光媒の花 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087468915

作品紹介・あらすじ

一匹の白い蝶がそっと見守るのは、光と影に満ちた人間の世界-。認知症の母とひっそり暮らす男の、遠い夏の秘密。幼い兄妹が、小さな手で犯した闇夜の罪。心通わせた少女のため、少年が口にした淡い約束…。心の奥に押し込めた、冷たい哀しみの風景を、やがて暖かな光が包み込んでいく。すべてが繋がり合うような、儚くも美しい世界を描いた全6章の連作群像劇。第23回山本周五郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 花鳥風月で満たされた世界観が美しい… 人との繋がりが心を浄化する連作短編ミステリー #光媒の花

    悩み、苦しみ、かなわぬ夢。

    人はいろんな軋轢によって苦労することが多いですが、それでも手助けしてくれるのはやっぱり人ですね。本書は花や虫といった自然界を丁寧に描写しながら、人間の絆の美しさを描いた連作短編集です。

    登場人物は何処にでもいる人々で、それこそ老若男女で、様々な職業や生活環境で暮らしています。すごく身近で、きっと読者にも愛着がわくキャラクターばかり。そんな彼らの日常や葛藤の中、生き抜く姿を見ていくことで、心が洗われていく作品です。

    ■隠れ鬼
    人には墓場まで持っていく秘密というのがひとつくらいはあるものです。
    思い出と現実の陰に潜む秘密があまりにも強烈に表現されていました。

    ■虫送り
    私が子どもの頃は、自分の都合がいいような嘘ばかりついてましたね。
    大人になった今思うと、子どもの嘘なんて全部お見通し… 恥ずかしい記憶が懐かしいです。

    ■冬の蝶
    ただただ胸が痛む話でしたが、私は若き二人の未来を応援したいです。

    ■春の蝶
    親の都合を決して子供に押し付けてはいけない。
    私も人の親ですが、あらためて教訓として胸に刻みました。

    ■風媒花
    家族の関係は本当に微妙で、少しのきかっけ、環境、年代ごとにも変わっていくものです。久しく話していない父に電話をかけようと思いました。

    ■遠い光
    人生を楽しく歩むことは何故こんなにも難しいのか。誰しもが一度は思い悩むことです。

    しかしこの世界はひとりではない。

    家族、親子、兄弟、友人、恋人、仕事仲間、師弟、お隣さん、それこそふと出会った人など、様々な人間関係から成り立っている。お互いに手を取り合えば、どんな悩みも多少なりとも浄化され、自然界の草木や虫たちと同じくらい純粋に生命を楽しむことができるのではないでしょうか。

    とても読み心地がいい作品でした。
    花が咲き始める春に、オープンカフェや河原で読んでみたいですね。

  • 陰鬱な雰囲気にぐっと吸い込まれそうでした。
    重く、決して明るくはない話が、後半に向かって光が射してくるところがよかった。ラストの章、主人公の心の声に思わず目頭が熱くなる。
    この世界は光ったり翳ったりしながら動き、高い場所から見てみれば、全てが流れ繋がり合い、いつも世界は新しいと。
    ミステリー要素というより、物悲しい過去を持っていたり、今も心を閉ざしている登場人物の心情描写が繊細で美しく凄い。静謐さ、匂いまで沸き立つよう。
    特に印象的だったのは、第1章、第2章、第4章。家族間の悲哀が表現され、そしてあたたかさを感じた。家族(血の繋がり)は困難に直面しても向上させる力がある…と、そう伝わりました。
    第1章では、これほど妖しいお話がこんなにも綺麗に描かれることに心打たれました。
    隠された真実に、生涯誰にも口を閉ざすことや、時が経ち解決したことが分かり救われることや、生きてれば色々あるなと。
    全ての章にでてくる一匹の蝶が見た光景、
    花、虫、白い光、花は光を媒体にして咲く。
    違う世界に連れてゆかれたのに、最後には自分に返ってきたような物語だった。

  • 愛、怒り、恐怖、やりきれなさ……そんな人間の罪と葛藤、苦悩が描かれる前半3章。
    それを浄化するように、未来への期待や希望を示してくれる後半3章の、計6章からなる短編集。
    前の章で学生だった人物が次の章では大人になって登場したりと、各話はゆるやかながらリレー式に繋がっています。

    胸がじくじく痛むような陰鬱な話から始まりつつも、魅力的な話の数々に吸い込まれていきます。
    特に好きだった作品は第1章の『隠れ鬼』。ハード過ぎない官能的な表現が印象的で、終わり方もかなり好みでした。可愛さ余って憎さ百倍ではないですが、主人公の気持ちがわかってしまう人は多いのではないでしょうか。

    時に光り、時に翳る。そんな美しくも残酷な世界を少ないページ数と短編形式で表現するのはさすがの一言。読み進めるごとに救いのある話に転じていくため、読了感は非常に爽やかなものでした。
    道尾秀介先生をより好きになれた一冊でした。

  • わたしの大好きな連作短編集!

    全作品が、道尾さんらしいもので溢れてる。

    みんな精一杯、大きなものを抱えて、大切な人を守るために、生きている。

    2章の虫送りが、一番好き。ちょっとしたやるせなさが残るけれど、そのやるせなさを3章が解決してくれ、でも、3章の主人公もまた、やるせなさを抱えてる。

    そんなふうに、いろいろある誰かの人生にひょっこり顔を出す誰かも、自分の人生では主人公で、いろいろあって。

    連作短編集を読んで、いつも思う。
    ちょっとその人を見ただけで、その人を嫌いになっては、いけないんだと。
    その人にだって、過去にいろんなことがあって、今のその人になってしまったのだから。
    きちんと、その人の過去を知れば、わたしたちはきっともっと、分かり合える。
    過去に縛られている人は、今からでも、過去と向き合える。

    そうやって、わたしたちは、生きている。

  • 道尾秀介さん「光媒の花」

    静けさ ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
    怖さ  ⭐️⭐️⭐️⭐️
    意外さ ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

    1.道尾秀介さんとのあゆみ
    カラスの親指が初めての出会いです。
    ここ2年くらい、ご無沙汰していました。
    装丁がタイトルの通り光に溢れて美しいです。

    2.読み進めながら、、、
    意外性に⭐️5個です。
    この装丁と内容に乖離があったためです。

    決して明るくなく、逆に静けさ、そして怖さが迫ってきたからでした。

    しかし、この意外性は、最後のページを閉じるときに、リセットされます。
    そう、装丁と内容の理解が重なりあうのです。

    6章目のラスト。
    うっすらと光が差し込んできます。

    3.読み終えて
    人が住む世界だからこそ影も光も存在します。
    物理的な影と光。
    心理的な影と光。
    人が立ち位置を変えることで陰影は必ず変わり続けます。

    #道尾秀介さん
    #道尾秀介さんが好きな方と繋がりたい


  • ドロっとした暗い沼地から、だんだんと光が射し込んでくるような一冊だった。

    6話連作短篇集。
    3話までは、とてもダークな道尾作品だと覚悟して読んでいたが、少しずつ光に導かれていった。

    全ての話に出てくる白い蝶。蝶にしか見えない蝶道というものがあるらしく、ヒラヒラと明るい光の方へ舞っていく。

    【春の蝶】【風媒花】が特に良かった。道尾秀介氏の文章は、情景を描いたり、比喩表現が本当に秀逸!
    山本周五郎受賞作。

  • 「N」を読み終え、10年前に道尾さんの『光媒の花』を読んで意外に好感触だったのを思い出した。読み直して読後の感想が今回の『N』とあまりにも似ていて驚きます。ストーリー展開より、文中で持ち入れてある著者の豊富な知識に惹きつけられているのかもしれません。

    【2012.11.02 記】
    前から気になっていた作家さんでしたが、書店で立ち読みしたり図書館で手に取ったりして読んだ限り、どうしようもなく悲痛な印象がぬぐえなくて止めていました。ところが2年前の山本周五郎賞受賞作品だったと知り食指が動きました。(直木賞 受賞作品とは相性が良いので)。
    全部で6章から編まれていますが、全く違った話に登場人物が繋がっている短編連作集となっています。数日前、3章までの予想以上のどん暗い展開に耐えられず閉じてしまいました。これほどまで救いようがない主人公たちを書くのだろうかと後味の悪さに辟易しました。
    でもストーリーに絡まる虫や植物の引用話が面白くて捨て置くことができなくて・・・。
    読む本が手近になく、1章ごとだったらその暗さに耐えられそうだったので分けて読む事にして、4章「春の蝶」からまた読み始めました。すると少しづつ光が射し始めているではありませんか!ついつい5章「風媒花」、最終章の「遠い光」まで読み終えてしまいました。最終章で、2章で罪を幼い兄妹になすりつけていた男が自首してくれてほっとしました。虫の世界の素晴らしさを子供に教えた男は決して悪い男じゃなかったから・・・。
    「風媒の花は綺麗な外見をしている必要がないの。わざわざ自分を飾って虫を集める必要がないでしょう?風はべつに綺麗な色とか目立つ形に惹かれて吹くわけじゃないんだから・・」3章で友恵がいった言葉に思い当たります。登山というより花を追いかけている私です。下山後に見慣れぬ高山植物の名前を調べるのも楽しみの一つなのですが、ある植物学の本に『花は生殖器の形をしている』と書かれていて白けてしまいましたから。3章で風媒花として取り上げられているカヤツリグサは蜻蛉草(とんぼぐさ)とか升草(ますぐさ)とも呼ばれている身近な花です。
    本作品は2007年から2009年の2年間に渡り小説すばるに書かれていますから、著者の心境の変化もあるのでしょうか。”光媒”は辞書を引いてもありませんでした。”光媒”とは著者の造語であり、もしかすると「光媒の花」とは蝶のことかもしれないと思いながら読み終えました。

  • H29.6.24 読了。

    ・短編連作、とても読みやすくそれぞれに登場する主人公の心模様の変化がわかりやすい表現で書かれていて、良かった。

  • 各章で前章の登場人物が主人公となる構成となっており、6章から成る作品でありながら、繋がりある1つの世界観を感じることのできる連作短編集。
    一言で説明すれば、前編3作は哀しいほどに純粋な衝動をテーマにしたイヤミスで、後編3作は家族愛を描いている。
    個人的には4作目の「春の蝶」の温まるラストが好きだった。
    道尾作品には、いつも主要登場人物の子供に心を持っていかれてしまう。

  • 道尾秀介のファンだからどうしても贔屓目。
    一つ一つの短編が
    繋がり
    前作の登場人物が次の主役になる
    悲しいまでの、光
    美しさを感じる
    花や虫に対する造詣が深い。
    人間の悲しさ、罪深さ
    行きていくことの辛さいろいろ感じる。
    一つ一つが繋がり
    そこに希望も湧いてくる
    とにかく美しい世界

    眩しいばかりの光
    日差しを作品から感じる
    花シリーズかな
    道尾作品はいろいろありすぎる。

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著者プロフィール

1975年生まれ。2004年『背の眼』で「ホラーサスペンス大賞特別賞」を受賞し、作家デビュー。同年刊行の『向日葵の咲かない夏』が100万部超えのベストセラーとなる。07年『シャドウ』で「本格ミステリー大賞」、09年『カラスの親指』で「日本推理作家協会賞」、10年『龍神の雨』で「大藪春彦賞」、同年『光媒の花』で「山本周五郎賞」を受賞する。11年『月と蟹』が、史上初の5連続候補を経ての「直木賞」を受賞した。その他著書に、『鬼の跫音』『球体の蛇』『スタフ』『サーモン・キャッチャー the Novel』『満月の泥枕』『風神の手』『N』『カエルの小指』『いけない』『きこえる』等がある。

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