カルチェ・ラタン (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087476033

感想・レビュー・書評

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  • フランシスコ・ザビエル、イグナチオ・ロヨラ(作中ではイニゴ・デ・ロヨラ)更にはノートルダムのせむし男・カジモドまで登場。パリ大学を中心舞台にし、なにやら神学論争まで盛んに出てきますが、読むのに苦労するほどのことはありません。
    主人公のドニ。泣き虫で落第生で小男、何の取り柄も無さそうです。一方で相手役のミシェル。頭脳優秀で美男子で大男で女にもてて喧嘩に強い不良。しかも元を正せば貴族の息子。その対比で事件を解決します。
    ミシェルがホームズ、ドニがワトソンの役廻り。しかしこのドニ、何の取り柄も無いようで、向上心と人を思う心はたっぷりです。そしてユックリながら確実に成長していきます。一方のミシェル。どこか余りの自尊心があだになり、身近な人間も救えずに。。。そのあたりの爽やかさが良いですね。

  • のっけから、『三銃士』のパロディめいた勿体ぶった「序」ににやにやしてしまい、テンションが上がった。

    主役2人がとても魅力的でなんともいいコンビ。この人の書く「男」は本当にかっこいいなと思う。
    余談だが、ミシェルは私の知人に似ている。頭が良く、享楽的で人をくったようなところがあり、大勢の人を惹きつける人間的魅力と人望があって自信に満ちているように見えながら、実は自己評価が低く、人生観や社会観がどこか悲観的。はたから見れば得られないものなどなさそうなミシェルの厭世的な様子を読んで、その知人にも本人しかわからない闇があるのだろうな、などと思ったりしてしまった。

    難をいうならば、女性の登場人物がステレオタイプで魅力がない。男はあれほどいろいろ個性的で深みがあるのに、女はなぜ「男とは思考回路が違う生き物」的に片付けられ、パターン分けしたかのような単純な人間に描かれてしまうのかなと残念に感じた。

    全体を通して「昔のパリ」の猥雑な雰囲気も伝わってくるようで楽しかった。終盤はやや切ないが、温かい結末と爽やかな読後感はさすが。(2008.8.10)

  • コクリコ坂を見たばかりだったので手に取ってみた。

    めちゃくちゃ面白かった!

    軽妙な語り口、続きが気になる展開、
    魅力的な登場人物。
    この作者は日本語を自由自在に操っている!
    なんてこなれた文章なんでしょう。

    主人公ドニは当初まるでのび太君のようなだめっぷりであり、
    ことあるごとにミシェルに助けを求める。
    しかしこの主人公は前向きでどんどん成長する、すごく好感のもてる人物であった。
    私のイメージではドニは医龍の伊集院そのままで、ミシェルは朝田のような存在である。

    キリスト教、神学がテーマではあるが、世界史をほとんど勉強していない私でも理解できる内容で、難しくはありません。
    宗教がらみと敬遠せず、読んでみてほしいです。

  • 舞台は1500年代のパリ、セーヌ左岸の学生街「カルチェ・ラタン」。新米夜景隊長のドニ・クルパンの奮闘記であり青春群像劇です。

    学生街の雰囲気は『グイン・サーガ』のアムブラを思い起こさせます。おそらく、モデルの一つ。そして、青春群像劇ということでは、『四畳半神話大系』のような作品に通じるものがあると思います。『四畳半〜』はアニメ勢なので、齧っただけですが。

    正直、モラトリアムの悶々とした日常というものには、あまり馴染めてこなかったのですが「カルチェ・ラタン」はするすると読めてしまいました。歴史ものという点で馴染みがあり、入り口を開いてくれたのかもしれません。

    ジュブナイルは好きなのですが、モラトリアムは苦手。言葉の意味では、同じようなものかもしれませんが、自分の感覚の話なので。
    理想とするものに、真剣になることができるかどうか、が違いなのかな。理想が手に届かないと知りつつ諦めきれずにいるものの、そのこと自体から目を逸らし理想を追っているのだ自分は、という逃げ道の中で右往左往している様が好きではないからでしょう、モラトリアムは。
    自分勝手な区別ですよ。

    その悶々とした感情が誰でも大なり小なり経験したものであるから、共感を強く得られるのでしょうねモラトリアム。
    となると、共感しづらい自分の人生経験はいかがなものか、ということになるな。それを自己分析なり自己対話なりで鬱々としてゆくのは、モラトリアムの登場人物のそれなのか。

    自分自身を突きつけられるのは嫌だなぁ。

  • 謎解きあり、哲学あり、青春あり、友情あり、一冊で何度も美味しい素敵な本だった。でも、女性が本当にロクでもないのしか出てこなくて…ちょっと残念。また、最後ラスボスとの対決と決着も何だかもう少し練れたんじゃないかなと思う。あっさりしてるというか、物足りなかった。

  •  1536年のパリ。新米夜警隊長のドニ・クルパンとその元家庭教師ミシェルは、パリで起こる様々な事件に挑む。
     しかし、ある事件でミシェルが犯人として疑われ、ドニはカルチェラタンの神学生たちとともに、パリの裏にうごめく陰謀に挑むことになる。

     主人公のドニは、他の佐藤作品と違い女性にかなり奥手。そんなドニに事件の指南と共に、女性指南もするのがミシェルです。このミシェルの女癖はかなり悪く、それだけにドニとのデコボココンビぷりが際立ちます。この二人のやり取りが面白いです。

     そして、登場人物たちも豪華です。神学生として登場するのは、フランシスコ・ザビエルやイエスズ会の創立者、グナチオ・デ・ロヨラ、といった実在の有名人も登場させるなど、歴史とフィクションをごちゃまぜとしたエンターテインメントになっています。彼らがドニと共にパリの街を右往左往し、巨大な陰謀に迫る姿もいいです。

     泣き虫かつ女性に奥手のドニが、徐々に成長していき、ザビエルたちと友情を深めていく様子や、ミシェルとの師弟関係、そして、女性に対しても成長していき、そしてそれぞれの岐路を迎える。舞台はヨーロッパで、神学や宗教の話も出てきますが、しっかりとした青春小説になっています。

     佐藤さんらしい女性と性に関する独自の観点にも注目です。ここの切れ味も何というか、相変わらずですね(笑)

  • 凝った枠組みの中で展開される西洋歴史小説。
    パリ観光の経験がある当方からすると、ちょっと聞いたことのある登場人物などへの親近感と相まって何となく身近に感じられる。この辺りは娯楽小説としてのツボを押さえているということ。
    またこの間読んだ『チェーザレ』、そして日本の戦国時代と同じような時代と考えると、日本の思考がいかに狭い場所で蠢いていたか(あるいは現在形のいるか)、本書がおそらく意図しないものであろうが思い知らされる。
    しかしこの作家のポルノチックなエロ描写、少々何とかならんのかと思わなくもない。

  • 小説って面白いなと思う一冊。
    西洋歴史小説なんていう分野があるんだ…という新鮮さを感じる。
    小説の中で神学論争やってるんだ…という好奇心を覚える。
    ザビエルとかカルバンとか有名人もでるんだ…というキャッチーさがある。
    古い書物の回顧録みたいだけど全部創作なんだ…とかっこいいと思う。
    しかもミステリーなのか… って、最後エログロじゃん!
    娯楽小説ってなんでもありで面白いなと教えてもらいました。

  • 2013年89冊目

  • 一五三六年、パリ。ある靴職人が行方不明になった。その事件に着手した新米夜警隊長ドニ・クルパンは、元家庭教師で天才的推理力を持つ神学僧ミシェルに協力を求める。二人が捜査を進めるうちに、やがてパリの闇夜にうごめく巨大な陰謀が明らかに……。宗教改革という時代のうねりの中、セーヌ左岸の学生街「カルチェ・ラタン」を舞台に繰り広げられる冒険と青春群像。西洋歴史小説の傑作。

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著者プロフィール

佐藤賢一
1968年山形県鶴岡市生まれ。93年「ジャガーになった男」で第6回小説すばる新人賞を受賞。98年東北大学大学院文学研究科を満期単位取得し、作家業に専念。99年『王妃の離婚』(集英社)で第121回直木賞を、14年『小説フランス革命』(集英社/全12巻)で第68回毎日出版文化賞特別賞を、2020年『ナポレオン』(集英社/全3巻)で第24回司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『カエサルを撃て』『剣闘士スパルタクス』『ハンニバル戦争』のローマ三部作、モハメド・アリの生涯を描いた『ファイト』(以上、中央公論新社)、『傭兵ピエール』『カルチェ・ラタン』(集英社)、『二人のガスコン』『ジャンヌ・ダルクまたはロメ』『黒王妃』(講談社)、『黒い悪魔』『褐色の文豪』『象牙色の賢者』『ラ・ミッション』(文藝春秋)、『カポネ』『ペリー』(角川書店)、『女信長』(新潮社)、『かの名はポンパドール』(世界文化社)などがある。

「2023年 『チャンバラ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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