泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087477856

感想・レビュー・書評

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  • これはもう山田詠美の解説に言いたいことが凝縮されていて、わたしが言葉を紡ぐことは無意味だとすら感じる。

    とりわけ、人が打ちのめされるのはひどい暴力や暴言などではなく不意打ちの何かである、という部分。心が弱っているときや泣いてしまいたいとき、実際にその行動に移させるのは、傷つけられる鋭い言葉や手ひどい仕打ちではない。

    読書の際に目に入ったほんの一行やカーラジオから流れてくる音楽。そういうもの。突然涙があふれてとまらず、自分が泣きたかったことにようやく気付く。「りんご追分」はそういう物語だ。

    この短編集の中の女性たちはみな幸福だとは言い難い。誰もが恋をしているけれど、決して幸せな恋ばかりではない。どこかに泣いてしまいたい気持ちが積もっていて顔が歪んでしまう。

    泣きたいほどの幸福もあるけれど同時に失う恐さも知ってしまっているから目を背けてはいられない。そうか、恋愛は泣きたくなるものなんだな、と今更ながらわたしは気付かされる。
    (20110705)

  • これはきっとしあわせの話なんだと思った。客観的にはちょっと不恰好な日常を、彼女らは周りと比べたり、誰かのせいにしたりしない。それがなんだかとっても潔くてよかった。恋愛ってそうなんだな〜キラキラした感情だけじゃなくて、怒りやかなしみが常に共存してる。それを上回る、悔しいけれど上回ってしまう好意があるからこそ、ちょっとの不条理を飲み込んで、あるいは気づかないふりをして、ある程度の潔さをもって隣にいるんだ。恋(愛)するときの気持ちを綺麗に丁寧に表現してくれていて、ああこれって言葉にするとこんな感じだ〜って何度も思えて、気づけて、嬉しかったな〜

  • ほとんど不倫の話
    実際に近くにこういう人たちがいたら「クズだなあ」「だらしないなあ」と思ってしまいそうな人たちがたくさん
    だけど、いかんせん江國さんの言葉が好きだから読んじゃう
    寝る前に1話読みたい

  • 10篇の、男と女の、愛の話。
    さらっとしていて爽やかで、とても読みやすいのだが…結構重たいことも書いてある。

    この前に読んだくちなしでも思ったが、外から見て幸せそうに見えなくても、本人たちにとっては幸せで、ありのままが良くて。

    愛することと幸せは、決して同じではないんだろうなと思った。

    だけど、それはそれでいいのかも知れない。中には、褒められたことではないものもあるけれど、色々な形があってもいいのかも知れないと思った。

  • 色々な生活、人生、女性達で愛するということを通して描かれていました。
    愛にだけは躊躇(ためら)わない、躊躇わなかった10人の女性達。
    どの女性の気持ちも分かります。
    同じ女性からか、微妙な細かい描写なども物凄く心に伝わってきます。

    印象的な作品は、
    「うんとお腹を空かせてきてね」の中で
    あたしたちは身体全部を使って食事をする。
    同じ物を食べて同じ肉体を作り、それをたしかめるみたいに・・・
    これは自分では無意識だけれど、夫婦だったら本能的にもしかしたら
    しているんじゃないかと思ってしまいました。
    だからよく夫婦が段々似てくるというのが分かる気がします。
    お腹を空かせて沢山食事をしている男性の姿も私としては嫌いではないのもこの作品の中で共感したところかもしれないです。

    「うしなう」ではまさに私世代にどんぴしゃの作品でした。
    それぞれの主婦にそれぞれの過去があり、そして現在の家庭がある。
    過去に何があっても、現在に何かあってもそんなに踏みこめられない。
    でもその時に出会うた友達同士でなんとなく困っている人に元気づけたりしているところが羨ましい感じがしました。

    「動物園」はなんだか切なかったです。
    夫婦同士は何でもなかったのに、子供がいた為に・・・
    こうゆう男性も世の中にはいるのかなと思いました。
    そうなると女性も少し寂しいですが、子供はとても可哀想だなと。
    夫婦の形は色々あるけれど、やっぱり傍に居るのと居ないのでは違うと思うので。

    この本のタイトルでもあるように人生を泳ぐのには、安全でもなく適切ないけれど、それがこの本では多方面から書かれていて、それぞれの愛の行方についてそれを読者に想像させているような余韻で終わっているのが何とも心地良かったです。
    これが愛だ!という決め付けではなくて、こうゆう問い方の部分も必要だと思いました。
    私の愛は果たしてどれに当てはまるのだろうかとも考えてしまいました。

  • 自分の思いに自由に生きること。
    泳ぐのに、安全でも適切でもない場所にいるには、幸せな瞬間と引き換えに苦しいことやせつないことがあるけれど、それでもそれを選ぶ潔さに心がキリッとしまります。

  • 大人の女性になった気分になれる。共感もできるし否定感もある。特になにも起こらないけど、日常の雰囲気が感じられてよかった。

  • 本が好きな女性であれば一度は通る女流作家、江國香織。意表をついたタイトルで 読者をつかみ、 肉食系女子を登場させながらも、フランス映画のようなアンニュイを漂わせるその江國ワールドが散りばめられた短編集。

    タイトルの『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』 という言葉は 、作者がアメリカの海岸で見た、立て看板の言葉。危険です、ということ。そんな危うい愛の海を泳ぎきれるのかどうかわからない 主人公たちの生と性‥。

    水が合う、という言葉があるが江國作品の描く男女の多くは「体(セックス)が合う」ということを軸に添える。
    そこが江國作品の好き嫌いが二分するところかもしれない。

    この本の中の『うんとお腹ををすかせてきてね』の女性が、自分の夫や恋人のそばにいたら、確実に奪われる(苦笑) 悔しいけれど、そういう読み方も出来るのが著者の作品だ。

    第15回 山本周五郎賞受賞作

  • 全く知らない人の人生を
    ほんの少しだけ覗き見する感覚。

    正直、共感ポイントは多いとは言えない、
    けれども、人が人に惹かれるというのは
    本当に素晴らしく、切ないことなのだと実感した。

  • とても面白かった。いってはいけないとわかっていて、それでもとびこんでしまった彼女たちの物語。飛び込んだ者にしかみれない景色。刹那的で美しかった。
    瞬間を信じたい、という言葉にぐっときた。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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