斬られ権佐 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.90
  • (44)
  • (53)
  • (51)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 408
感想 : 40
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087478099

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 家業は仕立て屋ながら与力の数馬の小者を務める権佐。その顔と体には88か所の斬り傷があった。女医のあさみの仕事を支えながら八丁堀で起こる事件の解決に満身創痍で奔走する権佐だが、やがてそれも限界に達し…。
    権佐が扱う事件はほとんどが蓋を開けてみれば人々の心の弱さからくる他愛ないものばかり。捕物帳として読めば読み応えは正直言ってあまりない。だがそれに向き合う権佐の姿勢には人を惹きつけるものがあって、あさみが“おっこちきれた”(江戸の流行語で“ぞっこん惚れた”の意)と言って周囲を驚かせたその真意も分かる気がする。
    しかもこのラストのもっていき方、こうやって締めくくられては…まいった。

  • 2021/4/9
    残りが限られてるとわかってるから読むのが慎重になっちゃう。
    とは言え私だっていつどうなるかわからんのやし、読むべきやな。よし。
    権佐かっこいいんだけど痛々しくって。
    近々死ぬと悟った姿、家族もみんなせつない。
    やすのおっちゃんどこ行ってんねん。全く。
    江戸言葉が相変わらず素敵です。
    おっこちきれた(=ぞっこん惚れた)とかお馴染みの滅法界とか。

  • 純粋に(?)時代小説を手に取るのは、生まれて初めてだった。

    少年時代に好きだった漫画の原作ということで読んだ隆慶一郎(「一夢庵風流記」ほか)は、時代劇というより一種の冒険活劇。少年漫画のまんまの世界観だった。

    映画の原作だった「たそがれ清兵衛」(藤沢周作?山本正五郎?)は、筆者名すら自信をもって挙げられない。

    好きな作家が書いた時代劇、宮部みゆきやら佐々木譲やら百田直樹やらは当然面白かったけれども。

    時代小説を時代小説として選んで、購入したのは初めてだった。

    古書店の百円本コーナーで探し、なんとなくあらすじに曳かれただけで買った一冊だったが、思いのほか楽しく読めた。

    権佐の精々しいまでの愛、
    彼に心底惚れたあさみ、
    父の無念と愛情を信じ最期の言葉を胸に秘めて育ったお蘭、

    あさみに横恋慕しつつも一線を越えることなく見守り殉じた数馬、

    みな、いとおしい。


    ★3つ、7ポイント。
    2019.12.02.古。


    ※ただしやっぱり、主人公の死で幕を閉じる物語は、手放しで「好き」とは言えない、幼い自分(苦笑)。


    ※買った本書は、百円本コーナーであるので当然だが、ぼろぼろな一冊。
    もちろん、時代小説に疎い身には筆者名にも見覚えなし。
    だけれど、先日書店で気まぐれに宇江佐さんの名を探してみたら、10冊近くの著作が並んでいて、本書もそのうちの1つに含まれていた。わりと人気のある作家さんだったのね。

    時代小説初体験にしては、当たりを引けたらしい♪

  • 目次より
    ・斬られ権佐
    ・流れ潅頂(かんじょう)
    ・赤縄(せきじょう)
    ・下弦の月
    ・温(おん)
    ・六根清浄(ろっこんしょうじょう)

    八十八の刀傷というのは伊達ではなくて、体の表面だけではなくて内臓もボロボロ。
    人情ものの主人公にしては若いまだ20代の権佐は、だから人の痛みや弱さに気づくことができるのだと思う。

    本当は父の営む仕立て屋の仕事を継ぎたかった。
    けれど八十八の刀傷が、細かな針仕事のできない身体にしてしまった。

    権佐の強さはできないことを数えるのではなく、できることを数え喜びを感じるところ。
    身体を張って愛するものを守ることができた。

    小物として与力の仕事を手伝うことも、生きる張りになっている。
    “「おれはよう、お勤めが好きなのよ。江戸の町をあちこち歩いてよ、悪さを働きそうな奴に、そうしちゃならねェと教えてェのよ。真面目にやってりゃいいこともあるってよ」”

    子煩悩で親孝行で。
    近所の親父さんやばあさん、子どもたちに優しいまなざしを向ける。
    それがたとえご政道に背くことになっても、人の心を救おうとするのだ。

    身体を張って愛するものを守った権佐は、身体を張って愛する子どもをもまた、守ろうとする。
    親子の絆は、暮らした年数ではないのだ。

    この小説の最後はちょっと想像の上を行っていて、解説の藤水名子ではないけれど“読了後しばらく、途方に暮れてしまった。”
    もちろん、いい意味で。
    連作短編集でありながら、ひとつの大きな作品でもある。
    権佐の生きざまが胸を打つ。

  • 泣けます。
    妻の愛、夫の愛、父の愛。
    心地よい涙をながせました。
    宇江佐さんの作品の中でもダントツで好きです。

  • 権佐のキャラクターが魅力的だった。
    惚れた女を助けて、88か所の刀傷を負った時のセリフ、
    「縁もゆかりもあらァな。おれはよう、おれは、あさみ様におっこちきれたからよう」(P-46)
    (おっこちきれたは、流行していたセリフで”ぞっこん惚れた”という意味)
    死ぬ間際、娘に言ったセリフ、
    「お蘭、さっき、おれが言ったこと忘れんなよ」(P-290)
    かっこよかった。
    事件の謎解きも面白かった。
    兄の権佐の事が大好きな弟の、その後がかわいそうだったな。

  • 江戸時代の町並み、空気感、人々の暮らしが温かく描かれています。

    ただ、引っ掛かった点がひとつ。
    権佐が娘に「母親のそばにずっといてやってくれ」と頼んだことで、娘の将来を縛ってしまったんじゃないかな。
    女性が自由に生き方を決められる時代ではなかっただろうけど、それでも、お蘭にはもっと違う道や夢があったかもしれない。お蘭の耳に残っている言葉は、彼女を束縛し続けたように思ってしまいました。

  • 書評で、「なでしこ御用帖」が本書の続編だとのことなので、では本編からと思い、読んだら驚いた。物語は本書で完結しているのだもの。
    仕立屋の父のもとで仕立て仕事をする権左にはもう一つの仕事がある。八丁堀の吟味方与力菊井数馬の手先として捕物の手伝いをすることだ。
    長崎帰りの町医者あさみが白昼に暴漢に襲われる現場に居合わせた数馬と権左があさみを守り、権左は体に八十八ヶ所の傷を負い、瀕死の中あさみとあさみの父麦倉洞海の必至の手術によって命拾いし、あさみは権左の妻となった。
    回復したとは言え、体に自由のきかない権左と弟弥須の周りで事件が起き、権左と弥須の推理が冴える。

    何と言っても権左とあさみ、そして二人の子お蘭の家族がいい。そして取り巻く弥須、次郎左衛門、菊井数馬らのキャラクターがまたよく、六話の連作短編としての一冊の完成度がとても高い。最終話「六根清浄」のエピローグが殺伐とした事件を描いた本書の中で、とてもおだやかな読了感を生む。

  • 体中に傷がある権左が、岡っ引きをつとめて江戸の町と家族をまもる時代小説。医者でもある妻のあさみがいい感じ。体の傷は、かつてあさみを助けるために侍たちに斬られたものだが、命をとりとめたものの傷が原因で作中後半に床に伏せるようになり、身を挺して娘を助けて死ぬ。結構面白かった。

  •  権佐は医者のあさみを助けるため全身八十八ヶ所に傷が。権佐とあさみは夫婦になりお蘭5歳との暮らしが。お蘭が攫われ、権佐は今度は娘を庇ってとうとう命の火が消えてしまう。切ない物語。宇江佐真理「斬られ権佐」、連作6話、2002.5刊行、2005.4文庫。

全40件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1949年函館生まれ。95年、「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。2000年に『深川恋物語』で第21回吉川英治文学新人賞、翌01年には『余寒の雪』で第7回中山義秀文学賞を受賞。江戸の市井人情を細やかに描いて人気を博す。著書に『十日えびす』 『ほら吹き茂平』『高砂』(すべて祥伝社文庫)他多数。15年11月逝去。

「2023年 『おぅねぇすてぃ <新装版>』 で使われていた紹介文から引用しています。」

宇江佐真理の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宇江佐 真理
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×