あふれた愛 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087478174

感想・レビュー・書評

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  • 4つの短編集。
    いろいろな愛の形があった。
    当たり前の生活の中で、相手の事をそして自分の事をどこまで理解出来ているかを、問われたような作品ばかりだった。
    脆くすぐに壊れてしまいそうな二人の「やすらぎの香り」が一番印象に残った。

    こうして好きな読書に時間を使える、今ある日常を大切にしたくなった。

  • 「すこし愛して、ながく愛して」故:大原麗子のCMのセリフが浮かんだ。
    当時、思春期だった私は「そんなの物足りないじゃん」と思ったけど。CMコピーは正しかったのだ(笑)

    溢れた愛に溺れそうな人たちを描いた4話短篇集。
    どれもとても繊細な人が登場する。
    屈折した愛は他者も自分も傷つける。

    細か過ぎる描写が多く、なんかイラッとするのは作者の意図かもしれない。読んでいる私まで、溺れかけて息苦しさを感じた。初読み作家、読むのに覚悟がいるのね。

  • 愛情を抱く相手に、自分よがりの愛情を押し付けたり、逆に相手に求めたり。ほんとアルアル。
    愛って抱くのはいいけど、自分勝手にあふれさせてはダメなのかも。

    短編4つのうち3つは、何とも切ない気持ちになった。
    ラストの「喪われゆく君に」の最後、幸乃の手紙を受けて浩之が髪を切ってもらいながら美季と語りあう場面と、コンビニでの浩之の行動に泣きそうになった。
    どのストーリーもドラマを観てる感覚になったのが天童荒太さんのすごいところだ。

  • 読了!★★★★★ 天童荒太の短編集。
    どうしよう…こんなに面白いと思えた短編集は初めてだ・・・
    「家族狩り」のレビューで、“受け入れてもらった” ”許してもらった”気がしたと書いたが、それの理由がわかった。というかこの本にまさに書いてあった。自分が自然にそう思わされていたことがすごいと思った。
    この人は、人間を観る時に本質をきちんと見ているんだと、その上で表面や仕草を細かく観察し、精密に、丁寧に書いているんだと感じた。そしてそれは全ての作品を通して一貫していて、ブレていない。(天童作品を好きな人の多くが経験したことがあるんじゃないかと思う→)弱さ故に出てしまった過ちとか、後悔してしまう様な苦い行為をリアリティ豊かに書いていて、よくもこんなにも登場人物の気持ちになって書くことができるものだと尊敬する。自分が考えた話だからといって、できるものではない。
    天童作品の執筆途中に新たに浮かんだ、本編とは違うテーマや素材を表現した短編集だそうだ。なるほど。各章がどの作品とつながっているかが、読みながらも朧げに浮かんでくる。ひとつわからなかったのはまだ未読の作品なのかな?

    あふれる程の愛を抱えてしまったら、どうしたらいいのだろう?
    その愛をどうしたらいいかわからずに、振り回されたり、相手が受け取れなくても押し付けてしまったり、投げ出したり、押しつぶされそうになったり・・・
    その時となりのあなたはどうする?

  • 薦められて読んだ本だったので、短編集だと気付かず購入してしまった(^_^;)

    一話、一話とても引き込まれるが、やっぱり私は長編が好きだな。。。

  • 天童荒太氏「あふれた愛」の読後はまず、
    このタイトルに関して思いをめぐらせてみました。

    「とりあえず、愛」「うつろな恋人」「やすらぎの香り」「喪(うしな)われゆく君に」
    の4つの物語が集まって、「あふれた愛」。

    男女間においても、親子間においても、
    あふれるほどの愛情を注いだ人間たちは描かれていません。
    愛することに、基本的には消極的だったり、
    もしくは一方的に間違った愛し方をしていたり・・・。

    愛情を注ぎすぎたからこその悲劇が描かれているとは思えないので、
    もっとシンプルに、愛というものに真剣に向き合った結果、
    他とうまくバランスをとることができなくなってしまった人間たちの物語、
    という解釈が適当なのでしょうか。

    「誠実」という、分かりやすいようでいて、なかなか実感できない性質が、
    とてもストレートに表現されている点にも、感動を覚えました。
    時折はさまれる邪気さえも、誠実さゆえの衝動といった扱いで、
    読み込んでいくと精神が洗われるような心地になります。

    また4作品とも、ラストシーンのすばらしさが印象的です。
    高度な技術で、美しくつむがれていた物語が、
    最後の最後にふっと色を変える。
    その移り変わりも見事なら、最後をしめくくる色がまた絶品で。

    そして最後の最後の最後、
    この天童氏おなじみの謝辞(あとがきではなく、真摯な謝辞)
    にまた、敬服させられます。

    こちらからも、全身全霊をかけて、
    読ませていただいたお礼を申し上げたくなる、
    そんな謝辞だからです。

  • 某所読書会課題図書.中編が4つだが、それぞれ中身が濃い感じだった.「うつろな恋人」が良かった.架空の恋人にのめり込む桐島智子と彼女を助けたい塩瀬彰二.もどかしい感じで智子に当たる彰二だが、多摩湖畔での最後の場面は悲しい.精神的に不安定な奥村香苗と秋葉茂樹が生活を立ち上げて進める中で様々な困難を乗り越える「やすらぎの香」も楽しめた.

  • 最近はミステリを主に読んでいるので、気分転換になるかと、題名に惹かれて買ってきた。
    少し暗いが、溢れた愛の持ち主は、精神に障害があったり、少しばかり日常からはみ出すような人々で、平常でない日常の中からでもわずかながらもあふれ出すような愛の物語だった。


    とりあえず、愛
    磯崎武史は大手広告社から町の紙器の印刷業者に転職した。腎臓に疾患があり、入院のあと社長に拾われた会社だった。契約がうまくいき社長と共に喜んで、高揚した気分のまま帰宅すると、育児ノイローゼ気味の妻が待っていた。
    娘の夜泣きとアアトピーなどで、なれない子育てに自信をなくし疲れているようだった。結婚の際両親の快諾を得なかったことで妻の実家は敷居が高かったが、妻子を預けた。妻は心療内科で治療を受けその後に入院したが、退院するとすぐに子供をつれて帰ってきた。
    妻の誕生日を祝い、少したったころ、妻が出て行ってしまった。
    納品の締め切りに追われ働きすぎた武史は倒れた。
    入院先でむつまじい老夫婦に会った。妻は痴呆症で夫を判別できなくなっていた、夫は身体が不自由で車椅子だったが、介助を受けて週に一回ハナミズキの木の下で会うのだという。
    何も解らないままに病室に帰る妻が、車椅子が傾いたので片手が上がったように見えた。夫は自分の「バイバイ」と言う声に妻がこたえたように見えて、顔を輝かせて看護師に向かってそのことを話していた。
    見送っている武史のそばに妻が来た。「いつまで」「とりあえずもう少し」と妻が言った。

    うつろな恋人
    塩瀬彰二は過労から不安神経症になりストレス・ケアを受けるために入院した。外出が出来るようになり、入った喫茶店で健康的な笑顔のいい少女に出会った。
    次の出会いは病院の談話コーナーだった。忘れた本を見つけてくれたのはあの少女だった。性的な内容の本だったが、古典文学だと薦められて読もうとしていたところだった。少女はそれを見て、なにか文字が書いてる和紙の綴りを見せた。開くと露骨で猥雑な言葉の連なった詩のようなものだった。
    カウンセリングで担当医にその話をした。「彼女のイメージとは会わない詩を見せられたんですよ」
    喫茶店に行くと彼女がいた。中野まで行って男に会って来たという。詩はデート相手が書いたものだといった。
    続きも見てくれと行ってまた詩集を渡された。「私のことを書いてくれた詩なんです」という。
    だがそれは、ボードレールが戯れに書いた詩の書き写しだった。彼女がいるという中野のアパートに行ってみると少女はそこの部屋で時間を潰して帰って来るだけだった。
    彼女はまた入院した。彰二は退院して会いに行って見ると、詩を書いてくれる恋人の名前が今度は彰二になっていた。

    やすらぎの香り
    香苗は長女で責任感の強い努力家だった。次第に完璧を目指すことが目標になり神経を病んでいった。過食嘔吐を繰り返すようになっていたが、隠して親の勧める結婚をした。だが夫は全て両親に依存している男だった。見つかった嘔吐が妊娠でなかったというので、離婚。精神科に入院した。
    次第に回復して社会復帰病棟に入った。そこは社会に適応するための施設で、外出も出来た。宗教の勧誘を受けて困惑していたとき助けたのが同じ病棟にいる男性だった。付き合い始めて一緒に住むようになった。半年後も変わらなければ結婚を許されることになった。二人は交互に日記を書いてそれを証明にした。
    結婚届を貰いに行って緊張のために倒れてしまった。約束は後二日だった。妊娠していることもわかった。職場でも思いやりがあり、夫の茂樹も優しかった。
    「やっていけるよ」と言ってくれた。

    喪われゆく君に
    高校を中退したまま保志浩はアルバイトで暮らしていた。クリスマスの日勤め先の店で男が倒れてそのまま亡くなった。何の手立ても出来なかったのがしこりになっていたが、ケーキを貰って帰ってくると美容師見習いの美季が来ていた。
    暫くしてなくなった男の妻が尋ねてきた。様子を聞かせて欲しいと言う。浩之は表が騒がしいことにかこつけてすぐに店から出てしまった。帰って店に顔を出すとまだ妻は待っていた。
    彼は様子が気になってアパートに訪ねていく。彼女は家に入れて夫が趣味にしていた風景写真を見せる。花の咲く四季折々の美しい風景がうつっていた、もう一度行きたがった妻に見せるために、美季と同じ風景を訊ねて同じように写真を撮ってくる。そのうち美季が不審がり同行を拒んだ。それからは一人で写真を撮った。
    「どうして一人なの」妻は責めるように言い、暫くして引っ越していった。
    手紙が来た、新しく出直す気持ちになったと言う。


    簡単なあらすじだが、社会に適応できない人たちが、心の病を見つめなおしていく姿が温かい。暗く苦しい物語になっているが、小さな愛が立ち直る切っ掛けを作る、心の中にある欠けた部分を補い合ったり、支えあう姿が静かに胸に響く。
    「家族狩り」「永遠の仔」を読んだが救いようのない暗さが印象に残っている。その後の作品は題名だけでも何か違った方向が見える。機会があれば読もうと思っている。

  • 四つの物語からなる短編集。
    共通しているのはすべて精神を病んだ人物にスポットを当てていることで、読んでいて胸が苦しくなる場面は多々あるもののけして暗くはなく、どこか希望の匂いがする。
    著者の優しさが溢れた物語群だと思う。

    天童荒太さんの小説で今まで読んだり内容を知っているものは、生い立ちから精神を病んでそれが何らかの犯罪に繋がるミステリ作品だった。だから、スポットを当てるところは同じでも、こんなに切なくて優しい物語になるのだ、という驚きがあった。
    世の中には心の病で苦しんでいる人がたくさんいるけれど、当然犯罪に繋がることはごく少数で、多くの人はこの小説のように普通の生活のなかで行きつ戻りつしながら再生を目指していくのだと思う。
    私自身そういう経験をしたことがあるから当時の苦しみを回顧して、読みながら何度も切なくなった。それは“解る”からなのだと思う。
    そういう種類の苦しみを理解して受け止めてくれる人が身近に一人でもいるだけで救われた気がする。実際はなかなか居ないものだから。そんな複雑な思いと、受け止めてもらえた温かさに溢れている。

    夫婦のすれ違いが病をもたらしたり、実らない恋心と嫉妬があったり、病からの再生を目指す男女がいたり。
    人は弱いから時に挫ける。だけどやり直せる強さも同時に持っている。
    再生する力を信じて、長い目で温かく見つめる立場になれる小説。
    向き合うことがその一歩なのだと、改めて思わされた一冊。

    余談としては、舟越保武さんの彫刻と、デルヴォーの絵がとても気になっている。(前者は盛岡でも見られるらしい)
    あとがきまでひとつの作品みたいに素晴らしかった。

  • 短編小説の中の結婚予定のカップルの話が一番、心に響きました。

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著者プロフィール

天童 荒太(てんどう・あらた):1960(昭和35)年、愛媛県生まれ。1986年「白の家族」で野性時代新人文学賞受賞。1996年『家族狩り』で山本周五郎賞受賞。2000年『永遠の仔』で日本推理作家協会賞受賞。2009年『悼む人』で直木賞を受賞。2013年『歓喜の仔』で毎日出版文化賞を受賞する。他に『あふれた愛』『包帯クラブ』『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』『静人日記』『ムーンナイト・ダイバー』『ペインレス』『巡礼の家』などがある。

「2022年 『君たちが生き延びるために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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