寡黙なる巨人 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087465921

作品紹介・あらすじ

国際的な免疫学者であり、能の創作や美術への造詣の深さでも知られた著者。01年に脳梗塞で倒れ、右半身麻痺や言語障害が残った。だが、強靭な精神で、深い絶望の淵から這い上がる。リハビリを続け、真剣に意識的に生きるうち、昔の自分の回復ではなく、内なる「新しい人」の目覚めを実感。充実した人生の輝きを放つ見事な再生を、全身全霊で綴った壮絶な闘病記と日々の思索。第7回小林秀雄賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 凄いものに 触れてしまった!

    お前は ちゃんと 生きているのか
    お前は それで いいのか
    お前は そんなこと 言えるのか

    むろん 多田富雄さんは
    そんなことは 一言もおっしゃらない
    読んでいる方が
    自ずと 自分の「これまで」と「いま」を
    勝手に思い、勝手に考えさせられてしまう
    だけである

    折に触れて
    手に取ってしまう一冊が
    またできました

  • 養老先生の書評から手に取りました。脳梗塞からのリハビリの様子、心情が書かれています。養老先生と同じ位、頭脳明晰な方なので、随筆は難解なところがありました

  • 2001年に脳梗塞に倒れ、右半身付随と嚥下障害に苦しむ東大名誉教授の著者。倒れた直後の状態からリハビリの様子が当事者目線で語られる。

    障がい者の苦しみや不自由さは想像することでしか理解できなかったけど、その理解がほんの少し深まった気がする。同じく右半身麻痺と言語障がいがある義父を思い浮かべながら読み進めた。理学療法士に比べ、言語聴覚士、作業療法士の育成が進んでいないと書かれていたけど今(本書発行から15年後)はどうなんだろう。

    障がいを抱えながら執筆活動を続けたことは大変に素晴らしい。この方自身も非常に努力されたのだと思う。こうして当事者目線の本を残してくれた事もありがたいと思う。でも元東大名誉教授、妻が医者、自宅をバリアフリーに建て替え、大学病院まで徒歩数分の住まい…言い方はアレだけど上級国民である著者。何度も死にたい気持ちになったと書かれていたけど、本当に自死に至ってしまう側の人も世の中には沢山いるんだろうなぁ…と考えずにはいられない。

  • 身体が麻痺するとはどういうことか。
    血を吐くかの如くの身体感覚の記述に言葉をなくし、自分が、今は動くこの身体を得ている事の奇跡を思い知る。

  • 内なる「新しい人」の目覚めを実感

  • 60代半ばにして脳梗塞に倒れた免疫学者は、右半身の自由と言葉を失う。倒れる瞬間のこと。動かなくなった体のこと。病室のベッドでのこと。リハビリ。科学者は自分の体でさえ、ここまで客観的に観察し言葉にできるのかと驚く。と、同時にこの国での障がい者の暮らしにくさを思う。闘病記でありエッセー。

  •  尊敬する経営事務幹部職員さんから「社会科学の目と構え」を学ぶ上で、参考になる1冊があるとの紹介を受け購読した。本来、人に薦められた本を読むことはほとんどないが、今回の3冊は全て紹介書籍であり、自分でも珍しいと思っている。
     国際的な免疫学者であり、能の創作や美術への造詣の深さ、文学や詩集にも広い知識をでも知られた著者。2021年に脳梗塞で倒れ、右半身麻痺、言語障害、嚥下障害に対してリハビリテーションの日々を綴る。常に自死念慮にとらわれながら、日々関わるセラピストや家族・知人との交流もあり、深い絶望の淵から這い上がる。リハビリを続け、真剣に「生きる」うち、病前の自分への回復ではなく、内なる「寡黙なる巨人」へ目覚めていく。病後の充実した人生の輝きを放つ見事な再生を、全身全霊で綴った壮絶な闘病記と日々の思索が感銘を受ける。特に、2006年に起きた小泉構造改革による疾患別リハビリ日数制限への憤りと改善運動に傾注した著者の人権意識は、受け継ぐべき倫理観であると確信する

    私見
    理学療法士である自分が、30年以上患者・利用者の声をナラティブに聞いてきたつもりではあったが、こうやって文章として読んだ時に、まだまだ患者・利用者の声を聞き切れていない自分が恥ずかしい。若くして片麻痺となった主婦。子育て・家事の中で、明るく振る舞われているが、気づけばうつむき加減になって麻痺した右手をみて涙されるシーンを幾度見てきたことだろうか?セラピストとして働く時間は極端に少なくなったが、セラピストの後輩のために、共に学ぶ月1回の「脳の勉強会」を再開する。2000年9月にスタートして20年以上、コロナ禍で2年間の休止期間を余儀なくされたが、2月から感染対策をしながらテキストを用いて、私の生涯の課題である片麻痺・神経疾患セラピーの学習の再開は、嬉しい限りである。共に学ぶ意思を持って10名以上の職員が忖度して参加してくれるのには、申し訳ない気もするのですが…

    なお、本書にはセラピストへの不満も遠慮なく記載されているのだが、一部誤認、もしくは病院によるセラピーの質の問題提起がなされる。著者発症した2001年当時の嚥下リハビリテーションで言えば、1990年代より当時の聖三方原病院の藤島一郎先生が嚥下リハビリテーションを確立し、多くの著書を書き、嚥下リハビリテーションは全国的に随分普及していたと記憶している。1990年後半には言語療法士が国家資格として言語聴覚士となり、2002年の診療報酬改定では、PT・OTと同じ点数になった。しかし、1990年代後半のいわゆる「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」等に代表される金融不祥事と省庁再編(厚生省と労働省が合体して、厚生労働省など)と共に、小泉構造改革による医療費抑制政策は極限となり、我々リハビリテーションの分野では疾患別リハビリテーション料の導入に伴う、疾患別リハビリ日数制限問題は、大きな社会問題となり、短期間で40万を超える署名と共に、異例の2007年リハビリ診療報酬改定となり、逓減制の導入などで迷走して、2008年に診療報酬改定で期限越えの医療的リハビリテーションは月13単位(1単位20分)が認められ、小児リハビリは18歳まで無制限などとなった。この経過を患者側として運動を牽引して頂いた多田先生には、感謝しかない。

  • 多田富雄は脳梗塞で右麻痺となり言葉を失った。嚥下(えんげ)障害の苦しさを「自分の唾に溺れる」と記している。感情の混乱についても赤裸々に書いており、妻への感謝を表現できずイライラばかりが募る様子に身体障碍(しょうがい)の現実が窺える。それでも多田は表現することをやめなかった。本書は左手のみのタイピングで著した手記である(柳澤桂子)。
    https://sessendo.blogspot.com/2020/07/blog-post_30.html

  • 再読。知の巨人が、脳梗塞による半身不随を得て新たなる巨人として生を得るまでの魂の記録。
    倒れて、動くことも話すこともできなくなった中で、再び生きることへの希求を見いだすまでの記録、後半はそんな新たな巨人の視点で過去を振り返り、国を動かし、「生きる」姿を描き出す。

    初めて読んだ10年前は、前半の闘病記の印象が強く、後半はさらっと読んだが、年を重ね後半の方が心に残った。

  • 105円購入2013-10-05

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著者プロフィール

多田富雄(ただ・とみお、1934-2010) 
1934年、茨城県結城市生まれ。東京大学名誉教授。専攻・免疫学。元・国際免疫学会連合会長。1959年千葉大学医学部卒業。同大学医学部教授、東京大学医学部教授を歴任。71年、免疫応答を調整するサプレッサー(抑制)T細胞を発見、野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング賞、朝日賞など多数受賞。84年文化功労者。
2001年5月2日、出張先の金沢で脳梗塞に倒れ、右半身麻痺と仮性球麻痺の後遺症で構音障害、嚥下障害となる。2010年4月21日死去。
著書に『免疫の意味論』(大佛次郎賞)『生命へのまなざし』『落葉隻語 ことばのかたみ』(以上、青土社)『生命の意味論』『脳の中の能舞台』『残夢整理』(以上、新潮社)『独酌余滴』(日本エッセイストクラブ賞)『懐かしい日々の想い』(以上、朝日新聞出版)『全詩集 歌占』『能の見える風景』『花供養』『詩集 寛容』『多田富雄 新作能全集』(以上、藤原書店)『寡黙なる巨人』(小林秀雄賞)『春楡の木陰で』(以上、集英社)など多数。


「2016年 『多田富雄のコスモロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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