楊令伝 6 徂征の章 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087467598

作品紹介・あらすじ

南北の動乱が終結し、呉用は江南から救出された。金国では阿骨打亡き後に呉乞買が即位し、国の体制を整えつつある。梁山泊は、制圧した地域を守りながら、来るべき宋禁軍との全面対決に向けて戦力を蓄えていた。侯真は、黒騎兵を抜けて新たな任務に就く。一方、扈三娘は息子たちが消えたという報せを受けて洞宮山へ駆けつけるが、聞煥章の劣情渦巻く奸計に陥ってしまう。楊令伝、風雲の第六巻。

感想・レビュー・書評

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  • 呉用が楊令を見つめてくる。
    「行こうか、梁山泊へ」
    「ほう、本気になったか」
    「いままでも、本気だった。本気であるがゆえに、勝つ道筋が見えなければ、立つこともできなかった」
    「そんな道筋はどこにもない。俺たちにもないが、童貫にもない」
    「確かに、そうだ。私は、確かに、いや楊令殿自身に、手を握って引き摺り込まれたかったのかもしれない」
    「いくらでも引き摺り込んでやる。反吐が出るほどにな。俺が足りないと思っていたものが、これで揃った。あと足りないのは、兵力ぐらいなものだ。それはおまえの頭でなんとかして貰うしかない」
    「わかった」

    この巻は大きい戦の続いたシリーズの「転」巻のようものだ。今まで揃った漢たちの小さなエピソードを繋げている。

    一番大きいのは、聞煥章の人生に決着がついたことである。思えば、優秀な男だった。優秀なだけの男だった。頭だけよくて志がない男が国政に係わるとろくなことがない、ということの象徴のような男だった。「水滸伝」で消えるべきだと私は思っていた(あれだけ多くの漢がなくなったのだから、敵役の重要人物も死んで欲しかったという意味である)。生き残るにはそれなりの意味はやはりあった。彼が企てた燕州の「夢」は、その後いろいろとバリエーションを持ちながら活きていくのだろう。ただ、そういう男の運命の決着の付け方としては、これは私は一番相応しかったと思う。扈三娘にとっては、可哀想だったが。彼女には悲劇ばかりが襲い掛かる。美人薄命ならぬ、美人薄運か。せめて、長生きしてもらいたいものだ。

    候真の昇格(?)も非常に興味深い。

    童貫の王進の里訪問も大きなトピックだった。おかしいなあ、と思っていたが、青蓮寺も禁軍もちゃんとここのことは把握していたのだ。それでもここを急襲するようなことは何故かなかったのだという。少し青蓮寺を好きになった。

    意外にも吉田戦車の解説は今まででピカイチのものだった。楊令のことをよく理解している。

    日本には珍しい「革命小説」いよいよ快調である。

  • 扈三娘の息子救出のくだりが凄まじい…!!
    いや、私でもあれは痛いと思っちゃったよ~(笑)
    こういう風に一人で突っ走って、思い切りの良い所、林冲に似てるね。

    水滸伝の時から、半分以上が世代交代してしまって寂しかったですが、
    候真をはじめどんどん若い人材が成長してきましたね。

    兵達に威圧感を与え続けていた頭領・楊令が、
    今更ながら普通の青年だったんだという事に気付きました。
    ただ、背負っているものが違う。だから必然的にああならざるを得ない。
    もしも楊志が生きていたなら、楊令はどんな人間になっていたんだろう?

    そして王進先生のもとに、まさかの客人…!

  • ホッと一息な一巻です。

    南の騒乱が集結、北の巨星阿骨打が堕ちて禁軍は中身ボロボロ・・・そんな中、梁山泊には良い風が吹いている!

    出世する者、年老いていく者、新天地に活路を見出す者、旧友と再会する者など今作には見所が多数あるかと思います。

    次作以降、逼迫していくための登場人物たちの充電期巻!

  • 世代交代の時期なのだろう。
    梁山泊が壊滅的な負けを蒙ってから10年。

    公孫勝は自らが築き上げた致死軍を後進に譲り(上手い!)、戴宗も、もはや昔ほどには走ることのできない自分に気付く。
    もちろん宋軍にも同じだけの時間は流れ、方臘との戦いを終えた童貫もまた、自らの老いに気付かざるを得ない。
    しかし、再び楊令と対戦するという強い意志が童貫を支えているといえる。

    翻って楊令は、閉じこもっていた硬い殻から少しずつ本来の姿を見せ始めたような気がする。
    それがこの先の楊令にとって、いいことなのか悪いことなのかはまだわからないが。

    心配なのは扈三娘。
    この巻では扈三娘の真情は語られていないが、それは作者があえて書かないだけなのか、それとも扈三娘の心が死んでしまっているということなのか。
    女性でありながら、男性のように生きてきた彼女は、自分の中の女性を認めて、許すことができるのか。

    さて、そろそろ次巻くらいから、物語が大きく動き出すだろうか。

  • 面白さ、読みやすさの点では抜群の安定感。それゆえに若干物足りなく思えてしまうのは贅沢すぎなのかも。

  • 5巻
    4.1

    阿骨打にしろ方臘にしろ、上に立つ人間というのは立つべくして立ってると感じる。もちろん楊令も。蕭珪材楽しみ。

    6巻
    4.0

    時が経つのが早い。王進が58になったと思ったら、セカンドジェネレーションたちが次々に育ってる。
    それにしても子午山の存在は異質すぎる。王進が達した境地に立ってみたい、何十年もかけて。

  • 新世代の始まりを感じる一巻。
    梁山泊の英雄を父に持つ子どもたちが動き始める。

    扈三娘、生き残ってくれたのも嬉しい。

  • 地空の光◆天哭の光◆地蔵の光◆地孤の光◆地英の光

    第65回毎日出版文化賞
    著者:北方謙三(1947-、唐津市、小説家)
    解説:吉田戦車、1963奥州市、漫画家

  • 水滸伝に引き続き、一気読み。
    単なる国をかけた闘争を描くだけでなく、『志』という不確かなものに戸惑いつつも、前進する男たちの生きざまが面白い。壮大なストーリー展開の中で、たくさんの登場人物が出てくるが、それぞれが個性的で魅力的。よくもまー、これだけの人間それぞれにキャラを立たせられな。そして、そんな魅力的で思い入れもあるキャラが、次から次へと惜しげもなく死んでいくのが、なんとも切ない。最後の幕切れは、ウワーーっとなったし、次の岳飛伝も読まないことには気が済まない。まんまと北方ワールドにどっぷりはまっちまいました。

  • 迫りつつある梁山泊・童貫軍の全面対決。嵐の前と言える第六巻。
    聞煥章を討ち取った扈三娘の勇ましい活躍、自ら命を絶った蔡福の妻・真婉の憎しみ。どちらも女な強さや壮絶さを見せつけるエピソード。
    梁山泊陣営では孤高の存在だった楊令が少しずつ胸のうちを晒し仲間たちとの距離を縮めていく姿、「方朧の乱」から生還した呉用の心境の変化が興味深い。
    そして童貫が子午山の王進の元を訪れるという心憎い演出もあり。静かだが人間味溢れる二人の対話は優しさと同時に物悲しさも感じられる。

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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