- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087460117
感想・レビュー・書評
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児童文学作家として名を馳せている森絵都ですが、これは一般小説との中間にあるような作品でした。
主人公、紀子が小学四年生から高校三年生になるまでの軌跡をたどったお話です。
はっきりとした起承転結があるわけでもなく、本当に彼女の成長を順に描いているだけなのですが、そのドラマの一つ一つがキラキラと光を放っていてかけがえのない宝物を触っているかのようでした。
私のこの時期は、ただ日々をやり過ごし、くだらないことに一喜一憂したり、そんな無味な毎日で何にも青春なんて無かったと思っていました。
けれど今気付いたのは、ここで紀子が感受性豊かに経験してきたことは、まさに私も経験してきたことばかりだった、ということです。
あぁ思い返すと私にもこんなに生き生きとして活力みなぎっていた頃があったな、とかつての幼い自分を愛しく感じずにはいられません。
どうしてあんなに些細でしょうもないことが楽しくて仕方なかったんだろう。
青春の真っ只中にいると全てが素晴らしく、世界は自分を中心にまわっているのだと疑わないあの力強さを、久しぶりに思い出すことができました。
今ではすっかり忘れてしまっていたあの頃の記憶を、ここまで鮮やかに蘇らせてくれる圧倒的な筆力には感服します。
青春の真っ只中にいる、あのときに読みたかったという悔いもあるけれど、大人になってしまった今だからこそ分かる良さもありました。
紀子の両親のいざこざをめぐる章も、しぐれもみじの情景と一緒に深く心に沁みてきます。
なつかしくて、しんみりして、おかしくて、明日からまた頑張ろうと思える最高の読後感です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
前回、「つきのふね」を読んだ時にこの作者さんは思春期の子を描くのが上手だなと思っていたが、この「永遠の出口」を読み終えて、思春期を描くプロなんだと考えを改めた。
私としては小学生時代の紀子がピークで、誕生会ひとつにあれだけ熱くなったり、子供らしい怒りにまかせて報復したり、何故だか気持ちがよく分かる。トリは登場してすぐに好きになった。だから、トリと春子が仲良くなったと聞いた時は、私も紀子と一緒に遠いどこかで恋を落とした。中学生辺りは、校則をはみ出さない面白くない生徒だったので、グレた紀子の気持ちはちょっと分からなかった。高校の紀子の猪突猛進ぶり。そりゃ振られるわ、と思うくらい周りも何もかもが見えてなかった年頃。保田くんはよく耐えたと思う。
私は大きくなったトリと紀子の、少女漫画的な再会をひたすら念じてやまなかったが、とうとう実現はしなかった。とっても残念。そして大きくなった紀子の人生が不倫という背徳的な言葉で飾られていたのも残念だった。それでもどの話も「永遠」というタイトルにもなったテーマをかすかに匂わす構造をしている。思春期は成長段階だから、まだ飽和状態ではないからその時はとても有限で、刹那的で、もしかすると、永遠と刹那とは意外と近い位置関係にあるのかもしれない。自分の青春時代を振り返らせてくれる本、ではなく、育ち盛りの、今とは全く異なった感覚をもっていた頃のみずみずしい感性を蘇らせてくれる本だと思う。
料理でいうところのメインの時期を描いたこの作品は、読み終わった後、自分も一枚肉厚になれた気がする。 -
「今のこの,十一才のエネルギーを将来のために温存しておくことなんてできはしない。十一才のエネルギーは,十一才のうちに使い切るからこそ価値を持って輝くのだ」
「トリに限らず,男子というのは私たち女子のうかがいしれないところで何かを決意し,長い眠りに入ったりする生き物だった気がする」
「宇宙って知れば知るほど広いし,膨大だよなあ。でもさ,だからって人間がちっぽけとか,俺,そんなふうには思わねーんだよな。宇宙が広ければ広いほど,人間ひとりあたまの持分も増えるっていうか,担当範囲が広がるわけだからさ。とりあえず今んとこ,人間以外の知的生物は発見されてないわけだし。よし,がんばろうぜって,燃えてくるぜ」
「でも,心配すんなよ。就職組や受験組が来年はどっか遠くにいるみたいに,俺たちも来年は必ずどっかにいるんだから。今は何にも決まって亡くても,いやでも,どっか遠くにいるんだからさ」「遠くに?」「だって,宇宙は膨脹してるんだぜ」
森絵都って感じで良かった。やっぱこの人の文章の感じ好き。 -
自分の過去を振り返るような感覚を覚えた。
恥ずかしい事も、まるで自分が体験したかのように(本当に体験したかもしれないが)書ける作者は素晴らしい。
自分が40歳になって、若い頃のつまらない悩みは素晴らしいと思う。当時は本当に無知ゆえに一生懸命だったと思う。既に忘れかけていた感情がありありと思い出せた。なんで、こんな具体的に感情を覚えていたんだろ作者さん。すごい。 -
大人になるにつれ、どんどん忘れていく気持ちが
大事に大事にこの本に保存されている。
同じ経験をしたわけでもないのに、
完全に共感できる“あの頃”の切なさが沢山潜んでいるから、本当に驚いた。 -
きゅっと唇を結びながら読んだ。
誕生日パーティーのくだりは思い出しても苦しくなる。 -
じぶんの「女の子」としてのこれまでの人生をおもいだして、いろいろあったな、これからもいろいろあるんだろうな、としみじみおもえた作品。
男の人が読んだらどうおもうんだろうか。
巻末解説にもあったけど、この人のエピソードを介した人物描写力すばらしいですね。 -
2009年01月17日 16:11
この人の「カラフル」が好き。
って同年代が山ほどいて、天邪鬼の私は一回も好きって言えなかった。
本当は、からっとした文体も、登場人物がいい意味で浅いのも結構好きでした。
でも今この年で読む本ではない。
序盤・小学生時代の章を読んでいらっとするような人は、もう森絵都を卒業しないとだめだと思います。
昔はもうちょっと凝ってて、こんな子供っぽくなかったのにな・・・
と、物足りなく思うあなたがひねくれて年を取ったんです。
ということで私はもうだいぶ前に森絵都とはさよならの時期だったということを、やっとわからせてくれた本でした。 -
主人公紀子は「私自身だ」と思った読者は多かっただろうと思う。
細かい描写はどうだか分からないがこれは著者の森絵都さん自身の懐かしい思い出でもあるように感じる。
内容としては紀子の小学生時代から社会人となるまでのとりとめのない日記のようなお話なんだけど、
懐かしいアルバムや大事なものをしまっておいた宝箱を久しぶりに開けてみた感覚に似ている。
パティ&ジミーやリトルツインスターズなどのファンシー文具への執着や恋愛事に淡い感心を持ち始め
とりあえず好きな人を「設定」しといたりした小学生時代、ちょっとした大人や友人の発言に傷ついたり、
自分のやっていることに何の意味があるのかと感じて悩んだ中学、高校時代。
無謀だったり繊細だったり色んな自分が見え隠れした甘酸っぱい時が一気に蘇ってきて楽しく読めた。 -
昭和生まれの私には共感できる情景が多くあった
おかしくて思わず声を出して笑ったりして読み進めたが、主人公の高校の卒業式では涙ぐんでしまった
今ちょうどその季節だ
春のこの温度、光、風、においに私はいつもそわそわする
こんなことでいいんだろうかと自分のこれからを不安に思う季節
別れと変化が苦手な私は春はあまり好きではないが、この作品を読んで「なるようになるさ」とすこし肩の力を抜くことができた気がした
現実的に着実に進路を決めていく同級生と違って、主人公は行き当たりばったりのように自由に生きている
壁にぶつかるけれど、感じ方が自由で瑞々しくていい
寄り道していて大丈夫なの?と思いながら読み進めていくと、どの章も結局は自分の感性で何かを得て成長していくのが良かった
あぁ、まわり道したって良いんだなという感想
みんな大人になる
自分の目で知って、心で感じて、進路を決める
この主人公の家庭は家族が干渉し過ぎず、でも放ったらかしにするわけでもなかった
だからのびのびやれたんだろうな
家庭に恵まれているからこそのエピソードであり、それで共感できる部分が多いのだろう
自分のことを思うと、やはり親がほど良い距離感で接してくれたと思えて感謝した
章の終わり方について、サッと終わって次のページはもう数年立っている
あのあとその続きはどうなったのかなと気になるくらいだった
でもそれがいいと思った