- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087468656
作品紹介・あらすじ
新しい国の実現を賭けて、梁山泊軍は南宋軍と最後の闘いを続ける。宣賛は、自由市場を認めるよう金国と交渉を始めた。やがて自由市場は江南を席巻し、物流を握る梁山泊の勝利は目前と見えた。だが、百年に一度の大洪水が、梁山泊を襲う。数多の同志の死を胸に秘め、楊令は吹毛剣を手に、敵将・岳飛の前に立つ。混迷の時代に、己の志を貫いた漢たちはどう生き、闘ったのか。楊令伝、夢幻の最終巻。
感想・レビュー・書評
-
最終巻である。今巻ほどページをめくるのが辛かった本は無い。「楊令伝」の最後には主人公である楊令が死ぬことは定められている。それだけは定められているが、他の人物の死は定められてはいない。しかし、一つの物語が閉じるのだから、主要登場人物が死ぬのは、ある意味当然だろう。まさかこの人が、という人が次々と死んでゆく。思えば、「水滸伝」以来の人物は20人しか残っていなかったのだ。それがこの巻だけで9人も亡くなるのだ。もちろん彼らは十分に生きた。しかし、この「楊令伝」では彼らに必ずしも「水滸伝」の様な「滅びの美学」という舞台は与えられない。前作は戦って華々しく散るのがテーマだったからそれで良かった。しかし、「楊令伝」は国家建設の物語である。どの様な事情があろうとも、途中で退場は、その建設に棹さすことなのである。私は最終巻に梁山泊に大洪水が襲うと聞いていた。だから、この洪水が楊令の命と共に国そのものを押し流すのだろうかと思っていた。しかし、そんな単純なことではなかったのである。
敵役では遂に李富が死んだ。思いもかけず、呉用がトドメを刺した。「水滸伝」「楊令伝」通して最大の敵役だった。物事の順番を「国の秩序」に置き、その為にありとあらゆる権謀術数を使った。しかし、決して自らの利益の為に動かなかった。自らの子供を皇子にしたが、それも自らの為ではなかっただろう。いや、単なる金のためではなかったが、もしかしたら「国を自らのものにする」という魔物に取り憑かれたのかもしれない。その事の答えは次の「岳飛伝」で明らかになろう。その李富の最期は実に呆気なかった。
「なるほど。わしは、ここで死ぬのか」
李富はかすかに笑っていた。(192p)
この長い物語は最大の敵役が死んでもそれで終わりでは無い。そんな単純なことではなかったのである。
「死なぬと言え、公孫勝」
「いや、死ぬ。死なぬふりをしているのも、ここまでだろう」
「死を選んだのか?」
「見たくないのだ、呉用殿。夢が、実現していくのを、私は見たくない。見るべきでもない」
「心の中に、見果てぬ夢を抱いたまま、死んでいった同志が、多くいすぎるのだな」
「林冲など、いつまで経っても、どこにも行かん」
「おまえは、私の心の中に居座ろうというのか?」
「あんたが、死のうというのは、虫が良すぎる。もっと、苦しむんだな」
公孫勝が、低い声で笑った。(195p)
「楊令伝」では、宋江の様に楊令は次の頭領にバトンは渡さない(渡すことが出来なかった)。その代わり、公孫勝が呉用にこういう形でバトンを渡したのではないか。
もっと苦しめ。
長い物語の最終巻で、こんなにもカルタシスが無い終わり方というのも珍しい。光が見えない。あゝ良かった。という様な物語ではないのか。河の流れはいったい何処へ辿り着くというのか?そんな単純なことではないのか。
頁を変えて別の機会に、この「大水滸伝」構想に関しては語って置きたい。とりあえず、次の「岳飛伝」の文庫化が始まるまでの約4年間、またもや雌伏の秋を過ごさねばならない。
2012年9月15日読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
北方「大水滸」シリーズ50巻中の34巻まで読了。
いや,語り出したらどこまでも止まらない。
「水滸伝は良かったけど,楊令伝はね…。」
という意見もあるでしょう。
いや,水滸伝という虚構を楊令→岳飛へと,
リアルの方向にもっていこうとすること,これが凄い。
禁断の,というか,そこに踏み込まなかったらどれだけ楽か。
ただの時代小説から,歴史小説へ。(吹毛剣より)
水滸伝という夢物語を終え,
方臘戦という物語としての盛り上がりがあり,
童貫を遂に討ち果たし。
それが始まり。国とは何か,どのように理想の国家をつくるか。
そこからが,面白いでしょ!
童貫までだったら,水滸伝の焼き直し,回顧でしかない。
それなら水滸伝を読み返した方が早いじゃん。
国づくりは,そううまくはいかない。
楊令だけでは,新しい国家はつくれないのか。
うまくいきそうなところで,自然災害がやってくる。
志半ばで楊令は散る。
それが岳飛伝でどのように受け継がれていくのか。
もちろん,水滸伝からのキャラクターたちがどのような死を遂げるか,
どのような生を生きるか,それも非常に重要。
15巻では,おそらく,もっと1つ1つを描いて16巻以降に伸ばすこともできただろうに,あえてそうしなかったのだろう。
既に個人の死生じゃないところに物語が展開してるから。
個人的には,戴宗や李英の死に様に救われた。
鮑旭や王定六の死に様に心を揺さぶられた。
とはいえ,読み込みが足りないために李英の動きを追いかけられなかったり,欧元の伏線も見抜けなかった。
まだまだ,読み足りない。
しばらく離れられない。
岳飛伝はハードカバーで読んでしまうことうけあいです。笑 -
夢の終わり、見届けました。
-
全15巻まとめて。原作有りの「水滸伝」を離れたらもう少し展開が史実寄りになるのかと想像していたら、なかなかどうして、そう単純な歴史時代小説には落ち着かなかった。南宋や金(とその傀儡国)の他に、もう一つ国を割り込ませてしまうとは。
「水滸伝」が国に叛く物語で、続くこちらは国を創る物語。痛快さはやや減じたが、勝ったゆえの苦悩、勝ち切れなかった苦渋は、これはこれで読みごたえがあった。…どう風呂敷たたむんだ、という疑問もちょっとあるけど。
楊令をはじめ、花飛麟、呼延凌など梁山泊ネクストゼネレーションが主要人物として数多く登場するが、揃いもそろって先代に負けず劣らずの英雄豪傑になってしまうのが、不満というほどではないが苦笑したくなる部分はある。中には不肖の子がいたり敵方についたりしたのがいても面白かったと思うのだが(…一人有望なのがいたけど、すぐ退場してしまったし)。 -
楊令の死で夢は潰えたのか、いやまた次代へと風のように靡いていくのでしょう。前シリーズの水滸伝よりは儚さ、哀しさが滲む物語でした。覚悟して死を隣りに日々生き切る漢達の姿は忘れません。次シリーズ岳飛伝の文庫化までまだ何年もかかるでしょうが、じっと待つ楽しみにしたいと思います。