鳥が教えてくれた空 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087477320

作品紹介・あらすじ

4歳で視力を失った著者は、「この日を境に私は生まれ変わることを余儀なくされた」という。見えなくなったことを理解できず、方向感覚のないまま走り回って生傷がたえなかった少女時代のトラウマ。成長にともなう人生への不安のなか、心のカギを開けたのは野鳥だった-。夜明け、空の高さ、大自然の景色を聞くことまで…。さえずりによって広がった感性の世界を綴るヒーリングエッセイ。第2回NHK学園「自分史文学賞」大賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 私は今までどれだけ視覚ばかりを頼りに、他の4感をサボらせて生きてきたのだろう。
    著者の三宮さんは4歳で視力を失い、すごいバイタリティーと研ぎ澄まされた五感で感性豊かな日々をおくっている。
    三宮さんはあとがきで『何よりも嬉しかったのは、自然との出会いで、発見に終わりがないのがわかったことだ。生涯学習とはよく言ったもので、勉強だけでなく、五感も心も、研ぎ澄ませば、いつでも発見のチャンスがあるのである』と言っている。
    何百種の鳥の声を聞き分けることは到底無理でも、自然の音や匂い触りごこち、もっと意識してみようと思った。長く生きている私にもまだまだ素敵な発見のチャンスがある!

  • 福岡伸一先生の知恵の学校、
    第7回対談講義  阿川佐和子さんがおすすめの本

    サウンドスケイプ。


    「BOOK」データベースより)
    4歳で視力を失った著者は、「この日を境に私は生まれ変わることを余儀なくされた」という。見えなくなったことを理解できず、方向感覚のないまま走り回って生傷がたえなかった少女時代のトラウマ。成長にともなう人生への不安のなか、心のカギを開けたのは野鳥だった―。夜明け、空の高さ、大自然の景色を聞くことまで…。さえずりによって広がった感性の世界を綴るヒーリングエッセイ。第2回NHK学園「自分史文学賞」大賞受賞。

  • 4歳で一夜にして失明した著者。鳥のさえずりで朝何時ごろかの見当がつくようになり、音と触感を手掛かりに世界を把握していく。そして、英語を習い、ピアノを習い、留学もしたという行動力に驚かされます。また、優しい文章から親御さんや周囲の方々の支えも透けて見えます。

    元々通信社勤務の報道翻訳をされていたので、文章はプロのもの。すらすら読むことができます。

  • よかった。回り道をしながらも、自然や鳥が触媒になり、色んなところに気付きがあり、点が線になっていく感覚がリアル。共感できるところが沢山あった。

  • すごい人がいるもんだ。

    「心ここにあらざれば視れども見えず、聴けども聞えず、食らへども其の味を知らず」というが、我々は、自分の目で世界を見ていながら、そこから受け取るべきものを受け取っているだろうか。

    4歳のときに視力を失った三宮氏だが、野鳥との出会いを始めとする様々な「きっかけ」を通して、今や、我々が見のがしてきたような多くのものを受け取ることができるようになった。いわば「心ここにあらば、視ずとも見える」を体現されているのである。まさに「開眼」されたといってもいいのではないだろうか。

    「きっかけ」と書いたが、もちろん、本人が受け身だったり、後ろ向きだったりしては、そうはいかない。何より、並々ならぬ努力があってのことだろう。

    まったく、すごい人がいるもんだ。折に触れて読み返したい一冊である。

  • 晴眼者という言葉さえ知りませんでした。私は本当は何が見えているのでしょうか。ステレオの音響から二次元の空間が立体になり、温度、湿度、高度、地面の起伏、山までの距離、高さ、流れる水の速さ、滝の水量、そして風の渡りまでの風景が立ち上がる。その描写に息さえも止まる思いがしました。前向きな絶え間ない工夫、生きて行くことへの工夫、命を必死で紡ぐこと、そして地上に空に共に生きる命たちへの共感。彼女こそが晴眼者なのだと思えます。

  • 4歳とき手術により視力を失った作者。

    この人は本当に目が見えないのか…と疑いたくなる文章。
    まるで目が見えてるかのようなリアルな表現力。
    そして素晴らしい感性の持ち主。
    ここに辿り着くまでにかなり苦労したし努力もしたと思う。
    目が見えないというハンデを背負っているわけだし、決して楽な人生ではなかったはず。
    それなのに、作者が感じる世界はこんなにも美しい‼︎
    鳥の声を聞き、朝がきたことを知る。
    早起きをしたくなった。

  • 4歳で視力を失った著者、三宮麻由子さんのエッセイ。
    それまで見えていたのに、ある手術の後見えなくなってしまった少女が、見えなくなったことを理解できないであちこちぶつかったり、転んだりする様子や、草花の様子や目が見えていない人の文章とは思えないほど、描写がこまやかで鋭い。
    特に鳥に対する想いはことのほか強いのだろう。
    愛にあふれているのも読んでいてうれしい。

    P14もう少し大きくなると、私はたくさんのスズメが来ている日は天気がよく、近くであまり声がしない日は、曇りか雨だということも知った。
    P17もう一つスズメが教えてくれるのは、景色である。
    P17スズメはまた、光センサーとしても、さまざまなことを教えてくれる。

    P23スズメたちとともに、空がだんだん近づいてくる。この瞬間が、私はたまらなく好きである。
    P23鳥は「神様の箸休め」だと思う。
    P23最大の「覚醒」の一つに、空を感じたことがある。

    P29サンコチョウは、じつは天女たちが夜明けの一瞬だけ、小鳥に姿を変えて地上に遊びにきたものなのではないか、と私は思った。

    P36そのリーダーさんの剣幕は、まさに鳥となった人間の言葉だと思った。このときリーダーさんは、単に相手の立場に立つとか、鳥を哀れむといったなまやさしい気持ちでは語っていなかった。森を管理する必要上、伐採も時にはやむを得ないという現実をしっていても、あえて鳥の立場で話していた。~~~その剣幕は、みずから鳥となって、人間の近視眼的な乱開発や、刹那的な満足ばかりを迫って自然を破壊する傲慢さを厳しく戒める、毅然とした態度にあふれていたのである。そして私にとって、これが「鳥の視点」との最初の出会いとなった。

    P39野鳥の声が完成を開いたとすれば、季語との出会いは、それを裏づける哲学のような世界を聞いたと言えるだろう。~~自然の目、鳥の目になった句造りを夢見ている。

    P42だが、自然と相対するときには、そうした境遇の制限から解放される。鳥たちは杖を持った私を見ても「見えない」というカテゴリーに分けたりはしない。むしろ、「人間だ」と言って、逃げたり身に来たりする。見えないものたちの上にも日光は強く照るし、雨や雪も降り注ぐ、暑い日も寒い日も、盲人のためになくなることはないし、盲人が通るからといって、その日だけ山道に誘導用の点字ブロックが生えたりはしない。
    けれど渓流の音は誰にも心地よく響き、万緑の匂いは誰の肺をも満たす。自然はすべての人に平等に振舞う。だから自然に飛びこむとき、私はある意味で神の前に立ったような安ど感を得るのだ。
    すると不思議なことに、日常生活のなかでたえず感じなければならない、惨めな気持ちや悲しさ、見えればなんでもなくできるのに、といった苛立ちなどを超越し、見えないという呪縛から解放された精神を取り戻すことができるのである。
    その意味で、自然は私の存在を許してくれる大切な世界であり、人間を理性の罠から解き放つ貴重な力だと思う。昔の人たちが自然を神を崇めた理由も、こんなところにあるのかもしれない。

    P57こうして、景色としてではなく、命の集大成としての自然と正対すると、今度は植物のたてる小さな音の数々が耳に飛び込んできた。

    P103それにつけても、人語を介さない、別の次元のコミュニケーションの存在を強く意識せずにはいられない。

    P113こんなふうに声をかけてくれる人はいつも頼まれなくても体を動かし、自分の手で私に触れて助けてくれる心構えがあった。もちろん、それはよく言われるように外国人だからというところもあるかもしれない。これがフランス人になると「なんでも言ってください。たとえば・・・」と、助けの例題をたくさん並べてヒントをくれたりする。日本人は時として「言っていただければできる範囲のことをします」といった、一歩ひいた言葉になる。

    P132
    ところが自然体験の場合は、実際に足を動かして山野を放浪しなくても、一度感動を覚えておくと、それを思い出すだけで、ふたたび山野の伊吹を疑似体験することができる。

    P184つまり森の木々の命は、切り花や庭木とは、命のレベルが違うのである。


    阿川佐和子さんの人生を変えた一冊とのことで、読んでみた。
    http://nestle.jp/entertain/bookcafe/salon/salon30.php

    三宮麻由子の箸休め
    http://www006.upp.so-net.ne.jp/hashiyasume/index.htm

    ラヴェル/鏡 2.悲しい鳥たち
    https://www.youtube.com/watch?v=3-3QQhljoiQ

  • BSフジ「原宿ブックカフェ」のコーナー「ブックサロン」で登場。
    阿川佐和子さんの「人生を変えた一冊」。

    ―「人生は変わりません!(笑)でも、あるとき救わられた本を紹介します。」

    ―”私は何の役に立って生きているんだろう”というのがわからなかった時に、
    この本にで会った時に、『ああ、私も箸休めみたいに、ちっちゃくていい。立派な人間はいっぱいいるから、橋渡しのような役目でもいいし、”箸休め”みたいな人になろう』と思ったんですよね。(阿川佐和子さん)




    原宿ブックカフェ公式サイト
    http://www.bsfuji.tv/hjbookcafe/index.html
    http://nestle.jp/entertain/bookcafe/

  • 題名から軽やかで鮮やかなタッチのエッセイを想像していたが、文章がかなり重く仰々しい。好みの問題かもしれないが、かなり構えた感じ。

    でも逆に、自然を「感じ取る」ことができるようになる瞬間の描写はダイナミックで感動的。

    特に好きなのは「夜明け」を感じる所。

    午前四時前からサンコウチョウの歌が聞こえ始め、この微かな声をかき消すようにヒヨドリがけたたましく歌い始め、メジロの高鳴きが飛び出し、シジュウカラ、スズメ、コゲラ、ハクセキレイなど十数種、鳥の声がいっぺんに重なるように出現した。
    ・・・この日生まれて初めて「夜明け」を自分の感覚を味わった。人間が時計という媒体を通じて法則化した時の流れではない。誤差というものがない。分も秒もなく、円環的な時間がゆっくりと大地の自転によって引き出される。。。

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著者プロフィール

エッセイスト。東京都生まれ。
高校時代、米ベンロマンド・ハイスクールに留学。上智大学文学部フランス文学科卒業。同大学院博士前期課程修了、修士号取得。現在は外資系通信社で報道翻訳に従事。
デビュー作『鳥が教えてくれた空』(NHK出版/集英社文庫)で第2回NHK学園「自分史文学賞」大賞を、『そっと耳を澄ませば』(NHK出版/集英社文庫)で第49回日本エッセイストクラブ賞を受賞。そのほか、第2回サフラン賞、第11回音の匠賞、第46回点字毎日文化賞などを受賞。
主な著書に『ルポエッセイ 感じて歩く』(岩波書店)、『ロング・ドリーム──願いは叶う』『世界でただ一つの読書』『四季を詠む──365日の体感』(以上、集英社文庫)、『おいしい おと』『でんしゃはうたう』『かぜフーホッホ』『センス・オブ・何だあ?』(以上、福音館書店)などがある。
失明直後からピアノ、リトミック、ソルフェージュなどのレッスンを開始。複数の専門教師のレッスンを継続し、現在はパリ国立高等音楽院教授の上田晴子氏に師事。大学・大学院時代は学内の古楽器アンサンブルでリコーダーとチェンバロを担当。新井満氏との合作で『この町で』を作曲したほか、講演やトークコンサートなど幅広く活動を続けている。
趣味はバードリスニング。

「2022年 『フランツ・リスト 深音の伝道師』 で使われていた紹介文から引用しています。」

三宮麻由子の作品

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