楊令伝 1 玄旗の章 (集英社文庫)

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  • 集英社
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感想 : 82
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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087467055

感想・レビュー・書評

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  • ついに始まった。待ちに待った北方「水滸伝」の続編である。図書館で借りることを自ら禁じて文庫版が出るのをずっと待っていました。約三年間。これから約15ヶ月、胸躍る漢(おとこ)の世界に浸れます。

    「水滸伝」全19巻の概要、を著者自身が書いています。楊令の視点から見事にまとめていて、この二ページの一文自体が独立した作品になっています。そのまま、書き写したい。内容もそうですが、「文体」も私のお気に入りなので。

     何もかもが、真暗だった。
     覚えているのは、顔の青い痣からだ。青面獣・楊志。賊徒に破壊された村から救い出されたその日から、その顔の持ち主が、楊令の父となった。
     楊志は、「替天行道」の旗を掲げて腐敗混濁した宋の支配を覆さんとする反乱組織、梁山泊の一員だった。ある日、梁山泊の仇敵・青蓮寺の謀略によって、楊志は闇の軍に囲まれる。息子を守るため、楊家伝統の吹毛剣をふるって百人を斬り、楊志は壮絶な戦死を遂げた。そのときに浴びた火の粉によって、楊令の顔にも楊志に似た痣がついた。眼に焼き付けた父の死の光景は、顔の火傷と同じように、けっして消えることはないだろう。話す言葉を失い、ただ「強くなりたい」という思いだけが、楊令の中で大きくなった。
     楊志の死後も、楊令の居場所は梁山泊にあった。楊令の体には、父の遣った剣が強く刻み込まれている。やがて、豹子頭・林沖に剣技を鍛えられるようになった。林沖との立ち合いに、言葉はなかった。ただ打ち据えられる苛烈な稽古だったが、ひとりの男として対等に向き合ってくれているのだと感じた。
    梁山泊は楊志の後継者として、青洲軍将軍であった秦明を同志に引き入れる。楊令は秦明のもとで養育されるが、秦明を父と思い定めることはなぜかできなかった。ある日、熱を出した楊令のために、一人の男が薬草を取って崖から落ちて死んだ。その蔓草を秦明から手渡されたとき、溢れ出す涙を止めることは出来なかった。男の命が、そこにあった。以来、小さな布袋に入った蔓草は、楊令の懐にしまわれている。
     やがて魯達に連れられて、かつて史進や武松も暮らしたことのある子午山へと送られた。子午山に隠棲する王進から、楊令は本当の強さを学ぶ。王進とその母と、同じく子午山に預けられた長平と穏やかな暮らしを続けていたが、成長した楊令の元へ、病を得た魯達が訪れた。魯達は、梁山泊の同志たちとその志のすべてを楊令に語ったあと、憤死する。魯達が楊令に伝えたことの本当の意味は、まだ分からなかった。
     宋との戦は最終局面を迎え、ついに禁軍最強の童貫元帥が出陣した。激戦の末、梁山泊の要衝は、ひとつひとつ陥されていく。楊令は梁山泊に合流するため子午山を降りるが、カクキンとともに北に行き、女真族の阿骨打について遼と闘った。梁山泊では秦明、林沖らが戦死する。戻った楊令は林沖亡き後の黒騎兵を率い、父譲りの吹毛剣で兜を飛ばし頬を斬るも、ついに童貫を討つことはできなかった。
     かくして、梁山泊は陥落した。官軍に包囲され炎上した梁山泊で、楊令は頭領の宋江から「替天行道」の旗を託される。楊令にとって、生きることは別れの連続だった。瀕死の宋江に吹毛剣で止めを刺し、自らの胸に問いかける。人が生きることはなんなのか。すべてが闇のようなこの世に、光はあるのか。
     敵中を斬りぬけ、楊令は、ひとり梁山湖へと跳んだ。曙光を求めて。

    第一巻は梁山泊陥落より三年後。まだまだ助走である。楊令は遠く女真族が起こしたばかりの金国で幻王と名乗り、梁山泊とは一切連絡を絶っていた。やがてこれから北宋の滅亡が描かれるのだろう。そのとき、梁山泊の生き残りたちはどうなるのか。楊令はどうなるのか。新しく登場してきた英傑たちの落とし子たちはどうなるのか。「魯達が楊令に伝えたことの本当の意味は、まだ分からなかった。」と、書いているがそれはおそらくこの「楊令伝」を予言しているのだろう。

    男たちは寡黙だ。語る言葉ぽつぽつと。魅力的なのはやはり新しい人物たちだ。武松と燕青に鍛えられ体術の達人になりつつある候真、自信家でそれだからこそ危うい花飛燐、まだ12歳秦明の落とし子秦容の才能が開花していくさまを見るのはどきどきする。

  • 4.1

    少し間を空けてきました楊令伝。
    水滸伝とはどこかテイストが違うような、どこか暗雲が常に視界に漂っているような感覚。
    読み進めながらもずっと心がザワついていて、それはなにか希望と絶望が入り混じったような、どちらとも言い難い感情なのよね。

    最後のシーンは1巻の終わりとして相応しすぎるねとりあえず。

  • 梁山泊陥落から3年・・・
    皆んな苦労してきたんだなぁと思います。

    黒旋風や豹子頭が死んで武松や公孫勝の心にポッカリ穴が空いてますね。
    でも皆んな元気で良かった!
    期待の新人も沢山いるようで候真の体術は何処まで凄いものになっていくのか楽しみです。

    また子午山の王進様も健在で若者達の成長が期待できます。水滸伝の頃から子午山が一番落ち着きますね。

    洞宮山と太湖の塞がどう仕上がるかも楽しみです。



    最後に、呉用が生きていたのにはビックリ!
    皆んなから嫌われすぎて可哀想。
    一度、呉用も子午山に行ってみては?

  • 「水滸伝」の続編です。
    月並みな言葉だけど、北方さんの本は読み始めたら止まらない。
    続きが手元にないと、気になって気になって夜も眠れない(笑)

    やっと8月に文庫版が完結しそうなので、
    待ちきれなくて、ついに読み始めてしまいました。
    また至福の時間がやってくる~長いようで短い旅の始まりです。

    官軍との死闘から3年。
    散り散りになった梁山泊の同士達が、水面下で活動している。
    梁山泊の残党狩りは苛烈を極めるけれど、彼らには志がある。

    懐かしいメンバーが次々と登場して、胸が高鳴ります。心が震えます。
    そして志と共に亡くなった漢の子供達も新たに登場。
    彼らがひたすら待ちわびているのは、行方が知れない楊令…

    これからの展開が楽しみです!!
    秦明の息子・秦容は大きく成長しそうな予感。

    • 日向永遠さん
      nanacoさん、おはようございます^^ 
      楊令伝、読み始めたんですね!面白いでしょね!!自分もそろそろ揃えておこうと思います。またご一緒し...
      nanacoさん、おはようございます^^ 
      楊令伝、読み始めたんですね!面白いでしょね!!自分もそろそろ揃えておこうと思います。またご一緒したいです。
      2012/06/30
    • ななこさん
      日向さん、こんばんは☆
      楊令伝、とうとう読み始めちゃいました!やっぱり面白いです~懐かしい人達が沢山出てきて嬉しいです^^日向さんもまた是非...
      日向さん、こんばんは☆
      楊令伝、とうとう読み始めちゃいました!やっぱり面白いです~懐かしい人達が沢山出てきて嬉しいです^^日向さんもまた是非ご一緒しましょう♪楊令伝の次は、岳飛伝を読むという楽しみも増えました…
      2012/06/30
  • 梁山泊の生き残りたちがどう再帰していくのか、楽しみでぐいぐい読んでいたのだけど、楊令が…。
    なんでこんなになってしまったの?
    宋江の遺志について、どう思っているの?
    疑問がMAXのところで次巻に続く。
    少年ジャンプかっ!

    初代梁山泊のメンバーに比べて、ジュニア世代がみんな戦闘力高い。
    花栄の息子、花飛麟の正確に問題があったけど、王進のところに行ったからにはまあ大丈夫でしょう。
    しかし彼も扈三娘が気になるのですか。そうですか。

    そして呉用。
    相変わらずみんなに嫌われまくっている。
    宋江がいたら「お前も損な役回りだな」ってきっとわかってくれると思うのだけど、もはや宋江はいない。
    こんなにみんなから浮いた状態で、この先やっていけるのか、呉用。

    いざ、次の巻へ!

  • 生き残った漢たちが見せるは、生き様か、死に様か。

  • 梁山泊陥落から3年後を描いた物語の始まり。
    『岳飛伝』を読むにあたっての再読。
    宋江が招安に応じて帝のために働く元々の水滸伝の退屈さとは全く違う北方水滸伝の続編です。
    かつての好漢の生き残りや息子たちが、胸の内に「替天行道」を秘めつつ再起を期していますが、やっぱりどうしても昔からの好漢を贔屓してしまう自分がいます。

  • 大水滸伝シリーズ第二章のスタート。
    梁山泊陥落から三年。敗北の痛手と虚脱感を抱えながらも再起の準備を進めていく面々。燕青、武松は候真を伴い楊令の行方を追い金国へ。
    三年間の辛苦を経てそれぞれ心境の変化が見られ中々すぐに再スタートとはいかない雰囲気。
    ギラギラしていた歴戦の強者たちもどこか丸くなった印象。(みんな呉用と馬が合わないのは相変わらずだが)
    そんな中でも花飛麟、候真など次世代の若者の成長も見られる。
    そして焦らしに焦らしてラストでようやく楊令が登場。
    闊達な若者がなぜ苛烈な戦いを続ける「幻王」になったのか。
    いつ帰還するのか。梁山泊に何をもたらすのか。
    次巻以降も楽しみだ。

  • 2011年09月 02/055
    文庫版が出たので、読み直してみました。ハードカバーは実家にあるものの途中までしか読めていません。
    2回目なのでじっくり読み込み。旧知の人物がでてくる感覚が、再会気分でうれしい。世界観にたっぷり浸りながら読むべし。

  • 水滸伝の凄さをどんな形で継承・展開するのか?
    それが、この作品に対する俺なりの期待だ。
    壮大な交響曲の第一楽章プロローグという感じの第一巻だった。
    単行本でこの作品についての書評等はある程度知っている。
    が、何か違うのではないかといつも思っていた。
    さて、この物語の終わりにどんな感想を持つのか今から楽しみでならない。

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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