近代天皇論 ――「神聖」か、「象徴」か (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087208658

作品紹介・あらすじ

退位問題をきっかけに天皇とは何かについて新たな論争の火蓋が切られた。この問題を幕末にまで遡り、この国の伝統と西欧文明との間で揺れ続けた日本の近代の中の天皇の姿と向き合う画期的な対論!

感想・レビュー・書評

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  • 池上彰x佐藤優は「左翼」(※「真説 日本左翼史」参照)、片山杜秀x島薗進は「右翼」の歴史から、それぞれ民主主義の今後を憂いているのが面白い。アプローチは違えど、問題意識は同じなんだなと。
    それだけ、民主主義が危うくなっているということだろう。

    しかしこの本面白かった。本書を読んで「天皇のお言葉」を読み返すと、何だか泣きたくなってくる。民主主義の最後の防波堤が天皇だなんて、何ていう歴史的皮肉だろう。

  • 植民地を持たない国が戦争に備えて国民を総動員するために何が必要か。革命から帝政を守るためにドイツが世界に先駆けて選択したのが「福祉国家」(ちなみに日本で国民皆保険創設に尽力したのは東条英機首相)。しかし、そのための蓄積のない日本では、天皇の御恩、というストーリーで国を束ねようとした。そしてそれは本来の(そして将来のあるべき)天皇像とはかけ離れたものである、というのが著者の主張と理解した。

    国民に福祉をいきわたらせることがほぼ不可能になりつつある現代日本において、国民の間に様々な分断が生まれつつある。それを再び天皇の神聖視という「安易な宗教ナショナリズム」で乗り越えようという動きがみられる。これに強い危機感を持たれているのは今上陛下御自身である、という観点から、昭和天皇の人間宣言、そして今上天皇の生前退位にかかわる「お言葉」を再解釈するのが片山氏であり、日本の多様性の象徴としての天皇制を重視し、「特定の伝統が国家と結びつく」ことを警戒するのが島薗氏。

    「戦後民主主義における象徴天皇について(生前退位についての陛下御自身の)『お言葉』ほど突き詰めて語られたものをほかに知りません。今上天皇ほど象徴天皇とは何かという戦後日本の民主主義の根幹をまじめに考え抜かれた人はいないでしょう」(P242)。

    島薗氏の鋭さはもちろんだが、片山杜秀氏の書き物の面白さは尋常ではない。まだまだいろいろあるので読み進めよう・・・

  • 「惟(おも)フニ長キニ亙(わた)レル戦争ノ敗北ニ終リタル結果、我国民
    ハ動(やや)モスレバ焦燥ニ流レ、失意ノ淵ニ沈淪(ちんりん)セントスル
    ノ傾キアリ。詭激(きげき)ノ風漸(ようや)ク長ジテ、道義ノ念頗(すこぶ)
    ル衰ヘ、為ニ思想混乱ノ兆アルハ洵(まこと)ニ深憂ニ堪ヘズ。
    然レドモ朕ハ爾(なんじ)等国民ト共ニ在リ。常ニ利害ヲ同ジウシ休戚ヲ
    分タント欲ス。朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯(じゅうたい)ハ、終始相互ノ
    信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノ
    ニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神(あきつみかみ)トシ、且日本国民ヲ以テ他ノ
    民族ニ優越セル民族ニシテ、延(ひい)テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ス
    トノ架空ナル観念ニ基クモノニモ非ズ。 」

    1964年1月1日に発布された「新日本建設に関する詔書」の一部である。
    所謂、昭和天皇による「人間宣言」だ。

    70年の時を経て、今上陛下が表明された退位のご意向のお言葉のなか
    に、この昭和天皇の「人間宣言」が生きている。これまで何度か今上陛下
    のお言葉を読んで来たが、本書を読むまでこの点には気がつかなかった。

    「国民と共にあり」「信頼と敬愛」。本書の対談で語られているように、今上
    陛下は父上である昭和天皇の「人間宣言」をも踏まえて、あのお言葉を
    練られたのかと思うと、感慨深いものがある。

    本書は明治維新以降、その時の政治や時代の風潮ので天皇の在り様
    がどのような変遷を辿ったのかの対談集である。

    天皇の神聖化には水戸学が大きな役割を担っていたとの話は新鮮だった。
    徳川御三家のなかでも格下扱い、しかも軍事負担などが大きかった水戸
    徳川家は自らに降りかかる大きな負担を、「万世一系の天皇をお守りする
    為なんだ」との大義を掲げて納得してたのか。

    大正デモクラシーでは支持された天皇機関説も、昭和の軍靴の響きが
    大きくなる頃には「けしからんっ」とされたのだものね。

    そもそも明治維新の際に「王政復古」と「文明開化」の二枚看板を立てた
    ことが矛盾の始まりだったと解釈していいのかな。それでも明治へ回帰
    したい人たちはいるようだけれど。

    天皇は皇居の奥深くで祈っていさえすればいい。今でもそんなことを言う
    右派論客がいる。時々思うのだ。右派の論客だとか自称保守だとか名乗
    る人たちは、時の天皇を敬うのではなく天皇制そのもののを敬っている
    のではないか…と。

    だから、今上陛下が退位のご意向を表明された後に「畏れ多くも、陛下は
    ご存在自体が尊いというお役目を、理解されていないのではないか」なんて
    言っちゃう人が出て来るんだ。

    あのお言葉を読んで、聞いて、今上陛下が「象徴」としていかにあるべきか
    を模索されて来たこと、国民と共にある為に何ができるかを考えて来られ
    たことに思いを馳せられないなんて思考停止状態ではないかと思うわ。

    サブタイトルはどうかと思うけれど、明治以降の天皇の在り様を追う入門
    にはよさそう。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685699

  • 片山杜秀と島薗進の対談。片山杜秀は安岡正篤流の錦旗革命が頭のどこかにあるからか天皇の意を儒学を通じて人々が受け取るという考えを出してくる。天皇の解釈が1930年代流行ったがそれは現在では平和の解釈に変容したとはナルホドだ

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:313.61||K
    資料ID:95170014

  • 近代史を理解するのに役立つかも。

  • 17/01/26。

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著者プロフィール

1963年生まれ。政治思想史研究者、音楽評論家。慶應義塾大学法学部教授。著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』(いずれもアルテスパブリッシング、吉田秀和賞およびサントリー学芸賞)、『未完のファシズム』(新潮選書、司馬遼太郎賞)、『鬼子の歌』(講談社)、『尊皇攘夷』(新潮選書)ほかがある。

「2023年 『日本の作曲2010-2019』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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