ホテルローヤル (集英社文庫)

  • 1718人登録
  • 3.24評価
    • (44)
    • (177)
    • (254)
    • (78)
    • (24)
  • 230レビュー
著者 : 桜木紫乃
  • 集英社 (2015年6月25日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087453256

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
湊 かなえ
朝井 リョウ
湊 かなえ
有効な右矢印 無効な右矢印

ホテルローヤル (集英社文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • 桜木紫乃さんを知るきっかけになった本を、ようやく読んだ。
    言うまでもなく物語の中心には、ホテルローヤルがある。
    北国の湿原を背に建つこのラブホテルの、建てられた時から廃業して廃墟になった時までを、様々な組み合わせの男女を通じて描いている。
    7編の短編の時系列はバラバラで行ったり来たりするし、ホテルローヤルとの関わりは薄い人物も出てくる。だけどやはりその中心にはホテルローヤルがあって、こことここが繋がっている、と気づくのがとても面白い。

    桜木さんの短編集はこれまでもいくつか読んでいて、1人の人間が中心になっている連作短編集は数冊読んだけれど、中心に建物があってそれを取り巻く人々を描く、というのは興味深かった。
    その建物が活用され生きていた頃と、時が過ぎて使われなくなり死んでしまった後と。
    建てられた頃のお話が最後に収録されているから、最後の最後に胸が切なくなる。そこには明るい未来が見えていたはずなのに、って。

    男女の関係はいずれも何だか淋しい。
    愛情の見えない欲望があったり、しかしそれを果たしきれなかったり。
    打算とか妥協とか、本物の愛だと思っていたものがいつしか消えてしまうこととか。
    舞台がどこか後ろ暗い場所だから、淋しさが増すのかもしれない。

    解説に「桜木紫乃の文章は的確で、冗長なところがない」とあるのだけど、それはまさしくそうだと思う。
    無駄や回りくどいところはないのに、人の心理をずばっと突くような描写に溢れている。
    貧しい夫婦がとあることで浮いた5千円をラブホテル代に遣うくだりとか、浮いた理由が理由だけに罪深さもあって凄まじいと思ってしまった。

    今のところ、桜木さんの小説は、外れだと感じたことがない。全部面白いっていうのも、すごいことだと思う。

  • 現代小説を読んだのはいつぶりか。表紙の陰気なイラストになんとも惹かれるものがあって手にとった。文学賞の話題には疎いので、直木賞受賞作と知ったのは読み終えてからのこと。わたしは女という性に育ったためか、女性作家の書いた小説を特別贔屓目にみてしまう傾向にあるが、そのエゴを引いてみたとしても、『ホテルローヤル』に描かれた物語には妙なリアリティがあって、登場人物たちが重ねる身体の熱とつたる汗が紙面からわたしを捉え、エロスのもつ無欲な欲望に嫌悪感と羨望とをおぼえる。人は抗えない。どんなにとりすましてみても、みな欲望のはけ口を探して生きている。露骨な描写が、読者に潜む野生性を暴く。

    第1話、「シャッターチャンス」。撮影者と被写体は、絶対的な主従関係にある。視線とは暴力である。物語の主人公である美幸が感じた寒気は、サリトル『水いらず』のリリュが感じたそれに似ている。長くなるが、以下に一節を抜きだそう。

    ー男がひたすら写し続けている亀裂の内側に、どうあがいても埋められない空洞がある。美幸はそこに何が潜んでいるのかを確かめたくて、自分の指先を沈めた。すべての音が消えて、男の喉仏が上下する。空洞は、男の欲望のかたちをただ忠実に内側に向かって広げているだけだった。ー

    この1話が、全体を通してもっとも芸術的で美しく恐ろしい。物語の軸となるモルタルでできた安っぽいラブホテルが、男女の偽善を露呈させる。女に穿たれた穴と、まるでその穴をもとは埋めていたような男のそれは、互いに空虚を埋めようと無意味に求め合う。それでも人は、愛などという掴めない幸福を馬鹿正直に信じて、身体でなく心が繋がることを夢みている。

    どこかにこのホテルはあって、登場人物たちもどこかで生きているのではないか。そう思わせる筆致の繊細さが美しい。ページが呼吸する。これは素晴らしいという壮大さはないが、魅力のあるスタイルで、非常に好印象をもった。

  • ずっと読みたいと思っていた本。
    こういう構成の本は好きです。
    単なる短編集は少し苦手ですが、ストーリーが少しずつ繋がっている本書のようなのが好みです。

    人は人を愛することで
    生きていられるんだな、と。

    周りがどう評価しようと、
    自分が正しいと思うことを

    正々堂々とやっていく

    そんな風に生きたいと
    思いました。

  • 釧路の湿原を見下ろす場所にひっそりと佇むラブホテルを舞台にした、連作短編集。
    少しずつ物語を交差させながら、時間を遡ってゆく見事な構成。

    読後もかなしいような、やさしいような、不思議な余韻がつづく。
    川本三郎の解説で、より一層この小説の深みを感じられた。

  • まず、タイトルがいい、『ホテルローヤル』。老舗ホテルとも、街中の安ホテルとも、ラブホテルとも、ペンションとも、何とでもとれる。そしてその想像の背後には、「ホテル」という一つの場所に集う人々の姿がある。どんなホテルに、どんな人々が集い、どんな人生の一場面を見せてくれるのか…そんなことに思いを馳せた時点で、読者は既にこの作品に惹きつけられている。(実は、表紙の絵もとても良い。この作品にふさわしい空気を漂わせていると思う。)

    短編集、ではあるけれども、それぞれが密やかにつながっている。大きな起伏はない、のだけれども、淡々としたなかにキラリと光る人間味がある。読みながら、こちらも、自分の日常をふと振り返ったり、また、例えば今喫茶店でとなりの席に座っている男性にはどんな日常があるのだろうか、などと想像の翼を広げてみたりして、珈琲を楽しむような気持ちで「現実」とか「日常」を振り返ってかみしめることができる。

    面白いのは、読み進めるにつれて、時間が遡っていくということ。今はもう廃墟と化したラブホテル。でも、もちろん、廃墟となる前にはきらきら輝いていた時期もあったはずだし、それなりのドラマもあったはずだ。その、儚い煌めきの部分を逆に辿っていくというスタイルが、寂しさや哀しさ、人々の想いのせつなさをノスタルジックに際立たせてくれる。過去に遡るのだから、良い意味で、生々しさはない。設定にはやや無理を感じる部分もあるのだが、まぁ、許容範囲内かな。

    性と生は切っても切り離せないもので、でも、どちらも真正面からぶつかる話題ではなくて、普段はあまり考えないように過ごしがちだ。だから、ラブホテル、は、なんとなく敬遠される。でも、そこにこそ、本質的な何かが隠されていたりもする。それを、大仰にではなく、さらりと優しく書ききったのは、まさに作者の感性の賜物なのだろう。

  • 北海道って行ったことないんですけど、こういう土地勘のある感じの小説好きです。
    京都が舞台の森見さんの小説みたいに。

    ホテルローヤル、なんかラブホの話らしいっていうのは聞いていたから、エロいんだろうなとは予想していたけど、なかなかどうして、そのエロさが斜め上をいってました。
    表現としては直接的ではないんだけれど、妙に艶っぽいというか、とてもパンチラ的なエロさでした。

    物語は、時間軸も登場人物もバラバラだけれども、どこかでホテルローヤルに繋がっているって作りで、全7編です。
    伊坂さん好きとしては、この構成も自分好みでした。


    全体の感想としては、大概こういう作りの小説って、1編くらいはあんまり好きではないのがあったり、逆に1編だけ妙に好きなのがあったりするもんだけれど、本作に関しては全部面白かったです。

    全7編を通してホテルローヤルの一生みたいなもんが分かる仕組みになっているから、バラバラのストーリーを読んだはずなのに、不思議と1つのストーリーを読んだような感覚になります。

    それと登場人物、、、なんだかみんなじんわりと駄目なんですよね、、人として、性分として駄目、女として、男として駄目、とにかく出自が駄目、、もういろんな人の"駄目"がラブホの背徳感と入り混じって、もうなんだろうこのドキドキは、っといったような小説でした。

  • 最初それぞれが独立した話なのかと思いきや、絶妙に関連していて時間軸も行き来してて単純に楽しめた。もう一回読み直してもまた新しい面白さがあるかも!良本!

  • 暗くて、ジメジメして、やることやる為だけの場所、っていうイメージが、古い映画や小説に出てくるラブホテルにはつきまといます。

    それが今や、サウナに入れたり映画も観れたりカラオケだってできちゃうんだから、変われば変わるものですね〜。女性客つかむ為に必死だねーって話しながらコスプレは断固拒否したっけなァ←←

    というわけで、本作の舞台となるのは、ラブホテル・ホテルローヤルです。

    ラブホって、普通のビジネスホテルやリゾートホテルより余程設備やサービスが充実してると思うんですが、本作のホテルローヤルは、そんなエンタメ性を微塵も感じさせない昭和のレトロ臭を漂わせています

    廃墟となったホテルローヤルで撮ったヌード写真を元手に、写真家として成功しようと目論む男とその恋人(シャッターチャンス)

    ホテルローヤルでの苦い思い出がある、住職である夫の為に檀家の男達に体を開く女(本日開店)。

    ホテルローヤルの最後を見届ける、開業者の娘(えっち屋)。

    ホテルローヤルで過ごした真昼の2時間
    を、宝物のように思い出の中にしまう妻(バブルバス)。

    ホテルローヤルでやがては一緒に命を絶つことになる教師と生徒の何もなかった一夜(せんせぇ)。

    ホテルローヤルで清掃員として働くパートの中年女性(星を見ていた)。

    そして、ホテルローヤルのオーナーである男が、ラブホテル建設にかけた夢(ギフト)。

    廃墟となったホテルの姿が冒頭で描かれ、以降の短編集は時を遡っていく構成で配置されているので、救いのない終わりから物語か始まるスタートに向けて展開していくのが面白い。
    ホテルローヤルという建物と関係者が迎える悲劇的な結末が見えているから、救いはないはずなのに、最後の最後で登場人物がホテルに活路を見出す姿は希望に溢れています。

    終わりが分かっているのに、そんな彼らを悲しくも愛しいと感じるのは、人の一生を「幸福」「不幸」と一言に一元化できない故でしょうか。

  • 全般に暗い陰鬱なストーリーではあるが、なぜか心に染みる。
    登場人物たちが、微妙にリンクしているのも面白い。

    個人的には『えっち屋』〜『星を見ていた』が好き。人間は孤独でひとりは辛い。自分ひとりで足を踏ん張って立っている。でも気付かないところで支えがある。

    地味でパッとしない冴えない日常にも、他人にはわからなくても、小さな幸せを感じられる瞬間があると信じたい。

  • 愉快な話など一篇もないのに、なぜ読み進めてしまうのか。

    廃墟とか場末のラブホテルとか、寂れたりどこか崩れた雰囲気を持つ場所に心奪われてしまう。フロントのパネルで部屋を選び、顔の見えないスタッフから鍵を渡され、部屋に入ると、先客の残り香なのか、積年の愛憎が澱のように部屋のそこかしこに沁みついているのかわからないけれど、息苦しさを感じたりどこか心が乱れたりする。私はそれでもそんな場所が好きだ。その非日常性に心惹かれるのだろう。

    でも当たり前だが、そこに携わっている人々にとってはそこは非日常ではなく、れっきとした日常だ。その人々を描いた本作は、またその人々が我々と同じ人間だということだ。

    北海道の湿原を見下ろす高台にある「ホテル・ローヤル」はそんな寂しい風景とともに、人々の日常を寂しく描く。生きるってつらいけれど、それでも前に進んでいかなければならないのだけれど、著者は明るいエールを送るわけでもなく、応援しているのだろう。

    「いいかミコ、なにがあっても働け。一生懸命に体動かしてる人間には誰もなにも言わねぇもんだ。聞きたくねえことには耳ふさげ。働いていればよく眠れるし、朝になりゃみんな忘れてる」
    ホテルの清掃スタッフを主人公にした「星をみていた」の中のセリフが心に沁みた。

全230件中 1 - 10件を表示

ホテルローヤル (集英社文庫)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

ホテルローヤル (集英社文庫)を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

ホテルローヤル (集英社文庫)の作品紹介

北国のラブホテルの一室で、心をも裸にして生々しく抱き合う男と女。互いの孤独を重ねる中に見えてくるそれぞれの人生の大切な断片を切り取る。第149回直木賞受賞作の文庫化。(解説/川本三郎)

ホテルローヤル (集英社文庫)のKindle版

ホテルローヤル (集英社文庫)のハードカバー

ツイートする