迷宮 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087474466

感想・レビュー・書評

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  • 犯罪記録、週刊誌報道、手記。そして供述調書。
    取調べや取材、犯人による手記によって徐々にひとつの犯罪の形が見えてくる。
    しかし、同じような内容が繰り返されるくどさに、どうにも付いていけなかった。
    何を言いたいのか。
    それとも、この繰り返される内容の中にこそ隠されたテーマが眠っているのか。
    最後まで読んでもよくわからなかった。
    「迷宮」というタイトルのように、まさに活字の迷宮に迷い込んだような居心地の悪さがずっとつきまとった。
    殺人事件であることは確定している。
    ならばそこには必ず被害者がいて加害者がいる。
    犯行現場が特定され、犯行手順が明らかになっていく。
    ここまでは事実の積み重ねによって解明されるだろう。
    捜査に科学的な手法が取り入れられている現状では、ここまでの事実はほぼ動かされることはない。
    しかし動機となるとどうだろう?
    人の心の内は形として見ることは出来ない。
    犯人が語る、過去に語った、そのひと言ひと言を読み解くほかはない。
    受け手は自分なりに理解しようとする。
    そこにそれぞれの解釈が入り込む余地ができる。
    取調べをした刑事の、取材をした記者の、それぞれの解釈が加わっていく。
    ひとつであるはずの真実は、いくつもの違った姿を持つようになる。
    迷宮の果てにたどり着いたのはそんな考えだった。

  • 「清水義範」による長篇ミステリ小説『迷宮』を読みました。

    『ifの幕末』、『夫婦で行く意外とおいしいイギリス』、『老老戦記』に続き「清水義範」作品です。

    -----story-------------
    24歳のOLが、アパートで殺された。
    猟奇的犯行に世間は震えあがる。
    この殺人をめぐる犯罪記録、週刊誌報道、手記、供述調書…ひとりの記憶喪失の男が「治療」としてこれら様々な文書を読まされて行く。
    果たして彼は記憶を取り戻せるのだろうか。
    そして事件の真相は?
    言葉を使えば使うほど謎が深まり、闇が濃くなる―言葉は本当に真実を伝えられるのか?!
    名人級の技巧を駆使して大命題に挑む、スリリングな超異色ミステリー。
    -----------------------

    パスティース小説の名手で、SF小説や歴史小説、エッセイ等、幅広い作品群を発表している「清水義範」による本格ミステリ作品、、、

    ストーカー殺人という今日的な犯罪を、犯罪記録、週刊誌報道、手記、供述調書等の様々な文書により描いた作品… 序盤からぐいぐい引き込まれ、終盤まで盛り上がるのですが、作者の意図が読み取れない曖昧なオチだったので、ちょっと消化不良な感じでしたね。

     ■一日目(犯罪記録)
     ■二日目(週刊誌報道)
     ■三日目(手記)
     ■四日目(取材記録)
     ■五日目(手紙)
     ■その七日後(供述調書)
     ■さらに八日後
     ■解説 茶木則雄

    24歳の独身OL「藤内真奈美」が、カラオケ・コンパで知り合った男「井口克己」に、軽い気持ちで電話番号を教えたのが、悲劇の発端だった… 無言電話や嫌がらせ等、「井口」のストーカー行為は徐々にエスカレートし、ついには、独り暮らしの彼女を狙って自宅アパートに侵入、、、

    絞殺のうえ、用意したアーミー・ナイフで性器を切り取るという猟奇殺人に発展する… しかも、「井口」は、切り取った性器をアイスクリームの1リットル入りカップに詰め、自室の冷蔵庫に保管していた。

    のちにアイスクリーム殺人事件と呼ばれ、世間を震撼させたこの事件の概要が、、、

    事実関係のみに重点を置いた犯罪記録、
    犯人の家庭環境や事件の社会的背景に踏み込んだ週刊誌報道、
    事件に興味を抱いた作家「中澤博久」の手記、
    「中澤」が関係者にインタビューしたものをまとめた取材記録、
    先輩作家「須藤陽太郎」に送った手紙、
    犯人自身の供述調書、
    そして「中澤」の描いた作中作と「須藤」の覚書、

    という8つの文体で提示されます… これらの文体は、記憶喪失となった犯人と思われる「私」に対し、治療師が体面治療の過程で患者に読ませ、喪われた記憶を呼び覚ます一助として扱われます。

    ぼんやりとしていた事件の輪郭が、読み進むうちに次第にくっきりしてきて、犯罪記録や週刊誌報道の記載に疑問を持ったり、被害者の人物像が変化してきたりする展開は愉しめましたね… 治療師(=多分、作家の「中澤」)も、かなり病的な感じがするし、自分の都合の良い方に事実を捻じ曲げていると思えるので、結局、真の動機は藪の中(だからタイトルは『迷宮』?)でしたね、、、

    あっと驚く結末が用意された叙述トリック作品だと思っていたので、ちょっと肩透かしを喰らった感じ… もしかしたら、8つの文体に真相が埋め込まれていたのかもしれませんが、私の読解力では読み取れなかったなぁ。

  • 書き切れていない、不完全燃焼に終わった一冊、というのが率直な感想です。

    裕福、且つ愛のない家庭に生まれた落ちこぼれで陰気な男子大学生が、合コンで一方的に好意を持った女性に対し、ストーカー行為をはたらいた挙げ句、異常な殺人を働く―

    この事件を、あえて第三者からの視点のみで描写し、話が進んでいきます。
    ややグロテスクな描写もあり、眉間にシワを寄せて読む箇所もありましたが、読み始めたら次が気になってしまい、暇さえあれば読もうとしたのは、ある種の魅力。

    第三者からの視点のみで描写するという点では、「悪女について」を思い出し、また、犯罪に至るまでの心理描写もリアリティがあって、高評価です。

    ただ如何せん、作中の「私」と「治療師」の正体が
    すぐに分かってしまう点、ラストまで読んで「で?」と思ってしまう点において非常にマイナス。

    起きた事件にすぐ答えを求めるマスコミ、一般には理解しがたい愛情を持つ犯人の心情、このあたりはよかったのですが、よかった分、料理しきれなかった、扱い切れなかった感が否めません。

    残念ですね。

  • 清水氏の小説って、こんなに冷静なものなのだとやっとかめシリーズや、勉強シリーズでしか触れていなかった作者の作品に驚きました。
    作品の文体、文章、言葉遣いに引き込まれる感覚で一気読みでした。
    著者は日本語に対する深い考察を持っていてその著述も多く大変に興味深い。
    だからであろうか、この作品を読む際に文章に対する抵抗があまり無い。
    普通どのような作品を読んでも理解しづらい表現があるし、それが自分の読解力不足が理由の時も含めて当たり前なのだけれど。
    この作品ではさまざまな文体を駆使しているけれどそれぞれの文体の隅々まで著者の神経が行き届いていると感じられた。

  • 記憶を失くした男に、治療と称してとある猟奇事件の
    資料が渡される。
    彼は一体何者なのか、真実はどこにあるのか。

    ……と書くと聞こえは良いが、面白くない作品だった。

    記憶喪失の男は何者か?
    猟奇事件の犯人とは?
    そもそもこの治療はなんなのか?
    目の前の治療師は医者ではないのか?
    そしてこの結末は?

    そういう事を全て悪い意味で裏切っていくスタイルは
    逆に清々しい。
    道徳の時間に読んだ5分の文章より感想が無い。

    深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いているのだ的な事を
    言いたかったんじゃないのかなと思うけど、
    特にトリックらしいものも無い。

    久しぶりにオススメ出来ない本でした。
    最後に、言わせて欲しいんだけど言いたいことが
    あるならミステリじゃなくてエッセイでお願いします。

  • 読み終わって、自分自身が迷宮に迷い込みそうに。
    残念ながら、理解できませんでした。

  • 私的には好きな作品でした。

  • 事件の犯人はわかってるし、表面的な動機に意外性はないので、ミステリとも違う。
    ただ、治療者と被治療者、このふたりの関係に焦点をあてるとがぜん面白い。治療者の意図は何か。そしてあのラスト。
    調書、小説の走り書き、週刊誌の記事、取材メモなど、いろいろな媒体が同じ事件を述べているが、媒介により意図が違う。
    こういうのは映像や漫画ではなく、小説ならではだと思う。そして、文体にこだわるこの作者ならではの書き分けの妙。
    そう思うと、意外とテクニカルな小説です。
    面白かったです。

  • えー、清水義載がミステリ??
    ちょっと意外でしたが、読み進めると、やっぱり清水義載。

    記憶喪失の男が、治療師からいろいろな文章を読まされる。
    ある事件に関する文章。
    自分がその事件の犯人なのか、それとも?

    ミステリとして読むと、猟奇殺人とか手記とか推理とか、
    陳腐な感じになるのだけど、
    私はそこは特に重要に思えず。

    悲惨な事件があった時、もちろん、まずは被害者に同情する。
    それは、マスコミの報道の誘導によって、被害者は純粋無垢な善人だと勝手に思わされているのだ。
    しかし実際は、現実に生きている俗っぽい面だってある普通の女性であり、
    この小説内では特に、その俗っぽさが犯行へつながっているわけである。

    報道やそれを受け取る側が、わかりやすい物語、共感しやすい
    物語にしたいのである。
    真実は、当人の心の中の迷宮にあり、他人には理解できないのだが、
    それをわかりたいので、わかったつもりになれる物語を作ってしまう。

    加害者に対してさえ、その出自や生活習慣などから、犯行の理由づけをしたい。
    親の不仲が原因では?過度な期待が負担だったのでは?などなど。

    結局のところ、真実は当事者にしか絶対にわからないのだ。

    どんでん返しはないが、その迷宮の存在を明確にする、
    この最後の一行は、余韻を残すものだった。

  • 『欲望の原理で動く社会の中で、現代人はひどく苛立っている。次から次に物質を手に入れながら、どうしても手に入らないのが心の満足だと気がついて、乾ききっている。』

    『責任ってあるでしょう。生きていれば、誰だって生きてるからには責任はありますよ。病気がやったことだからと言うかもしれないけれど、そんな病気になった責任がありますよ。そんな病人をほっといた責任はありますよ。空から、星が落ちてきて、隕石が落ちてきてぶつかって死んだんじゃないんだから。』

    『責任は問えますよ。問わなきゃ世の中こわれますよ。処罰はできない、と言われるんならまだわかるんです。不服だけど、それはしょうがないかもしれないと思う。だけど、罪はない、というのはね、それはいやですよ。罪は絶対あるわけでしょう、やったことへの。』

    『人間のことを、完全に知るには一年間の、その中で何度も会った、ドライブもした、スキーにも行ったというだけでは、材料が少なすぎるんです。』

    『だから、こういうふうにしか答えられませんよ。井口は昔から人を殺しそうな奴だったかときかれれば、そんなこと全然考えられませんでした、ですよ。それで、じゃあ井口がやったのは信じられないくらい意外なことかときかれるなら、答えは、そうとは思いません、です。人間って何をやるかわかりませんから。変ですか、おれの言ってること。』

    『人間は他人のことを考えて行動しなくてもよいと考えるんですか。』
    『よいとか、悪いではなく、誰も他人のことなど考えない、ということです。親が子供を産む時には、親は子供のことなど考えていません。自分の都合で産むのです。子供はそのことで親に文句を言うことはできません。親が子供を産むのと同じように、私は藤内さんを殺しました。』

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著者プロフィール

1947年愛知県生まれ。愛知教育大学教育学部国語学科卒業。1981年『昭和御前試合』でデビュー。1986年『蕎麦ときしめん』が話題となり、独自のパスティーシュ文学を確立する。1988年『国語入試問題必勝法』で第9回吉川英治文学新人賞を受賞。2009年、名古屋文化の神髄紹介とユーモアあふれる作風により第62回中日文化賞受賞。『永遠のジャック&ベティ』『金鯱の夢』『虚構市立不条理中学校』『朦朧戦記』等著書多数。また西原理恵子との共著として『おもしろくても理科』『どうころんでも社会科』『いやでも楽しめる算数』『はじめてわかる国語』などがある。

「2021年 『MONEY 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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