新選組 幕末の青嵐 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • / ISBN・EAN: 9784087465174

感想・レビュー・書評

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  • いやぁ、おもしろかった!
    とにかく誰かにオススメしたくなります!!


    500ページを超える分厚い本を手に取ったとき、おもしろそうだと思いながらも気後れしたのが、うそのよう。
    読み始めたら、とにかく面白い。
    芹沢鴨の一件が絡んでくるあたりから展開が加速して、山南敬助が追い詰められ脱走するところまでくると、本を閉じることができなくなる。

    新撰組やその周りの人々、一人ひとりスポットライトをあてながら、彼らの目線でそれぞれの出来事が語られ、物語が紡がれていく。細かく語り手が変わることで見えている側面がくるりと変わって、ミステリーを読んでいるようでもある。
    物事を表面的に見ていたり、良い面だけを見て満足していたり、欺いていたり、欺かれていたり。とにかく次が知りたくなって、目が離せない。


    今まで新撰組に対して関心を持ったことは無かったように思う。
    大河ドラマ「八重の桜」を見ていて、悲劇的な印象ばかりが残る戊辰戦争の中で、斉藤一を演じていた役者の鋭いまなざしと寂しげな瞳の中の光が妙に気になり、新撰組に興味を持った。
    配役によるイメージや脚本での描かれ方、人物に対する解釈によって、歴史上の人物への理解はずいぶん違ったものになるのでは、と予想していたけれど、この本の中の斎藤一は当初のイメージが重なる部分が多かった。

    土方さんの参謀ぶり、沖田さんの天真爛漫さ、永倉さんの正義感が強くまっすぐなところなど、それぞれが持つ魅力が存分に描かれ、新撰組は「ただ乱暴な人切り集団だったのでは?」という私の先入観をあっさりと覆してくれた。新撰組初心者にもキャラクターの造詣がわかりやすくて、助かる。

    近藤勇は、「リーダーとしての統率力に秀でた人」というより単純で素朴で表裏のない人で、思っていたよりずいぶん表面的なものに囚われている人に映った。だからこそ、感情をストレートに表現できない土方さんにとって、全力で支える価値のある大切な人。そこに魅力を感じた人たちは彼だけではなかったようで。

    土方さんは最初に登場したときの何者にもなれない焦燥感にじりじりする様子と中盤のぶれなさの対比が興味深い。許しがたい部分も持ち合わせ、多くの人たちから恐れられているのに、一本筋の通ったところが彼の本質を知る人を魅了し、信頼を得る。彼の信じるものは、頭でっかちな『学』ではなくて、経験と観察に裏打ちされた事実のみ。
    ナイーブで優しい性格を素直に表せない人。正直、近くにいたら面倒くさい人だと思うけど、本で読むとすごくまっすぐな人。周りが立ち位置を変えるからよくない評価を受けているけれど、本当は彼が絶対的な立ち位置にいる。そのことを知っている人が彼について好意的に語るシーンがとてもいい。

    ひょうひょうとしていて相手を油断させるほどでありながら、物事の本質をさりげなく見極めている沖田さん。

    三谷さんの「新撰組!」を見ていないので、詳しくないんだけれど
    山南さんは確か堺雅人さんが演じていたはず。う~ん、納得!
    本書だと若干浅い感じも漂うし弱さも隠せないんだけど、堺さんの瞳の奥がすーっと深い感じにぴったりだったのではないかと思います。

    こうやって書いてくるとずいぶん息苦しそうな話に思えるけど、時折ニヤリとさせる場面もあり飽きさせない。
    ままならなさ。せつなさ。
    『幕末の青嵐』というだけあって、いっときも留まっていられない時代の流れの中で、精一杯生きて、自分たちの存在を必死で肯定した青春群像劇なのである。


    「俺は人物が並みだから、こんな仕事ばかりお鉢が回ってくる」と永倉はつい呟いた。傍らで聞いていた斎藤は(中略)独り言のように言った。「普通でいられる奴が、一番強い。・・・(中略)生き残るには、普通でいることだ」(P171)


    彦五郎は、彼らの奔放な生き方に憧れながらも、自分の暮らしもまた豊潤だと信じている。・・(中略)・・・どこまで行っても手に入らぬと思い込んでいた美しいものは、存外、自分のすぐ近くにあるものだった。 それを知ったとき、今まで感じたことのない確かな幸福が、その人物のもとを訪れる。 (P255)

    「でも存外、よかれと思ってしたことが仇になることもあるんです。人が違えば感じ方や考え方が違うのは当たり前で、相手のことを全部わかったような気になっちゃ間違いがおきます」(P313)


    気持ちのうえではどこにも属さぬと決めていたが、俺にも存外甘い部分があるとみえる。(P418)


    あの激動の中で自分を失いそうになりながら、精一杯生きた人たちの言葉には重みを感じる。
    今まであまり手に取ることがなかった歴史系の小説が俄然気になりだしました!

    • nico314さん
      macamiさん、こんにちは!

      私は歴史小説ビギナーなのですが、おもしろかったですよ!史実をなぞる以上に、人物たちの口には出さない思い...
      macamiさん、こんにちは!

      私は歴史小説ビギナーなのですが、おもしろかったですよ!史実をなぞる以上に、人物たちの口には出さない思いがよかったなぁと。まず1人1人の人生があって、それを浮き上がらせながら歴史をたどるというのが私には合っていました。

      人と人との関わりにスポットライトがあたるような大河ドラマが結構好きなんですよ。
      よろしければ読んで感想を聞かせてくださいね。
      2013/08/21
    • nobo0803さん
      nico314さん

      こんにちは♫いつもお気に入り登録ありがとうございます!(^^)!

      私もこの本すごく気になります!
      時代小説はほとんど...
      nico314さん

      こんにちは♫いつもお気に入り登録ありがとうございます!(^^)!

      私もこの本すごく気になります!
      時代小説はほとんど読まないのですが・・
      新選組は歴史を習ったころからなぜか大好きで。
      三谷さんの「新撰組」は欠かさず見てました。
      山南さん、そうです!今は「10倍返し」の堺さんです。
      新選組は好きだといいながら、山南さんの存在を知ったのは恥ずかしながらドラマを見てからですが・・堺さんの山南さん素敵でしたよ♫

      新選組の1人1人のことが丁寧に描かれているみたいで、ぜひ読んでみたいですφ(..)メモメモ
      2013/08/25
    • nico314さん
      nobo0803さん、こんにちは!

      とてもおススメです!読まれたら、ぜひ感想を教えてください!!

      もともと、みおつくしシリーズや...
      nobo0803さん、こんにちは!

      とてもおススメです!読まれたら、ぜひ感想を教えてください!!

      もともと、みおつくしシリーズや葉室鱗さんの本はとても好きで、注目していました。
      でも、実在の人を描いた本はそれらと違って作者のの目線で
      彼らを評価して、肉付けをしていると思うとちょっと怖い(←わかりますか?)ような 気がしていました。
      私にはとてもすんなり受け入れられました。
      noboさんも気に入ってくださったら嬉しいです。
      2013/08/25
  • 初の木内昇作品です。
    資料に基づく安定したベースの上で展開する文章の巧みさにすっかり虜になってしまいました。

    新選組の結成から最後までを描いた物語。
    新選組隊士や幕府関係者の個人の目線で物語が展開していくのですが、それぞれの想いや周囲の人物に対する感情が鮮やかに描かれているため、彼らがどんどん身近な存在に感じられてきました。
    あとがきで、木内さんは「描く時代に自然と同化してしまう、そういう巫女的な才能の持ち主であるようだ」と評されていますが、まさに新選組の面々が著者に憑依したかのように思えてくるのです。

    登場人物1人1人がとても魅力的なのです!
    怜悧の裏に情に厚い自分を隠している者。
    天真爛漫に、感覚のままに生きている者。
    学問や思想に重きを置き、その実現を目指す者。
    同じ組織に属していても、不満を抱えたり、反発したりしつつ、それぞれの生き方を追い求めていった若者たちの姿に姿勢を正されることたびたびでした。
    動乱の時代をもがきながら生きた若者たちによって語られる言葉だからこそ、読者の胸に迫るものが強かったのかもしれません。

  • 志を持った男達の生きざま!すっかり虜になってしまった。

    新選組のメンバーが順番に語り手となり、他のメンバーのことや時勢について語る。
    同じ時勢のことも語り手が変わると違った印象になるのも面白い。
    メンバーそれぞれの個性もよく分かりクスッとなったりニヤリとしたり、切なくなって泣けてきたり悔しくて憤ったり、と様々な感情が次々にわき上がる。
    幕末の時代の波に翻弄された若者達。
    初めは全員が揃って志を高く持ち、先へ、これよりももっと先へ…と突き進めると信じていたはず。
    けれど思惑は人それぞれで、不器用な若者達の野心が手探りで交錯し絡まっていく。

    「なにも持っていないということは、実に強い。こうした動乱の時期こそ、なにも持たぬ者からなにかが生まれてゆくのかもしれない」
    何も持っていなかった若者達が様々な葛藤を経て何かを掴み新たに生み出し、それにより時代も動く。

    「周りから馬鹿だと言われようが、これと思えるもんがあるなら、とことんやり通したほうが面白ぇさ。そうすればきっと、はっきり景色が見えるんじゃねぇか、と思ってさ」
    己の全てを新選組に捧げた男・土方。彼にはどんな景色が見えたのだろうか…。

    新選組がとても身近な存在に思えた作品だった。

  • ブクログお友達の魅力的なレビューが無かったら全く知らなかったし手に取ることもなかっただろう作品。出会えて良かった。

    初めての著者、初めての新選組。
    新選組に詳しくなかった私には、細かく視点が変わるスタイルも、時間軸通りに進んで行く流れも、とてもわかりやすくて良かった。

    新選組という組織全体に対する印象は、読み終わってからもあまり変わらず、私の中で特に美化されたわけではない。
    しかし個々の登場人物に関しては、これは著者の描いた架空の性格や行動であるのだと思いつつも、沖田、永倉、山南、土方、斎藤が良かった!

    武田の狡猾さを描いたところでは、現代にもこういう人間いるよなあと思わず笑ってしまい、藤堂の最期では泣いた。
    その藤堂の最期あたりから、彼らが怒涛の政変にのみ込まれていく様は、もう目が離せない。

    その片時も目が離せない段階を電車内で読みつつ、今日は習い事へでかけた。
    レッスンが始まるギリギリまで読んでいたから、周りの皆さんから「何読んでるの?」と声がかかる。
    「新選組です。今鳥羽伏見の戦いなもんで」と私が答えると、誰しも「ああそりゃ佳境だ、大変だ」って反応になるのが面白かった。

    本書を読みながら、色々調べまくり、書きまくり、私の中でやっとこの時代の点と点が繋がって線になった。
    面白かった!

  • 各編ごとに有名無名の新撰組隊士が主人公になる短編集。
    一人一人の人物描写がとても丁寧で今までになかった新撰組作品だった

  • 面白かった!!!

    新選組本は何冊か読んできましたが、
    その中でも特にお気に入りの一冊になりました!

    まだ薬売りをしていた土方さんが、天然理心流と出会う所から、
    やがて新選組として名を馳せ、はるか北の地にて果てるまで。
    次々と視点(語り手)が変わる所が面白いですね。

    同じ出来事でも、視点が変わればこんなにも違って見えるものなのか。
    主人公にはついつい肩入れしてしまう傾向があるので、
    彼らと敵対する人間からも描かれる物語は、とても新鮮でした。

    人一倍情に厚いのに、絶対にそれを表に出さない不器用な土方さん。
    子供のように明るく大らかで、でもどこか掴めない飄々とした沖田さん。
    一匹狼で決して自分を失わない斎藤さん、博学で優しい山南さん。

    皆が自分のイメージの中の隊士達そのままで、嬉しかったです。
    特に土方さんの恰好良さは異常(笑)

    山南さん切腹の場面や平助君の最期等は、涙なしには読めません。
    女性作家さんだからか、危ういシーンもなく綺麗で爽やかな印象。
    でも底流にはどっしりと芯の通った強さがあります。

    新選組好きなら必読です!!!

  • 司馬さん以外の歴史小説を読んだのは初めてで、個人的にはこれは画期的なこと。読まず嫌いだっただけだが、司馬さんほど楽しめなかったらどうしようという贅沢な恐怖があったからだ。
    母に薦められた『茗荷谷の猫』が面白かったので他の作品も…と思って出会ったのが本作品。本当はもう一つの無名隊士に焦点を当てた新選組モノのほうに興味を持ったのだが、司馬『燃えよ剣』の内容もすっかり忘れてしまったことだし、メインストリームから攻めることにした。
    隊士及び関係者たちが、短い章ごとに代わる代わる主格となって語っていくスタイルで、とても読み易い。テンポも良い。悪役っぽい芹沢鴨や伊東甲子太郎も含めて、それぞれ頑張ってるな、という群像劇らしい感じになっていて、どの人物もきちんと印象に残る。(それは大河ドラマの『新撰組!』を見たあとだからかもしれないけど…。)
    多摩時代からの仲間同士のつながりを重く描いているのも、大河ドラマにちょっと似てるかなあ。うろ覚えながら、『燃えよ剣』では流山で歳三と勇が袂を分かつシーンは、人と人とが同じ考えで同じ方向を向いて歩き続けて行くことはできないんだな…という思いで読んだ気がするが、大河も本作品もそういう描き方ではなかった。歳三の勇への思いと、勇の歳三への信頼と、それが通じ合って結果勇は官軍の元に行く。

    大河がバーモント甘口、燃えよ剣がジャワカレー辛口とすれば、木内昇の本作品は、バーモント辛口かなあ(笑)

  • 新選組の始まりから終わりまでを登場人物それぞれの視点で物語る小説。
    のべ43もの主格で綴られた本作、小説としてもかなり珍しいものなのかもしれない。各人の心のつぶやきで織りなす物語は細やかで時に美しい。登場人物のキャラクターもかなりはっきりとしていて分かり易い。作者は相当に資料を研究して自分の中に落とし込んでこの小説を描いたのだろうなと感心しきり。史実にもかなり忠実と思う。

    司馬先生の描く新選組とは異なり、男臭さや血生臭い匂いはなぜか無い。なぜだろうと思ったが、女流作家だとのことで合点がいった。うまく言えないが、綺麗なのだ。司馬先生の新選組ももちろん豪快で素晴らしいが、こちらも良いと思う。

    藤堂平助の最期は、これは流石に出来過ぎだろうと思いつつも目頭が熱くなった。こうだったら良かったねとみんなが願う事が書いてあったように思う。
    では、当の本人はどう書いているのだろうと思って永倉新八が書いた新撰組顛末記を見てみたらやけにアッサリ、事実だけを記しているに過ぎなかった。切った三浦が、恩人の藤堂を切ってしまった罪の意識に耐えきれず気が狂って死んでしまったとのミニ情報を加えてあったが。

    余談だが、沖田総司だけはご本人から苦言が出るんじゃ無いかしら…と思ってしまった。もうちょっとカッコいいシーンがあっても良かったかな…?

  • 新撰組ファンとして読んでよかったと心から思う小説だった。
    ”よくあそこまでやったという崇敬と、さぞ大変な仕事だったろうという痛みと、きっとあれでよかったのだという願いと。”これは小説の最終章、佐藤彦五郎によって語られる言葉である。『幕末の青嵐』を読み終わったあと、私はまさにこの言葉のように複雑で一言では言い表せない感情に襲われた。
    それぞれの視点で描かれるこの小説では、近藤や土方を筆頭に新撰組に関わった人物達がとても色鮮やかに描かれている。視点の主によって人物への印象がことなり、それによって人物に深みを与えている。
    始めはどこか心の距離があった試衛館のメンバーの間に、強い情が生まれていくのがよく分かり、それがとても嬉しいと同時に彼らの行く末を思ってとても辛い気持ちになる。油小路以降、ひたすら悲劇的な展開で読むのが辛かったが、それでも止められないのが新撰組の不思議な魅力である。
    それは彼らを見ているとこの結末が必ずしも悲劇的なだけだったとは思えないからだろう。特に土方は権力にも時勢にも媚を売らず、自らのやりたいことをやり遂げたのだ。土方のあの最後をただ悲観するのは土方に対する冒涜だろう。
    小説の最後に語られる佐藤彦五郎の言葉は新撰組への愛に満ちており、作者がいかに新撰組に愛情を抱いているかがよく分かる。本当に読んでよかった。

  • 同じ人物でも事柄でも見る人が違えば立っている立場が違えば印象も評価も変わる。
    視点が次々に変わるのでとても立体的で解りやすい。
    新選組に限らずだけど、史実と史実をもとにした小説はまた別物と思っているので、数ある説のひとつをとっているというところに特に個人のこだわりはないから、たとえば池田屋で沖田総司が喀血してもしなくても、竜馬暗殺が誰の手によるものであっても、別にいいんだ。
    それよりも隊士たちがみんなあの時代を生きて生き抜いたってとこがとても泣ける。

  • 近藤勇・土方歳三・沖田総司山南敬助・藤堂平助・斎藤一・長倉新八
    原田左之助・井上源三郎・芹沢鴨 そして.....

    幕末の、新選組の志士たちの生きざまが、清らかで勇ましく美しい....。
    一人一人が成し遂げたことは、若者の純粋な心そのものといつも思います。

    これが最後...と知っていても、命を絶たれる瞬間は身につまされます。

    新選組の主だった隊士たちそれぞれの、モノローグで語られる幕末記。
    一人一人がどんな思いであったかがじっくりと語られている分
    読み手に伝わる気持ちもより深いです。

    木内昇さんやっぱり好きです。

  • 本作は現代風の言葉で綴られているので読みやすいですが、
    ある程度、新選組の動きを知っていた方がいいとは思います。
    新選組の上洛前からの話をそれぞれの章に区切って
    隊士や主に幕府側の人物によって語られてますが、
    章によって、目線が変わるところが面白いんです。
    語り手の隊士などの心の呟きやら、目線から
    その隊士だけでなく、他の隊士の輪郭がハッキリしてくる。
    作品によって、描かれ方は色々なんだろうけど
    その隙間を埋めたり、印象が少し変わったりと
    別の意味でも楽しめました。

  • 江戸での出会いから、京都へ上るいきさつ、新選組としての活動。つぎつぎに視点を変えて、時代の推移を追っていきます。
    江戸では跡を継ぐ立場にない若者達が行き場を求めてあえぎ、どう転ぶかわからない時代の流れに乗ろうとしていました。
    近藤勇は愚直で人がよく真面目で、養父を素直に尊敬していた。
    頭がいいとは言えないが、幕府に一途に忠義を尽くす。武士になりたいと公言し、無理と笑われても言い続けていた。
    土方歳三は鋭い目をして剣の才もあるが、ひねくれ者で何をやっても落ち着かない、居場所のない人間だった。京都まで行って、水を得た魚のように、見事な采配をふるうようになる。怖がられる存在として隊をまとめるために、周りとはうち解けない。
    沖田は無邪気で何も考えていないようでいて、時には人を見抜くような鋭い視線を向けてくる。
    三人は最初から無二の親友といったつきあいだったわけでもないという書き方だが、どう事情が変わっても信頼を貫き、他から見れば際だった絆があった。

    まったく個性の違う隊士たちが、お互いに向ける視線も面白い。
    鬱屈を抱えた破滅的な芹沢鴨。
    平凡だと自分では思っているが、冷静で豪胆な永倉。
    知的で穏和な人柄だが、どこか弱さがある山南。
    兄のように試衛館道場の皆を見守る穏やかな井上源三郎。
    新選組乗っ取りを狙っていた高慢で端正な伊東甲子太郎。
    真面目で誇り高い若者・藤堂平助。
    剣が第一で、寡黙で孤独がちな斎藤。
    いい加減に立ち回ろうとする者も。

    苛立ち、勇気、疑惑、嫉妬、決断、悲壮、信頼、慚愧、感嘆。
    息詰まるような空気を表現して、臨場感があります。
    精いっぱい生き抜いたさわやかさも。
    北へ向かった土方の一人でも軍を動かせる有能ぶりと、鬼の副長だった肩の荷を下ろしたかのような優しさ。そんな土方に信頼を伝える斎藤。
    小姓の市村に兄へ遺品を届けるようにと命じて戦場から離れさせる土方。
    思い出しても泣けてくるよう。
    2003年に書かれた作品。

  • 試衛館から函館五稜郭の戦い(回想)までを、複数の視点からえがく小説。語り手はほぼ全員幹部隊士だけど、小説としては珍しいなって人物もいる。
    これまで新撰組を題材にした小説を何冊か読んでみて、それぞれ程度は違うけど題材の核になるようなものがあるかなとなんとなく勝手に思っている。青春、悲劇、志を遂げる…みたいな。この作品は、3つの中でほんとにちょっとだけ青春の要素が多い感じ。全体的に文章が柔らかくて爽やか。ただし山南さんの切腹、油小路の変など後半に行くにつれて涙なしでは読めないので注意。あと、斎藤一さんの人物像が私の好みだった。

    ゲームなどの影響で新撰組が好きなのでついそちらに肩入れしてしまうけど、薩長が勝つ歴史がなかったら今のままの日本はないかもしれないし、立場が違えば正義も違うから難しい問題だね。今度は薩長関係の人物を主人公にした小説を読んでみようかなぁ。

  • 【推薦コメント】
    小説の中では個人的に一番のオススメです。新選組の話で、新選組の決起から終焉までを時代の転換とともに、色々な人の視点で描かれており臨場感があります。
    言葉の紡ぎ方、表現どれをとっても美しく、時代小説を読んだことのない方にも読みやすい話だと思います。
    (現代システム科学域 2年)

    【所蔵館】
    総合図書館中百舌鳥

    大阪府立大学図書館OPACへ↓
    https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000952590

  • 読んで良かった~!!
    土方歳三、近藤勇、佐藤彦五郎、沖田総司、山南敬助、井上源三郎、斎藤一、等々複数の視点から描いた新選組。それぞれの矜持や思想が違っているのも面白いし、近藤への評価もいろいろなのが新鮮で興味深かったです。そういうこともあろのだろうなぁと思わせる書き方、それぞれの人物の個性も活きていて、その人物がよりリアルに感じられました。特に終盤は泣けました。副長好きの私ですが、沖田や山南、斎藤、永倉にもグッとくるものがあり、とても良かったです。
    お薦めです。

  • 作者が別の作品で直木賞を受賞したときに平積みにされていたので、ものすっごく久しぶりに、新選組の「小説」を読みました。幕末に関しては、ある程度読みつくしたところで、作者の主観や妄想で隙間を埋めたある種の二次創作ともいえる「小説」より、まじりっけのない原液の「史実」のほうに興味がいってしまい、あまり小説を読まなくなっていたのですけども。そういう意味では、これはとても質の良い二次創作でした。名前のせいで男性作家かと思っていたら、女性なのですね。そのせいか否か、歴史モノというよりは青春群像的人物描写に重きをおいた描き方で、視点も細かい章ごとに次々変わり、色んなキャラクターの心情を丹念に追った作品になっていました。天真爛漫だけど何か欠落したような沖田さん、一匹狼で得体の知れないところがある斉藤さん、短気で短絡だけどわかりやすい原田さん、「最強の凡人」とでも呼びたくなる永倉さんなど、個々のキャラ解釈に目新しさはありあませんが、それぞれ上手く捉えてあって、とくに永倉さんのキャラの出し方は良かったと思います。

  • 中学生の頃に司馬遼太郎さんの「燃えよ剣」を読んで以来の新選組好きですが、本書は新選組初心者(?)の方にもおすすめの一冊かと思います。

    各章(?)ごとに主体を変えて、物語が進んでいくのですが、それぞれの視点での思惑や、人に対しての評価が異なるのが面白いです。
    読みやすく、不器用な彼らと、一つの時代を共に駆け抜けたような読後感です。

    本書の中では、特に斎藤が良かったです。特に最後の方での土方との場面はグッときました。

  • 複数の人物の視点から新選組の内情や隊士たちの心情が語られる事で、物事の経緯や心の機微まで細かに知る事が出来た。16人の立場から捉えた時勢の動きが、新選組という組織を浮き彫りにさせていて、その手法がすごいなと思う。しかし、細かく語られる事によって物語に余白がなくなり、「この時この人物はどんな心境でこの道を選んだのかな?」など考える機会が制限されてしまう事が私には合わなかった。同じ題材を扱っていても作者によって主軸としているテーマが異なり、興味深いなと感じた。

  • 数ある新選組を題材に扱った時代小説の中でも、最もおすすめの一冊。

    近藤勇が試衛館(天然理心流道場)の4代目師範の時代から、土方歳三が戦死したと言われる箱館五稜郭の防衛戦(戊辰戦争の最後の戦場)までを描いた小説。

    ■本書のここがおもしろい!
    時代小説では通例、主人公たる史人にフォーカスし、主人公目線でストーリー展開されていきますが、本書はその主人公が章ごとに変わっていきます。

    ある時は近藤勇の視点、またある時は斎藤一・藤堂平助等の隊士、そして時には敵方であった清河八郎等々、様々な史人の視点で物語は進んでいきます。
    これがかなりおもしろい。
    片側だけでなく、やる側/やられる側、双方の視点が書かれているのです。

    かつ本書は、視点が変わりながらも時系列が遡ることがないため、とても読みやすい。
    (「遡って◯◯年」とか「一方その頃」というのがなく、常に時間軸が先に進んでいる。)


    ■総論的な主人公は土方歳三
    主人公がころころ変わるとは言え、物語は一本筋が通っていて、読んでいて一貫性があります。
    それはきっと、物語の中で常に「土方歳三」がキーマンとして扱われているからだと思います。

    敵方/味方問わず、物語の中では常に土方歳三の一挙手一投足が取り上げられます。
    特にエピローグは、さながら司馬遼太郎さんの「燃えよ剣」の如く。
    土方歳三ファンも必見の一冊です。


    ■最後に
    本書は、物語として大変おもしろいのは言うまでもなく、時系列がはっきりしてて、かつ視点が多岐に渡るので、幕末の歴史変遷を理解するのにも大いに役に立ちます。
    (若干史実と異なる点もありますが、そこは小説ということで…)

    全体の構成は、司馬遼太郎さんの「関ヶ原」に似ているかなと思います。
    石田三成をベースに家康をはじめ、各地の藩主の目線でストーリーが展開される辺りが特に。
    (あの書籍も1600年前後の歴史を理解するのにとても役に立ちます)

    ぜひ読んでみては。

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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