非線形科学 同期する世界 (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087207378

作品紹介・あらすじ

メトロノームがリズムを合わせて振れる、何万匹ものホタルが同時に明滅する…など、世界にあふれる「同期現象」の数々。実は人間の生命維持に関与するなど、知られざる重要な物理法則を解読する。

感想・レビュー・書評

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  • 立秋が過ぎ、夜は少しだけ気温が下がる日もあるのか、昨晩リ,リ,リ,と虫の音が聞こえていました。

    不思議に思うときがあるのですが、小道を歩いて何匹もの虫の音を聞くとき、ずーっと同じリズムで聞こえてきませんか?まるで全員がそろって合唱しているような。実は鳴いているのはオスで、メスを効率よく誘うために、互いの鳴き声を”聞いて”リズムをそろえているのだそうです。

    これは生物の世界のお話しですが、様々な現象(物理であれ、化学であれ、人の行動であれ)の中に、個としてはばらつきを持つ振動が、集団のなかにあるとひとつの振動に収れんする現象が”同期”であり、本書の中心となるテーマです。

    様々な現象から抽象化された変数間の関係を扱うのは、数理科学の世界ですが、一見異なる世界の中に基本的な法則を見いだせるのは、エンジニアとして大変興味深い内容です。

    ・橋を渡る人の同期による、橋の揺れの増大
    ・マングローブの森に、大集団で明滅するホタルの群れ
    ・二つならんだローソクの炎のゆらぎの連動
    ・真正粘菌の集団での移動
    ・個別に脈動する心筋細胞集団の連動

    様々な事象が”振動個体間の相互作用と同期”という概念で説明されています。

  •  蔵本由紀氏の著作は2冊目です。
     本書では、マングローブの木に群れるホタルの明滅等の生物界における「同期現象」だけではなく、振り子時計の同期やローソクの炎の同期、電力の送電ネットワークの同期等、さまざまなジャンルにおいて見られる類似現象をとりあげ、その発生原因等を平易に解説しています。
     本書における「同期」や著者の前著における「カオス」のような概念は、異分野を横断的に統合する力を持つもので、その研究の進展はとても楽しみですね。

  • メトロノームの振り子、ホタルの明滅、橋を歩く群衆の足取り…。バラバラにリズムを刻むミクロレベルの個体が多数集まると、それが何であろうと自然はマクロレベルの大きなリズムに纏め上げてしまう。これらの同期現象がもつ「全体が個別の総和としては理解されない」非線形の不思議さを、生物学、人体生理学やロボット工学等における事例を挙げながら分野横断的に記述してゆく。

    著者によれば、このような同期現象が生じるには、自らの活動が他の個体(部分)の活動を沈静化(or賦活化)し、その結果他の個体の活動が自らの活動を賦活化(or沈静化)するというフィードバックシステムが必要。しかもこのシステムが瞬時に働くのではなく、ある程度のタイムラグを要するとのこと。

    これってなんだか投資行動にもアプライできそうだ。すなわち各投資家が資本投下する際、以前行った投資や他の投資家の収益率からフィードバックを受けながら投資先や投資量の選択を行うのだが、このフィードバックにタイムラグが生じるがゆえに過度のブルとベアが生じる。そしてこの両極を行き来する形で投資行動にリズムが生まれ、この各投資家のリズムがマクロレベルで同期して相場の「波」を形成する…。違うかな?

  • 隣り合う振り子が同期する現象からはじまり、メトロノーム、ロウソク、コオロギ、カエル、ホタル、橋、電力ネットワーク、心拍など、様々なところに見られる同期現象について。その道の第一人者が数式をほとんど使わずに語る。中央集権的なコントロールではなく、それぞれのユニットの意志で動いて、全体を統率するという非線形科学の考え方は、組織のコントロールにも通じるのだと思う。

  • あらゆる場面で表れる同期振動の数理について,数式を使わずに紹介。著者は「蔵本モデル」で知られるこの分野の第一人者。
    個々の振動子の動きが互いに引き込まれ,あるいは反発して揃っていく現象が,物理に限らず化学,生命,社会にまで見出だされることは興味深い。
    固有振動数の異なる多数のメトロノームの揺れが揃っていく様を映した人気動画があるけど,あれにおおっ!と思った人は一度読んでみる価値あり。

  • 「同期」をキーワードとして,いろいろな自然科学分野の非線形現象を紹介した本.著者自身が提案した蔵本モデルの有効性がわかる.例は多く紹介されているが,もう少し原理的な話題も知りたかったところである.

  • 2022/3/16
    以前に読んだ本の印象より平易に、様々な分野の同期現象を判りやすいモデルを用いながら全体像を説明してくれている。
    そして同じような現象が世界のあちこちで、生物非生物を問わず如何に数多くみられるのかが蔵本自身の驚きと感動とともに穏やかな口調で伝わってくる。
    分野を問わず横断的な視点で世界を見直すことの大切さ、それによって拓けてくる世界の別の(見落としていた)姿…蔵本が教えてくれることはいつも有難い。
    CPG(中枢パターン成形器)という言葉は知らなかったが、この自律分散的な制御システムの重要性を再認識した。
    『植物は<知性>をもっている』で植物が分散処理システムを用いていることが書かれていたが、単細胞である真性粘菌でも分散処理を用いていることから生物の基本は分散処理システムであって、脳のような集中制御はシステム全体の制御をより適切に行うために後からできたもの…そう考えれば集中制御から分散処理へという発想は逆で、本来は分散処理が基本でそれに付加する形での集中制御だったのかなとも思う。
    イグノーベル賞で粘菌が築き上げた首都圏ネットワークも改めて思い出させてくれた。
    世界はまだまだ人間の知らない事ばかり…だから面白い。

  • ふむ

  • 自然は非常に不思議

  • 私には、自分がどこかで自分のことを噂されるとくしゃみが出るという特殊能力がありますが、誰も信じてくれません。この事実がわかったのは、何度かのくしゃみの後、噂をしていた本人から電話がかかってきて「あなたのことを話していた」という不思議な体験を何度もしたからです。
    バラバラに振れていた2つの振り子時計がやがてピタリと歩調を揃えたり、時差がある別々のメトロノームが同じリズムを打ち始める・・これは空間を超えた共鳴という現象ですが、私の特殊技能もこの理屈で説明できるのかもしれません、なんちゃって。
    本書で扱われるのは同期現象ですが、筆者は非線形科学である複雑系やカオスにも積極的な評価を与えています。科学的精神とはある事象を普遍的な定義にまで昇華する作業だとすれば、わからないものはわからないまま受け入れる(あえて、分解し総合しない)潔さから新しい何かが生まれてくる可能性にも理解を示しています。
    本書では、同期現象として、パイプオルガン、ロウソクの炎、コオロギのコーラス、カエルの鳴き声、体内時計、つり橋、拍手、ホタルの点滅、電力ネットワーク、集団リズム、ミミズやアメーバの運動メカニズムなど様々な事象が取り扱われていますが、内容はかなり高度です。
    筆者は(蔵本)由紀と書いて「よしき」と読む男性の研究者ですので、お間違いないよう。

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著者プロフィール

京都大学名誉教授

「2023年 『リズム現象の世界 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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