インターセックス (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 110
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087467291

作品紹介・あらすじ

「神の手」と評判の若き院長、岸川に請われてサンビーチ病院に転勤した秋野翔子。そこでは性同一障害者への性転換手術や、性染色体の異常で性器が男でも女でもない、"インターセックス"と呼ばれる人たちへの治療が行われていた。「人は男女である前に人間だ」と主張し、患者のために奔走する翔子。やがて彼女は岸川の周辺に奇妙な変死が続くことに気づき…。命の尊厳を問う、医学サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • すごいなぁ。素晴らしい作品だった‼︎
    602ページ夢中で読み、今朝の電車で読み切ってしまいました。何度も胸が熱くなり涙が滲みました。ますます帚木蓬生作品、好きになりました。

    人間性そのものへの探究と、事件性のミステリーとの両面、どちらも読み応えたっぷりです。
    ちょっと大袈裟な言い方だけど…全人類が読めば良いのに…なんて思いました。

    泌尿婦人科の医師、秋野翔子は、天才と評判の医師、岸川に誘われて、サンビーチ病院に転勤する。
    医療技術や人材も、施設も充実した病院で、翔子の人柄と技量に魅了され、病院にも活気がでる。
    そんな中、翔子は、岸川の周辺での奇妙な変死に気づき…!

    両性具有という言葉は知っていたけれど、インターセックスというのは『性分化疾患』という医学用語も使われているそうです。ネット検索したら、
    「体の性に関する様々な機能・形・発達が、一般的に『男』『女』とされる典型的な状態と一致しない部分がある」という状態。
    (以下ネタバレあります)

    染色体の区別だけではない、形や機能も、そして気持ちも…。
    医学的な考え方で、早くどちらかに決めた方がいいと、赤ちゃんのうちから手術され、思春期にも周りに隠しながら、何人もの研修医たちに見られながら、手術を繰り返す。

    それに対して、翔子は言う。
    (注: 私の抜粋です、本文ではもっと詳しい)

    「しばらくこのままでいい。形はどうあれ、赤ちゃん自身が元気なのに、白黒つけるための手術は…幼い頃から何度もメスを入れられ取り返しのつかない傷をつけられる。書類やしきたり上は、男か女か決めろと、世間の目もそうでしょう。でも、親や家族は真ん中も許されるのだという信念を持っておくべき。大人になって、18歳くらいになって、本人が決めれば良い。それまでの辛さをやわらげてあげるのが、両親、家族、そして医師です。
    もちろん辛いこともあるでしょう。形以上に気持ちが揺れ動く。気持ちは外見で決まるものではない。
    男、女ではなく「人間」として考えて接してあげる。家族の中ではタブーとせず、オープンに話し合う。もちろん私もずっと相談に乗ります。
    自分の意思でしたことは耐えられます。意思に反してされることは、傷として心の中に残ります。」

    この辺りの、悩む両親とのやり取りが…もう、翔子の素晴らしさに、当事者たちの苦悩に、涙が出ます。
    ドイツでの自助グループのシーンも切なくて力強くて、素晴らしい。
    この中でも、男と女だけでなく、その真ん中を3つに分けて5つの性として考えるといい!という話もあり、なるほど〜と感じました。

    日本中に、世界中にそういう人たちが本当はたくさんいて…言えないからわからないだけなのだということ。

    もちろんこの世には沢山の病気があり、難病、心の病、それは数限りないと思う。好きで病気になる人はいないのに…。
    大っぴらに言えない、周りの目が嫌で、恥ずかしくて、何を言われるか差別が怖くて…そういう理由で人に言えない病気って多いと思う。(私自身も経験あります)

    翔子の言葉にもあります。
    「コソコソする必要なんてありません。何も悪いことをしてないのだから」そう!そうなのに…。

    人間として生まれ、人間として生きることが大切。そんなことを、いろいろ考えながら読みました。
    インターセックスに限らず、人に言えず悩んでる人、みんなに読んで欲しい傑作です。

  • 当事者にしてみれば「興味深い」なんて言ってはいけないのかもしれないけど、世間であまり話題にされることのない、生まれつきの「インターセックス」を題材にした長編。
    最近、性同一性障害などはわりとオープンになってきたけど、体そのものが男性器と女性器を両方兼ね備えていたり(ただしどちらも未発達のことが多い?)、または両方ともなかったりする「インターセックス」は、割合的には多く出産しているにも関わらず、当事者が声をあげることなくひっそりと生きているため、問題にされることが少ない。
    主人公の女医は、赤ちゃんのうちに手術をしてどちらかの方に近づけるべき、という従来の考え方を転換させ、そんな体でもいいじゃないか、病気じゃない、そういう第三の性なのだ、ということを主張し、大人になってから自分は女性になりたいのか、男性になりたいのか、本人が決断を下す権利があるはずだという考えを貫こうとする。
    それだけでも十分に重たいテーマなのに、臓器移植や不妊治療、病院の経営のありかたなどなど、いろんな問題が絡んできて、とっても読み応えのある1冊です。
    病院長が本当は信頼に値する人物なのかどうかがなかなか分からなくて、それが小説全体に緊迫感をプラスしていて面白い。
    でも、殺人動機がイマイチだったなぁ…。

  • 今帚木蓬生にはまっている。確実におもしろい。
    さすが精神科医である。
    精神を病む人を描く点では「閉鎖病棟」などと共通しているが、
    この作品は染色体異常により「インターセックス」と呼ばれている男性でもない女性でもない人たちを専門用語を駆使して描いている。
    作品的価値もさることなが、最近はわりに公にされてきたとは言え、社会的理解を得られない闇の部分もえがいてあり、感動した。
    「人は男女である前に人間である」この一言にもまた感動した。

  • ・インターセックスについて非常に勉強になった。知らない分野についてその人の気持ちまで知れたようになった。
    ・ミステリーとしてもワクワクしながら読めた。結末はあっけなかったが、最後の手紙で納得できた感じになった。
    ・病気についてもそうだし、行動理由とかいろんな動機とかもそうだけど、全てが論理的で納得できた。作者の頭の良さが光ってる。

  • 2017.7.21完読

    これ読むの結構時間かかったわー
    だけど、なんだか面白かった

    岸川先生が本当はやってなくて
    誰かに仕組まれたことだったら良かったのにー
    って本当に思う
    でも、何よりの一番の衝撃は、直子さんとデキてたこと

  • さすが医師の作品。学部の産婦人科でもそれほど学ばない分野を克明に記述していた。医師としてもなかなか読み応えのあるものだった。

  • かなり前に「エンブリオ」を読んでいてよかった。この作品は、その中に出てくるサンビーチ病院が舞台。っていうか、読んでおかないと繋がらない部分もあるかも…

    それでも冒頭の医療裁判からグイグイ、読んでいけます。おもしろい。


    ミステリーでもあり、インターセックスを勉強することもでき、読んだ後にジェンダーについて考えさせられました。

    影に隠れている医学。ISを語る人たちが苦しみや乗り越えていこうとする強さを告白するシーンには胸を打たれます。


    精神科医の肩書きを持つ作者だからこそ、描けるんだろう。

  • 性染色体の異常で性器が男でも女でもない、<インターセックス>とよばれる人たち。
    性同一性障害については近年マスメディアに取り上げられることも多いけど、インターセックスについては全く知らなかった。出現頻度は百人にひとり半、日本で毎年千人弱は生まれているとは・・・
    舞台が(おそらく)福岡、冒頭部分はうちのご近所の裁判所あたり、著者は九州大学医学部卒、ということでさらに引き込まれた。

    ”(解説より)二つのミステリーが交叉する物語である。一つは、通常のエンターテインメントとしての、犯罪と謎解きを意味するミステリー。もう一つは、人間の性、性別そのものを大きな謎ととらえて探求するミステリーである。”
    うん、前者のミステリー(医療サスペンス)は王道とっぽいいうか途中からそこそこ読めたけど、それだけじゃなく「性の多様性」について絡むことで圧巻だった。超分厚いけど一気読み!

  • 帚木蓬生さんの作品実ははじめて読みましたが、読みやすいです。
    こちらも、あっという間に導入から引き込まれ読み進みました。
    ミステリ仕立てだったようですが、実は知らずに読んでいたので、人間について書かれたものかと思っていたら、段々とそちらの方向へ。
    しかし、そうであってもヒューマンドラマを書き込んでいる為、途中コンテンツが詰め込まれすぎ、話の本筋が見えなくなりますが、最後で駆け足に纏めています。
    ちょっと導入が良かっただけに、途中膨らみすぎて、最後駆け足が残念かなとは思いますが、基本的にはお薦めの一冊です。

  • サスペンス物としては今ひとつだけど、
    詳細な医療描画が素晴らしかった。
    インターセックスに関する知識が身についた。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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