てることは現実をを理想に近づけることであると。それこそが有意義な人生を送ることなのだと。
    「予定を立てるのが嫌だー」という人に会ったら伝えたい。これを伝えたところで私自身を含めて劇的に改善するとは思われぬが、伝えたいものである。
    続いて「会話」についての部分。これは小説における会話のシーンを書くときの注意点を言及したもの。小説のみならず日常生活でも会話をつなげていくというのは悩みのタネである。会話は言葉のキャッチボールなんてよく言われるがそう簡単に相手のミットにボールは収まらない。レッドソックスの上原浩治(2013年)のような素晴らしいコントロールをもっている人間は一握りである。落球やらノックの打ち合いは日常生活茶飯事であり、もはや壁に向かって投げているだけではないかと思われるほど独り相撲に陥ることもある。
    しかし、森氏のアドバイスを読むことで救われる部分がある。

    『実際の会話がというのは、一つの話題のときも、それぞれは別々のことを考えている。人間は常に勝手に考えるという特性を持っているのだ。』
    『会話はもっとわかりにくく、スリリングなものだ。わからないから、相手の注意を引く効果もある。』

    会話を書こうとする綺麗なキャッチボールになってしまいがちだがそんなのは現実的ではないし面白みに欠けるということなのだろう。逆に考えれば現実社会で綺麗にキャッチボールするのは難しいことなのだとも言える。

    会話も予定も言葉も、理想通りにならい。しかし理想に近づけようとすることが面白さであり有意義なものなのではないかと感じることができた。小説とは違う視点から作家の個性に触れられる貴重な瞬間をいただいた作品でした。

  • <印象的な箇所のクリッピング>
    ・小説家もビジネス。小説書くのが好きなだけなら無料で作品配布すればいい。
    ・商売の基本は、新しいニーズを発掘してそこに商品を投入することの繰り返し。
    ・とにかく書き続ける。1個ヒット作出すより10個小さく当てる方が現実的。
    ・ユーザーのネットの感想を分析する。ネガティブ意見は貴重。何故そういう書き込みをするのか、ユーザーの心理を分析すると小説の次回作に役立てることができる。
    ・出版社のお客さんは読者ではなく書店さん。
    ・作家を将来にわたってプロモートするような出版社はない。作家は自分の作品をセルフマネジメントする必要がある。
    ・出版業界はビジネスの常識から見ておかしい。契約内容が曖昧、お金がいくらか曖昧、締切が曖昧。
    ・自分が自由になるために「他人が自分を好きになる」ことを犠牲にする。
    ・アウトプットするほど上達する。
    ・たくさん読むより、1冊の本を何度も読んで思考して自分のものにする方がいい。

    <レビュー>
    大沢さんの小説講座本と言ってることがほとんど違うので、面白い。両方一緒に読むと役立つ。

  • 私は小説家志望ではないので、特に思うところはなかったのですが、出版業界の内情の一部を垣間見たという気持ちでいっぱいです。

    この人のような割り切ったというか、明確化している考え方は好きな方なのでサクサク読めました。

  • 悩んでるよりまずやる。悲観するより戦略を練る。

  • 小説家になりたいから、と言うわけではなく、森博嗣の書いた新書だから、という理由で購入。「小説版マネジメント」とでも呼ぼうか、面白かった。

    各作品間に関連を持たせることもたくさん買わせる作戦なんだろうなー、と思った。まんまと狙い通りになってるよね。

    しかし、こういう根本的なところからしっかり考えられるあたり(言うまでもないことだが)頭の良い人だと改めて思った。

  • 筆者が小説の未来、現在の出発業界なんかをどう考えているか。貴重な見解に触れられる一冊。

    小説家=メーカー、出版社=商社と捉え、モノそのものをつくる小説家とそれらを流通させる出版社のそれぞれに必要な視点や能力を挙げている。

    就活の時は出版業界の構造をこういう風に本質的に捉えられてなかったなあと思った



    小説の存在理由は、「言葉だけで簡単に片付けられない」ことを、「言葉を尽くして」表現するという矛盾にあり、その矛盾に対する苦悩の痕跡にある。

  • 2011/7/11読了。

    大学教授であった著者が、副業として始めた小説の執筆について語った一冊。夢や憧れの対象としての小説家ではなく、他の職業と変わらないビジネスの一つとして捉えている著者だからこそ、その内容は新鮮な刺激に溢れていた。
    著者が述べているように、小説の書き方のノウハウ本では全くなく、仕事について語るプロフェッショナル論の一種と考えていいだろう。

  • 小説家になる為の…というより、小説家という職業のビジネス書みたいなものです。

    森さんの物の考え方が好きなので、森さんを知るとか何かを学ぶというより、単純に森さんの考えに触れ、満たされました。

    やっぱり森さんの考え方好きだな〜。

  • 批判コメントを楽しむという。本当なんだろうか。

著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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