- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087452488
作品紹介・あらすじ
とある事情から弟夫婦の子、なずなを預かることになった私。独身で子育て経験のない四十半ばの私は、周囲の温かい人々に見守られながら、生後二ヶ月の赤ん坊との暮らしを始める。第23回伊藤整文学賞受賞作(解説/陣野俊史)
感想・レビュー・書評
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思わぬことから姪を預かることになった主人公
赤ちゃんを通じて
周りの人と交流し
自らも成長していく
温かい気持ちになれる小説
日常が描かれ
特に大きな出来事もないため
長編過ぎる気も…詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
知人の勧めで読んでみた初めての堀江敏幸。気が遠くなりそうなくらい同じことが繰り返されながらも、決してまったく同じではない赤ちゃんとの毎日を、丁寧で穏やかで衒いのない筆致で描く。細々とした育児のあれこれ、そしてなずなちゃんの生命の確かさ、瑞々しさ。経験者なら誰しも育児時代に思いを馳せ、甘やかな苦労の日々を思い出すだろう。かくいう私も、スマホから顔を上げない女子大生が、黒目がちな瞳をクルクル動かし空(くう)を眺めていた時代をしばし思い出すこととなった。また物語はいろんな終わりや始まりを予感させる。結末は描かれない分、余韻として残った。
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なずなの変化一つひとつが丁寧に切り取られているんだけど、そこに「私」や周囲の人々がなずなに向ける視線の温かさが滲んでくるのが胸に沁みた。赤ん坊が、そこに柔らかな世界を作り上げている様が優しく描かれていて、ほかほかとした気持ちになる。
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新刊で出たときにけっこう話題になって、読んでみたいとずっと思っていたんだけど、月日が流れてようやく今ごろ。
刊行当時の批評か感想に、でもきれいごと、甘い、みたいなものもあったような記憶もあったんだけど、そんなふうには感じなかった。(まあわたしに子育て経験がないからかもしれないけど)。今にも消えそうなはかなくて小さな命を預かる重圧とか不安とかがものすごく伝わってきた。そして喜びももちろん。
ときどき詩の引用があったりもして、全体的に詩的で、哲学的な感じ。
とりたてて大きなできごとがあるわけじゃなくて、淡々としていて、まわりの人々との会話が、どうでもいいような話をそんなに細かく書く?ってのも少々あって、ずんずん読み進めるとかいう感じではないんだけど、それもまた味があって。そうした会話のなかで、声高ではなく、環境の問題とか地域の問題とかも語られて、ちょっと池澤夏樹を思い出したり。
読んでいると心落ち着く感じ。そして、だんだん登場人物がみんな実在するような、この小説のなかの世界が本当にあるような気がしてきて。読み終わって寂しくなったくらい。
もしかすると以下ネタバレなのかも?
主人公が赤ちゃんをやむを得ず預かることになって、っていう理由が、なにか恐ろしい理由(赤ちゃんの両親が死んじゃったとか、逃亡とか、犯罪がらみとか)だったらちょっといやだなあとか思っていたんだけど(神経質か)、そんな事情ではなくて、それもとってもよかった。 -
堀江さんはおとぎ話のようなふわっとしているというか心情と言葉がかっちりとは噛み合わないような書き方をすると個人的に思っているんだけど、赤ちゃんに関わる文章だけほんの少し解像度が高い。実際に育児してたのかなと思う。
突然ポッと赤ちゃんが現れたような言い方は悪いけど拾った猫のような感じなので普通は夫婦の愛情とか血縁関係とか家族の話がメインになるけどそうではなく近所の人や仕事ときどき赤子の柔らかさという感じで切り口の違う温かさを感じる。
p6 指の一本一本が、指と指のあいだの影が、いつもよりくっくりと見えるのはなぜだろう。
p167 そして、どこで眠っていても、彼女は空間を自分中心に変容させる。なずなだけではなく、赤ん坊にはそういう力が備わっているのかもしれない。とすれば、この世界には、赤ん坊の数だけ中心があるということになる。
p312 丸い鏡に、なずなの、どこか困惑気味の顔が宇宙船からの中継画像のようにぽつんと浮かんでいた…。 -
40代の地方紙記者の独身男性が、弟夫婦の入院をきっかけに彼らの娘なずなを預かることに。まだ生まれて数ヶ月の姪っ子の成長にいちいち驚き、ちょっとした異変におろおろする日々。周りの人に助けられながら、なずなを中心に動く生活が綴られる。赤ちゃんがいるだけでその場の空気がふわっと柔らかく感じることがあるけど、そんな優しい雰囲気に満ちた物語。
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ようやく出会えてようやく味わえた『なずな』
Smallcountryさんのブログで知ったのはいつだったっけ?
伯父さんが生まれたばかりの姪っ子をあずかることになる。
3men and a babyのような慌ただしくも滑稽な日常が綴られるかと思いきや、実際に生きたニンゲン相手には滑稽なんて言っていられない。死なせちゃならない、傷つけちゃいけない、病気になるのも困る、毎日と言わず、毎分、毎秒が真剣勝負。そりゃそうだ。
伯父さんの目線や意識はきっと父母のそれとは違うだろう。
ものすごく、Detailなところに目がいく。呼吸の一つ一つだったり、視線の動き、というより瞳孔の開き方、みたいなところまで仔細に観察。というか、よく全身が目になると言うけれど、そんな感じで新しくこの世に誕生した生き物がそこにいることに興味と憧れと理想と全てを見ているようだ。
とにかく暖かい、優しく柔らかい空気が流れている。
悪意のかけらがほんの1mm角もない。
守っているようで守られている。
そんな気持ちを一瞬でも感じたら、自分が生きている理由になりえるだろう。
人生に疲れたら、どうにもやりきれなくなる日が来たら、この本を開こう。生きることのなんたるかを小さな生き物が教えてくれるだろう。 -
この本を読み始めた時、娘は8ヶ月くらいで、なずなの年齢を少し過ぎたくらいの時だった。
なずなの様子に関するみずみずしい描写や、なずなの世話をする主人公の心情、取り囲む周りの人たちの反応、子供を育てる行為の側面に現れるさまざまな事象を正確に、かつ繊細に描いている本書を読んでいると、特に幼い月齢の育児を追体験しているように思えて楽しかった。
この頃の育児について、携帯の動画とかでは残っているけど、もっと文章で残していればよかったなぁと後悔する。
自分はこの頃27歳で、自分の人生における独身フェーズが終わったことを(後から思い返すと)全く受け入れられてないかったなと振り返って思う。
受け入れて育児を楽しめるようになるフェーズには、もうすぐ2歳を迎える最近になってようやく入っていけてる気がする。
子供を育てるということは自己犠牲であり、かつてない親密さを帯びた人間関係(周囲の人々含む)の構築であり、社会との新たな接点の持ち方であり、….. と挙げればキリがないのだけど、そういった行為であることと、今までの人生では訪れる可能性がなかったものを持ち込んできてくれる機会だと、この本を通して改めて思った。 -
自分のための人生の後は
未来に続く人生のために -
ともに入院中の弟夫婦に代わり、生後2か月のなずなを預かることになった主人公の菱山は、なずなを育てながら、新聞記者としての仕事をこなす。初めての育児に悪戦苦闘しつつも、なずなの何気ない仕草や発声、確かな成長ぶりに新たな発見をし、喜びを見いだしていく。
医者であるジンゴロ先生、そのひとり娘・友栄さん、バー「美津保」のママら周囲の温かい人達に見守られ助けられながら、菱山となずなとの絆が深まっていく。
淡々とした展開ではあるが、なんともいえない優しい雰囲気が漂う。また、主人公と友栄さんの距離がだんだんと近づいていく様子が興味深く、最後はどうなるか気になりながら読み進めた。