東海村・村長の「脱原発」論 (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087207026

作品紹介・あらすじ

あの3月11日、東海村にも津波は押し寄せ、東海第二原発も大半の電源を喪失。フクシマ寸前の危機を迎えていた! 脱原発派に転じた東海村・村長の苦闘を気鋭のジャーナリストが訊く!

感想・レビュー・書評

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  • 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、想定外という言い訳が
    使われる大津波によって福島第一原子力発電所が全交流電源喪失
    で深刻な状態に陥った。

    同じ時、茨城県東海村の東海第二原子力発電所でもあわやという
    事態になっていった。これは本書を読むまで知らなかった。

    福島第一原発の事故だけでも政府の対応は後手後手に回った。
    時を同じくして東海第二で同様の事故が起きていたらと思うと
    ぞっとする。

    原子力の平和利用とのお題目の下、政治主導で始まった日本の
    原子力発電所計画。日本初の原子力の火は、ここ東海村で灯さ
    れた。

    その東海村の村長を務めた村上達也氏(2013年9月、任期満了に
    伴い引退)が、脱原発論を語っているのが本書である。

    元々は原発容認派であった村上氏だったが、1999年に発生した
    JCO臨界事故を契機に脱原発へと舵を切った。

    原発は安全である。事故など起こるはずがない。だから、事故を
    想定した対策などいらない。しかし、起こらないはずの臨界事故
    は起きた。事故当時、国や県の判断を待たず、自身の首をかけ
    て村民の避難を決断した村上氏の脱原発論は読み手にも理解
    しやすい。

    そもそも日本の原発建設は核のゴミの最終処分方法さえ決めずに
    始まった。しかも4枚のプレートが重なり合い、地震大国である国
    に次々と54基もの原発が誕生したこと自体が異常だ。

    原発は財政的にも苦しい過疎地の自治体に金にものを言わせて
    建設された。原発は巨額の金を運んでくる。だから立地自治体は
    原発依存になり、次々と新たな原発建設を受け入れる。

    このあたりの話は辛辣でもある。原発を受け入れたとしても、他の
    産業を育てないと原発で深刻な事故が起こった際に、自治体は
    立ちいかなくなる。

    非常にまっとうな脱原発論である。脱原発を掲げる人は多くいるが、
    村上氏ほど具体的に語った人はいなかったように思う。

    先日、小泉純一郎元首相が講演で脱原発を語った記事を読んだ
    が、本書とシンクロする部分が多くあり、小泉氏は本書を読んで
    いるのではないかと感じた。

    尚、福島第一原発事故について村上氏は3つの事故調がすべて
    終わってしまっており、建屋の解体も始まっていることについて
    危惧している。これでは本当の事故原因の究明は出来ないと。

    ああ、そうなんだよな。これ、盲点だったよな。

  • [ 内容 ]
    あの三月一一日、茨城県東海村にも津波は押し寄せ、東海第二の原発も大半の電源を喪失。
    フクシマ寸前の危機を迎えていた!
    村長が事故の全容を知らされたのは半年後。
    危機は隠蔽されていたのだ。
    原発容認派だった村長は積極的な反対派に転じ、政府に対して東海第二原発の廃炉を要求し始めた。
    しかし、日本で最も古くから原子力産業の恩恵を受けている東海村は、村の予算そして雇用の三分の一を原子力産業から得ている…。
    原発立地自治体の首長の苦悩を気鋭のジャーナリストが聞き出し、地方VS中央のあり方について考えた。

    [ 目次 ]
    第1章 「フクシマ」寸前だった東海村の三・一一(原発立地自治体初の「脱原発派」首長;危機的状況だった東海第二 ほか)
    第2章 活かされなかったJCO事故の教訓(死者の出たJCO臨界事故;村役場の初動と国の鈍感さ ほか)
    第3章 日本の原発発祥の地として、すべきこと(村民は原発ができるとは知らなかった;イギリス人技術者たちに憧れて ほか)
    第4章 原発再稼働に向かう荒波の中で(避難計画すら立てられない中での原発再稼働;原電をどうするか ほか)
    第5章 脱成長の社会に向けて(脱原発後の東海村の未来;縮小社会と脱原発 ほか)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 戦慄した。東日本大震災において、福島第一原発だけではなく東海村第二原発も電源喪失直前の危機であった。しかもそのことを行政の長である東海村村長に知らされたのは半月もたった後のことであった。その間ベントが行われ、放射性物質が大気中に放出されていたのにもかかわらず、住民の避難も出来ないまま放置されていた。JOCでの悲惨な事故の教訓も活かされなかった。電力会社と政府の恐ろしいまでの無責任さ。新潟県の泉田知事と並んで脱原発に向かって舵を切った勇気ある首長に心から敬意を表すると共に、他の立地地域の首長の猛省を促したい。

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著者プロフィール

テュレーン大学・准教授。専門はメソアメリカ考古学、物質文化論、考古科学。主な論文に「酒と水と嵐の神の壺―形成期終末期トラランカレカにおける都市の発展と社会統合」(共著、『古代アメリカ』第22号、2019年)、“Towards a Multiscalar Comparative Approach to Power Relations: Political Dimensions of Urban Construction at Teotihuacan and Copan”Architectural Energetics in Archaeology: Analytical Expansions and Global Explorations(単著、Routledge、2019年)、Teotihuacan and Early Classic Mesoamerica: Multi-Scalar Perspectives on Power, Identity, and Interregional Relations(共編著、University Press of Colorado、近刊)など。

「2021年 『メソアメリカ文明ゼミナール』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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