雨の塔 (集英社文庫)

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著者 : 宮木あや子
  • 集英社 (2011年2月18日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087466690

雨の塔 (集英社文庫)の感想・レビュー・書評

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  • それぞれ事情がある4人の美しい少女。
    人里離れた岬にある全寮制の女子校で出会い‥
    端正な文章で淡々と描かれるムードのある世界です。

    大変な資産家の娘だけが入ることの出来る特殊な学校。
    学生証をかざすだけで、広大な敷地内にあるテーマパークのような店でブランド物の洋服も流行のスイーツも手に入れられるが、出て行くことは出来ず、新聞もテレビもない。
    自由と情報はないのです。
    卒業すれば、どこの大学の卒業証書も手に入れられるという。
    提携している高校では「島流し」と称されていました。

    財閥の愛人の娘・三島敦子は、小柄で長い黒髪。
    愛人の娘の中では早くから三島翁に認知され、可愛がられてきたが、学校はここになった。
    都岡(つおか)百合子は母を知らない。母は名家の娘だったらしく、めったに会うこともない父は外国人。都岡はすらりとした西洋の人形のような外見だ。
    やはり資産家の娘だが、三島ほどではなく、都岡をそばにおきたがる三島に気に入られている限り続く関係だった。

    ひと気の少ない海沿いの寮に、新入りが入ってくる。
    男の子のように短い髪の矢咲(やざき)実。
    クラスメートだった黒川財閥の娘さくらと心中未遂を起こし、周囲の視線から逃れるようにここに来た。
    少し早く来ていた小津ひまわりは、母が中国人のデザイナーで、リルファンという名も持つ。
    少女の頃には人気モデルだったが、母は娘を一時的に利用しただけで本当の関心も愛情もなかった。

    閉鎖された空間で、可愛いもの綺麗なものに囲まれつつ、物憂げに日々を過ごす娘達。
    都岡はモデルだったリルファンのことを知っていた。
    矢咲は、さくらに似ている三島に惹かれ始める‥
    互いに少しずつ触れ合い、興味を抱き、人間関係が交差していきます。
    そのはかなさ、ほんのひとときの熱さ、動きの取れない切なさ。
    嫉妬も愛情も感じるけれど、どう生きたらいいかをまだ知らない脆さ。

    大学1年にしては無抵抗で幼い気もするけれど‥
    もともと孤独がちな育ち方もあり、こんな場所に入れられてしまったら気力も衰えるだろうか。
    しかし、こんな非現実的な4年間を過ごして、家が使う駒としてであっても、役に立つ大人になれるのかな?
    現実味はあまりないのですが、さらさら綴られる物語に酔いしれていたくなります。

    恩田陸の作品や、萩尾望都の作品を思い出しますね。
    もうあれは古典?
    宮木あや子が書くと、こうなるのですね。
    こうなる必然性はないのではと思う結末も、影響を受けた作品の雰囲気とモチーフの変形という観点からすると、わかるような気もするのです。

  • 「岬の大学」と呼ばれる周囲から孤立した全寮制の女子大に通う四人の女の子の話。自由に焦がれても周りに生き方を縛られ、お互いを求め合うことしかできない彼女達。この物悲しい美しさは、作中にも何度も登場し、タイトルに含まれている雨に似ているのかも。風も無く時折雨音が聞こえる程度で静かだけれど寂しいイメージ。こういう雰囲気は好きです。彼女たちが出会いによる変化は、前に進むために必要だったと信じたい。

  • 稀に見る読み心地の良い本でした。
    序盤を少し読んだだけで、ああ、こういう雰囲気凄く好き!と思えました。
    表紙もセンス良いですよね。きめ細やかな全てにときめける1冊。

    4人の少女の中で、一番思い入れが強かったのは小津でした。
    一番不幸せだと思われる彼女が、私には一番羨ましかったです。
    絶望して、諦観して、滅亡する…そう云うのにきっと、憧れがあるのです。
    矢咲を最も蝕ませる存在だったかもしれないけれど、
    少女って元々そう云った毒の花だと私は思います。
    矢咲って、この後どうなるのかな…というか、真意も気になりました。
    本当に身投げしてしまった事を知らずに、手紙を待っているのか、
    それとも何処かで彼女の破滅を察しているのかしら…。
    一度浮世から逃げるように、隠れるように、ラプンツェルの塔に籠って、
    そして塔から出て現実は続いていく…
    何かその方がよっぽど残酷な気がして。
    だから塔から身を投げて幕を引いた彼女が、一番羨ましいです。

  • 選ばれた資産家の娘達が
    通うことが許されている女子大学。

    着たい服も、
    食事も、
    なんでも手に入るが、
    学区の外に出ること、
    ニュースや情報は手に入らない。

    隔離された女子寮。
    そこに一人の女の子が入寮する。

    均衡を保っていた世界が、
    ほころび歪に崩れ
    絡まっていたものがほどけて切れる。

    「捨てられ」「逃げるように」「島流し」にあった娘たち。

    愛人、妾、結婚するための道具として、
    生を受けた彼女達。
    少女と呼ぶには危うい年齢の19歳。

    矢咲は大財閥の娘、
    さくらと心中事件を起こし
    情報や噂から逃げるように、この寮を訪れる。

    そこで出会ったのは、ルームメイトの小津。
    さくらに似ている三島。
    三島の奴隷である都岡。
    この4人だけの閉ざされた世界で物語は進みます。


    「・・・・・・やめて やめて やめて やめて」

    「触らないで 近寄らないで 微笑まないで 
     私を不安定にさせないで」

    必要とする、スキになる、そこで抱く絶望。

    仲が良かったからこそ、
    信じていたからこそ、
    ゼッタイの存在だったからこそ、
    一番近くにいるからこそ、
    支配したくて手に入れたくて、
    欲しいと思ったからこそ、
    じれったくて悔しい。

    愛しいからこそ、憎い。

    「誰かの心の中で一番必要になるのは、
     どうしてこんなにも困難なのだろうか。」

    どんどん物語が進むにつれ、
    イライラした三島はきっと私に似てる。
    一番感情的でストレートでどうしようもない。
    だけど、矢咲はずるい。
    わかってたはずなのに、もう背負うことはしないって。
    それなら最後まで貫いて欲しかった。
    抗うと決めたのなら、最後までちゃんとフォローしてよ。

    そこが19歳なのでしょうか。
    捨てることも、逃げることも、結局出来ない。うーむ。

    女性の肋骨を鳥かごと、
    発せられるのは鳥の鳴き声と描けるこの方。素敵でした。

    だけど、
    どこまでも第三者として読んでしまいました。
    それでもなんだかいろんな感情に翻弄される姿は愛しかった。

  • 資産家の娘だけが入学できる全寮制の女子大。
    衣食住全てがそろっているが、唯一手に入らないのは
    学校の外の情報と自由。

    過去に同級生と心中未遂をした 矢咲
    著名なデザイナーを母に持つ  小津
    母親のいない         都岡
    妾の娘として生まれた     三島

    裕福な家の生まれでも訳アリの4人は
    お互いに引かれあい、嫉妬、執着が
    それぞれの心を蝕んでいく。

    バナナのマフィン、大量のセブンスター、
    毒々しい色合いのグミベア、舶来煙草のロスマンズ、
    吸殻が積もるシャコ貝、それから髪から香る甘い桃の匂い

    女性ならこれだけで誰でも心惹かれると思う物
    けれど、いちばん欲しいものは無い。
    密封されたタッパーのような世界。

    4人の少女は、もう少女とは呼べない19歳。
    女性と少女の危うい狭間

    気になる→好き→触れる→絶望
    4人は互いに、繊細で触れたらすぐに脆くて崩れる
    破滅が待っているのを分かっているが
    でも、どうしようもなく惹かれる

    生きている3人は、自由を得て
    強く生きてほしいな。

    一番感情移入していた、小津の最後。
    あれは、矢咲はずるいよ
    ずるすぎる
    矢咲は、小津といたら過去の過ちを繰り返すのを
    知っていて最後はああなるしかなかったかも

    いつか、は、ない
    私たちには、今、しかない。


    目次

    この世の果て
    桜の海
    深夜の月
    浅葱の鳥
    歌のつばさ
    夕日の丘
    いつかのこと
    サルヴェイジの丘
    終息の断崖
    雨の塔

    解説 吉川トリコ

  • 甘酸っぱいラズベリー、もしくは蛇苺。
    甘く、切なく、どろどろとしていて
    けれど癖になる。それが体に毒だとわかっていても。

    この人の描く女性は、人を惹きつけるのが本当に上手い。
    完璧でないからこそ惹かれる、
    咽せかえるような「女」と孤独。

    マフィン、苺の指輪、空の写真。
    桃の香りとシャコ貝。
    女の子の大好きなものは溢れているのに、本当に欲しいものだけ手に入らない。

    **

    我侭な三島は自分に似ていて、ずっと嫌いだったけど
    最後の最後は心底ほっとした。
    少しずつ、前に進め。がんばれ。

  • 感情移入しやすい登場人物がいるとここまで抜け出せなくなるものかと...。
    自分の今の状況や性格が小津と類似していて、雨の塔ガンハマりしまして、間を開けず10周目くらいしてます。というより好きすぎて他の本が一切読めなくなってしまってある意味困りものです。

    ラストもよかったけれど、それまでの過程も読んでて退屈な部分がなかった。
    男性を経験したことないから分からないけど、辛いと知りながら同性同士で繋がっていたがる・ずっと傍にいられると思い込む・色んな面から同性に惹かれていくといったような、女性独特の内面?が上手く表現されているなと思いました。

    出てくる小物もケーキやら桃の香りやらマフィンやら、本当に女の子を堪能し尽くせる小説だと思います。

  • ずっと読みたい本リストに載っていたのですが、やっと読めました。
    資産家の娘だけが入れる、岬の学校。
    学生証をかざせば、キャッシュレスでブランドものからスイーツまで何でも手に入る。手に入らないのは、情報と自由だけ。読ませる設定で、独自の世界観を描いているのが、さすがです。

    耽美な世界に溜息がでそうになりながら、それでいてあまりに閉鎖的な世界に息を詰めながら読み切りました。
    宮木さんの本はいろいろと読んできましたが、その中でもこの作品の個性は特に強いですね。リアリティがどうとか、そんなの関係なしに、引き込まれます。
    この少女たちの年齢特有の潔癖さとか、視野の狭さとか、美しさとか・・・なんでこうも如実に描けるんでしょう。

    当たり前ですが、私にもこんな年齢の頃があって、こんなに美しい世界ではないものの、女子校に通っていたから感じる似たようなにおいみたいなものがありました。
    あの頃は、生きにくかったなぁ。
    大人になればもっと楽になることもあると今ならわかるけど、当時は常に刹那的で余裕がなく感じていた気がします。

    ガラスの結晶に閉じ込めたかのような、この美しくも儚い世界は、今にも壊れそうな危うさを孕んで人を魅了しますね。
    既読ですが、再び太陽の庭を読みたくなってしまった。
    それにしても、宮木さんは一体なんて世界を作り上げるんだろう。雨の日に読んだせいか、なかなか現実に戻ってこれなかったです。

  • この世の果てにある岬の学園。最新のファッションも、パティシエのスイーツも、何でも手に入るが情報は遮断された、豪奢な島流し。様々な事情を抱えた資産家の令嬢たち。

    グミベア。焼きたてのバナナマフィン。パフスリーブのベビードール。イチゴの指輪。桃の香りのシャンプー。ジンジャースパイス入りの甘い紅茶。シャコ貝の灰皿。

    同性と心中未遂を起こした矢咲、母に捨てられた小津、妾腹の子 三島、三島に捕らわれている都岡。

    外界と隔離されたラプンツェルの塔で、独占欲と満たされない想いの行き着く先は…。

  •  陸の孤島である学校に不要とされた少女たちが暮らしているお話。タイトルにもあるように曇天と雨音と共にある美しい袋小路。

     典型的な重苦しい系百合。典型的というと誤解を招くけれど、すれ違いと嫉妬と羨望と孤独に満ちた4人の少女(大学生だけど)の苦悩が主体。一度は憧れる小物が溢れているけれど、それが霞むくらいドロリとしてるのは女性特有の感性がなせるものじゃないかなと。
     どうしても恩田陸の「麦の海に沈む果実」が頭をよぎってしまうから比較してしまうけれど、これはこれでアリだと思う。決して読後感は良くない。
     こういうのもなぁ、女の子特有だよなぁ。そして好きな人は好きだと思う。

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その岬には資産家の娘だけが入れる全寮制の女子大があった。衣服と食べ物は好きなだけ手に入るが、情報と自由は与えられない。そんな陸の孤島で暮らす4人の少女-高校で同性と心中未遂を起こした矢咲、母親に捨てられた小津、妾腹の子である三島、母親のいない都岡。孤独な魂は互いに惹かれあい、嫉妬と執着がそれぞれの運命を狂わせてゆく。胸苦しいほど切なく繊細な、少女たちの物語。

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