幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.86
  • (73)
  • (183)
  • (105)
  • (9)
  • (1)
本棚登録 : 1058
感想 : 149
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087475388

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • トークショーと「ソマリランド」本そのものの両方があまりに面白く、当分私的高野フィーヴァーが収まりそうにない。これがデビュー作だったよね、とパラパラめくっていたらあっという間に夢中になって終わりまで読んでしまった。他のも片っ端から読み返したくなる。

    文才っていうのはやっぱり、ある人にはあるものなんだなあ。「学校の作文以外文章を書いたことがない」大学生がいきなりこんな読ませる文章が書けるんだもの。ジャングルでのキャンプの日々が臨場感たっぷりに描かれていて、もうワクワクハラハラする。無謀で未熟で、でも「頑張れ!」と応援せずにはいられない若さに満ち満ちている。

    あらためて思うのは、「楽天的」っていうのは本当に大事な資質だなあということ。ジャングルでの厳しいキャンプ生活で、体力とか知恵とか生活技術とか、必要なものは色々あるだろうが、必要以上に深刻にならず不安や不機嫌を引きずらないこともとっても大切で、実際にはなかなかできないことじゃないだろうか。高野さんは、語学力や交渉力の凄さは他のメンバーも認めるところのようだが、この点でも優れていたのだろうと思う。

    巻末の写真の若いこと!ちょっと不敵な感じの表情がいかにも若者らしくて好ましい。現在の風貌と思い合わせるとなんだかしみじみとした感慨がある。ムベンベってずいぶん前のことになったんだなあ。

    感慨と言えば、私は今回解説の宮部みゆきさんの文章を読んでちょっと泣いてしまった。
    「今の世の中には、絶対に、こういう本が必要なんです。みんながみんな、探検部のメンバーみたいに生きることはできないからこそ。」
    天下の宮部みゆきにこんなに熱のこもった真心のある解説を書かせた人って他にいるんだろうか。

    初めてこれを読んだとき、わが息子はまだ幼かった。この子が大きくなって大学生になり「探検部(もしくは山岳部)に入る!」って言ったらどうしよう?と思ったのを昨日のことのように思い出す。反対はできない(したくない)けど、死ぬほど心配するだろうな、と。月日は流れ大学生となった息子は、テニスやスノボが好きなフツーの人で、母の心配はまったく杞憂であった。めでたしめでたしなんだけど、ほんのちょっとだけつまんないような気がしないでもない。

  • モケーレ・ムベンベ。雨上がりの虹と共に現れる。
    モンゴリアンデスワームとは桁違いの幻獣さである笑

    この本を読んだ後の感想としては、とにかく皆さん無事で何よりでした。

    何事も自分の肌で感じることが大事だと思わせてくれる一冊。

    PS : 高熱が出た時は全裸でお湯の入ったたらいをかき混ぜるといいらしい。(特別なコンゴの草が必要なので良い子は絶対真似しないでね。)

  • 早稲田大学探検部のUMA探索紀行なのだが、みんさん何学部だったのか気になる。

  • 高野秀行さんの実質デビュー作である。実質というのは、1989年の単行本初出時には「幻の怪獣、ムベンベを追え」(早稲田大学探検部)として他の著者名が付いて刊行されたからである。大学時のサークル活動として、ここまで国際的な本格チームそして個性的なチームを作られた事に先ず驚く。早稲田探検部とは何か?を書き出すとまた長くなりそうなので、「凄いなあ」ということだけ呟いておく。

    デビュー作には、その作家の全てが隠されているという。探検報告書としてはかなり面白いのだけど、まだ後年見るような面白過ぎる!的な所まではいっていないし、後年高野さんならばもっと深めるだろう、という所が深まっていない。1番深まっていないのは、目的の幻獣ではなくて、これを聖獣のように思っている現地のボア族の生活だろう。本来の高野さんならば、サル料理の香辛料の正体や、信仰、音楽、狩猟の実態などしっかり取材しただろうと思う。

    一方、後年(と言っても、高野さんの本を読んだのはこれが3冊目なのだが^^;)の文章スタイルは既に確立していると思った。少なくともコンゴに入ってからは、高野さんはずっと日記を書いているはずだ。書籍化する時には、その日記に様々なデータを使って肉付けして書いていると思う。そのスタイルは、他2冊でも全く同じだった。それは基本的には私が旅レポートを書く時と全く同じだ。

    また、文庫本のあとがきがとても充実していて哀愁も帯びていて良かった。

    2018年7月読了

  • 私は子供の頃から、未確認生物に目がなかった。
    ネッシーはもちろん、屈斜路湖のクッシー、ヒバゴン……
    川口浩探検隊シリーズは夢中になって見たし。

    それを本気でやってしまう強者たちの物語が本書だ。
    アフリカのコンゴの奥地にあるテレ湖に住むという謎の怪獣「ムベンベ」。子供の頃には夢中になったものの、大人になるにつれて、本当にいるのか??と、昔の熱い情熱は半ば諦めムードに支配されてゆく。しかし、早大探検部の彼らの熱意はハンパない。読んでいて気持ちがいいくらいだ。

    本書の途中で著者が、ある矛盾に気づいてしまうところが、残念だけれどゾクゾクする場面でもあった。
    テレ湖を熟知する村人たちに、ムベンベのことを聞けば聴くほど、適当なサービス心で怪獣のことを描写する彼らは、実はムベンベのことをよく知らないことに。最も詳しい者たちが知らないとはどういうことなのか?と疑念を抱く、この中盤が、私には本書の中で最も感銘を受けたシーンだ。

    この旅の中では、ムベンベは見つからなかったが、夢はいつまでも続いたほうが楽しいに決まっている。

  • 高野さんの原点であり、早稲田大学探検部の伝説となった探検の一部始終。
    後の作品の核となる、現地の人との現地語での遣り取りへのこだわりや、「誰も行っていないところに行き、それを面白おかしく書く」という高野さんのコンセプトの萌芽が読み取れた。
    『語学の天才まで一億光年』を読んで色々と気になったことのピースが嵌ったと同時に、『飼い喰い』を書いた内澤旬子さんと高野さんが気が合う理由が垣間見えた気がする。
    今、どこの大学でも探検部は存続が難しいと聞いている。探検は壮大な回り道だから、タイパ重視のデジタルネイティブには敬遠されがちなんだとか。もったいないなぁ。

  • 本書には、日本の学生、コンゴ人の学者、役人、現地住民が登場し、ジャングル奥の湖への行き来と滞在の様子が描かれる。

    体力、時間、お金、思考力、仲間、これら全てを兼ね備える大学生の極みのような体験記と思った。


    描かれる人たちは皆それぞれに才気に溢れ、行動力もある優秀な方々なのだが、その時々の目の前の出来事に右往左往しながら反応し、対処していく様子が面白かった。

    日本では、将来に悩み、思い詰めることも数多くある思うが、本書中の登場人物にはそれらが見られず、ある意味で場当たり的に過ごしているようにも見える。しかし、後書きにあるように各位は今も元気に幸せに暮らし、立派な仕事をされている方もいる。

    日々を生きるのに思い悩む必要はなく、目の前のことに集中して楽しく生きていても良いのかもしれない、という気持ちになった。

  • 高野秀行デビュー作。
    コンゴ現地でのことはもちろん、コンゴに向かうまでの準備もおもしろいし、ワクワクする。

    本書の筋からは離れるが、文庫版あとがきも読み応えがある。プロジェクトから14年が経ち、各隊員のその後をまとめたものだ。
    とくにマラリアに苦しんだ田村という隊員の思い。彼はコンゴでずっとマラリアに苦しみ、何もできなかった。彼は当時何を考えていたか、14年経った今、あの遠征をどのように捉えているか。非常に重い言葉が綴られている。
    まったく余談だが、この田村という人はJR東日本ウォータービジネスの社長になっているようだ。

  • 愚直だがエネルギーに溢れる作品で、高野氏の行動力の原点を垣間見た気がした。昭和の人達は本当に逞しい。私達の世代はやや省エネでスマートに事を運ぼうとする傾向があるが、結局何かを成し遂げるのはこのような人達のように思う。

  • 一昨日に読み終わった『アヘン王国潜入記』が面白かったので、高野さんの著作を順に読んでいこうと手に取ったが、これも大当たりだった。
    未開の地ともいえるような場所で生活しよく病気にかからないな、かかってもよく生き延びられるなとCDPメンバーの生命力に感心してしまった笑

全149件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

高野秀行の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
有川 浩
高野 秀行
万城目 学
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×