鋼の女 最後の瞽女・小林ハル (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087476118

感想・レビュー・書評

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  • 15年ほど前に、斎藤真一の絵を地元のギャラリーで見て初めて、瞽女さんという存在を知り、以来非常に興味を持っていた。ギャラリーで見た絵は80万円の値がついていて、結婚を目前にしていた私は、「女の人生・運命」というテーマを感じ、よほど買いたいと思ったのだが、一緒にいた母が「訴えかけてくるものがあまりにも悲しすぎる」と反対したため諦めた。今でも、あのとき買えば良かったと思っている。
    さて、この本も偶然知ったのだが、最後の瞽女として無形文化財に指定されたり、様々な勲章を得るなどして晩年に有名になった「小林ハル」さんを取材したもの。女性の自立した生き方に関する本を多数著している下重暁子さんが、小林ハルさんの来し方を取材し、瞽女として歩いて旅した道や上越地方の山村、暮らした温泉地などの足跡をたどり、そのくらしの厳しさやハルさんの気持ちに想いをはせながら、ハルさんの人生を綴っている。定期的にハルさんに面会し、現在(1990年前後)の状況やテレビ取材があったときのことと、過去が入り乱れて書かれているのでちょっと読みづらい。なんか、ハルさんの来し方をそのまま物語のように時系列で書いた方が入り込んで読めそうだと思ったのだが、あえてそうしなかったのは著者なりの狙いがあるようだ。ハルさんという明治・大正・昭和を生きた一人の女性の人生に、現代の女性も自分を重ね合わせることができる、という感じかな。瞽女という文化はもう失われ、盲目の女性たちが手引きを頼りに危険な道を歩き旅するような時代ではなくなったが、運命に抗わず、自分を律して生きることの美しさは変わらず尊いものだと。
    また、戦前の、娯楽のない山村で、瞽女がどのように歓待されたか、ホテルや旅館などがない時代に、瞽女を含む旅の人たちがどのように宿をとったか、庄屋や地主は地域の中でどんな役割を果たしていたか、など、近現代史の視点からも興味深い。終戦を経て、高度経済成長期に瞽女のような文化が衰えていった経緯も、ハルさんの人生を通してみると理解しやすい。
    いろんな意味で勉強になった。読んで良かった!

  • 「瞽女」という存在を知ったのは
    斎藤真一さんの「画集」が初めてだった
    次に出逢ったのは小沢昭一さんの著作の中だった。
    それ以来、ずっと「気になる存在」として
    その「瞽女」という言葉を耳にするたびに
    もっと知りたいと思っている。

    そんな中での一冊である。
    著者の下重暁子さん の祖母の実家が瞽女宿を
    していらっしゃったとあるが、
    ただそれだけの縁でははかり得ない
    ひとりの瞽女さん、小林ハルさんの
    すさまじい生きざまを
    五年という年月をかけて
    丁寧に丁寧に聞き取り、
    現地への取材も重ねて
    一人の盲目の旅芸人の生涯を
    綴った一冊である。

    読んでいて
    (その当時の)理不尽さの数々に
    ついつい感情移入をして、腹立たしく思い
    それでも ハルさんが毅然と生き抜いてきた
    その姿勢に感動を覚えてしまう

    文庫本のあとがき(2003年夏)に
    小林ハルさん 103歳とある
    その一文が目に入ったとき
    思わず 涙腺がゆるんでしまった

  •  瞽女・まず「ごぜ」という言葉、そして存在そのものを初めて知った。生まれながらの闇に生き、五感を研ぎ澄ませて他人の手を借りずに生活し、しかも生きていく手段としての三味線と唄。幼い時から実家を離れての修行。寒行に凄まじさがある。
     旅を続けていくことで、人はより強く、神と民との間に立つような人間になって行くのだと思う。
     消滅してしまった瞽女を書きとどめた事にも意義が大きい。

  • 盲目の旅芸人、瞽女。小林ハルさんの半生を通じて語られるのは女性、障害、様々な理由で差別をするかつての日本の姿。
    同時に苦しい生活の中でも瞽女たちをあたたかく迎える社会の姿でも有る。困難な時代と社会の中でどんな修行僧よりもストイックに、誠実に生き続けたハルさんの姿が眩しい。

  • 数年前に秋田県立美術館で、越後の瞽女をテーマに描く画家『斉藤真一展』を見学しましたが、この時の印象が強烈で、それ以来ずっと瞽女のことが頭から離れませんでした。
    この本を読んでから人間国宝・小林ハルさんの瞽女唄を聴いてみたくて、youtubeを検索しています。

  • ハルさんの強さ、自ら苦労を背負い込むような生き方には胸が詰まった。
    うた、聴きたい。

    世間さわぐにゃ豆腐で渡れ、まめで四角でやわらかく

    いい人と歩けば祭り、悪い人と一緒は修行

  • 女性の自立とか、障がいを持つ人の生き方とか、失われた文化の保存とか、なんか色んなテーマがあるんだと思う。でもそんな細々としたことはどうでも良くて、ひとりの女性のまっすぐな生き様に触れて、胸が熱くなった。

  • 良い人と歩けば祭、悪い人と歩けば修行

    小林ハルさんという女性の一生。
    瞽女(盲目の唄う女性たち)という仕事を幼い頃から死ぬまで、全うした方。
    過酷さも自ら課したもの、課されたものでも避けるものではない。そう思うこの人の強さがすごい。本を読んでわかった気になってはいけないが、どれだけの人がこの人のように生きることができるのか。

    人にすすめられて読んだ本。

  • 明治33(1900)年新潟生まれの瞽女、小林ハルのライフヒストリー。「いい人と歩けば祭り、悪い人と歩けば修行」
    明治生まれの自伝は、大体どういう人のものでも、現代の目から見ると驚くところがある。この方の場合はさらに盲目で旅して歩く芸人だったのだから凄まじい。
    雪深い山道を歩く苦労を想像すると、目の見えない人にそんな危ないことをさせるなんて…と思うが、親方制度等のしくみを知ると、とてつもなく過酷で理不尽も多いながら、自活のための制度として社会的に成立していたのだなと思う。
    もっとも本書自体はどちらかというと軽めの読み物で、瞽女の制度や在り方について深く知るには元ネタになった文献を読むほうがよさそう。80年代以降に色々とオーラルヒストリーや研究書が出ているようだ。当事者が文字で記録を残すということが無い世界だから、近世以前の文献で知るのは難しいかもしれない。
    読了後に調べてみたら、2005年に亡くなっていたそうだ。

  • 過酷な体験をただ運命として受け入れていく。運命に逆らい夢や希望を追い求めるのでもなく、運命に肯定的な意味を与えることもなく、淡々と生きていった瞽女の生涯を描いた作品。最後の瞽女とともに、その生きざまも歴史の中に消えていったように思う。

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著者プロフィール

1959年、早稲田大学教育学部国語国文科卒業。同年NHKに入局。アナウンサーとして活躍後フリーとなり、民放キャスターを経て文筆活動に入る。公益財団法人JKA(旧・日本自転車振興会)会長、日本ペンクラブ副会長などを歴任。日本旅行作家協会会長。
主な著書にベストセラー『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』『明日死んでもいいための44のレッスン』(以上、幻冬舎新書)、『鋼の女――最後のご女・小林ハル』(集英社文庫)、『持たない暮らし』(KADOKAWA)、『夫婦という他人』(講談社+α新書)、『老いも死も、初めてだから面白い』(祥伝社新書)、『自分に正直に生きる』『この一句 108人の俳人たち』(以上、だいわ文庫)他多数。


「2023年 『年をかさねるほど自由に楽しくなった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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