沙羅は和子の名を呼ぶ (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087474886

感想・レビュー・書評

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  • 内容紹介には「珠玉のミステリ短編集」とあるが、果たしてこれらをいわゆるミステリと呼ぶか否か。「ミステリ」には元々「神秘」「不思議」という意味合いが含まれているので間違いではないのだろうが、釈然とはしないかな。また、「ファンタジー」と「ホラー」との違いもこうして考えると非常に曖昧で難しい。ファンタジーという上位分類にホラーも包摂されているという位置関係が正しいような気がするので、本作品集は私としては’日常系ホラー掌編集’とする方がしっくり来る。

    短編10編収録。

    ホラー系短編集ってえてしてそういう物かもしれないが、ちょっとどの話も印象に残り難いというか、とりわけ、盛り上がりやキレ・メリハリに少々欠ける気がする。日常をテーマに据えているのでなんか少し不思議、幽霊っぽいのが出てきてちょっと怖い、だけだと読後感が薄くてなんともぼんやり。

    そんな中で、一番ページ数が多い表題作〈沙羅は和子の名を呼ぶ〉はトリを務める話だけあってパラレルワールド設定を用いてあっちの次元とこっちの次元を行き来する非常に凝った構成だが、細部が腑に落ちない。向こうの世界の死体をこっちに持って来たけど、こっちの世界のそいつは元気に生きているってすでにパラドックスが生じてはいないだろうか。同じ人物が’生きていて’’死んでいる’状態というのが気持ち悪い。。いや、しかし『バック・トゥ・ザ・フューチャー』もそんな話だったっけ?
    ともかく、「あちら側」と「こちら側」(カッコ内p295)実の娘のいずれかを選ばなくてはならない、その為には人を殺めなければならないという痛恨の局面に立たされた父親としての心理描写が足りない。圧倒的に足りない。もっと狂おしいくらいに胸を掻きむしりたくなる感情・葛藤が湧き上がってくる物ではないだろうか。


    〈オレンジの半分〉という話は収録作の内では一番日常ミステリらしい作。仕掛けの予想は出来たんだけど、語りかけるような口調が心地良くて、前向きなオチが優しくて好き。年頃の双子ならではの悩みってあるんだろうね。こんなに似てるのになんで彼は私を選ばないのか。半分に切ったオレンジは確かに似ているけど、決して同じではないから。p210の中山君のセリフには惚れるぜ。

    カバーデザインは変更されているらしく、女の子が背中合わせに座っている現行デザインの方が作品によりぴったりだと思う。


    8刷
    2023.6.13

  • 加納朋子さんらしい優しい穏やかな文章と、少し不思議で時に冷ややかな雰囲気の物語が展開される短編集。
    加納さんといえば優しい日常の謎、という印象が強かったので、この短編集の時にシリアスで冷ややかな不思議な雰囲気は新鮮でもあり、それでいてどこか加納さんらしい穏やかさは残されていて、加納さんのまた違った側面を見た気持ちになりました。

    不思議で少しシリアスな雰囲気が漂うのは、主に前半に収録されている短編。廃病院に現れる女の子の謎を描いた「黒いベールの貴婦人」
    喫茶店にやってくる女の子と、その喫茶店であるマスターの持つノートの謎が描かれる「エンジェル・ムーン」
    「コロサナイデ」と書かれた伝書鳩に括りつけられた手紙の謎を描く「フリージング・サマー」
    子どもを失った女性の前に現れた不思議な男の子の謎を描く「天使の都」
    母親が娘にかつての旅行の思い出話を語る「海を見に行く日」

    いずれの短編も話のどこかに死が絡んでいることと、感傷的な話が多いので、冷ややかな印象を受けます。でも先に書いたように加納さんの優しい穏やかな文章であったり、また展開が、その冷ややかさをいい意味で中和し、加納さんにしか出せない読み心地のある短編集になっていると思います。

    後半に収録されている「商店街の夜」は、商店街のシャッターのウォールペイントに魅せられた青年の話。この短編集の中でもとびきりつかみどころのない話ですが、描写が素晴らしかった。壁に絵をかいているおじさんの活き活きとした描写、そして壁の絵の描写も美しく、その絵が現実に現れていく描写は読んでいて、自分も幻想の世界に迷い込んだような感覚を覚えます。

    「オレンジの半分」は双子の姉を持つ妹の身に起こった不可思議な日常の謎を描いた短編。ミステリとしては、この短編が一番完成度が高くて、これはやられたー、と気持ちよく思いました。そして双子、女性ならではの複雑な心理描写も光る。

    最後に収録されているのが表題作「沙羅は和子(わこ)の名を呼ぶ」
    和子の前に姿を現した不思議な少女、沙羅。彼女の正体が明らかになっていくととともに、現実と現実でない世界が交差し、不思議な物語の構造が立ち現れます。
    話的には少し苦さのある短編ですが、最後の和子の描写がどこかうら寂しさを残して、なんとも表現しがたい、読後感が残りました。

    自分の中の期待していた加納さんらしい部分と、意外な加納さんの部分が絶妙にブレンドされた、良質の短編集でした。

  • 4ページものとか色々あってよくわからないうちに終わった。どれもミステリアスなオチがあるのが良いのかなーと。あと不思議な現象も起こるとか。ずいぶんとストックがあるんだね、それを世に出してくれたって事なんだろう。廃墟の病院での女の子の役割と成仏出来た男の子と大阪の男の子。最後に女の子が言う一言が現実を表して。和子と沙羅ももしもじゃない同時に存在してしまう人生って、本当に不思議。和子が現実だけど沙羅の世界もあるとか、2つは手に入らないけど、どんな感覚なんだろうか、あと3冊ストックしている加納朋子さんでした

  • これまで読んできた加納作品とは何かが違う作品。
    純粋に短編集で、連作ミステリという形じゃ無いからかな?
    連作で無い分、著者の世界観がエッセイのように味わえるような気がします。優しく暖かいけど、どこか冷たくて鋭利。

    「幽霊」とか「オカルト」的なものがキーワードとしてあるとか言われてるみたいだけど、そうなのかな?表題作や冒頭の「黒いベールの貴婦人」に代表されるように確かにそういう要素はある。でも、それがキーワードと言われると、個人的に首を傾けざるを得ない。
    そんな表層的なもんじゃない、と思う。個々につながってるかどうかはわからんけど、たぶん繋がってるのはもっと内面、心の中。寂しさ?後悔?忘却?何か心にひっかかるものが、この作品群の底にはあるんじゃないかな?

    個人的には「橘の宿」が好き。どの短編も個々の色があって楽しめる。隠れた傑作かも?

  • 日常ミステリというよりはファンタジー(若干ホラー?)色の強い短編集。温かみより切なさが前に出ている印象。表題作は、悲しい結末かなとドキドキして読みましたが、救いのあるラストでよかったです。一樹が今の家族を大切にする限りは、二度と沙羅は和子の名を呼ばないんですよね。 『問い――半分に切ったオレンジに、一番よく似ているものはなあんだ?』このなぞなぞに「半分に切ったみかん?」と回答した私はバカ。回答を観て、なるほどと納得でした。

  • 優しい本だなあという読後感。
    海に行く日が一番好き。

    でも全体にミステリーというよりファンタジーっぽいというか、やや少女趣味な感じも。

    エンジェル・ムーンや商店街の夜のような「不思議なお話」には、そういうこともあるかもねって思わせてくれる何かがほしいけど、淡々とこんな事がありましたという文章なので、読んでて今一歩物語に入っていけなかった。

  • 短篇集。加納朋子の巧さを再認識して唸りました。
    現実から一歩、もしくは半歩だけ外れたその感覚がいいんです。
    地に足を着けながら、フッとどこか遠くまで行ってしまうような不思議な魅力があります。
    表題作では取り扱っているテーマから藤子Fまんがを彷彿させられました。根となる部分が似ているのかも。

  • 日常の中にスーパーナチュラルな出来事が混じり込んだり、一見ファンタジーなエピソードを合理で解き明かしたり、そのさじ加減が絶妙。それでも読者の多くはファンタジーの作品集として読むだろうと思えるのは、読みどころの問題かな。そんな中、ミステリとしてハードエッジなことをやってる「オレンジの半分」と、よく考えると父娘がとんでもないことをやっている「沙羅は和子の名を呼ぶ」がお気に入り。

  • 購入。
    だいぶ昔に買った本。
    まだ独身で一人暮らしだった頃に買った気がするが、表題作がもっと柔らかい話だと思ったが思いのほかきつい内容で驚いたのを覚えている。
    思えばいろいろわかっていなかったのだと思う。
    今読み返したら、だいぶ感じることは違うだろう。

  • ミステリを読み慣れていないせいか、不思議な感じがした。天使の都はステキなお話だなーと思った。

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著者プロフィール

1966年福岡県生まれ。’92年『ななつのこ』で第3回鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。’95年に『ガラスの麒麟』で第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、2008年『レインレイン・ボウ』で第1回京都水無月大賞を受賞。著書に『掌の中の小鳥』『ささら さや』『モノレールねこ』『ぐるぐる猿と歌う鳥』『少年少女飛行倶楽部』『七人の敵がいる』『トオリヌケ キンシ』『カーテンコール!』『いつかの岸辺に跳ねていく』『二百十番館にようこそ』などがある。

「2021年 『ガラスの麒麟 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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