氷結の森 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087465129

作品紹介・あらすじ

日露戦争に従軍した猟師の矢一郎は故郷を離れ、樺太で過去を背負い流浪の生活を続けていた。そんな彼を探し回る男が一人。矢一郎の死んだ妻の弟、辰治だ。執拗に追われ矢一郎はついに国境を越える。樺太から氷結の間宮海峡を越え革命に揺れる極東ロシアへ。時代の波に翻弄されながらも過酷な運命に立ち向かう男を描く長編冒険小説。直木賞・山本賞ダブル受賞の『邂逅の森』に連なる"森"三部作完結編。

感想・レビュー・書評

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  • 「邂逅の森」を読んだのは5~6年前のことであり、森3部作なるものの存在は知っていたが手が出ないでいた。
    順番でいけば、相克→邂逅→氷結となっているようで…完全に順番間違えているし!しかしながら今作も中々の佳作であると思う。

    マタギを主人公に据えるのが3部作においての不文律のようである、そこには人と獣と自然のバランスがひとつのテーマとなっており「邂逅~」においては顕著に感じられた。今回主人公は元マタギであるが、さらに重い十字架を背負っていた。日露戦争に従軍しておりスナイパーとして活躍していたという、さらに故郷を離れる原因と相まって主人公弥一郎の生き様、未来を見ようとしない諦観が独特のハードボイルドタッチで描かれている。

    前半は樺太の漁業、林業、己を敵とする亡き妻の弟からの逃避行が極寒の地を背景に描かれる。厳しいゆえに美しい自然が登場人物以上の迫力で読者に迫ってくる、しかしながら物語の中盤にかかると一転して別の物語となっていた。


    「尼港事件」なるものを自分は全く知らなかった。大正期に革命の只中であったロシアで発生した邦人虐殺事件である。アムール川流域の港湾都市ニコラフエスクで起こった、国際的事件の顛末が架空のキャラクターを通して語られる。様々な陣営の思惑が錯綜し、裏切りと血風の世界がそこにあった。いつのまにか西村寿行か大薮春彦か?の世界がそこにあった。最初からのハードボイルドが一挙に炸裂して市街戦にまで発展してしまう。なんとも皮肉な結末も用意されていたが、彼に残された大切な者との未来を予想させる終幕が、読者を安心させてくれた。


    物語より自然の圧倒的美に翻弄され心奪われる、命を賭けなければ目にすることができない美。経験はできないだろうけど経験してみたい…

  • 場所や時代や獲物が変わっても、山で生きるマタギの生命力、その凄まじさはだけは絶対的に変わらない!
    強すぎ!カッコよすぎ!

  • 敵も味方も、その懐に入ってしまうと、ただ見えるのは生きた人間。戦争は、ただそれが戦争だから殺しあう、悲しいことだ。矢一郎がカッコ良過ぎて惚れてしまう。無敵な上に硬派で優しかったら、モテるのは無理もない。マタギの研ぎ澄まされた感覚、空気感を邂逅の森で味わってから読んで良かった。相剋の森も読まなければ!

  • 3部作の完結というよりは別な物ととらえた方が入り込めると思う。時代設定を含めた背景の描写が緻密で物語をイメージしやすい。波瀾万丈の人生!主人公の精神力に感銘!

  • マタギ三部作の3作目。元猟師で日露戦争従軍兵だった男の逃亡劇と女たちとのロマンスを描いたハードボイルド。三部作のなかで最もカッコいいマタギが、ゴルゴ13ばりのライフルさばきを見せる。おすすめ。
    舞台は異なるが、映画『八甲田山』を先に見ておくと物語のイメージがグッと深まります。
    しかし、これも映画化されたらおもしろそうだが、現在日本の近辺諸国(ロシア、中国、韓国、北朝鮮)との情勢を考えると難しいかな。

  •  またぎ三部作のひとつ。今回は、元またぎで戦争で活躍して帰ってきた男が、人を殺したことをトラウマに感じながら、死んだ元嫁の弟から命を狙われて北海道でひっそりと暮らす話。
    だんだんと舞台は樺太にまで及び、国をまたいでいるあたりが今までで一番壮大な話かもしれない。 ただ、あまり他の2部とつながりはなかった気がする。

    それにしても、高倉健的というか、この本に出てくる主人公のありえないまっすぐさとか不器用さとか、本性を隠している日本男児の美しさ!みたいなの全然素直じゃなくて好きじゃない

  • "森"三部作完結編。

  • ヒーローは死なない。

    (以下抜粋。○:完全抜粋、●:簡略抜粋)
    ○必要以上に獣を獲りすぎてはならない。(P.204)

    ○敵側の人間と見れば、民間人の女を見境なく犯す。
     子どもまで平気で殺す。
     普段の大人しいきみたちからは、想像もつかない豹変ぶりだと思うのだが。(P.379)

    ○銃を撃つときだけは見える。(P.469)

  • 常に最善を尽くす男、矢一郎。合理的な思考を持ち、勇敢で義理堅く硬派である。恨みを買って追われていたり、それによっていろんな事件を誘発した。いろいろがなければ、彼は何を目指したのか?多分普通の暮らしがしたかったのだろう。しかし、すごい奴だ。

  • 「冬は寒ければ寒いほど良い。冬に全てが凍りつけばそれだけ春や夏が素敵に思える」。九州育ちの私は全く想像がつかない氷点下の世界を物の見事に描く筆致力。大正時代の極寒の地シベリア、サハリンに生きる人々の息吹が胸に染みてくる。 モデルのいない主人公と歴史的事実を無理やり繋げている感じはするが 裏切り、人種差別、戦争、狩、革命、恋愛を通じて当時の生活習慣とともに時代に翻弄されるマタギの矜持の描写が本当にお見事!ミステリ&冒険小説だなこれは。特に真冬の旧間宮海峡を犬ぞりで渡るシーンの描写は圧巻です。作者も実際に渡ったとの事。凄い!

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著者プロフィール

1958年仙台市生まれ。東京電機大学理工学部卒業。97年「ウエンカムイの爪」で第10回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2000年に『漂泊の牙』で第19回新田次郎文学賞、04年に『邂逅の森』で第17回山本周五郎賞、第131回直木賞を受賞。宮城県気仙沼市がモデルの架空の町を舞台とする「仙河海サーガ」シリーズのほか、青春小説から歴史小説まで、幅広い作品に挑戦し続けている。近著に『我は景祐』『無刑人 芦東山』、エッセイ集『いつもの明日』などがある。

「2022年 『孤立宇宙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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