23分間の奇跡 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087493573

作品紹介・あらすじ

「みなさん、おはよう。わたしが、きょうからみんなの先生ですよ」と新しい先生がいった。時間はちょうど9時だった。その女教師は"最初の授業"で、いったい何を教え、そして子供たちは、23分間でどう変わったのか-?自由とは、国家とは、教育とは何か、読者ひとりひとりに問題を提起する。やさしい英語の原文を巻末に収録。

感想・レビュー・書評

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  • 短編の中にもすごくたくさんのメッセージ
    集団心理、言葉の意味を知らずにいることの怖さ
    意味を知ること、考えることの大切さ

    大人が子供からの質問にいつも快く応じる姿勢

    ブクログの感想を読んで手に取りましたが、良い本を教えていただきありがとうございました

  • 物語の舞台は、敗戦国の小学校。その教室に戦勝国側の教師がやってくる。彼女は生徒たちに新しい世界を教えて、価値観をあっさりと裏返してしまう。教室に掲げられた旗に関して、生徒たちがビリビリと破くシーンはとても印象的。

    文章はとても平易で、分量は数十ページ。さらりと読めてしまう。しかし、その内容が示唆するものはとても奥深い。大人が読んでも、どこか背中がゾクリとするような感覚を持つ。人間が培ってきた価値観の、その脆さがよく分かる。

  • 意図せず「R帝国」の直後にこれを読むことに。
    短編、児童向け読み物の形を取られた非常によく出来たディストピア小説。

    昔「世にも奇妙な物語」で日本に舞台を移した映像作品を観ていたので話の大筋は知っていた。原作をようやく読めて嬉しい。しかも日本語訳、原語両方で。

    原作はおそらくアメリカが舞台、ソ連かナチスかに敗北・占領されたものと思われる。
    9時ちょうどに教室に外国からの新しい先生がやってくる。全身緑色の制服に包まれた若く綺麗な女性教師。教室の生徒は7〜8歳の低学年児。
    これまでの慣習であった神様への祈りの否定、「指導者様」への崇拝の指導。子供達の意見・反論をけして否定することなく見事に新しい考えを植え付ける。国旗を子供達自らの手で切り刻ませ、自分達の両親の言葉に不信感を抱かせるように誘導する。完璧な思想統制。
    かくしてたった23分で教育という名の洗脳は完了する。ジョニーがいなければもっと早く済んでいただろう。

    教育というものが併せ持つ危うさについても考えさせられる良書。

  • 幼き頃、私が「先生がこうっ言ったから」「先生があー言ったから」「先生が…先生が……」と口にして両親に叱られたことを思い出した。

    あの頃は先生の話が絶対的に正しいと無条件で信じていた。

    私は私に問う。今、私は自分の頭で考え、言葉を紡ぎ出しているのだろうか。

  • (訳者あとがきより)

    -物語は午前9時に始まり、9時23分に終わる。
    一つの国が敗れ、占領され、教室に新しい教師がやってくる。
    そのクラスでの23分間の出来事がこれである。

    (略)
    クラベルはここで古い教師のマンネリズムを摘発すると同時に、子供達の集団心理が教職に当たるものの手によっていかに簡単に誘導されてしまうかというサンプルを提示し、教育問題を改めて考えさせるよう、問題を提起している。


    ---------------------------------

    よくできた物語だと思った。
    だから怖かった。
    先生の誘導が上手かった。

    まず新しい先生は若くて美しい。制服も歌声も魅力的だ。
    自分たちはどんな怪物に敗れたのかと恐れ慄いている生徒たちはここで面食らう。

    先生は優しい。なんでも質問していいし、なんでも答えてくれる。
    親が嘘つきである事、神様なんかいない事、どんなことでも正直に教えてくれる。

    最初は反発していたジョニーを上手く仲間に取り入れる様子。
    国の象徴である国旗を生徒に切らせる流れ。
    キャンディーのくだりなど秀逸。

    人というのは集団になるほど考えを誘導されやすいのがよくわかった。
    そしてその手法を知っている人間がいる、という事実を私たちは常に頭に置いておかなければいけない。

  • 児童書と思いきや、何これ…
    最初読みながら感じてたイメージが
    ある瞬間から急に変わっていく。
    そして。
    短いけど、当たり前に持っていた感覚を
    揺さぶる何かがこの本にはある。

  • 管理教育の力を感じた。何か教える時に、一方的にそれを教え込ませ、意味を感じさせずただただ覚えさせると、それをやることの本質を見失ってしまう。同時に、逆に何かを信じ込ませようとすれば教育制度によっていとも簡単にできてしまう。
    流されずに「なぜ?」「どうして?」という問いを発して答えを探すことが大事だなと思った。
    学校の場においてそういう生徒が度外視されるのは、扱いにくいし物の本質を掴ませないためなんだなと思った。
    また読みたい。

  • 「奇跡」という題が皮肉めいて見える。

    戦争に負けた国のとある教室に、新しい先生がやってきた。
    最初は怯える子ども達を、たった23分間でマニュアル通りに巧みに手懐けてしまうという、短いストーリー。

    私たちは「国」という体制に所属している以上、何らかの偏向的な思考を抱いている。
    それを価値観と呼んだり、民族性と呼んだり、お国柄と呼んだりしている。
    そして、その思考を含めて私たちは「学校」で「教科書」を使って勉強していると言える。

    そこにいる限りは、それが正しい。

    明日には変わり得る、この枠組みに気持ち悪さを抱いたとして、その気持ち悪さを乗り越えた場所に、どんな教育が展開されているかという想像が、私には出来なかった。

    たとえばボーダーレスな世の中で、沢山の価値観を知ることだろうか。

    ここには、アイデンティティやルーツの問題も関わっているように思う。

  • 子供達がいとも簡単に洗脳されてしまう、その危うさ。
    もちろんおとなも然り。
    新しい先生が来て以前のことを否定し違う考え(教え)を言葉巧みに子供達に伝える。
    怖いことです。
    大人もそう。騙されてしまいますよね。
    頭と心をしっかり動かして、自分なりの大切な思いや考えを持つこと。きっとそういうことを作者は言いたかったのではないでしょうか?

  • 読んだのは1983年10月発行の第5刷単行本。英語の原文は無く、著者がこの小説を書いた理由を綴ったあとがきがある。

    敗戦国のある学校の教室に、新しい先生がやってくる。子どもたちは教室に入ってくるのが鬼なのか、かいじゅう、なのかもわからず震えているが、入ってきたのが普通の若い女の先生で、いい香りがして、訛りがないことに驚く。

    新しい先生はあっという間に子どもたちの心を掴んでしまう。そして、子どもたちにさりげなく国旗を切り刻ませ、意味を知らずに「忠誠」を「誓う」ことや、その意味を教えない大人たちは間違っていると説く。わからなかったらちゃんと聞くこと、神様なんていないことを子どもたちに言って聞かせる。子どもたちは今まで信じてきたものが″間違った考え″で、新しい考え方こそが正しいと思い始める。反抗的で疑心暗鬼だった子どもですら、最後は先生の言うとおりに考えるようになる。

    その間、たったの23分。23分間で子どもたちは先生の言うとおりの思考にすり替えられてしまった。『23分間の奇跡』という邦題は違和感がある。この教室で起きたことは「奇跡」なのだろうか。
    その新しい思考は正しいことのように聞こえるが、そのやり方、結果に恐怖を感じる。

    教育とは何か。歴史教育、宗教的価値観然り、100%正しいと言えるものはなく、結局のところ、国民である以上、「教育」という大義名分のもと、合法化・正当化されたやり方で、国家や権力者にとって都合の良い思想に洗脳されているとも言えるのかもしれない。それを思い知らせてくれる、とても刺激的で意味深い小説。出会えて良かった1冊になった。

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