謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087455953

感想・レビュー・書評

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  • アフリカ東北部に位置するソマリランド共和国は、崩壊したソマリア連邦共和国の一部で、国際的には認められていない独立国らしい。
    ソマリアには、独立政府を主張するプントランド、暫定政権が治める南部ソマリアといった紛争が続く地域もある中で、ソマリランドだけ平和を維持しているという。
    私はこの国について「世界の辺境とハードボイルド室町時代」を読んでから興味を持ったぐらいで、ほぼ無知。その土地の暮らしやカート宴会など滞在記の部分以上に、歴史や政治を知るのが面白かった。

    ソマリランドの平和の実現には、日本とは違う氏族社会の掟や慣習が機能したようで、それがまた興味深い。氏族は血のつながりだとばかり思っていたから、契約という話は意外な気がした。
    契約だったりカネ(家畜)での賠償だったり、ソマリ人は合理的な考え方をするという印象だ。平和が維持できているのは、感情で物事を決定しない、そういう彼らの気質もあるのではと思った。

    プントランドでは、海賊ビジネスの仕組が見えてくるとなるほどと思う。
    海賊と聞くとなんだか野蛮な印象だけど、見積もりが出せるぐらいしっかり決められたビジネスなのには驚いた。

    南部ソマリアでは、氏族社会と紛争の歴史、イスラムについて勉強になった。私の常識とは違う常識がそこにはあって、説明されて理解できるのがとても面白く感じた。
    特にイスラム圏の為政者がイスラムを警戒していることなど、考えてもみなかったことだ。
    イスラム過激派アル・シャバーブが厳しすぎる禁止事項を掲げているのにも関わらず、一部で受け入れられた理由も目から鱗だった。

  • あとがきでも書かれていたが、ノンフィクションでこのテーマで、中だるみがない!ひきこまれ、一気に読んでしまった。高野さんて凄い人だ。読み手がわかりやすく、親しみやすく知れるようなもの凄い文章力。高野秀行さんの本は今まで読んだことのない本です。次々読破していこう!!

  • この、わかんないことはわかんないと書く→自分の考えを述べる→話を聞いたりして間違いに気づく→すんなり認める、って過程を全部書いていくパターン、他で読んだことあると思ったら高橋秀実だ。脱力系で、狙ってんのか素なのかわかんないネタ突っ込んでくる、完全に高橋秀実だ。
    それはさておき、ソマリランド。知らんかった。アフリカの角ソマリアがエラいことになってるとかブラックホークダウンは知ってたけど。仮定に仮定が重なってるしどこまでホンマの話なのか、高野秀行の思い込みなのか、わかんないけどわかんないからこそオモシロい。

  • 著者は毎回現地の麻薬的なやつにどハマりしてしまうので微笑ましい。
    政治的な背景の解説本としてとても優秀。ドキュメンタリーという枠組みの中で政治的変遷の大枠を抑えるというスタイルなので骨子が頭に入りやすい。
    治安がよいソマリランドだけでなくプントランドにも旅しているのは本当にすごい。

  • 世界一危険と呼ばれるソマリア。そんな崩壊した世紀末的なところに平和な民主国家がある?しかもその隣は海賊国家と戦国国家?
    もうそれだけで気になってしょうがないじゃないですか!
    独自の民主主義が成り立っている背景の考察が特に面白い。
    行きたくは無いけど、行ってみたくなる!
    高野作品でも1,2を争う会心のルポルタージュだと思います。

  • ソマリアと聞くと、UNOSOM、1993年のモガディシュの戦い、ブラックホークダウン、無政府状態といった「紛争で荒れ果てたアフリカの最貧国」というイメージしか正直なかったので、ソマリアで独自の民主主義が確立され、治安がいい場所さえあると知って驚いた。

    しかし、よくよく考えてみると、自分の知っているソマリアのイメージは30年近く前のもの。おそらく自分に限らず、多くの人が同様のイメージしか持っていないのではないかと思うが、いまだにアップデートされていないことの方がおかしいと気付かされた。ファクトフルネスを読んだのに、いまだに思い込みのイメージに囚われていることを反省。

    ソマリアに関する書籍自体が非常に少ないなか、かなりディープなところまで取材されており、治安の良いソマリランドだけでなく、危険な地域まで一緒に旅しているような感覚で最後まで夢中で読めた。

    伝統的な氏族社会とその掟に基づいた超民主主義。氏族に関する部分はかなり複雑で難解だったが、その独自のシステムを活用し、自分たちだけで平和裡に紛争を解決し、民主主義まで確立したというのは非常に興味深い。93年の強制介入は一体なんだったのだろうと改めて思う。

    海賊撮影の見積もりの部分は笑ってしまったが、そんな話までできてしまう筆者の取材力、とりわけ現地の人々とのコミュニケーション力は本当に素晴らしい。以前読んだバッタの前野さんと似たものを感じた。

    もともと「恋するソマリア」から本書を知ったが、「恋するソマリア」以外の作品もぜひ読みたい。マニアックすぎて面白そう。また、最近話題になっている「語学の天才まで1億光年」が著作の作品と知ってますます読みたくなった。

  • 分厚い本なのにめちゃくちゃ吸い込まれる
    面白い
    読み終わって何年も経ってるのに好き

  • めちゃめちゃ勉強になります。
    単純に読み物としても面白いし、ソマリ人の文化についてもよくわかります。出てくるキャラクターも魅力的。
    複雑なソマリの氏族争いも独自の工夫でわかりやすく説明してくれています。
    著者のソマリ愛がすごくて、読み終わる頃には自分もソマリ人に愛着がわいていました。すごい文才!
    命がけの取材で、現地では苦労も多かったはずなのに、ライトなタッチで書かれているのでどんどん読み進められました。
    『バッタを倒しにアフリカへ』を読んだときも思ったのですが、目的→実験→考察の繰り返しがシンプルなのに見事で、学生のときにこの本に出会えていればレポートの質も上がっただろうなあ…と思わずにはいられませんでした。

  • ウィリアム・バーンスタインの『「豊かさ」の誕生』を読んだ時、今までなんとなく信じていた民主主義が経済成長をうむのである、という思い込みが壊され、その後、中国の一党独裁資本主義がデータ経済に大きなパワーを持ち得ている現状を見るにつけ、あるいは民主主義がBREIXTや極右の台頭を生んでいる様に不安を感じている中で、本書は、民主主義そのものの価値があることを教えてくれる本になりました。超面白い本ですが、超考えさせられる本です。現状でも危うく、またこの先に何が待っているかわからない平和ですが、武力と制裁で作る経済だけが世界を計るスケールになっている世界で、氏族による平和というおとぎ話のような民主主義がリアルに成立して機能している不思議さ。まるでSFを読んだような気分になりました。あまりに面白いので「世界の辺境とハードボイルド室町時代」も読んでみます。ところで日本の民主主義はどうだろう?と思う参議院選挙の日に感想、やっと書きました。

  • ソマリアと聞いてすぐに思い浮かぶは映画「ブラックホークダウン」
    と内戦、そして海賊。

    知りもしないで物騒な国との認識しかなかった。だって、映画の印象
    があまりにも強烈だったのだもの。それに、ソマリア連邦共和国との
    正式な(?)国の名前があるのに、崩壊国家に認定されているから。

    しかし、そんなソマリアに民主主義を達成して独立国を名乗る地域
    があった。それが本書で取り上げられているソマリア北部のソマリ
    ランドである。

    しかも氏族の長老たちが話し合って内戦を終結し、武装解除も達成
    し、十数年も平和を保っているという俄かには信じられない国。

    だって、アフリカって大抵の国で紛争が絶えないではないか。そんな
    絵に描いた餅のような国があるはずがない。

    でも、現実にソマリランドは平和だった。それは著者が現地を訪れた
    際に外国人であるにも関わらず護衛もつけずに街中を歩き回れたこと
    に象徴されているのではないか。

    何故、ソマリランドは平和を達成できたのか。同じく独立国を主張する
    お隣のプントランドやモガディシュを首都とする南部ソマリアとの違い
    を、それぞれ自身の体験と現地の人たちからの聞き取りで解き明かして
    いる。

    欧米が押し付けた民主主義ではないから、ソマリランドでは平和が保たれ
    ているとの話には説得力があると思うんだ。

    アフガニスタンやイラクを見れば分かる。「俺たちがこの国に民主主義を
    もたらしてやるぜ」という大国の思惑で、国が壊れてしまっているでは
    ないか。

    まれに日本で報道されるソマリアの状況だけでは分からない内容が盛り
    だくさんだ。本当のソマリアを、ソマリ人を知ろうとしてカート(麻薬
    植物)宴会で現地の人たちの中に入り込んで行くのだもの。

    著者ならではのユーモアもあり、500ページを超える大作だが中だるみ
    せずに読める。続編となる『恋するソマリア』もそのうち読まなくては。

著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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