- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087455939
感想・レビュー・書評
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一人称が羚羊(かもしか)の角、という変わった設定で最初は戸惑った。ファンタジー要素が随所に挟まれている、少し変わった歴史小説。
実在した女大名、祢々はとても魅力的。少女の頃はもちろんだけど、不幸を乗り越えて、苦境をはねのけて行くたびに、厳しく、美しくなっていく。思慮深さと行動力を兼ね備えていて、とても強い。かけがえのないものたちを奪われたゆえの、痛々しい強さではあるけれど。。
戦で一番大切なのは、やらないこと。戦うのは簡単。やらない方がずっと難しい。だけどどんなときもその難しい選択をし続けてきた祢々の姿勢には、現代の私たちも考えさせられるものがあると思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
南部氏が治めていた青森、岩手、秋田にまたがる地。
その地で生まれ育った袮々は、女大名として手腕を振るう。
しかしそこに至るには、悲しみと、怒りと、忍があった。
物語の語り部はアオシシ、羚羊である。
しかも一本角の!
彼もまた美しき白い羚羊と出会い、悲しみの別れを経験している。
死後は霊となり、物語を語り続ける。
本書で繰り返されるのは、「戦で一番重要なことは戦をやらないこと」だ。
どこぞの大馬鹿者(それを選んだ有権者も相当程度責任があると思うが)が、我が土地を戦争で取り返しましょうといっていたが、戦争をゲームか何か、血は流さず、自分も死なないと思っているのだろうか?
それともただ単に、「戦争しようとか言えちゃう俺ってかっこいい」なのか。
あるいは何にも考えてないのか。
何れにせよ、人が死に、腐るのを間近に見る生活は、普通じゃない。
袮々は、武士なら戦って散ることこそ、と息巻く家臣を諌め、「二度と私の大切な者の命を奪わせない」(296頁)、「生きる道を、選べ」(306頁)という。
これがどれほど大変で立派なことか!
なんども登場する不思議な鳥、ぺりかん。
本文に直接影響を及ぼすわけではないが、張り詰めた空気を和らげ、息をつかせる。
さすが、愛の鳥。
遠野といえば、のカッパも登場して「遠野物語」の世界にも触れられる。
涼しくなったら、不来方城近くまで墓参りに行こうか。
銀河鉄道より、少し派手な色の列車に乗って。 -
記録
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角の一人語りは、最後まで馴染めなかった。
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歴史ものはあまり得意ではないのだけれど、楽しく読めた。
ファンタジー要素が濃いからかしら。 -
「羚羊の角」を語り手に配し、遠野ゆかりの「河童」や絵から抜け出した「ぺりかん」やらも登場する、ファンタジー色の強い作品となっています。 ―― https://bookmeter.com/reviews/72976384
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女大名、その波乱万丈の一生。
骨太の歴史小説かと思いきや、河童も出てくるし、羚羊の角が語り手だし、ファンタジーのよう。
「戦でいちばんたいせつなことは、やらないこと」を信条に祢々は、次々と降り注ぐ過酷な運命に立ち向かう。矜持よりも命。でも、分かり合えないこともある。異なる意見の人もいる。これが祢々の一人称だったら、もっと引っ張られたり、反発したりしたかもしれない。でも、語り手は角なので俯瞰的になっている。河童の話もあって、民話や伝説のようだ。そこが他の歴史小説と違う。
今年の大河ドラマがちょうど井伊直虎で、祢々も尼になっているからか、どうしても脳内イメージは柴咲コウになってしまう。で、この祢々は実在の人物? あまりこの時代の、そして東北の歴史に明るくないので、わからなかった。それは些細なことなのだけど。 -
江戸時代にたった一人、奥州南部藩に実在した女大名の祢々(後に清心尼)を主人公にした歴史時代小説。
祢々は八戸南部氏の当主・直政の妻となるが、夫や幼い嫡男が不審な死をとげる。
これはかねてより八戸を狙っていた叔父の仕掛けた陰謀だと確信した祢々は城を継ぎ、女亭主となった。
その後も叔父の策略によって次々に襲いかかる難事に翻弄される祢々の長い闘いが始まった―。
中島さん初の時代小説。
実在した女大名を描いた物語ということで面白そうだなと思って手に取りましたが、読んでみてびっくり。
なんと語り手は祢々のそばに寄り添うカモシカで、死んで角だけになっても「片角(かたづの)」として彼女を助けるという存在。
遊び心が効きすぎたぶっとんだファンタジー要素におののきながらも、読み進めていくうちにすぐ夢中になりました。
多くの困難に直面しながらも祢々は領土と領民を守るため、悩み苦しみ、時に毒づきながら、たくみな手腕で難事を乗り切っていきます。
「戦でいちばん重要なのは、戦をやらないこと」
「戦いが起きてしまったら勝つのではなく負けぬことであり、なるべく傷が浅いうちにやめること」
領土と領民を守るために語られる彼女のこの信条は現代でも実現が難しいものであり、子どもを産むことができる女性ならではの考えだと思いました。
藩内の争いが激化して一触即発の危機を迎え、血の気が多い武士たちは争いを起こすことですぐに死に向かおうとします。
「何でもいいから思う存分叩きたい」「戦いで死ぬのは本望 。自分が討たれることで新しい筋道が立つのであれば、それを大義として死んでもいい」などという男性ならではの荒い理屈には辟易しましたが、それは領土問題や差別問題に揺れる現代日本の姿そのもので、考えさせられました。
彼女に降りかかる艱難辛苦は過酷すぎて、読んでいてつらくなってきますが、河童や大蛇などの伝奇的なエピソードが随所にはさみこまれているので軽妙でユーモアあふれる筆致になっています。
史実や伝説を交錯させて、不可思議な世界で遊ばせてくれるので飽きません。
また、彼女の一生は男たちに翻弄されるものでしたが、耐えて忍んで…という印象ではなく、さっぱりとした、感情的にならない少年のような気質なので、読んでいて気持ちいいんですよね。
友達になりたいくらい笑。
「片角」が最終的に辿り着いた世界で見つけたものは――読み手もまた最後に不思議な伝承あふれるみちのくに誘われ、深い余韻に浸ることができます。