エンブリオ 2 (集英社文庫)

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感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087478747

感想・レビュー・書評

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  •  国際学会から帰国後、海外からの患者を受けいれることになった岸川。同じころ、研究の情報が外部に漏れている可能性が浮かび上がり岸川は調査を始める。

     上巻で岸川の性格についてナルシストと思いましたが、ナルシスト以上にエゴイストなのかな、と読み終えて思いました。

     患者や医療の未来のため、という自身の正義のためなら倫理を顧みない岸川の異常な性格が下巻では徐々に露わになってきます。

     以前海堂尊さんの小説を読んだときにも感じたことなのですが、主人公に対し「お前は何様のつもりだ」と読んでいて感じてしまうんですよね。どちらも主人公は産婦人科医で患者のためという理念も共通しているのに、なぜ終盤になるとそうした主人公に対しこうした感情を抱くようになるのか…、

     そこには科学の発展のためには犠牲や倫理の逸脱も致し方ないという彼らのエゴと、それに抵抗を感じる自分との埋められない溝というものがあるのか、と思います。

     科学の力で何でもできるようになってくると、生命だとか人の倫理だとかがバカらしく、まどろっこしく感じてしまう時というのは確かにあるのかもしれません。
     それでもなお、越えてはならない一線はあるのか、あるとしたらなぜその線を越えてはならないのか、また超える場合何を捨てなければならないのか、
    こうした倫理についてないがしろにしたまま、突き進んでいくと人間はいつか倫理の歯止めのない科学の前になすすべもなくなってしまうように思います。

     医療に限らず今、急激に科学や技術が進歩しつつある世界でそうしたことを考える重要性を、この小説は伝えているように思います。

  •  倫理を超えながらも、探究心、さらには冒険心で生殖医療に望む岸川。そのデーター、技術に巨額な金が動くことを見越しながらも、患者の要求に応えてこその医療といゆう信条が、この岸川医師を一刀両断に裁ききれないモヤモヤ感がある。
     患者にとっての最高の医者。その社会評価と背中合わせに感じるこのエグさはなんなんだろう。脳が未成熟で何ら判断の持たないエンブリオならば如何様にも手を下しても、堕胎してもかまわない、社会に未認知の空白の時間。人類のすべての子供が恵まれた環境で歓迎された状態で生まれてきてはいない事実はわかっていても、この空白時間にまで手をだすことは、やはり許されないと思う。
     医療がますますビジネス化し、人工子宮という技術もそう遠くない時代に生まれてくる気がする。あと10年後にこの本もう一度手にしてみたいと思う。

  • 結末のもっていき方にビックリ。でもすごく面白い。なんか一気に読ませられた。[2011.11.25]

  • 下巻に入ると、モナコ学会での成功に目をつけたアメリカの企業からの魔の手が伸びてくるなどして事件が多発。テンポもあがって一気読みです。主人公・岸川院長の考えは全くぶれず、基本的に「患者のため」「患者の要望を叶える」。その姿勢は正しいが、「患者のため」を理由に何をしてもいいのかというと、当然そんなことはない。岸川院長の評価が難しいのは、通常の小説やドラマなら、悪役の医者は自分の利権(主にお金、名誉)を追い求めるので分かりやすいのだが、岸川院長は単純な利権にしがみついているわけではないところだ。上巻からずっと主人公視点で書かれているのでずっと読んでいると、正しいことをしているような感覚になる。やはり岸川院長は神に近づきすぎたのではないだろうか。やっていることは明らかに人間の領分を超えていると思う。実際の産婦人科医学がどの程度なのか知らないが、もしかしたら大部分は夢や想像の世界ではなく、この本に書かれているようなことが現実に実現しているのかもしれない。そう思うと恐ろしくもあり、ひとりひとりが考えておく課題のような気がする。

  • 面白かったけど、なんか安い小説になってる気がする。
    上に比べて、薄い内容に思えてしまった。

  • 生殖医療はどこまで医学、科学が介入してよいものか。

    自分の邪魔をするものには容赦がない岸川には、恐怖さえ感じる。

    だが、いつか未来では本当に起こり得るような気がして興味深い。

  • ーー手足を曲げ、身体の半分を占める大きな頭部を俯き加減にして身を縮めている。この姿勢を眼にするたび、岸川は祈りの形だと思う。いわばエンブリオは子宮の中にいる間、ずっと祈り続けているのだ。この世に無事に生まれ出ることをひたすら願っているのに違いない。(21)

  • 上巻よりは興味深く読めた。
    なんだろう、、岸川先生、、結局医療ではない別の法を犯していたけど、すべてが完璧すぎてちょっと感服してしまった。。
    もっと岸川先生のことが知りたいと思ったから続編?のインターセックスも読んでみようと思う。

  • コンセプトコーナー2012年 7月「主人公はお医者さん~医者として、人として、医療と向き合う人々~」の選書です。

  • 「男性の妊娠」研究を国際学会で発表し、各国の賞賛を浴びた岸川。彼の高度な医療水準に、アメリカで不妊治療をビジネス展開する大企業が目をつける。最先端の技術と情報を盗むため、巨大組織が仕掛けた卑劣な罠。そして、それに対して岸川がとった恐るべき反撃策とは。岸川の持つ闇が徐々に暴走し始める…。生殖医療の暗部を鋭くえぐり、進みすぎた生命科学が犯す罪を描き出した戦慄の長編小説。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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