メコン・黄金水道をゆく (集英社文庫 し 11-30)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087462630

感想・レビュー・書評

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  • 2019年6月13日読了。
    ●P191
    カエルの皮剥き。ニワトリの肛門から空気入れで空気を
    入れ、パンパンにして肉付き良さそうな感じに。

    ●P202、206
    メコンデルタの蛇料理。
    毒へビ売りの親父の手際の良さ。
    毒へビ「ミドリヘビ」は、「ザンロ」と呼ばれていて
    漢方の薬として重宝されている。

    ●P229
    「ドンダイ漁」
    河口に簡易に建てられた小屋に2週間いて
    陸に2日帰って、また2週間海の上だ。
    「夜になると眠くなる。朝は起きたらすぐに仕事だ。
    何もあまり考えない」

  • メコン川を下る紀行文。

    昔からこうしているからこう暮らしている、という人々がいたり、政策で集団移転してきた人がいたりというその国々ならでは事情に接した時間も多かったようだが(例えばp.42)、一方で、日本企業が関与するプロジェクトで森林破壊の事例に接することも多かったといい、ラオスでの保水力現象により洪水リスクが高まっているとの指摘には寂しい思いをした(p.62)

    コーンパペンの滝をラオスの人々は「メコンが折れるところ」と呼んでいるようだが、森林の先で突然出現するその滝の濁流の描写には臨場感があった(p.87)。そしてまたその滝を迂回するためフランスの時代に敷設されたというメコン軽便鉄道の機関車が放置されて残されているというのも興味深かった(最後は日本軍が破壊したものとのこと)(p.103)。

    「何もないコン島の豊かな日々」という章もまた魅力的で、「何十年も動かない同じ漁をしていて、網を持っている」という父親の網漁(p.111)は、メコン地域の暮らし方の象徴であるようにも思った。プロレスのテレビ放送に集まる人々を目にして、かつて昭和の日本でも同様だったという風に著者も重ね合わせているが、「日本人の時間とラオスの人々の時間がはっきり別のサイクルで流れているのを知る」(p.127)というのも的を得た表現だし、ともするとあと20,30年もすると今の日本のようになってしまうのかなと思うとまた少し寂しさを覚えたものである。

    巨大なトンレサップ湖にはいつか旅してみたいと思うが、水上生活は「最低」と医師が言うのには心が刺さった。水上の監獄みたいなものだとも。陸の方で働き口があったらすぐにでも辞めたいとも。精神的な閉塞ストレスが極限まできているとも。そして水の衛生の観点からも、便所から3mを離れていないところから組んでいる赤黒い水でその夜のスープを作っているというのも、ある種のこの地域の人々の身体の強さを感じる。(p.152-153)

    さてベトナムのメコンデルタに下ってきて養魚場経営を一帯でみるようになったようだが、トンレサップでもみたこと密接な関係があるということも興味深い。養魚場経営は、フランスからの独立直後、自由主義社会だった南ベトナムでは早くから行われていたがベトナム戦争が始まってできなくなったため、戦火を逃れてカンボジアのメコン川やトンレサップにいきそこで経営するようになった、けれど1975年のポルポト政権下、ベトナム人は迫害を受けて戦争終結後にまたメコンデルタに帰ってきたということらしい。ただ社会主義国になっていたベトナムでは大規模な個人経営は認められず、そのころのチャウドック周辺では百軒ぐらいが小規模に仕事を許されていた程度だった。その後1986年のドイモイ政策で開放経済に移行、国が個人経営の資金を安い金利で貸してくれるようになったために急速に養魚場経営者がふえて現在チャウドック周辺には約2000軒養魚場があるとのことで、完全な過当競争で生き残り競争に入っている、と。戦争によってベトナムとカンボジアを行き来したわけだが、両地域の繋がり(特に養魚場経営者)がわかる説明だった。(p.199-200)

    なおメコンデルタでは、蛇はめでたい生き物とされており結婚式などではごく普通に食べられているとのこと(p.202)。
    それ以外でも、「豊かな川」と感じさせる多くのエピソードに満ちていて読みごたえが意外にあったし、漁の多くが「待つ」漁であるということも不思議な魅力であると感じたようだ。それゆえの、自然体のさりげなさい逞しさというのは良い表現だ。逆に言えば、狩猟民族のように常に移動していなくても、じっと待っているだけでめざすものを入手できるということであり、肥沃な大河らしい話である。(p.246)

    ***
    最後に、解説を石川直樹さんが書いている。椎名さんの著作を多く読み、影響を受けていたというのもまた面白い話である。

  •  読んだのは単行本。 約20年前に買った積ん読本を引っ張り出した。

     ラオス北部からカンボジア・トンレサップ湖、そしてベトナムの河口まで。広がるのは、20年前のインドシナ半島のメコン川に生きる人々の漁労を中心とした生活。様々な「待つ」漁を当事者にインタビユーしながら、椎名文体で活写する。魚影は濃く、豊かな川。

     もう失われたかもしれない、土地の記録。

  • メコン川というのは,昔は遠くの異世界の話だったが,何回かメコン沿いの街に行くようになり,こういう本を読んだときにリアルに浮かんでくる光景がある。ルアンパバーンとかビエンチャンとかは実際に行ったしな
    ということもあって,本に載っている地図はもうちょっと詳細にしてほしいなあ,と思うとともに,写真ももう少し増やしてほしいなと思うところ

  • インドシナ半島を流れるアジア第三の大河、メコン河。椎名誠が川の流れに沿ってラオス、カンボジア、ベトナムと下り、現地の生活を見て回る。
    真っ先にこれらの国の名前を聞くと、プノンペンとかホーチミンとか発展途中の都市の名前が真っ先に思い浮かぶが、ここに書かれてあるのはもっと素朴な生活。想像力を掻き立てる場面のオンパレード。特に最終章、メコン河口で繰り広げられるドンダイ漁は圧巻。

  • メコン河をタイのノンカーイ からメコン河沿いにラオスのシー・パン・ドンを通って、トンサレップ湖までの旅行を計画してその途中で読んだ。椎名のような体験は出来なくても僕なりにメコンに生きる人たちの生活が観察できればと思った。

  • 椎名さんが、メコン川流域をラオスからベトナムに向けて旅をした45日間を綴った旅行記。

  • 石川直樹さんも仰っているように、自分の中にあったそれまでの世界が入れ替わる感覚。大好きな東南アジアの新たな一面を垣間見ることができた。

  • 辺境地の写真を撮って、文章を書いてお金をもらう...素晴らしい仕事ではないか。今度生まれ変わったら椎名誠になりたい!寝袋でヘッドランプで本を読むなんて楽しそう!(毎晩だとツライそうだけど...)

  • う〜ん、割と普通な紀行文といった感じ。

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著者プロフィール

1944年生まれ。作家。1988年「犬の系譜」で吉川英治文学新人賞、1990年「アド・バード」で日本SF大賞を受賞。著書に「ごんごんと風にころがる雲をみた。」「新宿遊牧民」「屋上の黄色いテント」「わしらは怪しい雑魚釣り隊」シリーズ、「そらをみてますないてます」「国境越え」など多数。また写真集に「ONCE UPON A TIME」、映画監督作品に「白い馬」などがある。

「2012年 『水の上で火が踊る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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