- Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087520101
作品紹介・あらすじ
ベルリン留学中の若いエリート・太田豊太郎は、街で出合った美しい踊り子・エリスの危機を救った。やがてふたりは魅かれ合い、豊太郎は友人の中傷により免官となる。いったんは栄誉を捨て、エリスとの愛を貫こうと決意するが…鴎外自身の体験をもとにした表題作ほか『普請中』、『妄想』、『雁』を収録。
感想・レビュー・書評
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太田豊太郎とエリスの出会いがとても優しくて綺麗で、印象に残っています。
主人公の持っている信頼できる友との繋がりと、愛する人との繋がりが上手く噛み合わなかったがためにあのような結末になってしまったのだと思うと惜しい気持ちがします。
どんなに良い歯車同士を組み合わせても、それらが上手く噛み合わなければ故障してしまうのだなと思いました。
森鴎外の作品をしっかりと読んだのはおそらく初めてですが、とても印象に残る作品でした。
他にも森鴎外の作品を読んでみようと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
若かりし主人公とエリスの運命的ともいえる切ない出会いに、胸が締め付けられる思いがこみ上げてきます。
そして、ささやかな幸せをエリスと共に育み、清らかなる交際が始まるのです。
朋友の忠告に心動かされつつも、寒風が肌身に沁みる・・・。
この小説を読んで、ネタバレ覚悟で書きたい事は一杯ありますが、皆様の読書欲を阻害する危険性があるので控えさせて頂きますが、この小説のモデルになった女性が遥か彼方の独逸より船旅で来日したという後日談があるそうで、そしてその女性の写真も最近になって発見されたという事実は刺激的です。この小説の中の女性の純粋無垢な情念に心を打たれます。
文語体で書かれている為、多少硬めな文章は否めませんが純粋な心は十二分に伝わってくる小説です。(もしかして、真実味を持たせるため敢えて文語体にしているのかもしれません。私見です)
鴎外先生と呼ばせて頂きます。
素晴らしい作品でした(失礼ですが・・・。) -
いわずとしれた森鴎外の初期の代表作。学業優秀でドイツ留学中の主人公が、踊り子エリスと出会い、同棲し、妊娠させるが、最終的には自分の将来のためにエリスを捨てる物語。
私自身が女性であることもあり、豊太郎に対して好意を持つことはできなかった。感情的に豊太郎に対する怒りが先立ってしまい、小説として客観的によむまでに少し時間を要した。
しかし、少し時間をおいて、読み直してみると、短い文章の中で、人間の弱さが際立てられている。誰しもが抱えている人間の弱さが表現されているため、読者にいかんともしがたい感情がかきたてられる。読後感は「爽快」とは程遠い。自分の中の嫌な面に光を向けられるからである。とはいえ、その人間の弱さを小説として描き出す行為には、人間に対する深い愛情が感じられる。これが小説の醍醐味のひとつなのだろう。そこに描き出されている人間のもつ「弱さ」に対してかきたてられる感情の一方で文語体のもつリズミカルさが救いになっているようにも感じられる。
特に、最後の松岡に対する主人公の感情の描き方は見事としか言いようがない。最後にいたるまで、小説中に松岡の言動が描かれていることはあれ、主人公の松岡に対して向けられる感情が描かれることはない。そして最後の最後に、「憎むこころ」という刺激的な単語をいきなり用い、読者のこころにずしんと重い一撃を加え、読者自身が各々抱えているときほぐれない気持ちを総体として感じさせる効果を及ぼしている。松岡に対する主人公の憎しみは、主人公自身がかかえているふがいなさに対する怒りの投影に他ならないのであるが、自分に対して怒りを向けることができず、松岡という対象に対して憎しみをなすりつけることしかできない主人公、彼の抱えているものが「憎むこころ」という一つの単語に凝縮されて、読者の心にのしかかってくるのである。 -
現代文の授業で読みました。主人公の太田豊太郎のモデルは森鴎外自身だったのだとか。男女の仲などこんなものなのではないかなと思った。現実的でない部分はもちろんあるが、現実味があると思った。豊太郎の「信頼している人に言われたらすぐに“はい”と言ってしまう」というのにすごく共感できた。
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高校の教科書で読んだ舞姫が面白かったのを思い出して、森鴎外を読んで行く足掛かりにと手にとった本。舞姫、普請中、雁を鴎外自身の人生になぞらえてとらえている解説が面白かった。日本の近代ってこんな感じだったのか。
一番好きなのは妄想。憂鬱への向かい方が私だった。 -
高校時代に使っていた教科書を読み返していたら目についたので読んでみた。
地位・名誉と愛人の板挟みになっている主人公。彼がした決断は、はっきりした自分の意志というものが感じられない。そんな主人公が嫌でたまらなかったが、ある意味リアリティがあって、完全に否定する気にはなれない。そういう意志の弱さは誰しも少なからず持っているだろうし、私としてもわかるような気がする。しかし、最後の一文がひっかかる。相沢を憎んでいるみたいだが、もとはといえば自分のせいじゃないのか。相沢がエリスに本当のことを言わなかったとしても、後々同じことになっていたのでは。
文語体の小説はこれが初めてだったが、流れるような文体でさらっと読めた。 -
「石炭をば早や積み果てつ。」で始まる薫り高い作品。海外駐在中に現地妻をつくった、と現代的感覚で読んでしまうとあまり楽しめないかもしれない。主人公の葛藤をたどりつつドイツの雰囲気を感じるべき。
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高校の授業で現代語訳も併せて一度読み、大学の講義の中に少し出てきたので青空文庫さんにて再読。当時の社会を考えると豊太郎のとった行動は仕方がないのかもしれないが、やはり女の私の視点からすると、1人の女性の人生を駄目にし自分だけの幸せをとった彼の罪は重いと思う。『普請中』にて、実際のエリス的人物が日本まで追ってくる。併せて読むと楽しめるかもしれない。