抱擁、あるいはライスには塩を 下 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087451511

作品紹介・あらすじ

婚約者がいながら家出し、妊娠して実家へ戻った母。嫁ぎ先で病気になり、離縁した叔母…。柳島家には、果敢に「世間」に挑んでは敗北してきた歴史があった。家族それぞれに流れる時間を豊かに描く物語。(解説/野崎 歓)

感想・レビュー・書評

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  • 読み進むにつれ、哀しさが増してくる。
    大家族なのにそれぞれが孤独なようで、時系列がばらばらに書かれてあるのも自由奔放な感じがして、柳島家を象徴しているかのよう。
    人は成長し、年を取り、それぞれが愛のある場所に落ち着いてしまっても、家族への愛は変わらない。
    「でもね、歴史は過去ではないのよ。いまも私たちは歴史のただなかにいるの。」という菊乃の言葉が心に残った。

  • 裕福で教養あるが独特な価値観と雰囲気を持つ柳島家の連作物語。一族の性みたいなものに巻き取られていくやるせなさ感と、思い出すと切なくなる合言葉が印象的。こどもが語り手の章が特に素敵!

  • 東京・神谷町の広壮な洋館に三世代十人で暮らす柳島家。
    小中高校には通わず家庭で上等な教育を受け、大学から社会に出すという教育方針を持つ風変わりな一族の、愛と秘密の物語。

    章ごとに語り部が変化し、年代も行ったり来たりするから、最初のほうは頭の中で人間関係を整理するのが難しく感じたけれど、上下巻全て読み終えて思ったのは、その順番に必然性があったのだということ。そのことがわかってからまた読み返したら、さらに深く感じるものがあるのかも知れない。

    種違いの長女、そして腹違いの末っ子が含まれた四人の子どもたちがその事実を知りながら違和感なく暮らし、その両親である菊乃と豊彦はお互いの異性関係を容認している。
    四人の子どもたちの祖母である絹はロシアから亡命してきたロシア人で、実はこの人が一番大きな秘密を抱えている。
    そもそも小中高に通わせない教育方針というのが一般社会からはかけ離れているのだけど、そういう極端な決まりごとに関わらず、ひとつの家庭の蓋を開けてみれば一風変わった習慣というのがけっこうあるものだし、その中で当たり前に暮らしていると変わっているということに気づかなかったりする。他人の家庭は異国のようなものだ。柳島家の人々を見ていたら、おかしいけれどおかしくない、と思ったりした。

    それぞれの個性が爆発している登場人物たちはとても愛おしく、ある場面では本気で哀しくなり、ラストは時間が過ぎゆくことの寂しさを感じた。
    同じ家の中で暮らす家族の、それぞれ違った人生。そして一人離れ、一人欠けして時間が過ぎていくということ。

    四人の子どもたちの叔父で、菊乃の弟である桐之輔のキャラクターがとても良かった。自由で、孤独で、刹那的で。

    タイトルの意味を知った瞬間の、感心の唸り。愛と自由、という意味だと解釈。
    江國香織さんの最近の作のなかでは、一番好きかも知れない。

  • 浮世離れした一家と家独特のルールが外界ーつまり一般社会ーとの接触していく中で時代と共に変化する物語。

    最後は悲しさもありますが今なお、その家で暮らす残った人々の雰囲気を味わえました。

    家族の様々な視点から物語を語る群像劇です。

  • 抱擁、あるいはライスには塩を。愛と自由。かわいそうなアレクセイエフとみじめなニジンスキー。言葉や行間の使い方が秀逸で、久しぶりに美しい文章に触れた。独特な家風で幸せと豊かさに包まれた柳島家が、ゆるゆると静かに解体していく様・・・その哀しさや寂しさまでも美しい。もう一度、ゆっくりと読み返したい、素晴らしい作品。

  • こんなにたくさんの登場人物が出てくる長い物語なのに、ほとんどの人のことを把握できて読み終えられたのは、わたしとしては珍しい。

    わたしは自分が、高貴さと変さ(他に邪魔されない家の中の秩序と、おかしさやこだわり)と、世間との交わりとを、
    自分好みのバランスにしようとして生きている、という見方に思い当たった。

    最後の懐かしい、家の記憶の描写が、とてもよかった。音や映像が浮かんだ。

  • 前巻とうってかわって静かな幸福、そして迫り来る変化と終わりに切なくなる後半でした。
    特に2000年夏以降の3話、海外に暮らす安心感に共感。ここは遠いから海の向こうのことは現実味がなくて、向き合うには怖すぎる本質から逃げられる。陸子が本の世界に逃げるように。望が日本に帰る飛行機に乗るときの気持ち、あるあるって思った。
    そして絹さんが愛しそうに呼ぶ、あの人。あの人がいたからこの女性がたくましく生きぬき、この幸福な家族の物語ができたのですね。なんでもできるって思わせてくれる人っているよなあ、って思うのは女だけでしょうか。
    1話ごとに誰が語り手なんだろう、ってわくわくしながら読めて、どの人も共感できる部分、愛しいと思えるところがあって、こんな長編も素敵だと思えました。

  • たとえば「闇というよりは水っぽい」のような、表現の巧さが随所で光る。そういう表現を目にするだけでも、文学作品を読む喜びを私は味わえる。日の光に溢れ、緑のざわめきと日なたの匂いが香ってくるような、明るく暖かな柳島家に始まり、そして未明のひっそりとした薄闇の中にランプの弱い灯りだけが光るような、静かな柳島家に終わる。長い長いページとともに、柳島家の数十年の変遷をともに旅したような気持ちになる。少々長すぎる感もあるし「愛と性と家族」のあり方とか価値観が理解しがたいほどに特殊なので、完読するのになかなか疲れたが、ひとつの時代が終わって変わりゆく柳島家のいまを前に、不思議な余韻が残る。

  • 家族のかたちは変わっていく。愛を求めて去る者、永遠の旅に出かける者。同じ家に住んでいても、外に出ればみな各々の人生を生きている。神谷町のこの洋館のなかだけがずっと時間が止まったままなのだと思った。耳打ちされる愛と自由の秘密を、私はひとつも忘れたくない。

    「かわいそうなアレクセイエフ」
    「みじめなニジンスキー」

  • 百合さんの結婚生活の章はどうしても耐えられなくて飛ばしてしまったけれど、それ以外は改めて丁寧に読んだ。特に菊乃さんの家出生活、卯月の誕生パーティー、桐之輔さんのニューヨーク生活のあたりが好き。
    何度か再読していて一度やってみたかったこと、今回は読後にページを捲ってノートに簡単な年表を作ってみた。白文を朗読していた頃の陸子はまだ12歳だったんだとか、家出と結婚と遊学が重なった頃はお屋敷も静かだったんだろうなとか、ノートを見ながら想いを馳せるのも楽しい。各章を時系列に並べ直してもう一度通して読んでみたい。
    そしてなぜか、江國さんの家族小説を読むと自分の母と母の実家を思い出す。この本とか、「流しの下の骨」とか。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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