- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087475203
感想・レビュー・書評
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3.86/188
内容(「BOOK」データベースより)
『幕末から明治の初めにかけて一世を風靡した歌舞伎役者がいた。三代目・沢村田之助。名門に生まれ、美貌と才能に恵まれた女形として絶大な人気を博しながら、不治の病におかされて三十四歳の若さで逝った。進行する病魔と闘い、足を失いながらも舞台にたつその気迫。芸に憑かれた人気役者の短くも数奇な生涯を、同門の大部屋役者の目を通して情緒豊かにつづる長編小説。』
冒頭
『澤村田之助丈江。
降る雪をかぶって重く垂れた幟の文字は、たしかに、そう読みとれた。瞼に平手打ちをくったように、彼は立ちすくんだ。
見まわしたが、芝居小屋らしいものはない。雪一色の空地の一隅が高さ三尺ほどの台地となり、丸太を両端に数本立て、幟はその一つに縛りつけてある。幟の褪せた朱が、彼の目にうつる唯一の色彩であった。』
『花闇』
著者:皆川 博子(みながわ ひろこ)
出版社 : 集英社
文庫 : 352ページ詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
#三世澤村田之助の小説に、月岡芳年が出てきてびっくり。チェーザレ・ボルジアとダ・ヴィンチが、ヘレン・ケラーとマーク・トウェインが同時代人だと知ったときのような驚き。実際芳年は田之助の役者絵も描いていたことを知り、むしろ皆川博子は二人の関わりについては筆を抑えた、という印象を持った。
#田之助自身が「役」となって騙られる──演じられるという終章。性を殺すことで女形が女よりも女になり、四肢を失っても演じ続けることで役者が虚を実にするのであれば、田之助のために声を断った釻次郎はいったい何を得たんだろうと強く考える。
(2009/04/21) -
幕末・明治期の歌舞伎役者、澤村田之助の生涯が描かれています。舞台のきらびやかさとは裏腹に、愛憎渦巻く舞台裏。当時の役者稼業の苛酷さを知りました。そんな中でも眩しく輝く若き田之助。美しさで魅了した役者の身体が、脱疽によって蝕まれていくというのは、なんとも残酷ですが、時代の崩壊と合わせて、それすら、腐りゆく花、滅びの美として描いています。言葉で描く小説だからこその耽美かなと思いました。
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2013/12/28/Sat.〜2014/02/21/Fri.
全てを読み終えてから、序章に戻ってもう一度読み返すと結構・・・きます。
『自分は、七分がた、死んでいるようなもの』『そうしないと、辛くて苦しくてかなわないから』と、ちょっと横に退いて何もかもがよそごとのように冷めた目線をもって生きてきた三すじ。
そんな彼の心をも絡めとって離さず、ゆるぎなく美しい、唯一無二の存在であり続けた田之助の光と影、そして壮絶な生涯がここに綴られています。
『金で汚され色で汚され、その汚濁を養いに、こうも清冽(せいれつ)な花が咲く。その仕組が、三すじには不思議であった。』(P.120)
また、三すじにとって、ある一つの感覚を共有できる同志、心から打ち解けて話せるたった一人の相手として〈最後の浮世絵師〉月岡芳年も登場。
「英名二十八衆句」「魁題百撰相」を絡めたエピソードも作中に盛り込まれているので、芳年好きな人は一度読んでみるのもまた一興かもですよ。 -
ひどく久しぶりに再読。
読んだのは単行本だけど、画像がないので文庫を登録。
何度読んでも切ない。
最後のシーンで、三すじも読者も救われる。 -
才能と美貌に恵まれた田之助に惹かれながらも憎まずにはいられない三すじを通し、幕末から明治にかけて駆け抜けた稀代の立女形の人生が綴られている。
田之助が脱疽のため、手足を切断してもなお、舞台への執念がすさまじい。 -
絶版で簡単に入手出来なかったのが残念でした。これは手元に置いておきたい。田之助が手足を失っても舞台に執念をもち、ハンディを乗り越えて生きていくといった爽やかで生ぬるい話ではない。もっとどろどろしたリアルな人間の心の奥深くまで描いている。ひたすら残酷で、だからこそ美しい。
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絶品! 地の文が美しい!ストーリーが面白い!
絢爛な歌舞伎の世界に蠢く嫉妬や嘘。そんな世界でも悠然と咲き誇る名女形・沢村田之助。脱疽により四肢を失いながらも妖艶に、しかし鬼気迫る演技で観客を魅了し、歌舞伎に生涯をかけた壮絶な人生。
男といえどもこれを読んだらきっと田之助に惚れる! 大傑作です!
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一週間後、一ヵ月後、一年後も忘れられないだろう圧倒感と衝撃。
誰しも生涯にドラマがあるってことか。 -
三代目澤村田之助の生涯を描いた作品。
私は田之助を“脱疽の田之助”になった後しか知らなかったのですが、田之助の生涯は、言葉が適切じゃないんですけど“肉は腐りかけが美味い”というか、退廃美ってきっとこういうことを言うんだろうなぁとおぼろげながら感じました。
個人的にすごく興味深かったのは切断手術シーン。
真田紐使ってましたヘボン先生。真田紐ってこんな時代まで現役なんだ…