- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087458848
感想・レビュー・書評
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第43回大佛次郎賞受賞作品。戦争を背景に、その時代を生きた人たちの短編集。
直接のメッセージはないものの、筆者の戦争に対する思いが伝わる作品。
■帰郷
玉砕したと思われた復員兵の独白
妻と子供に会うために故郷に戻った復員兵が見たものとは?
■鉄の沈黙
ラバエルから高射砲の修理に来た修理工
そのまま、戦地にとどまって、アメリカを迎え撃つ
■夜の遊園地
戦後、夜の遊園地で客引きをする男
お化け屋敷から出てこない親子を探しにいって見たものとは?
■不寝番
自衛隊員と兵士の時代を超えた不思議な交流
このファンタジーは哀しくなる
■金鵄のもとに
ブーゲンビルを生き延びた兵士がそこで経験したこととは?
これも切ない
■無言歌
特殊潜水艇内の兵士二人の会話
残り少ない酸素の中での二人の会話が悲しい
それぞれの物語で、死にゆく者、生き残った者たちの話が戦争という悲惨さを物語っています。
哀しい物語でした詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
兵士の視線で語られる6編。
リアルに戦中・戦後に生きた人が描写されています。戦争が当時を生きた人々にとって、日常だったということが自然に感じられる作品ばかりです。戦闘中の描写は怖さよりもまさに自分の目の前で起こっていて、初めて見る光景だからこそ説明ができない不完全さや"何が起こっているかわからない"という状況が伝わってきます。
映像で戦争を伝える場合、どうしても衝撃的な光景に目がいってしまいがちですが、小説だからこそ、非常事態を"普通"と捉えてしまう感覚麻痺が起こっている様子が随所で読みとれました。
戦争小説は説明が多かったり、主人公の痛烈な体験が深く描かれたものを読んだことがありましたが、全編を通して説明が少ないからこそ、当時を生きた人の話を語り聞いたような読後感がありました。 -
戦争小説。短編集。
どの篇も悲しい。
「帰郷」については少し未来に希望が持てる。二人の先が幸せであることを祈らずにいられない。
「不寝番」ではファンタジー色が強い展開であったが、二人の交流が違和感なく汲み取れ、それでも元に戻った後を想像すると苦しくなる。
他の篇についても救われるものが少なく、諦め感も否めず、あっさり終わりを受け入れている場面がなんとも言えない。
自分も戦争を知らない世代であるが、人の生き死にについて改めて考えさせられる機会を与えてもらえた -
帰郷できた兵士もできなかった兵士も、ともに共通するのは、人生の始末に向き合って初めて戦争の残酷さを知るということ。正直どの作品も切ないし、史実であってほしくない。でもきっと実際にあったであろう名もなき兵士たちの物語。反戦という言葉を重く受け止め続けたい。
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久し振りの浅田次郎さん、戦争に翻弄される弱者を描いた短篇六編。
なる様にしかならなかった時代、その中で若者は自我をどう持っていたのか。
考えさせられます。 -
自分の道や大切な人を戦争に踏み躙られて、理不尽を抱えて、それでも生きていく人たち。
「誰も恨みはしない。憎いのは戦争だけだった」そう思えた人は果たしてどれだけいるだろうか。 -
戦争を題材にしているゆえか、文庫帯に「反戦小説集」との謳い文句がある。
しかし、その思いはその文言ほどには、心に響かなかった。短編であるがゆえの限界だろうか(著者には、『天国までの百マイル』のような、忽ち涙腺を刺激する傑作短編集もあるが)。
反戦ということであれば、先ごろ読んだ乃南アサ著『水曜日の凱歌』の方がより、その感が強い。 -
浅田次郎の紡ぐ言葉は、相変わらず美しい。そして、心のひだに分け入ってくる。こういう作家は他にはいない。さすが大御所。
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戦争は、人々の人生をどのように変えてしまったのか。戦争に巻き込まれた市井の人々により語られる戦中、そして戦後。戦争文学を次の世代へつなぐ記念碑的小説集。
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R2年10月24日読了。
反戦を殊更言葉にしなくとも、戦争や戦後を描くことで、悲惨さは否応なく伝わってくる。
戦争なんて、どう描いても気持ちのいいものじゃぁないんだから。
戦争で死んだか、生きて帰って来たか。どっちが幸せだったのか。誰が判断できる?