光 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087451214

作品紹介・あらすじ

天災ですべてを失った中学生の信之。共に生き残った幼なじみの美花のため、彼はある行動をとる。それから二十年後、信之の前に、秘密を知るもう一人の生き残り・輔が現れ──。(解説/吉田篤弘)

感想・レビュー・書評

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  • 小さな離島で生まれ育った信之は、同級生の美花と付き合い、幼馴染の輔は信之を慕う。ある日島を大津波が襲い、3人と数人の大人だけが生き残る。救出最終日に美花がある大人に襲われ、信之が助ける際に殺めてしまう。秘密を抱えたまま3人が迎えた20年後、実は当時の真相を知っていた輔が信之と美花の前に現れ脅かす。それぞれの生き方、愛し方がリアルに描かれた物語。

    三浦しをん3作品目。
    前読【舟を編む】【風が強く吹いている】はどちらもハートフルでエネルギッシュな前向きになれる良書だった。今でも物語は元より、細かな描写まで蘇るほど私にとって名作だ。

    本作を読み、まず疑う。本当に同じ著者が書いた作品なのかと。表題名である【光】に抱くポジティブな印象は微塵もない。ただただ陰鬱で、救いを探す方が困難で、生々しい性描写と腹黒い人間愛が滔々と綴られている。また、本作が連載開始となったのは2008年と東日本大震災前に存在していたことに驚く。

    本作品のテーマは【暴力】だ。
    身体、心理、天災、環境すべてに、暴れる力が付き纏う。暴力によって傷つく者、救われる者、得る者、失う者の姿が、信之、輔、信之の妻・南海子の3人称視点で綴られている。

    解説でも綴られている表現が最も相応しいので引用するが、この作品は『素晴らしく容赦がない』

    天災という抗えない暴力から始まり、皆が互いを見下し、目には目を歯には歯を、秘密には秘密を、暴力には暴力を重ねる。ある者は先制攻撃を、ある者は報復を、ある子はひたすら痛みに堪える。凌辱、虐待、殺人という暴力、無関心・無責任という暴力が容赦なく描かれている。

    私はこの【光】と言う作品に一筋も光を見出せなかったが、3人の独白の中で時折り浴びせる皮肉な心の叫びに共感した自分がいたことは間違いない。私も暴力のすぐ傍にいる人間の1人であることを思い知らされた。


    私はこの作品で著者をもっと好きになった。
    評判やイメージといった体裁に臆することなく、人間の内面を赤裸々に世へ描き残してくれた三浦しをんをもっともっと好きになった。

    • naonaonao16gさん
      akodamさん

      おはようございます!
      こちらこそ独り言のようなコメントにお返事頂けて嬉しいです!!

      そうでしたか、そんなきっかけが!
      ...
      akodamさん

      おはようございます!
      こちらこそ独り言のようなコメントにお返事頂けて嬉しいです!!

      そうでしたか、そんなきっかけが!
      素敵なエピソードに朝からほっこりしました…!!

      そうなんですよね…
      読んでいくとどんどん引き込まれ、生々しい気持ちをえぐられ、しんどいのに止められないんですよね。

      映画、もしかしたらウォッチリストに入ったままかもしれません、でも見たかもしれません…覚えてないのです笑
      2022/06/29
    • akodamさん
      naonaonao16gさん、おはようございます!

      そしてまずごめんなさい!!私勘違いしておりました。
      本作品読後に、皆さんのレビューを拝...
      naonaonao16gさん、おはようございます!

      そしてまずごめんなさい!!私勘違いしておりました。
      本作品読後に、皆さんのレビューを拝読していた際にnaonaonao16gさんのレビューをお見かけして「amazarashi オンラインライブを拝見して…」とあったので(あぁ!そう言うネトフリとかアマプラみたいにamazarashiという映像配信でご覧になられたのだ)と安直に読み思い込んでおりました…。
      amazarashiを存じ上げなかったおじさんをどうかお許しくださいm(__)m

      私は阪神淡路大震災と東日本大地震をどちらも体験しました。特に阪神淡路大震災は私も被災を受けつつ当時復旧活動にも参加していたのですが、形容し難い光景が今でも脳裏に刻まれています。

      なのでnaonaonao16gさんが綴られておられた『大災害という理不尽』という一節に激しく同意です。

      長々とすみません。
      お返事いただけて嬉しかったです!
      naonaoファンの1人としてこれからもレビュー楽しみにしています^ ^ありがとうございました!
      2022/06/29
    • naonaonao16gさん
      akodamさん

      いえいえ~
      そんな恐縮しないでくださいませ~!
      amazarashi、体調不良でライブが中止になって心配なのです。
      歌詞...
      akodamさん

      いえいえ~
      そんな恐縮しないでくださいませ~!
      amazarashi、体調不良でライブが中止になって心配なのです。
      歌詞がすごいのですよ!ライブでもずっと歌詞が流れてて!是非こういった本を読む方には触れていただきたいバンドです!
      すみません、強く推しすぎました笑

      akodamさんは阪神・淡路大震災の復旧活動に参加されていたんですね。
      わたしはまだ子どもで、でもテレビに映った壮絶な映像(高速道路が横倒しになっていましたよね?)が忘れられません。
      災害は理不尽です。その中に人災もあるんでしょうか。わたしには分からないですが。
      だけど、戦争は理不尽の中でも人災だと思うんです。災害の被害って本当に甚大だし、だから人災だけは避けたい理不尽だなって思うんです。(仕事の理不尽は基本人災…)

      すみません、何の話か分からなくなりました笑
      これからもよろしくお願いします^^
      2022/06/29
  • 救われない物語。
    性描写、暴力、一方通行の愛、ネガティブさ満開の暗い展開。
    そこに、希望の「光」が灯るのかと思ったら、最後まで現実を照らし出す「光」でした。
    今まで読んだ三浦しをん作品とは異色の物語でした。

    島で暮らす中学生の信之は、同級生の美花とすでに体の関係。中学生で??っていうのはおいておいて(笑)
    そんなある日、島が津波に襲われます。生き残ったのは、信之、美花、幼馴染の輔、美花に色目をつかう山中、輔に暴力ばかり振るっていた父親、灯台守のじいさん。
    島での最後の夜、山中と美花のある現場を目撃した信之は、美花を守るために罪を犯します。
    そして、二十年後...

    信之は美花と離れ、妻子とともに暮らしています。
    しかし、信之の妻はちょっと変。嫌いなタイプの女です。
    輔は一人暮らしで工場で働いていますが、これまた変な暮らし。
    美花は芸能界。
    そんな輔のもとに現れた父親。再びの暴力。
    そして、輔は信之に20年前の事件を仄めかします。

    登場人物、全員嫌い(笑)

    全く救いのない物語。
    あまりお勧めしません(笑)

  • 田舎町にある閉塞感
    その閉塞感の中で渦巻く、暴力性
    田舎町を離れても、工場が連なる街並みと劣等感は、暴力と親和する。

    先日、amazarashiのオンラインライブを拝見して、
    その中でコロナのことが嘆かれているのはもちろん、東日本大震災のことも強く訴えられていた。
    こうした理不尽さを想い、選んだ一冊。
    大災害という理不尽に、もう一度目を向けようと思った。

    大災害の描写、繰り返される暴力、人間が孕む暴力性
    その中で人間がコントロールできるものってなんだ。
    最近「自分の力ではどうにもならないもの」に触れることが多く、それに関心が向いている。
    もっと日常的なレベルのものだけれど、その「理不尽」が人に与える苦痛は、人を暗転させる。
    その中で向き合いながら、時に見ないふりをしながら生きることの重み。

    輔(たすく)が受ける、繰り返される暴力。周りはみんな知っていて、心配してるよと声をかける。でもそんなもの。輔はこう思ってる。
    P205「中途半端な心配も助言もクソだ。いらねえんだよ。死んじまえ。毎日毎日何十年も同じおかずが入った弁当食って、しょぼくれた工場としょぼくれた家族のいる家を往復し続けて、クソして死ね」
    いくら心配してたって、物理的に救い出してくれるやつなんて誰もいない。みんな結局自分の安定した生活は変えたくない。だから言葉をかけることしかしない。心配してるなんて言葉は、輔にとっては新たな暴力とおんなじだ。理不尽な暴力が渦巻く世界に、毎日毎日、同じおかずが入った弁当を食べる生活なんて、存在しない。

    信之が見た景色。大災害という理不尽が奪い去るものの重さ。それは人の心から何を奪い、何を植え付けていくのか。
    P250「おまえみたいにどこにでもいる、退屈な女がえらそうに。美花は昔もいまもほかの女とはちがう。30を過ぎても蠱惑と翳りを暗黒の光のように放っている」
    妻子から見れば真面目で誠実な夫の姿は、夫の目線から見るとこんなにも暴力性を孕んでいる。妻子に対する優しさを体現しながらも、心の中では相手をディスり、嗤っている。けれど、暴力性はそれだけで簡単にコントロールできるものじゃない。
    P265「暴力で傷つけられたものは、暴力によってしか恢復しない」
    P282「同情や愛情では恢復しない傷がある限り、刑罰はひとを救わない」
    闇の中で、暴力が闇を照らす光と化す。

    輔P209「俺がすがれるもの、俺を求めるのも、結局この女しかいないのかと思えば、情けないような気も少し満たされるような気もした」
    闇の中に注がれる光に、辛うじて希望を見出すことができた輔、
    信之P295「求めたものに求められず、求めてもいないものに求められる。よくある、だけど時として取り返しのつかない、不幸だ」
    信之の中に残るのは、理不尽への大きな諦観と、希望や幸せと言う名の光へのディス。

    闇の中にいながらも光を探そうと足掻く輔と、光の中にいるように振る舞いながらも、闇の中で暴力を光として先を照らす信之。
    日常的な暴力にさらされていた輔よりも、非日常的な大きな暴力によってはく奪を受けた信之の方に、暴力性がじっとりとつきまとっていることが、強く心に残っている。

    タイトルの「光」の意味
    それは読者の経験によって異なる意味合いを与える。
    解説で吉田篤弘さんがおっしゃっているように、誰かと感想を共有したくなるような、そんな作品でした。

    • naonaonao16gさん
      kuma0504さん

      あけましておめでとうございます!
      ことしもよろしくお願いします^^

      コメントが遅くなり申し訳ございませ...
      kuma0504さん

      あけましておめでとうございます!
      ことしもよろしくお願いします^^

      コメントが遅くなり申し訳ございませんm(__)m
      コメントだと少しお久しぶりですね^^

      瑛太と井浦新、本当に豪華なキャスト!!
      原作の世界観をすごく丁寧に上手に演技にしてくれそうなキャストです!
      「邦画っぽさ」を感じます、いい意味でも悪い意味でも(笑)

      原作者の意図、きちんとくみ取っていたのかどうか。どうしても自分がその時興味のある部分だったりに引っ張られがちなので、かなり偏った読み方をしてしまっているかもしれません…お許しを。

      映画って、「そこ描かないのか!」ってこと、よくありますよね。わたしも映画には興味あるのですが、ちょっとそう思ってしまいそうな感じもしています。
      無理に原作読まなくてもいいと思いますよ(笑)もし読まれたら…レビュー楽しみにしています!!
      2021/01/01
    • 5552さん
      naonaonao16gさん。
      あけましておめでとうございます!
      お返事ありがとうございます。

      amazarashiはテレビ番組で...
      naonaonao16gさん。
      あけましておめでとうございます!
      お返事ありがとうございます。

      amazarashiはテレビ番組ではじめて『僕が死のうと思ったのは』のアコギバージョンを聞き、ネットで見た『未来になれなかったあの夜に』のMV(出演者が豪華!)でアーティスト名を認識し、今現在は『リビングデッド』が頭の中でリピートしてます。
      『あんたへ』もいい曲ですね!
      よく聴くようになってまだ日が浅いですし、ディープなファンでもないのですが、キラキラ眩しい前向きソングが辛いときに、いいですね。
      でも、amazarashiも決して後ろ向きじゃないですよね。

      それでは、今年もよろしくお願いします。



      2021/01/02
    • naonaonao16gさん
      5552さん

      こんにちは^^
      こちらこそ、お返事ありがとうございます!

      「僕が死のうと思ったのは」あれも名曲ですね!一時めちゃ...
      5552さん

      こんにちは^^
      こちらこそ、お返事ありがとうございます!

      「僕が死のうと思ったのは」あれも名曲ですね!一時めちゃ聴いてました。
      「未来に~」、出演者が豪華なの知らなかったです!チェックしてみます!!
      「リビングデッド」いいですよね。フェスだと盛り上がります。

      確かに、決して明るくはないですが、どっぷりと辛さに寄り添った上で前を向かせてくれるような、そんな曲が多いですよね。それは後ろ向きとは違います。

      amazarashiのお話できてうれしかったです^^
      2021/01/03
  • 『暴力で傷つけられたものは、暴力によってしか恢復(かいふく)しない』

    この世に溢れる『暴力』。『光がすべての暴力を露わにした』、と誰の目にも容易に明らかになる『暴力』がある一方で、『「親」という存在が暴力を振るう事実を、ひとはなかなか受け入れない』、と当事者以外には理解されづらい『暴力』もあります。この後者の場合『暴力も愛の一種なんじゃないかと、なんとか理屈をこねて納得しよう』としてしまい、それは闇に潜りがちです。また、そんな『暴力』はさまざま形をとります。身体的、性的、そして精神的に相手を追い詰めていくものも立派な『暴力』です。そして、そんな『暴力』がエスカレートすると『殺すのなんて、やってみればたいしたことじゃない。なにも殺さず生を全うする動物なんかいない』、とある種開き直ったかのような立ち位置も生まれてしまいかねません。そんな『暴力』というものに『光』を当てるこの作品。そんな作品の登場人物には果たしてどんな『光』が見えるのでしょうか。

    『海へ至る道は白く輝いている。美浜島ほどうつくしい場所はほかにない』という美浜島に暮らす中学生の信之。『昼も夜も、夏も冬も、島は完全な調和のただなかで海に浮かぶ』島、そして『島の調和を乱すものがいるとしたら、それは輔(たすく)だ』と感じています。灯台へと向かう信之の後を勝手についてきた輔は『手の甲の赤黒いかさぶたを剥いて』いました。『それ、おじさんにやられたのか』と聞く信之に『こんなの全然平気だよ』と答える輔。『父親の躾が厳しいことは、島のだれもが知っている。卑屈と卑怯を、島の子どもはみんな知っている』という輔。そんな二人は『灯台守のじいさんはお手製の丸太のベンチに座り、今日も仕事をするでもなく煙草をふかしていた』、という目的地に到着します。『はいよ、お待たせ』、と灯台から出てきたじいさん。『差し出されたコンドームの包みを、信之は小銭と引き替えに受け取った』という展開。『だれかに言ったら、ぶんなぐるからな』と輔に凄む信之。『灯台守のじいさんが、子どもを相手に煙草やエロ本やコンドームで小遣い稼ぎをしていることは、島の住民ならたいがいが気づいている』という島の暗部。そんな二人が元来た道を戻ると『山一商店の軒先では、美花と琴実がペンキの剥げかかった青いベンチに腰かけ、スナック菓子を食べているところだった』という偶然。そして、信之に『買えた?』と聞くのは島で唯一の同級生・美花。頷く信之に『でも今夜は、お客さんがいるからだめ。明日の便で帰ると思うから』と答える美花。『一月まえには芸能プロダクションの社員が、わざわざ島までスカウトに来た』という『とてもきれい』な美花。信之は『なんとなく山へ椿を見に行った』時のことを思い出します。『信之は美花を誘い、だれもいない冬のバンガローにもぐりこんだ』、そして『自分がなにをしたいのか、なにをするべきなのか、皮膚の裏を這う熱が教えてくれた』という初めての時間。それ以来『森のなかの無人のバンガローで美花とセックスすることしか考えていない』信之。そんな信之に『ねえ、信之。六時ごろ、うちに来てくれない』とお願いする美花。『バンガローに泊まっている客に夕飯を運んでるんだけど、なんだかいやな感じだから。一緒に来て』と言う頼みを聞き入れてバンガローに赴く二人。そんな二人の未来に影を落とすことになる人物との出会い、そして運命の天災が全てを変えることになる夜がやってきます。

    五つの章ごとに登場人物の視点を変えながら描かれていくこの作品。作品冒頭『暗い海から届く潮騒や、夜の森で降り積む椿の花。色とりどりの大漁旗をひるがえす漁船と、港に集うひとのざわめき。陽光にきらめく幾重もの澄んだ波頭』という島の美しい情景を信之は『完全な調和』と表現します。そして、この調和を乱す存在として毛嫌いする輔。そんな輔は、父親からの激しい暴力を受け、本来であれば、いわば哀れむ対照であるはずの存在であり『生まれてからずっと、それこそ本当の弟のように思い、気をつけて面倒を見てきた』という近い関係にありました。しかし、『小心なくせにずうずうしい性格を垣間見せる輔に、しょっちゅう苛つかされる』、と『視界に入れるのさえいや』な存在になっていきます。そんな思いは当然相手にも伝わるもの。そんな二人の関係の不安定さは、読者の心の内まで伝わってきます。そして、『お互いオムツをしているときからの友だち』という美花。『美花に微笑まれると、信之はなんだか頬が熱くなる』、という美少女として描かれる中学生の美花。でもそんな美花の初登場シーンのセリフは、信之にコンドームを入手できたかを確認するものでした。ここから暗示される『男に媚び、男の魂を吸って生きてる』という美花から感じる嫌悪感。さらには、見栄と自尊心、そして自身にはとことん甘く、娘を見下す南海子という存在。登場人物の誰にも感情移入できない寄る辺のなさが一貫するこの作品。そんな読者を拒絶するかのような作品像は、ストーリー展開というよりは、これら登場人物の性格づけによるものだと思いました。でも一方で、特に南海子のような人間は、どこにでも普通にいそうに感じる、そのリアルさが、余計にこの作品世界を認めたくないと思わせる原動力なのかもしれない、そのようにも感じました。

    この作品の書名は「光」です。でも、作品ではさまざまな『暴力』、性描写、そして人の心の闇がじっとりと描かれており、明確に『光』を感じられるような場面は出てきません。そんな我々が『光』というものに抱くのは希望や光明、未来といったこの作品からは最も遠い前向きな感情です。さまざまな『暴力』が描かれ、結末に向かってどんどん暗く沈鬱な空気に包まれていくこの作品。そんな作品の中で、一見、感情移入を拒むような存在の彼ら、登場人物にとって『光』はどう見えたのでしょうか。『ひとつだけある窓から朝日が射しこんでいる。わずかな時間だけこの部屋を照らす光』という輔の部屋に差し込む『光』。『早朝の透明な光に満ちて、薄青く晴れわたっている』という信之と美花が二人で目にした『光』。そして、『輪郭の定かでない黄緑色の光が、二つ三つ水辺に漂っている』という信之たち親子三人が見たはかない蛍の『光』。そんな『光』が導く未来は、我々が一般的に抱く希望へと続くものではありませんでした。それは、人を闇へと導く『光』。しかし、それも『光』には違いありません。『「光があるから闇がある」といったような二分法が、いまいちピンと来ない』とおっしゃる三浦さん。光と闇は単純に対極に考えるようなものではなく、ある意味相対的なものとも言える世界なのかもしれません。そして、人によっては闇に導く『光』もある。そんな風に考えると、この作品の書名が発する『光』が全く異なる輝きを帯びて見えてくるようにも感じられました。

    この作品はミステリーではないので、”イヤミス”という言葉は当てはまらないのかもしれません。でも読後に読者を襲う不快感はまさしく”イヤミス”と言っても過言ではありません。『私はふだんなるべく、人の善良な部分、希望や明るい面について、小説にしたいと心がけている』という三浦さん。でも一方で『人の心って、そんなにいい面ばかりではない』とおっしゃる三浦さんが問うのは、人の心の闇を照らし、闇に導く『光』の物語でした。『美花を暴力から救ったのは、信之の暴力だ。信之の振るった暴力が、そのあとの信之を救いつづけ、行く道を示しつづける』という『暴力』を導く『光』。

    嫌な感情を突き動かされ続ける読書。持って行き場のない感情が襲うその結末。間違いなく賛否両論さもありなんという三浦しをんさん渾身の問題作。

    湊かなえさん、もしくは辻村深月さんの”黒辻村”の作品群を想起させる人間のドロドロとした闇を彷徨う物語。そして、そんな闇に『光』差す結末に蠢くもの。人間の本質にぐりぐりと迫る三浦しをんさんのあまりの凄みに、読後しばらく放心してしまった、そんな強烈な印象が残った異色な作品でした。

    • さてさてさん
      改めてこの作品に「光」という書名をつけられた三浦さんの感覚、そして『光が全ての暴力を露わにした』という表現に秘められたものを考えてしまいまし...
      改めてこの作品に「光」という書名をつけられた三浦さんの感覚、そして『光が全ての暴力を露わにした』という表現に秘められたものを考えてしまいました。
      一度の読書では読み切れなかった気がしています。これは、読み返さなくっちゃ…と、思いました。
      どうもありがとうございました。
      2020/12/30
    • naonaonao16gさん
      さてさてさん

      明けましておめでとうございます!
      今年もよろしくお願い致します!

      これまでの自分なら、南海子から椿への暴力に真っ先に目が向...
      さてさてさん

      明けましておめでとうございます!
      今年もよろしくお願い致します!

      これまでの自分なら、南海子から椿への暴力に真っ先に目が向いていたように思うのですが、やはり今の自分の関心とずれていたのか、別のところに目と感情がいっていたようです。

      「光が全ての暴力を露わにした」
      これ、改めてすごい言葉ですね。作品を読む前と後では全く違って響いてきますね。そして、本当にその響き方が読者によって異なってくるだろうなっていう。わたしは、ちょっと怖いです、自分の全てに光が当てられたら。見られてはいけないこと、見られたら嫌なこと、たくさん抱えすぎていて。光も、暴力の一つかもしれないなと、今ふと思いました。
      2021/01/01
    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、ありがとうございます。

      あけましておめでとうございます。
      こちらこそ、本年もどうぞよろしくお願いします。

      ...
      naonaonao16gさん、ありがとうございます。

      あけましておめでとうございます。
      こちらこそ、本年もどうぞよろしくお願いします。

      三浦さんの作品も響く言葉が幾つもありますが、この「光」のこの言葉はインパクト大ですね。光は誰をも照らすもの。誰も光からは逃げられない。だからこそ、そんな光に照らされた瞬間に、全てが露わになる分、おっしゃる通り、ある意味で最強の暴力と言えるかもしれませんね。

      三浦さんとしては、異端の作品で嫌う方も多いようですが読んで良かったと思います。
      2021/01/01
  • 暴力で人は救えるか。
    生まれ育った島が天災に遭い、天涯孤独の身となった信之。
    しかも彼は愛する幼なじみを救うためにある罪を犯していた。
    島を離れて二十数年、心を閉ざして生きてきた信之を、過去の秘密が追ってくる。
    二十年後、過去を封印して暮らす信之の前に、もう一人の生き残り・輔が姿を現わす。
    あの秘密の記憶から、今、新たな黒い影が生まれようとしていた―。


    島で暮らす中学生の信之は、同級生の美しい少女・美花と付き合っている。
    娯楽の無い島で美花とのことばかりを楽しみに過ごす毎日。
    幼馴染みの輔はそんな信之になにかとまとわりついてくる。
    信之は卑屈でずうずうしい輔が疎ましくてならなかった。
    或る日、大災害が島を襲い、信之と美花と輔、そして数人の大人だけを残して皆死んでしまう。
    島での最後の夜、ある現場を目撃した信之は、美花を守るために罪を犯す。
    その罪は暴かれぬままに二十年の歳月が過ぎ去り、信之は美花と離れ、妻子とともに平穏に暮らしていた。
    そんな信之の前に「あんたがしたことを、俺は知ってる」と輔が現れ――。


    何となく既読感があった。
    随分前に読んでいたんだと思う。
    島を突然に襲った大津波で島民の殆どが一瞬で亡くなってしまう。
    津波…東日本大震災を思い出しますが、この本はそれよりも随分前に描かれたものでした。
    この物語は救いがない。
    本当に容赦ないです。
    それぞれの思いが全くの一方通行なのも切ない。
    心が交差しないのは辛いです。
    哀しい哀しい物語でした。

  • 光はこの世に美しさを生み出す。
    しかし、同時に光は全てを曝け出す。
    暗闇に紛れて見えなければいいもの、見たくないものも含めて全て。

    タイトルの意味を考えた時、そんな「光」をイメージした。希望としての「光」ではなく、残酷な現実を突きつける「光」。

    この作品において、作者(解説で吉田篤弘さんがおっしゃっていた「神様」)は極めて暴力的だ。
    その赤裸々な暴力を、読者はどう受け止めればよいのか?心に重苦しいものが残った。

    特に美花と信之のホテルでの最後の対峙の場面で、いろいろなものが音を立てて崩れていった。愛とか信頼とか正義とか。
    物事には表の面があって裏の面がある。どちらを見るか、どちらを信じられるかだ。相対的なものでしかない。

    でも、著者自身が語っていたとおり、美花は信之を利用している自覚なんてないんだろうな。

    むしろ信之の自己陶酔を感じながら読み進めていたのだけど…
    嫌な予感が悉く的中していって、なんとも心地悪かった。


    読後間をおかず、アマゾンプライムで映画版も見た。映画版ははっきり言って難解すぎ。わざと理解させないように作っているのか?と思えるほど。
    必ず原作読んでから見るべき映画。
    あと、音楽はなぜジェフ・ミルズ御大?
    映画の内容に全く合ってないよう…

  • 東日本大地震を受けての作品かと思ったら、その前の2006年とのこと。リアルの津波描写の中で殺人事件が起きるが、犯人となった主人公・信之のその後の行動が怖い。人間としての感情が非常に薄い。自分を慕う子分のような輔との関係もお互い嫌い合いながら不思議な関係を続けている。憧れとして付き合っていた女優となった美花との関係も同様に、惚れあっているようで、そうでもなかった。美花のために殺したのに拒絶されても淡々と受けいれている。3週間近く行方不明になっても、淡々と元の生活に戻ってしまった。ミステリーだったら、犯行が露見して犯人に辿り着くのに、最後もそのまま終わってしまった。数多くの「何故」を残して終わってしまった感が強い。

  • フォロワーの皆様の高評価で気になっていた一冊。

    とある島で暮らす中学生の信之は、美しい同級生の美花と秘密の付き合いをしていた。
    知っている者は幼なじみの輔1人。

    閉塞感のある島での暮らしだが、そこに生きる者には当たり前の毎日。
    しかしある日島を大災害が襲いかかる。

    島で生き延びたのはたった信之ら3名と、碌でもない大人2名の、たった5名だった。

    島での最後の夜、美花を助けるために信之は罪を犯す。


    この作品は本当に三浦しをんさんなのか!?と思うくらい、暗く切ない話だった。

    タイトルは光たが、光を感じることができず、愛を感じられない性描写、暴力、裏切り、そんなネガティブなイメージが頭にこびりついてしまった(^_^;)

    暴力は苦手だ。。。(ToT)
    自分には合わない小説だったな。。。

    • naonaonao16gさん
      bmakiさん

      おはようございます!

      分かります、たまに傾向違うの読むとありますよね(笑)
      わたしも自己啓発苦手と言いふらしてる時に突然...
      bmakiさん

      おはようございます!

      分かります、たまに傾向違うの読むとありますよね(笑)
      わたしも自己啓発苦手と言いふらしてる時に突然自己啓発にハマってよく友人に言われました(笑)

      素敵なお嬢さん…!ありがとうございます(*'ω' *)

      そういう連作短編集とか面白そうですね。満員電車の色んな人の理不尽にスポットを当てていくような。

      ビール一択!かっけーです!
      最近、外で飲む香るエールが美味すぎて、いつもビールは最初の1杯なのですが、香るエールは2杯目までいってしまいます(笑)

      是非また遊びに来てください!!
      コメントもお待ちしています!
      2021/11/30
    • bmakiさん
      naonaonao16gさん

      おはようございます。
      普段は殺人事件しか読まないおばさんなので(笑)
      たまに違う本を読んでいると、珍しいね!...
      naonaonao16gさん

      おはようございます。
      普段は殺人事件しか読まないおばさんなので(笑)
      たまに違う本を読んでいると、珍しいね!?と言われます(笑)

      満員電車の色々な人にスポット、、、
      そんな本があったような?
      でも、理不尽にスポットではなかった記憶がありますが(笑)
      確かにそれは面白そう(^^)

      香るエール美味いですよね!!我が家もケース買いしてますよwww
      そればっかり飲むとデブになるので、一番搾りの糖質ゼロと合わせてます(笑)
      更年期のデブへの道は切実な問題です(⌒-⌒; )
      2021/12/01
    • naonaonao16gさん
      こんばんは!

      いきなり酒の話で申し訳ないです(笑)
      ビールは専らKIRINが好きで、Amazonで定期便で届くんです(笑)
      で、KIRIN...
      こんばんは!

      いきなり酒の話で申し訳ないです(笑)
      ビールは専らKIRINが好きで、Amazonで定期便で届くんです(笑)
      で、KIRINなら!と思って糖質ゼロ飲んでみたんですが、残念ながらわたしの口には合わず…
      仕事終わりの一杯が辞められません…
      よくキリンシティで飲んでます(爆)
      2021/12/01
  • 読後感の悪さといったら、数日どころか数週間も残るもので、いつまでも心がざらざらしてました。
    表題は「光」
    正直私にとっては闇の深さの強すぎるあまり、彼らが光と信じているものがそんなにも輝かしいものなのか、光を求めているから闇が深くなるのか、一体何がなんだかわからない…とにかく苦しい…という気持ちでいっぱいでした。

    読了後しばらく時間が経てば気持ちも落ち着いて、向き合えるかもしれない。そう思って本を寝かせていましたが、感想を残そうと本を開くとまた苦しくなる。
    苦しい、というより、怖い、という表現が近いかもしれない。

    誰にも感情移入できないような気がして、そのくせ、自分が同じ立場だったら同じことをしてしまうかもしれないという恐れ、何が正しくて何が間違っているのか、その軸すらわからなくなるような、そんな拠り所のなさ。

    心をガツンと揺さぶられたい方にはお勧めです。読了感は悪いけれど、傑作だと思う。

  • 表紙絵のアッシュな背景に「光」。楽しい話しの訳がないのは覚悟した。突然、島を襲った大津波。300人弱の島民で生き残ったのは5人。主人公の信之、付き合ている美花、幼馴染の輔。信之は美花を凌辱した1名の生き残りを殺害する。20年後、それぞれ暮らしていたが、その殺害を巡り「負の連鎖」が起こる。3人がそれぞれの生活に嘱目する。3人に共通するのは「暗い共感」「無情」「ものの哀れ」で、最終的にはお互いを排除する。3人に降り注ぐ「光=神」は存在しなかった。3人の微妙な距離感が、違和感を抱かせた結果が最後の結末だった。

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著者プロフィール

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』で、デビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で「直木賞」、12年『舟を編む』で「本屋大賞」、15年『あの家に暮らす四人の女』で「織田作之助賞」、18年『ののはな通信』で「島清恋愛文学賞」19年に「河合隼雄物語賞」、同年『愛なき世界』で「日本植物学会賞特別賞」を受賞する。その他小説に、『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『きみはポラリス』、エッセイ集に『乙女なげやり』『のっけから失礼します』『好きになってしまいました。』等がある。

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