幻夜 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (792ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087461343

感想・レビュー・書評

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  • 東野圭吾さんの超大作。この間読み終えた「白夜行」の続編。
    この「白夜行」と「幻夜」を連続して読んでみて「白夜行」で雪穂という女性を自分なりに結論付けていたのだが、今作品の「幻夜」では新たに明らかになる事が多く、筋として幾分読み取り間違えしていたのかも?と感じた。

    まず美冬の心情は今回も描かれてはいない。しかし今作品では雅也目線からしっかりと美冬の人物像が読み取れる。自分本位でエゴイスティックな人物として。
    「白夜行」では雪穂と亮司の2人の本質や本性は伏せられていた。あくまでも読者の想像の域だったのだが、「幻夜」では明らかに違うものになっている。
    そういう心情的な所の「白夜行」のアンサーとしての作品ならば亮司もまた利用されただけの男だったのかもしれないのかも?と感じた。もしそう読み取るのならば雪穂は最初から相当の悪女だったということか。

    また違う目線で考えてみれば、亮司が死んだことにより雪穂は違う人生違う人格を再確立しなければ生きていけなかったのかもしれない。多くの過去の悪事の山々のうえにある亮司のいない自分だけ生き残った世界では幸せとは不釣り合いなのだろう。だからより深い悪に身をそめるしかなかったのか?とも考えられる。美冬となり自分の生へのモチベーションのためだけに悪女と化した。

    美冬は雪穂なのだと思う。ならば一変した雪穂が「幻夜」では存在していた。タイトルで読み取れば「白夜行」では生きている感覚を持っている状態が、亮司の死後は全てが幻の夜の中ということか?だが幻の夜には限りはあるのだろうか?
    そう読み取れば悲しすぎる。

    今思う共通する感想としてはそれだけ亮司の存在が雪穂にとって重たいものだったのだろうと信じたい。

    2作通じて深さにはまり込んだ。
    自分なりの答えも見つからないままだが、だからこそ面白いと思う。
    これから皆様のレビューを見てみてまた考えてみたい。

    そういう意味では未完のミステリーなのかもしれないと感じてる。

  • H29.12.8 読了。

    ・白夜行の続編。引き込まれるような世界観を一気読みした。いやあ、面白かった。
     こんなところで白夜行と繋がっていたんだとピースを見つけるたびに小躍りしてしまった。

  • 白夜行から引き続きで、まさに彷徨う感じ。
    雅也には余りにも救いのない物語。
    私も、美冬=雪穂説に全面的賛成なのですが、美冬が欲望の権化としか感じられず、かなり戸惑いました。最期の辺りでは、もはや人ではなくなりつつある感じも更に恐怖です
    白夜行で亮司を失った雪穂が、雅也に“拠り所だった亮司=夜を照らす光“を求めたけど、それは幻でした・・・とか考えましたが、そんなタマじゃないですね。
    自分では直接手を汚していないけど、どれだけの人を踏み台にしてるのだろうか。
    私の中の悪女1位、認定です。

  • 【感想】
    東野圭吾の数ある作品の中で、「悪女ランキング」がもしあるとすれば、ダントツで「新海美冬」を自分は推すと思う。
    もちろん「白夜行」の西原雪穂も同じレベルだが、、、桐原亮二が完全合意の元でのパートナーであった点を汲めば、やはりトップは新海美冬だろう。
    (もっとも、作中で明言はされていないが、西原雪穂と新海美冬は同一人物だと個人的には思った)
    それくらい色んな男を振り回す、抜群の悪女っぷりだった。絶対かかわりたくないわ・・・・

    入念な準備の元で周囲の人間を巻き込み、各々の弱みをしっかりと押さえ、己の目的のためには一切の手段を選ばず、そしてすべて自分の思い通りに操作してしまう。
    本作品は新海美冬に思いのままに翻弄された人間たちが鮮明に描かれていた。

    白夜行同様、新海美冬目線での物語の展開は作中で一切描かれておらず、そのあたりが彼女の冷酷さを更に際立たせていたなぁ。
    台詞や動きの描写は勿論沢山あったが、全部が全部彼女の本性じゃないんだろうなと思うと、本当に底知れない非道さを読んでいて感じた。

    非常に面白かったが、個人的にはやっぱり「白夜行」のほうが好きかな。


    【あらすじ】
    阪神淡路大震災の混乱のなかで、衝動的に殺人を犯してしまった男。それを目撃した女。
    二人は手を組み、東京へ出る。
    女を愛しているがゆえに、彼女の暗示のまま、悪事に手を染めてゆく男。
    やがて成功を極めた女の、思いもかけない真の姿が浮かびあがってくる。
    彼女はいったい何者なのか?!

    名作「白夜行」の興奮がよみがえる傑作長編。


    【引用】
    1.美冬の行動を見るたびに、雅也は得体の知れない不安を抱いてしまう。彼女が何のためにそこまでするのか、彼女がどこへ行き着こうとしているのか、それがまるで見えてこない。

    2.「ねえ、昼間の道を歩こうと思たらあかんよ」美冬がいった。深刻な口調だった。
    「あたしらは夜の道を行くしかない。たとえ周りは昼のように明るくても、それは偽りの昼。そのことはもう諦めるしかない」

    3.「ええ歳して、結婚に理想を求めてどうするの。結婚はね、人生を変える手段なんよ。世の中で苦労してる女を見てみ。みんな旦那選びをしくじってる」
    「あたしが本当に好きなのは雅也だけ。雅也もあたしのことを愛してくれてる。そうやろ?」
    頷く彼を見て続けた。
    「あたしらには結婚なんていう形式は必要ない。そんなものより、もっと強い絆で結ばれてる。あたしにとって雅也はこの世で信用できる唯一の同志。ただし二人の関係は誰にも知られないようにする」
    「美冬は二人の幸せについて考えたことはないんか?こんなふうにこそこそ隠れて会わんでもええ生活、贅沢はでけへんかもしれんけどいつでも一緒にいて穏やかに過ごして行く生活、というのに憧れることはないんか?」
    「残念やけど雅也、それは幻想やで」

    4.新海美冬はとんでもない女だ。自分の目的のためならば、誰であろうとも容赦しない。誰が不幸になろうとも一向に構わないという考えの持ち主だ。
    浜中と曽我、どちらも新海美冬の過去に触れようとした。そして結局、彼女の前からは姿を消すことになった。
    今度は俺がストーカーになるしかないかな。
    夜の闇に向かって加藤は笑いかけた。

    5.彼女は打ちひしがれた姿を見せながら、その内側で綿密な計画を立てていた。
    計画の一つは、震災を利用して完全なる別人になりすます、ということだ。

    あれが彼女の新海美冬としてのスタートだった。あの時からやり直しのきかない、命がけのストーリーが始まったのだ。
    しかし彼女はそのストーリーを一人だけで作り上げようとは思わなかった。彼女は自分の遠大なる野望を実現するためにはパートナーが必要だと考えた。
    計画の二番目、それは信用できるパートナー、彼女のために命を捨てられる人間を作ることだった。


    【メモ】
    p32
    なぜあんなことをしてしまったのか。俊郎のことを憎いとは思っていたが、殺すことなど考えたこともない。
    下敷きになっている俊郎を見て、死んでいると思った。上着からはみ出ている茶封筒を見て、これで借金の件は助かったと思った。

    ところが俊郎が目を開けた。叔父は死んでいなかった。雅也の頭の中で混乱が起き、それは次にパニックとなった。何も考えずに瓦を手にし、振り下ろしていた。

    新海美冬は、あの瞬間を目撃したのだろうか?俺が俊郎を殺すところを、あの女は見たのか?


    p94
    例のビデオテープについて、雅也はまだ何も訊いていない。訊くのが怖いからだ。彼女は全てを知っている。知っていて、彼を助けてくれた。
    それはなぜなのか?
    暴行されそうになったのを助けたからか?それもあるかもしれない。ただそれだけとは思えなかった。
    いや、そもそもなぜ彼女は佐貴子たちよりも先にテープを入手できたのか?


    p257
    しかし美冬の行動を見るたびに、雅也は得体の知れない不安を抱いてしまう。彼女が何のためにそこまでするのか、彼女がどこへ行き着こうとしているのか、それがまるで見えてこない。

    美冬の項(うなじ)にある、二つ並んだ黒子のことを彼は考えた。フクタ工業の職人だった安浦は、おかしな女に引っかかって職を失った。唯一彼が覚えている特徴は、項に二つの黒子があることだという。
    まさか、と思う。しかし彼女ならやりかねない。


    p269
    「雅也」彼が黙っていると美冬が言った。「都合のええ方法なんかはないよ」
    「えっ・・・」
    「嫌なことを避けて、道を拓くのは無理や」


    「ねえ、昼間の道を歩こうと思たらあかんよ」美冬がいった。深刻な口調だった。
    「あたしらは夜の道を行くしかない。たとえ周りは昼のように明るくても、それは偽りの昼。そのことはもう諦めるしかない」


    p307
    久しぶりに店にやってきた水原雅也を見て、有子はぎょっとした。すぐに彼だと気づかなかったぐらいだ。それほど変わり果てていた。
    「たまにしか会えへん有子ちゃんのほうが、俺のこと心配してくれる。変なもんやな」


    p311
    「関西に帰ったりもしないの?昔の友達に会うとか」
    雅也はふっと笑った。
    「帰ろうにも家がない。友達とは・・・もう何年も連絡をとってへんな。みんなどうしてるのかなぁ」
    一瞬遠い目をした彼の顔を見て、この人は本当は帰りたいのではないかと有子は思った。しかし、何か事情があって帰れないのではないか?


    p357
    「ええ歳して、結婚に理想を求めてどうするの。結婚はね、人生を変える手段なんよ。世の中で苦労してる女を見てみ。みんな旦那選びをしくじってる」

    「あたしが本当に好きなのは雅也だけ。雅也もあたしのことを愛してくれてる。そうやろ?」
    頷く彼を見て続けた。
    「あたしらには結婚なんていう形式は必要ない。そんなものより、もっと強い絆で結ばれてる。あたしにとって雅也はこの世で信用できる唯一の同志。ただし二人の関係は誰にも知られないようにする」

    「美冬は二人の幸せについて考えたことはないんか?こんなふうにこそこそ隠れて会わんでもええ生活、贅沢はでけへんかもしれんけどいつでも一緒にいて穏やかに過ごして行く生活、というのに憧れることはないんか?」
    「残念やけど雅也、それは幻想やで」


    p453
    「ねえ浜中さん。あんた、もう手を引いたほうがいいよ」加藤が静かに言った。
    「あの女はおたくには手に負えないと言ってるんですよ。下手にいつまでも絡んでると、痛い目を見るのは多分おたくのほうですよ」
    「私はこのままじゃ引き下がれない。生活のすべてを奪われたのも、元はといえばあの女のせいなんだ。しかも指輪のデザインまで盗まれて・・・黙って引っ込むなんてできません。何としてでもあの女に仕返しをしないことには気が済まないんです」


    p460
    新海美冬はとんでもない女だ。自分の目的のためならば、誰であろうとも容赦しない。誰が不幸になろうとも一向に構わないという考えの持ち主だ。

    気になるのは、浜中が美冬の故郷を訪ねたという話だ。その時に彼女は怒ったという。そしてその後で事件が起きている。
    はたから見れば滑稽だが、浜中の行動は理解できなくもない。だがそれが美冬にとっては忌わしいことだったのではないか?

    浜中と曽我、どちらも新海美冬の過去に触れようとした。そして結局、彼女の前からは姿を消すことになった。
    今度は俺がストーカーになるしかないかな。
    夜の闇に向かって加藤は笑いかけた。


    p646
    彼女は打ちひしがれた姿を見せながら、その内側で綿密な計画を立てていた。
    計画の一つは、震災を利用して完全なる別人になりすます、ということだ。
    (中略)
    あれが彼女の新海美冬としてのスタートだった。あの時からやり直しのきかない、命がけのストーリーが始まったのだ。
    しかし彼女はそのストーリーを一人だけで作り上げようとは思わなかった。彼女は自分の遠大なる野望を実現するためにはパートナーが必要だと考えた。
    計画の二番目、それは信用できるパートナー、彼女のために命を捨てられる人間を作ることだった。

  • まさに悪女、魔性の女、美冬。
    白夜よりさらに救いのない、遣り切れないストーリーだった。雅也がひたすら哀れだった。
    幻夜…昼はもとより、夜ですらない。秀逸なタイトルだと思う。
    美冬が実は〇〇と同一人物なら…。
    三部作構想とのことなので次回は因果応報を期待したい。
    大作でした。

  • 阪神淡路大震災の混乱の中で出会った男女の、その後の生きる姿。
    表と裏の世界を使い分け、各々が光と影となり支え合う。
    紹介文の通り「白夜行」を思い起こさせる物語。
    栄華の裏に隠された様々な陰謀、事件。そしてラストの展開。
    すごく後味の悪い読了でしたが、面白かったです。
    栄華の影にある多くの犠牲。彼もまた。
    そんな彼は最後報われたんだろうか。

  • 白夜行を再読したので、こちらも続けて再読。
    美冬の悪女っぷりがすごくて、感心するほど。
    翻弄されっぱなしの男達が滑稽に見えてしまう。
    面白かった!

  • 白夜行の雪穂と比べると美冬の手口が分かる為楽しめる反面、またこのやり方か…と中だるみ的な感じで少し読むスピードが落ちた。しかし、読み終えた時は「白夜行」「幻夜」の長編2冊を読み切った達成感と2冊存在する意味は大いに感じられた。

    女性の武器を最大限に使ってくる為、性的な表現は多め笑。最近、東野圭吾作品の楽しみ方として子供が漢字をそこそこに読めるようになった時に安心安全に勧められる作品はどれだろうと。残酷な殺人は目を瞑るにしても性的な行為はまだまだ早い、そういう意味では「幻夜」はずっと大人に成長した時に読んで欲しい。

  • 長編力作!!!
    約800ページの一気読み。
    「白夜行」続編ということで、友だちからの贈り物でした。

    ドキドキ興奮する作品でした。
    最後は悔やむなー。個人的には切ないなー。
    女という生き物恐るべし。
    さらに、東野圭吾さん恐るべし。

  • 「白夜行」の第二部といわれている本書。もちろん単体でも成立している。

    「あたしらは夜の道を行くしかない。たとえ周りは昼のように明るくても。それは偽りの昼」美冬の雅也へのセリフ。

    2人が出会ったのは阪神大震災の悲惨な混乱の中。
    二人三脚の人生が始まるように思っていたが。。。

    わたしとしては「白夜行」のままで終了して欲しかった、と本書を読了してから思ったわけだけど。
    本書があって良かったと思う読者も多いだろう。
    読んで後悔はしなかった。
    「白夜行」既読の方はぜひ‼︎

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著者プロフィール

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者χの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。

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