- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087463569
感想・レビュー・書評
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最後の一行を読みおわったとき、わたしは狐につままれたように、キョトンとしたのだった。
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大物歌手・橘百合子が、歌手生活37周年記念リサイタルを行うことになった。
何気ない記者との会話のなかで、橘百合子はふと、自分の過去を振り返る。
あのとき、もし歌手につながる道を選んでいなかったとしたら…?
百合子は、人生の分岐点である歌手デビュー直前の昭和8年から今までの歩みを、振り返っていく。
そしてそれと平行して、歌手デビューしなかった方の道も、「もう一つの過去」として少しずつ、語られていくのだが…
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「マイナス・ゼロ」「ツィス」に続いて、広瀬正全集の3作目となる「エロス」を手に取りました。
「マイナス・ゼロ」「ツィス」ともに、もくじからすでに読者を引きこむ仕掛けをしてこられた広瀬正さんの小説。
今回の「エロス」もまず、もくじをじっと眺めるところから始めました。
「エロス」は、現在・過去・もう一つの過去という章名で、現在と過去あるいはもう一つの過去が交互に語られる構成になっています。
過去として語られる昭和8年から現在に至るまでのお話では、当時の暮らしをくどすぎず、けれど事細かに書かれており、その文章バランスには驚かされました。
しかし、「今回のエロスでは、どんな驚きの結末を仕掛けてくるのだろうか?!」と、構えすぎたためか、過去・現在・もう一つの過去それぞれの「順調すぎる」話運びに、「あれ?このまま終わるのか…??」という焦りが生まれてきました。
「もうあと数ページでお話が終わってしまう…このまま終わるのか?!」と思ったとき、やっと、違和感を感じる箇所が登場しました。
それが360~361ページで語られている、ミッドウェー海戦のお話でした。
しかしその違和感は一瞬で、その正体をわたしがつかみきる間もなく、すぐまた順調な現在の話に戻ったため、その違和感の意味はわからないまま、最後まできてしまいました。
そしてラスト一行の文章を読んで、あまりにも文章の意味、つまりオチがすぐ理解できず、キョトンとなってしまったのです。
悩んだ末にググってみたところ、ようやく「エロス」という小説に仕掛けられたオチを理解でき、ホッとしたというよりは、安心しました。
わかりにくいオチではあるものの、自分だけの読解力でオチに気づけなかったことが悔しく、また「マイナス・ゼロ」「ツィス」と比較すると、やはりオチのレベルに差をかんじてしまったため、☆は4寄りの3として、☆3をつけさせていただきました。
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なお、この小説が発表されたのは1971年であり、今の時代では使われなくなった障がいに対する差別用語が使用されています。
すでに著者が故人であることと、著者も差別助長の意図では使用していないことから、原則として全集刊行時のまま収録されています。(解説後のページに記載あり)
集英社文庫としての刊行は、1982年初版、2008年改訂初版となっています。 -
別の時間を生きる人間に、著者の生きた時間を追体験させてくれるかのような表現力の凄さはこの作品も例外ではない。この人の作品を読んでいる間は、自分自身もタイムトラベラーになったかのような錯覚を覚える。
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女優の過去を振り返る、昭和のパラレルifストーリー
歌手デビューから37年のベテランシャンソン歌手 橘百合子
雑誌のインタビューをきっかけに、契機となった出来事を思い出す
田舎から上京してきてからの回想と、「もしあの時違う選択をしていたら?」という「もう一つの過去」、そして「現代」が入り乱れて描かれるパラレルストーリー
「マイナス・ゼロ」と同じく、昭和初期の風俗が細部にわたって描写されている
今回はテレビの開発に関する情報が細かいところまで言及されている
まぁ、興味がなければそこの描写は読み飛ばしても良いのではなかろうか
そして、同じ時代の物語という事で、「マイナス・ゼロ」の登場人物達もちょっと登場
こんな作品同士に繋がりを作る作家さん好き
ヌードモデルの事務所に行くか、映画を観に行くかという選択という分岐点
歌手になったきっかけは、映画館を出た後に車に泥をかけられ、音楽プロデューサーとの繋がりができたから
その場合、いい感じになっていた青年は友人との諍いが原因で盲目になってしまう
もしヌードモデルになっていた場合、後に青年が連れ去りにきて、一般的な結婚をする
青年はテレビの技術開発の仕事をする事になるが、戦争が夫婦にも影響を与え……
最後のところで、「そういうことかー」としてやられた感のある事が明らかになる
個人の選択が与える未来の可能性ってとても大きいのですねぇ……
新たな技術の発見や開発には、そのきっかけとなる人の想いがあるわけで
もし、その人の想いがなければ誕生しなかった技術なんですよねー
タイトルの「エロス」は青年の作曲した歌の名前
どちらの選択でも誕生していたであろう曲
ってか、広瀬正作品はタイトルで損してると「マイナス・ゼロ」で書かれてたけど、この作品が一番損してるんじゃなかろうか?
作品の内容はまエロチックなところはないのにね
ヌードモデルになるところはあるけど、それとて官能小説のような表現はされてないですしね
そう言えば、歌手のモデルはヌードモデルをしていた経歴を持つ淡谷のり子らしい
私としては歌マネの審査員で厳しいコメントをする人というイメージしかないですけど、全盛期にはものすごい人気だったのでしょうねぇ -
再読。
歴史にうといわたしは、再読でネタバレしてからこそ、この小説を楽しめたように思う。 -
品のある文章と『マイナスゼロ』に同じく昭和初期の描写が楽しい
が小説として面白いかというととても微妙
いっそ『遥かな街へ』で良いと思う -
「パラレルワールドSFの金字塔
もしもあの時、ああしていれば……。一人の女性歌手の半生を振り返って、実際にあった過去とありえたかもしれない過去が錯綜する。二つの「昭和」を鮮やかに描くSF傑作長編。(解説/小松左京)」 -
2017年9月10日に紹介されました!
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タイトルはなんだかなぁだけど、中身は安心して読める恋愛小説(?)
知らない昭和の時代が勉強できる。
著者自身もちょっと顔を出す。
あ、「マイナスゼロ」のカシラにも再開できた。なんか、うれしい。