- Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087470444
作品紹介・あらすじ
現代文明を捨て、自然との共生をめざしたコミューン運動「葦の会」。学生時代に参加し、十五年ぶりに再訪した医師・式根を待っていたのは、ブナの森深く、荒廃した無人の入植地跡だった-。理想社会を夢見て残ったはずの恋人と友人はどこへ消えたのか?そこで起こった怪死事件は果たして事故か。それとも森に潜む「誰か」が殺したのか?ミステリーとメタフィクションの完全なる融合。
感想・レビュー・書評
-
コミューン運動に参加した友人とかつての恋人に会いに、鬼音(おんね)を訪れた医師の式根。彼らはどこに消えたのか。
虚構と現実が入り交じり、ミステリというよりは幻想小説かもしれない。が、後半に入って、いきなり展開が滅茶苦茶になり、理解できなかった(おそらく読み直しても理解できない。「ぼく」は誰なのか。)。作者は結末を決めないまま書いていたのではないかと思わされる。アンチ・ミステリとはこういうものをいうのか?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
奥泉光の『葦と百合』は、夢と現実、過去と現在が混じりあう不思議なミステリー作品。
奥泉光は明るいトーンで広大なスケールの物語を創作する場合も多いが、本作品『葦と百合』のようにじっとりした、夢と現実が混ざりあうような物語にも定評がある。作中に散見される山百合の描写は、ストーリーの展開と相まって、じっとりむせる様な匂いまで感じるようだ。そのような匂いたつ、じっとりした人々の関係性が、長年の時を経て変化していく。その結末まで続く夢と現実の交錯を、じっとり感にあえぎながら読み進めることで、奥泉光ワールドにどっぷりと浸かることができるのだ。
しかし、物語の展開そのものは、過去と現在が行ったり来たりして、効果を狙ったものとは思うが、一方で分かりにくい...分かりにくいところに真犯人の展開がだされても少々しらけ感がでてしまうのだが... -
ややこし面白い。
-
山中深くに理想の村(コミューン)を建設した「葦の会」。学生時代に参加した主人公はが5年振りに再訪しますが、そこはとうに解体。かつての恋人と友人の消息を確かめようとしますが、そこで奇怪な事件に遭遇します。
麻薬的な魅力を持つ作品で、読めば読むほど訳が分からなくなります。誰が実在の人物で架空の人物なのか、誰が死んで誰が殺したのか、そもそも死んだ人間がいるのかどうかすら分からなくなります。入れ子細工と合わせ鏡が組み合わさったような形で展開されたまま、真相は結局提示されないままで終わってしまいます。自分なりに真相を考えましたが、どうも辻褄が合わないような気がしたので、「雰囲気は良いが未成熟な作品」というイメージが残りました。 -
(2013年1月7日読了)
ずっと以前に読んだのだが、自分的に奥泉さんがマイブームな今、再読。
技術的にはどうなのかわからないが、僕は奥泉さんの作品の中では、これがいちばんグッとくる。主人公?である式部氏の若き日、若き自分への郷愁、悔恨、憧憬、の想いがストレートに伝わってくるからだ。コミューンであれ、革命軍であれ、一時の燃えるような情熱の残り火を抱えながら生きている人は案外多いのではないかな。
それにしても、この頃からシューマン好きだったのね。
(2019年2月12日読了)
やっぱり最高。奥泉さんの中ではいちばん好きだ。
取り戻したい過去。取り戻せない過去。記憶の中の君。記憶の中の自分。憧憬、悔恨、逃避、誘惑。あったかもしれない現在。今ある現在。あるかもしれない未来。混沌とした物語の中で迷宮に惑う読者を置き去りに、百合の宇宙船はゆらゆらと飛び立っていく。人間は考える葦である。葦は地下茎でつながっている。それは連帯なのか、束縛なのか。すべての物語をつなぐ長者岩の存在が強く印象に残る。現実から消えた葦の会は、主人公の中では永遠に生き続ける。きっと人にはそれぞれに、自分なりの葦の会や自分にとっての翔子を持ち続けているのだと思う。
そこにいかなる内容が書かれているとしても、とにかく文章や比喩が美しい。
「式根」という主人公のネームングもセンス抜群だと思う。
(2021年3月13日読了)
目の前の菜の花は、まるで昨晩から続く強風にさらされるためだけに現在この場で咲いているようで、群れとなってその身を斜めに傾がせている。空の雲は厚く、しかして時には薄く、下層の雲ほどその速度を増して彼方へと過ぎ去っていく。
この作品だけは何度読んでも奥泉さんの最高傑作だと感じてしまう。自分の中の何かが作品の中の何かに深く共鳴してしまう。現実と虚構との間で煙に巻かれてしまう感覚が、僕の現在を揺るがせる。
白い雲を背景にして、黒い点となったたった一羽の鳥が遥か上空を横切る。その瞬間だけが、僕に現実感を思い起こさせた。
-
奥泉光のベスト小説。
理性的で不気味なリズム感が唯一無二の面白さ。
奇麗な文章です。 -
『虚無への供物』に連なる幻想ミステリ。
抜け出られない悪夢。 -
説明しにくい本です。
文章の表現が過度に修飾されているので少し読みづらいです。
自らの青春時代を再訪するという男の旅から、謎の転落死事件に遭遇したことで推理合戦が繰り広げられていきます。
中盤は普通に面白いのですが、事件に遭遇した主人公が毒茸の中毒で目撃したことの現実と幻想が判然としなくなるあたりから虚構と現実が入り乱れてきます。
この虚実入り混じった展開に加え、さらにメタ的要素も加わってくるので終盤の混乱具合は相当です。
読み終わった後、宙ぶらりんにされたように感じました。
この感覚が心地良いようでもあります。 -
めちゃめちゃ面白い。必読。
-
いやいや、一応芥川賞作家ですから。ミステリ作家ではないですぞ。
本人はどう思っているかは不明。