星へ落ちる (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.48
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本棚登録 : 599
感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087467413

作品紹介・あらすじ

彼には同棲している男がいる。私は彼が来てくれた時に迎え入れればいいだけで、彼を望む権利などない-(『星へ落ちる』)。彼の彼氏に嫉妬する『私』、彼に女の影を感じて怯える『僕』、出て行った彼女を待ち続ける『俺』。相手を愛おしいと思えば思うほど、不安で押し潰されそうになってやり場のない感情に苦しんでしまう男と女と男を、それぞの視点から描き出した切ない恋愛連作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 2021年最後のブックレビューです!

    誰かを死ねって思うほど、自分が死ぬって思うほど、毎回誰かを好きになっていたら、わたしはこれから先、何人の命を奪ってしまうのだろう。

    好きな人を忘れられないのは、そこにあるのが好きって感情だからなのか、もっとこうしたかったという後悔なのか、それともそれは執着や依存の類なのか。

    自分が壊れてしまうほど、誰かを好きになるのなら、いっそのこと誰かを好きにならない方がいい、とすら思う。恋愛が素晴らしいことだ、って誰が決めたの?
    誰かを好きでいることでこんなに壊れるくらいなら、いっそ死んだ方がマシだと思ってしまう人に、「そんなことないよ」って、「生きてればきっと、もっといい人に出会えるかもしれないから」って、誰が言える?
    だって、次に好きになる人だって、きっと同じようにわたしを壊すもの。
    だけどそれでも、人はきっと、いや、わたしは絶対、誰かを好きになる。

    嫉妬にまみれて苦しむよりも、苦しまずに平穏に過ごす方がいい。そんなことわかってるし、そんな風にわたしに平穏な生活をもたらしてくれる人がいることだって知っている。
    なのに自ら自分が苦しむ道を選び、結局苦しむことになる。
    安定を求めていたはずなのに、気づけばなぜか刺激を求めて不安定になっている。
    刺激を求めて、気づいたその先にあるのは満足ではなく渇望だ。何をしても、決して満たされることのない、渇望。
    結局、わたしが求めているのは、安定なんかじゃない。誰かを好きになっても満たされない、心の奥の奥の方から常に湧き上がってくる、欲望の塊だ。これは、わたしの命が尽きるまで、ずっとずっと、湧き上がってくるのだろうか。それとも、どこかで湧き上がるのをやめるのだろうか。それは、勝手にやんでくれるんだろうか、それとも、わたしが自らやめないと、湧き続けるのだろうか。苦しいよ。

    金原さんが描くのは、恋愛小説と見せかけた、いのちの物語だ。
    だからこそこんなにも苦しい。
    生きることの苦しさを描く物語は数多存在するけれど、金原さんの描くその苦しみは唯一無二だ。誰かを好きになることと、それに付随する依存と不安と孤独と衝動。
    わたしはいつも自分のことを貶めてしまうのだけれど、そんなわたしにも寄り添い、かつそれを否定も肯定もしない。そういう人がいる、そういう人がいたっていい、ということだ。
    そういう種類の優しさっていうのも存在していて、自分自身が、作品によって包み込まれている感じがする。
    いい意味でも悪い意味でも、自分を貶めちゃう時に読むと効果抜群。

    金原ひとみさん。大好きな作家さんです。
    こちらでも選んで頂き、大変嬉しく思います。

    https://booklog.jp/hon/event/bestofbest-20211223

    ブクログのみなさん、本年も大変お世話になりました。
    こんなわたくしですが、来年もどうぞよろしくお願い致します!!

    よいお年を!!

    • naonaonao16gさん
      bmakiさん

      あけましておめでとうございます!

      コメントありがとうございます!
      頂いたコメントを読ませていただいて、そんなに圧倒的迫力...
      bmakiさん

      あけましておめでとうございます!

      コメントありがとうございます!
      頂いたコメントを読ませていただいて、そんなに圧倒的迫力か…?と、思い、自分で読み直してみたら、迫力ありましたね(笑)
      2022年も、しばらくはこんな気持ちで過ごしそうです(爆)

      昨日、2021年の自分が聴いた音楽の再生回数のランキングを見ていたんですが、なんというか、曲のテイストが「プライベートでいろいろあったけど頑張って生きてる30代」感に溢れてました(笑)
      2022年もこんな感じだと思います(笑)

      結局、何をもって満たされるなのか、なんでしょうか。渇望ばかりしているわたしは「満たされる」を知らない。でも、渇望だけは知っている。だから、だから満たされようとしていても、渇望が邪魔をしてくるのかもしれません。
      少しは、その渇きが癒えるといいんですが…

      こんなわたしですが、2022年もよろしくお願い致します!!
      2022/01/02
    • bmakiさん
      (笑)
      「プライベートでいろいろあったけど頑張って生きてる30代」
      なるほど!きっと頑張って生きていらっしゃるんですよ!
      頑張っている...
      (笑)
      「プライベートでいろいろあったけど頑張って生きてる30代」
      なるほど!きっと頑張って生きていらっしゃるんですよ!
      頑張っている人に冷たい世の中ですからね。。。満たされることなかなかありませんよね。

      やっぱり手っ取り早く満たされるには、のんだくれるのが1番です(笑)
      とりあえず飲んじゃいましょ♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪

      naonaonao16gさんが満たされますように、かんぱーい♪♪
      2022/01/03
    • naonaonao16gさん
      まさに、呑んだくれてました笑

      やっぱり、自分より頑張っている人とどうしても比べてしまったり、無意味なことしちゃうんですよね。
      満たされる問...
      まさに、呑んだくれてました笑

      やっぱり、自分より頑張っている人とどうしても比べてしまったり、無意味なことしちゃうんですよね。
      満たされる問題も、たぶん自分で満たしてあげるしかないんでしょうけど、なかなか難しいです。きっとこのまま渇望していくしかないのかな…なんて思ったり。

      新年なので考え事は中止して呑んだくれてました笑
      2022/01/03
  • 「俺」の解りやすさと「彼」の解りにくさ、対比が面白い。

  • ストーリーはなんてことないのに、文章というか、行間の雰囲気が好きな感じ。
    よしもとばなな氏とか、江國香織氏とか。

    苦手感のある芥川賞受賞作家さんが楽しめた自分がうれしいw

  • 金原ひとみの相変わらずの病的な男女関係。
    「彼」をめぐる、「私」「僕」「俺」三人の関係性や感情を描いている。

    依存性の物語で「彼」の行動ばかりが気になり、最後には頼る、依存よりも結合、一体化したいともとれるような表現が多く見られている。また自分を他人によって証明されたい、求められたいという願望も垣間見える。

    この解説において、いしいしんじ氏が物語の中の関係性を宇宙の星や太陽、月を用いて示してあり、わかりやすく、タイトルにも結び付けてきて、やられたと思った。つか、ひとみ様もこれを踏まえて、当然書かれてますよね(汗)

  • これぞ金原ひとみ!というエグイ作品だけど 彼女の作品の中で一番と言えるくらい好きかも

    言葉の羅列に引きずり込まれるように 何度も何度も泣きそうになってしまった

    「嫉妬」「束縛」「依存」なぜ恋に落ちると人はこんなに執着してしまうのだろうか。。

    今となっては冷静に物事を考えられるけど 死のギリギリくらいの恋愛って 一生のうちでそう何度もないような気がするな

  • 連作短編っていうんでしょうかね。初出の雑誌やメディアがそれぞれ違う5編なんだけど、主人公らしき女性とその人が今好きな男性、元カレ、今好きな男性の恋人の男性という4人が登場する。
    自分としては、元カレくんに感情移入。いいやつなんだよね。去ってしまった主人公に泣き落としの電話をかけたり未練タラタラだったんだけど、地道に工場勤めしながら借金返して生きている。未練を断ち切ったような最後の登場にすくわれた。
    対して、幸せそうだった主人公は、疑ったり心配したりしてだんだん満たされなくなっていく。こじつけっぽいけど「星に落ちる」って、キラキラしたところへ昇っていくんじゃなくて落ちていくってこと?
    好きになった今のカレ、優柔不断というか不実というか、一番姿を見せず本心がわからない彼がほかの3人を不幸にしてる。

  • 同僚に借りた本。この著者の作品は「蛇にピアス」しか読んだことなくてなんかものすごい重い恋愛の話だった印象で、まさかの本作もものすごい重い恋愛のお話だった。金原さんは重い恋愛書くのが好きなのかな?
    今回は登場人物の名前が一切出てこない。「彼」の事が死ぬほど好きなルームメイトの男性「僕」、同じく「彼」のことが好きで浮気相手?の女性「私」、その「私」の元カレでストーカー並の執着心で電話かけまくる男「俺」の四人のお話なんだけど、「彼」目線のお話はないのよね。結局「彼」の本当の気持ちは不明。嘘つきでずるいっていう印象だなー。結局「彼」と結婚しても「私」は幸せにはなれないんじゃないのー?もっといい男いるんじゃないのー?と思うけど、どれだけ魅力的な男なんだろうか。。。
    それと、「俺」「私」は3年同棲してたわけだけど、借金まみれでなんかダメなやつなのに大好きで何の不満もなかったってすごいな。いやぁわたしには絶対なありえないけど、いろんな恋愛があるんだねぇ!すごい!!!
    夜な夜な彼が帰ってこない、、、とか泣きながら待ってたりとかスープ作って待ってたりとか怖すぎだし重すぎでしょう!もっと自分を大切にするべき!

  • 男性と女性とまた違うホモセクシャルの男性との決して交わることはあるけれど不安や恐怖、嫉妬、拭えない三者の暗闇を彷徨うような物語。果たして登場人物は愛を感じていて幸福なのだろうか。疑問を感じた。けれど登場人物の腐敗した感情は読者を魅了する。愛ってなんだ、そういう時に読まれる小説だと思う。

  • 『彼』を巡って衛星のようにぐるぐる巡る不毛で息苦しくてもどかしい恋の行方。
    東京の街の夜の空気がぎゅっと閉じ込められた作風だなぁと思いつつ、全編に行き渡った閉塞感と狂気がひりつく。
    はてさて『彼』はどう思いどう生きるのか、本心が見えないのがなんともかんとも。

    『彼女』に捨てられた男がなんのかんのと再生したかのように見える中、『彼女』は『彼』に捨てられまいと壊れていくのがなんとも物悲しい。
    愛とはいつだってこんな風に紙一重の狂気の沙汰なのかもしれない。

    いしいしんじの解説文が素晴らしい。

  • 星へ落ちていくのは「私」なのか「恋人」なのか「元彼」なのか、それとも読者にも本当の思いが見えない「彼」なのか。
    私の思いはどんどんと自分が逃げてきた「元彼」と同じような思いを抱え、
    最終的には嫉妬に狂っていた「彼の恋人」と同じような思いを抱える反転し続ける立場。
    その中でも最後まで「彼」の本音だけが見えない。
    実際の人との付き合い方はこのように立場反転と相手の心が読めない連続であるように感じる。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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